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交差

 肌に産毛を生やした幼なげな顔は、俺より遥かに年下に見え、他人を「お前」などと呼ぶには、凡そ似つかわしくない風采であった。それでも、俺を睥睨したまま堅固な姿勢を崩さず、あたかも街の守護者であるかのような立場を守る。だが、この少年がアイを捕らえた人物とは到底思えない。時計台の屋根によじ登り、俺と鉢合わせる偶合的な立ち回りをどう処理すればいい。あまりの悩ましさに言葉が続かず、少年の出方を伺うしかなかった。


「ふざけた言い訳だ。どうせ背信者だろう?」


 “背信者”俺をそう呼称し、少年が強行的な態度を崩さずにいるのは、その後ろ盾に魔術師という背景があるからだ。


「……」


 しかし、少年はローブを羽織らないまま、街中を巡回している理由はなんだ。


「続けて問うぞ。アンタはアニラの一員か?」


 聞き慣れない単語を耳にすることは珍しくない。とはいえ、何の根拠があって俺に尋ねているのかを明朗にしなければ、「はい」もしくは「いいえ」の簡単な受け答えすら、困難である。


「さぁ、どうだろうな」


 煙に巻く言葉の取捨選択を見越していたかのように、少年は表情を一つも変えない。そして、俺を“アニラ”とする断定的な口述は、確信に迫る詰問へと昇華する。


「丸い顔をした茶髪の女に覚えはあるか?」


 少年が並べた特徴はまさに、アイそのものであった。しかし、疑問はこんこんと湧き上がる。アイを捕らえた人物が、時計台に待ち構えて一触即発の争いが起こることを想定した俺の目算は外れ、少年もまたアイについて見聞を授かろうとしている。


「……目的は?」


 オウム返しに近い返答をするしか、この場に於いて最適な答えが見つからない。


「心当たりはありそうだな」


 逆立つ髪の毛は、表情豊かに語る動物の体毛と似て、迸る敵意を体現する。身構えれば、直ぐにでも取っ組み合いが始まってしまいそうな剣呑な雰囲気が横たわった。繕う言葉は尽く虚飾を帯び、右から左へ受け流される機運がある。だからといって、無防備に両手を上げ続けている訳にもいかない。俺は、少年との争いに一歩踏み込むつもりで、眉根に皺を作った。そして、篭絡するより簡単な実力行使に出ようとした矢先、予期せぬことは得てして積み重なる。


「お二人さん、随分興味深い話をしているね」


 風の如く出し抜けに第三者が割って入るという異常な状況が、無精髭を生やした男の登場によって成立した。


「その女の話、ぼくも混ぜてくれないかな?」


 レラジェ、イルマリン、イシュという、本来なら混じり合うことがなかったはずの三人が、世にも奇妙な一つの共通項を持って、ここに関係を築く。

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