豪放磊落
空中で胡座をかき、川面から顔を出す鯉を見下ろすかのようなバエルの趣向にベレトは嫌悪感を露わらにした。
「アンタは本当に皆が一様に首を縦に振ると思っているのか?」
生態系を軒並み破壊する外来種の登場に白旗を上げて、残された時間を優雅に過ごすつもりでいたベレトからすれば、バエルの英雄的思想などに感化される謂れはなく、あくまでも懐疑的な意見を持ち、太平楽にもバエルと同調するような奇特さは随分前に梅雨払いし終えている。そして、自身の考えが大それたものではないとたかを括り、一まとめに意見した。ただし、アイやカムラは頭上から降り注ぐ眩い光を恍惚に浴び、如何なる言葉も福音として聞き入れる姿勢が整っており、ベレトの包括的な弁舌は空虚に響く。
その一方で、尋常ならざる力の顕現を目にしたイシュは、普段はのらりくらりと惰眠を食むばかりの態度が霧散し、出し抜けに現れた天上人への目利きに、この街を守護する魔術師という看板を掲げて行う。それはある種の巨大な波のまにまに起きた気まぐれな正気であり、両目が力強く開かれた。
「これは単純な生存戦略だ。人間が生き残る為に、或いは他の生物を代表して立ち向かうべき事態が、老衰一歩手前の世迷言に興じた元魔術師によって生じた」
蔑ろにする訳にはいかない。文明のみならず、生命全てに関わる生死の岐路に立たされた世界で、晩節を汚した魔術師の尻拭いに確固たる意思のもと、立ち向かう理由を述べた。
「そこらの魔術師風情では話にならない。ここにいる僕らだからこそ、実現できるんだ」
事々しい言い回しで陶酔気味な相好を浮かべるバエルの様子を、生呑み込みするのは憚られ、どちらとも付かない曖昧な態度を維持し続けるのが丸い。しかしウァサゴは、惹き合うようにして世界を跨いで再会を果たした友人との恩讐を前に、頭ごなしの講釈を聞き入れて利他の心を抱くなど、幻想も甚だしい。勝ち馬に乗っかったかのようなバエルを煙たく思い、唾棄するように言う。
「そんなもの、テメェらだけで片付けろ。僕らに関係がない」
どのような指示が飛んでこようが排斥する構えでいるウァサゴは、バエルが如何に優れた人物であろうと、耳を貸すつもりは微塵もない。頑然とした考えを口にするだけの覚悟が、振る舞いや口吻から伝わってくる。だが、バエルは殊更に眉根にシワを寄せることや、苛立ちから身体の末端を忙しなく操るような素振りは一切、見目に出さなかった。「拒否」を問題視するような手前味噌の悩みは、この世界に召喚されてから全くもって有しておらず、自身が持つ力の源を信じてやまない。それは強者特有の見下しに違いなく、言葉に出さずとも目と目を合わせれば伝わってくる。




