似た者同士
魔術に関する情報を独占し、国家の中枢に腰を据えて恒久的な地位の確保に走った魔術師では、決して考えもしない。背信者という立場からくる自由な発想に基づく“召喚”は、伝承にある無機物の武器にまで波及し、スミスを屈服させるだけの力を手にした。
「いい気になるなよ」
敵意が満ち満ちた鋭い視線をビーマンに向け、寝返った風を払い除ける。スミスは魔術の詠唱に口を動かそうとした矢先、先刻の突風とは一線を画す勢いの風が吹き付け、釘を用いて打ち付ける標本さながらに部屋の壁で身動きが取れなくなった。尋常ならざる風は、石の壁に亀裂をもたらし、息を吐くこともままならない風の圧力に気を失いかけたスミスを助ける。ガラガラと音を立てて瓦礫に変わる壁は、スミスを寝かしつける寝具のように横臥させた。
「ゲホッ、ゲホ」
水面から顔を出したかのように大きく息を吸い込んで、無防備な身体を晒さずに済んだことを喜ぶ。
「はぁはぁ」
夜目も利かない深い暗闇に包まれた廊下の様子に身体は溶け込み、期せずしてビーマンの追撃から身を守ることになった。忍び足を心掛けて更なる深い暗闇を追い求めていると、家鳴りだと一言で片付けられない不穏な軋みが上下左右、所狭しに聞こえてきた。そして間も無く、老醜のフケが降ってくるのを頭に感じ、そぞろに空目使いすれば、いくつもの月明かりが筋となって廊下へ落ちてきた。そして、天井は先刻の壁と同じように形をなくし、夕立のように降り注ぐ。
「スミス、どこにいくつもりなんだ」
夜空に浮かぶ月を背にするビーマンは、目視の邪魔となる空き家の屋根を取り払い、瓦礫の隙間から花を咲かすスミスの右手を見下し、冷笑を拵える。
「っ、」
それでも、スミスは息を忘れておらず、瓦礫をどかして身体の自由を確保した。炎に風と、魔術を烈火の如く浴びてきた結果、半裸と変わらぬ外聞を授かった。目眩のするような攻勢の数々にスミスは苦笑する。
「酷い有り様だ、全く」
卑屈なスミスの態度にビーマンは深く頷く。
「確かにね」
腹の内を述懐して確かめ合った性根に、二人は近しいものを感じており、親近感を抱てもおかしくない間柄へと変貌していたが、屋敷を分水嶺とする人生の岐路を経験した以上、対立は避けられず、どちらかの息の根が止まるまで決して手を緩めない。周囲に飛び散っていた粉々の瓦礫が、スミスを中心にして天体さながらに回転を始める。そして、瓦礫は弾丸に等しい速度で頭上にいるビーマンに向かって放たれる。
だが、小蝿を払うかのようにナイフを横に軽く振れば、凄まじい風の轟音が壁となって瓦礫を尽く防いだ。それは、ビーマンの視界を一時的に遮る程度の障害にしかならなかったが、その短い間にスミスは姿を隠し、虚を突く準備を強かに試みる。




