幻滅
同時刻、三者三様の立場からアイの行方に多くの人間が頭を悩ます中、当の本人は魔石を落としたことによる責任から、路頭に迷ったかのような徒然とした足取りで街中を闊歩していた。吹き付ける夜風に身を凍らせて、これから先に待ち受ける万難をひたすら憂い、暗中模索に相応しい暗い空を幾度となく仰いだ。そんな折、色鮮やかな閃光が空を駆け巡る。轟音と呼んで差し支えない空気の振動が、鼓膜に到達する前に全身を襲い、粟立つ肌により、どのような感情を抱いているかを言語野を通さぬ前に発露した。それから間を置かずして、眼前に広がる魔術の由来に対する疑問と、「もしかすれば」という都合の良い解釈から導かれる、自分を迎えに来たレラジェを空目する。
「来てくれた……!」
自分の犯した失態から目を逸らす現実逃避の構えに違いなかったが、葉脈のように空を走る魔術の枝葉を鑑みるに、アイの夢想もあながち荒唐無稽な思考ではなかった。その根っことなる場所の特定に余念がないアイは、深く身体を沈み込ませると、目線を高く保ったまま、力を溜めた。たった一度の膝の曲げ伸ばしで跳び上がる勢いは、月に触れて帰ってきても不思議ではない。
少しの凸凹も認めない厳格な審美眼によって建築物の背丈は均等に整えられており、殊更に高い場所を探して着地するような工夫はいらなかった。アイは無作為に、暗闇ということも手伝って、文目も知れない建物の屋根の上に着地する。まるで山の頂上で息を吸い直すかのように、胸を大きく膨張させて、えも言えぬ期待感に染まった。そぞろに口角は持ち上がり、先刻に見た光景を指針に、前進するだけの動機を見つける。
寄る辺がなかったアイの薄弱さは今はもうない。冷たい夜風に吹かれるよりも、掻き分けるようにして、屋根から屋根へ精力的に飛び移った。まるで、宝物を見つけた子どものように瞳を輝かせる姿は、「レラジェ」が来ているという謂わば、思い込みに近い発想を出自にしており、よもやそれが裏切られるとは微塵も思っていない。だからこそ、奇異な三角関係を目の前にした時、幻滅よりも「どうして?」「何故?」といった、疑問がこんこんと湧いて止まらなかった。
「力を合わせてそんなもんかぁ?!」
「焦るなよ、まだ始まったばかりだろう」
カムラにビーマン、スミスがきわめて挑発的な言葉を互いに投げかけながら、殺傷のみを目的とした魔術の攻防を繰り広げていた。それは周囲の環境を度外視した暴れっぷりであり、三人を中心に多くの瓦礫が縦横無尽に魔術の余波を受けて飛び散った。アイはなるべく距離を取りつつ、バエルに見初められた一人であるカムラの姿を目にしたのも相まって、酷く肩を落とした。期待したのはひとえに、「レラジェ」からの寵愛であったアイからすると、肩透かしも甚だしく、ベレトやウァサゴに勘付かれることを全く考慮していないカムラの立ち回りに反吐が出た。




