晴天の霹靂
スミスの態度や口先に情けをかけるような温情は一欠片もなく、それどころか子守唄を歌って寄り添う気構えすら携えていそうであった。もし仮にビーマンが、恥も外聞もない謝罪の姿勢を取り、声が枯れるまでこんこんと詫びるとしよう。これまでの関係を精算し、恩讐を彼方に遠ざけようとしても、今際の際を叫んだスミスからすれば、刹那的な生への欲求が見せる“誠意”という名ばかりの虚飾を一目で看破できる。
「くっ」
反撃に転じてスミスを打ち倒そうとする気概は剥落し、自分の身に起きた出来事をひたすら咀嚼する。跳ね上がる心拍数の為に正常な判断を下す情報の処理が追いついていない状態にあり、ビーマンは触覚を動かすように手足をバタつかせた。空き家の一室で諦念をぶら下げて腐していたとは思えない鮮烈な変化を見事に演じるスミスの大立ち回りは、万雷の拍手を送るのに相応しい演目となり、終幕のベルが着実に近付いていることを悟る。もはや、この結末を見届ける必要があるのかと思えるほどの明確な決着が目に見えていて、無様にも手足を伸び縮みさせるビーマンの姿は身につまされる。
スミスの即興劇に泡を喰い、踏み潰されて当然の虫ケラと化した現実はなかなかに受け止められないだろう。だがしかし、不測な事態は往々にして、どちらか一方の都合を考えて、肩入れするものではない。ビーマンにしろ、スミスにしろ。この場に於いて、誰が徳をし不利益を被るのか。出し抜けに現れる影の庇護を受けたのは、他ならぬ窮地に追いやられていたビーマンであり、月明かりに縁取られた影法師が浮かび上がる。スミスは刃物から手を離し、背後を取られた事実から生まれる危機感によって、半ば強制的にその場を離れた。
「誰……だ」
呂律も上手く回らない中、ビーマンは必死に注視を続けて不詳なるその存在に疑問を投げかける。
「今度はどっちがいい? ビーマン。手を貸して欲しいのか。それとも、邪魔なのか」
意趣返しのような口吻を浴びせられたビーマンの顔に、それを疎むような感情の動きは見られない。ひいては、僥倖を目の前にしたかのような欝勃とした心意気が眼差しに宿り、虫の息同然と思われた身体の弱々しさとは打って変わって、頭は晴れ渡っていた。
「どうして、ここに」
“アニラ”に勧誘し、世話係のような気分で扱ってきたビーマンにとって眼前に現れたそれは、あまりに信じ難い存在であり、目を疑わざるを得ない。あまつさえ、庇護下にあるとなれば、尚更困惑して当然である。
「ビーマン」
血液を失って青々としたはずの身体に、のぼせ上がるように熱が帯び始め、尻窄みしていた生気が瞬く間に湧き上がる。そしてビーマンは今一度、真偽を咀嚼する為の確認をした。
「カ、……ムラ?」
その名を呼ぶことで。




