脅し文句
「これは元々、ぼくが拾ったモノだ」
先ず手始めに魔石の所有権を主張することで、腹中にある画策にケチをつける間隙を与えないように布石を打つ。これはあくまでも、極めて私用な感情に根差したものであり、仲間に野次を飛ばされる嫌悪感を露払いしたかったのだ。
「だから何だ?」
「どう使おうが文句は言わせない」
先んじて言葉で制しておき、拙速な介入を阻む。すると、コインが裏返るように皆の顔色が変わり、まるで部外者が紛れ込んだかのような警戒心が喚起する。侘しさを感じなかったと言えば嘘になる。新参者が現れれば忌避感を胸に抱き、帰巣本能を覚える程度には、“アニラ”という集団へ愛着を持っていたのだ。仲間から恩讐を捧げられることはまことに心苦しく、いざとなれば膝を叩いて悔しい思いを吐露するのも厭わない。だが、これから起こそうとすることは、回り回って“アニラ”の為になる。芳しくない反応を間に受けて、懇切丁寧な説明に言葉を尽くして取り繕う苦心は泥さらいと変わらず、ぼくは首尾一貫した態度を貫く。
「イルマリン、君は少し混乱してるんじゃないか?」
さも我を失った人間であるかのような扱い方をするマーカスには、舌を出して戯けてみせたかったが、余計な混乱をもたらし、意図しない騒ぎの種になるかもしれない。ぼくはマーカスを黙殺し、テーブルの上に置いた魔石を手に取った。
「!」
その瞬間、身構える為の間合いを即座に作り、いつでも応戦できると言いたげな仲間からの注視が針のように伸びてくる。チクリと刺された痛みに自嘲気味に笑う。魔術師にとって、魔石の存在は個々を繋ぐ橋渡しのような位置付けにあり、広大なウォードの治安を守る上で欠かせない貴重なモノなのだろう。魔石の存在を知るには、魔術師になることが条件にあって、市民が知る機会は生涯こない。合理的な理由を挙げるのならば、独占は限りある資源を有効活用する為の箝口令。閉口をそのような結論でまとめれば、魔術師の体裁は保たれるだろう。だが内実は、市民に不自由な暮らしを強いて、立場の差異からくる優越感に浸るだけの狭小な器量だ。ぼくは忌々しく思いつつ、手に取った魔石を口元へ近付けた。使い方はろくに知らない。それでも、呪詛を吹き込むつもりで言葉を選ぶ。
「女の返事を待っているなら、期待しない方がいい。もし、アンタにとってかけがえのない存在なら、時計台に来い。いつでも待ってるぞ」
魔石に向かって大口を開け、嫌味ったらしく抑制した語気の操り方をする光景はさぞ奇矯だろう。ぼくだってそう思う。しかし、この胸に迫り上がった鬱憤を吐き出さずに入られなかったのだ。曲がり角を折り返しに見立てて、茫然自失な早足を披露した女は、乱れた衣服の様子からして、刺客の名を背負ったビーマンから命からがら逃げてきたのだろう。そして、ぼくと鉢合わせる運のなさは、魔石を介して伝えられた。




