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落ちる

 この断片的な情報の出し方は確かに、優位性に欠ける立場にあることを示唆している。バエルが何か腹積りがあり、俺を思い通りに動かそうとするならば、もう少し具体的な指示を出す必要がある。雲を掴むような曖昧模糊とした情報の操作は、今回の事象にはバエルが介在しない背景があって、成立することだ。ならば、本当に不測の事態にアイが巻き込まれた可能性がある。


「なるほど……」


 撒き餌とも言うべき舞台の設定にどう挑むべきか。思案の入り口に立った瞬間、ニコリと笑ったバエルが視界の端に鎮座する。そして、出し抜けに目の前で手を叩かれた。


「実は、ウォードへは行ったことがあるんだ」


 猫騙しを受けたように、まばたきをしたのを境に、俺は息苦しい部屋独特の密室感から解放された。冷たい風が全身に吹き付け、服が上へ上へとたなびく。顔の皮膚も絶え間なく持ち上がる中、目をやった先には、所狭しと建物が入り組んだ地上があった。地平線を拝むのも難しい広さを誇る街の様子は、圧巻としか言い様がなく、そこに向かって落下していく感覚とは、ある種の万能感のようなものを覚える。パラシュートも着けない自由落下すら、今の俺にとって殊更に恐怖することではないのだ。それでも突然、このような状況に追いやられるのはいい気分はしない。


「あの野郎……!」


 無作為に空中に投げ出された身体は、突風に絡め取られて手足が上下左右に慌ただしく暴れる。俺は歯を食いしばって力を行き渡らせ、針金を通したように関節を保持した。いつか見たスカイダイビングの姿勢を真似て、どうにか地上を正面に据えることができた。目まぐるしい変化の連続に辛うじて適応しつつ、迫ってくる地上との距離感を目測で測り続ける。落下速度を仔細に把握するのは不可能だが、心拍に及ぼす影響を鑑みれば、言葉にせずとも肌で理解できた。


(落ち着け、落ち着け)


 俺は詠唱や陣などの工程を踏まずにこれまで魔術を扱ってきた。これは危機的状況に陥った際に致命的な遅れを取る場合がある。身のこなし一つで回避が可能ならば、とりわけ語るまでもない。だが、“空から落ちる”という生物が元来に恐怖する事柄は、神通力にも似た極めて不可解な力の発露に頼るしかなく、異世界の基本に立ち返る。目による情報を途絶し、額の中心に意識を集める。だが、鼻から吸った息で胸を膨らませようとしても、繰り返し口から漏れて過呼吸気味に変調を来たし、切羽詰まった状況の打開を図る俺の目論見が、砂上の楼閣の如く崩れかかる。


「はぁはぁ」

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