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憎々しい

「何がおかしい」


 震えが僅かに含まれた声を操るビーマンとは対照的に、後悔の念とは縁遠い直裁な言葉遣いと言い回しをスミスは披露する。


「お前の言う通りだよ……。あんな小娘一人にこんな目に遭わされて、誰に顔向けできるよ」


 粛々と自戒する姿は読んで字の如く、「誠実」を体現しており、真一文字に結んだビーマンの口が不快感から波打つ。殊勝に過去を省みるスミスの姿勢を鯨飲し、嬉々として受け入れることは、逆上といって差し支えない私怨を貶める行為にあたる。盗人と魔術師という立場の互いを棚に上げ、感情の迸りに従うビーマンからすれば、今にも腹を切って自害を図りそうなスミスのしおらしさは、気に食わなくて当然だ。


「ふざけるな、ふざけるなよ」


 第二の故郷のように思っていた“アニラ”を離れ、個人の感情に固執した原因が、ここまで矮小な存在へと陳腐化すれば、胸に抱いていた恨みは取るに足らないものに落ち着く。ビーマンにとってそれは耐え難い展開といえ、必ず避けねばならない。これは、極めて難しい判断になるが、背に腹はかえられない。


(治すしかないか)


 苦肉の策としか言いようがない上、不利益を被る機会を自ら生むことに関して、長い時間を掛けて思索せざるを得ない。致命的な分水嶺となる気配が頭の中を支配し、こんこんと答えの見つからない堂々巡りに足を掛けた。何故ならば、ビーマンには万全の状態となったスミスとの一騎打ちについて、自身の実力と照らし合わせて考えた時、恥ずかしながら圧倒できるほどの力量差はないと感じている。それどころか、組み伏せられることすら想定しており、上記の判断が如何に難しいものなのか。理性と感性の狭間で揺れ動くビーマンの胸の内は、様々な理由ないし動機、決着の付け方まで複雑怪奇に枝分かれし、極めて難しい判断を迫られる。


「さっさと、仇討ちをしろよ。その為にわざわざ火を消してまで、こんな所に連れ込んだんだろう?」


 手のひらの上で転がすスミスの弁舌は、岐路に立ったビーマンにとって耳が痛いところだろう。まともな舌戦も繰り広げられず、ひたすら受け身を強いられるビーマンは、スミスの見え透いた口車に乗って行動することを何より嫌った。勃然と手を出せば、事切れるであろうスミスに対して、触れるに触れ難い現状に切歯扼腕する。奥歯を噛み締めたビーマンの表情は歪みに歪んで、地団駄を踏み出してもおかしくない悔しさが滲み出た。わざわざ口に出して言語化を図らずとも、一目でその感情の行方は捉えることができたが、蝋のように溶け出したスミスの目蓋の下がり具合を鑑みると、大仰な一挙手一投足はまるで視界に入っていないだろう。獰猛な炎にまとわりつかれた頭髪は、指でひねれば千切れる粗悪な人形さながらの脆さを一目で看取でき、まつ毛や眉毛、遍く体毛が跡形もなく消えた醜聞たる風貌は、不敵な態度と言葉によってより際立っている。


「……お互い様か。落ちぶれ加減は」

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