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致命

 そしてそれは、ビーマンの腹部を幹とし、枝のように刃物が伸びる奇怪な光景へと昇華した。狐に化かされたかのような口の開き方をし、言葉を失念するビーマンは、自分の身に起きた出来事を他人事のように眺める。脇の甘さに起因する死角からの奇襲というより、即席の攻勢がパズルのようにハマった。スミスが起こした一連の行動は全て、ビーマンとの相関関係にあり、淀みなく変化する状況を上手く利用した。ビーマンが恐れていた力量差が如実に現れた結果といえる。腹痛と呼ぶには些か物足りない、生命活動を阻害する尋常ならざる痛みが、どこかうつたような面差しから潮目が変わるように人相を変える。


「ゔっ」


 臓器が自らの意思を持って直撃を避けるような、ヒトの芸当を超えた動きを見せなければ、鋭利な刃物の餌食になることは必然であった。“刺された”という事実を認識したビーマンの表情は、驚きと痛みによって構成され、青ざめることの意味を知る。そして間もなくして、身体の内部に起きている異常を知覚し、生気が性急に失われていくのを感じていた。


「油断はいつだって大敵だな」


 自戒もこもったその言い回しは、見事に術中にハマったビーマンからすれば耳の痛い話だ。


「こ、のっ!」


 苦し紛れに振ったナイフは、速やかに後ろへ下がるスミスの危機察知能力によって空を切る。頬を撫でる程度の弱々しい風が、あたかも袖を掴むように手を伸ばす。しかし、即座に距離を取ったスミスに追いつくよりも早く、横殴りに吹きつける野良の風に追い払われた。


「……」


 とめどなく体外に流れ出す赤い血液が、身体の中で成す役割を鑑みれば、恐ろしさのあまり誰かの助けを求めてもおかしくない。ただ、魔術の知識を齧る背信者の一人であるビーマンは、自身を治す術を持っている。緑色の光を纏った瞬間、炭酸が弾けるような早さでスミスが間合いを潰し、窓ガラスを蹴破る要領でビーマンを蹴り落とした。


「っ、!」


 腹部の痛みと引き換えに、とっさに防御姿勢をとったものの、怪力じみたスミスの蹴りを受けたビーマンは滑り落ちるようにして建物の屋根の上に落下した。素焼きの赤瓦の上で積雪を分けるかのように轍を作り、よだれた毛布と瓜二つに身体を脱力させる。もはやトドメをさせと言わんばかりの様相を呈し、スミスが嬉々として近付くのを許す。


「……」


 混濁した意識の中で、ビーマンは自我を取り戻そうと必死に四肢を動かそうとしたものの、身体は電気信号をまるで受け取らず、うんともすんとも言わない。目玉だけが小魚の影を追うように機敏に動いたが、それだけでは現状を打破するきっかけとはならないし、口惜しさが募るだけだ。


「二度目はないぞ」

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