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耳が痛い

「まるで背信者のような考え方だな」


 ビーマンは自身の身分を顧みず、スミスが行う自虐的な翻りを“背信者”に例えて侮辱したつもりであった。しかし、炎に丸呑みされて皮膚のほとんどを失ったスミスから、人に対する攻撃的な感情は感じられず、挑発的なビーマンの言葉にまるで興味がないようであった。そして、達観気味にこう返すのである。


「だから言ったろう。お互い様だと」


 ここにあるのは、魔術師や背信者などといった、貴賤的な物の考え方に囚われない、自身を慰めるように仄暗い未来を期待する終末論だけであった。


「……」


 目まぐるしい思考に流されるビーマンからすれば、破滅主義の先達を行くスミスとの問答は極めてやりにくく、渋い顔をぶら下げて対峙する他なかった。


「もう俺は、道化を演じる気はないぞ。お前にとって憎たらしい敵役にな」


 この宣言は、ビーマンが直前まで迫られていた、「癒す」という選択を腐した。目前にあるのは、“スミス”の名を冠する形骸化した肉体である。手前勝手な私怨を理由に胸ぐらを掴み合い、ひたすら身体を傷つけ合う。屋敷での因縁が澱を上げて蘇る瞬間を求めてやまないビーマンの一人相撲は、スミスの死を待たずして頓挫した。もはや立っていることすらままならず、ビーマンは膝を折って床に座り込むしかなかった。


「一度持ってしまったプライドをかなぐり捨てるのは難しい。こんな目に遭わなければ、いつまで経っても俺は魔術師の面汚しのままだった」


 人の性根を矯正しようと思うならば、極めて陰惨な結果や経験が必要だ。脳の一部の切除ないし去勢などといった、本能にまつわる部分を意図的に排除することにより、変化をもたらすことはできる。しかしそれは、人道的な手段とは大きく乖離していて、常に虚空を回遊するヒトの“退化”を見ることになるだろう。ヒトは本来、反省できる生き物である。他の生命体とは一線を画す秀でた部分だと胸を張って主張できる。しかし悲しいかな。それが最も難しく、手を付けづらいのだ。悪事を働く者を牢に閉じ込めて自戒を促すように、自ら猛省し、心から変わろうと努力を積むのは、篤実な人間にしか叶わない。つまるところ、外界からの刺激を深く享受した者にこそ、反省という名の“観念”が浮き彫りになるのだ。


「お前はどうなんだ」


「……」


 諭される相手を選べないビーマンの居た堪れない。目下の目標に据えて打倒を目指していた相手からの金言となれば、それはとりわけ酷いものなり、耳を抑えて殻に閉じこもっても無理からぬ話だ。立ち直るきっかけは人それぞれだが、茫然自失なビーマンの様子を鑑みるに、誰かに手を引いてもらい、半ば立ち上がることを手助けされる必要があった。雄弁なスミスの一言一言に、身を切り裂かれるような苦痛に歪んだ表情が掘り起こされ、読んで字の如く「発狂」が寸前まで迫った人間の気落ちした様子がそこにはあった。

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