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ごますり

 ウァサゴはやおらベッドから離れ、自立した両足を慎重に操り、どこか眠気が残る節々に気を払いながら、窓の前に立つ。すると、魔術の出現を表す七色の発光が雷鳴の如く闇夜を切り裂き、遠く位置する鳶色の瞳にも映り込むほどの遠大な攻防を目にした。


「なんだよ、なんだよ! そこにいるのか?!」


 思わず身を乗り出すウァサゴの嬉々とした表情は、学生生活に花を咲かす青少年のそれだ。世界を越境したとしても、「日浦」という歴史は確かに存在し、劇的な環境の変化の上でも振る舞いは至って変わらず、座視する先にある趣旨に対して貪欲であった。先んじてこの世界に定住しているベレトは、ウァサゴにとっての見識人として注進する。


「並の魔術師には決して実現できない」


 そんな見解を発した直後に、一抹の不安が背中を走った。わざわざこの地を決戦の場と睨んだベレトには、大きな勝算を胸に秘めていた。首都の一つとして数えられるこの街は、人口や敷地面積などといった、目に見える出色の数とは相反する“とある理由”によって、着目すべき点があった。それは魔術師の人数である。治安維持の為に大多数の魔術師が駐在し、あらゆる万難を乗り越えようと奔走してきた時間は、ベレトにとって見逃せない事実になる。


 脳の前頭葉から汗と共に分泌を促される魔術の因子は、人間が特有に持ったものだ。他の動植物には“存在”しない。これは猿から人間に進化する過程に発生し、コミュニケーションを取る方法に言語という体系を獲得した際に副次的な贈り物として、授かった。繰り返し魔術を口ずさむ度に、汗腺から滴り落ちるそれは、地球の物質に由来しない為に地面へ集積する。掘り起こせば、多大なる魔術の発現に役立ち、バエルに対抗し得る手段として働くと見定めていたのだ。


「……」


 着の身着のまま部屋から飛び出そうとするウァサゴの右腕にベレトはすかさず手を伸ばし、動作の停止に腕を絡ませた。


「なんだよ!」


「アイが戻ってきていない」


 ベレトがそう進言すると、喜び勇んで乱れたウァサゴの息は、冷や水を浴びせられたかのような青さを帯びた。


「レラジェを引き付ける原因でもあるアイは、お前にとっても欠かせないはずだろう?」


 きわめて歪な三角形を自ら形成したウァサゴは、アイという存在を介して邂逅することを望んでいたはずだ。


「首輪は付けていなかったのか?」


 アイを使って魔術師を次々と襲わせ、食い付く餌の代わりにしたベレトの算段に対して、大きな穴があるのではないかとウァサゴは炯々たる眼差しを向けた。


「アイは本来、我々の企みについて従うことしか出来ない。それは今までの態度から分かっていたことだし、バエルにとっても同じだ」


 ベレトはベッドに腰掛けると、古色の蝶番が甲高い声を上げるように木が軋む。

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