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悪巧み

 魔術師の代名詞であるローブを脱いだ二人の男が、アルコールの効能に口をよく回しながら、ひたすら傷の舐め合いに終始する。そんなよだれた姿を蔑視しつつ、ぼくは一度傾けた耳を翻すより、更なる醜態を晒す瞬間に立ち合おうと傾倒した。


「魔石なんて潰しちまえよ」


「それは冗談キツイ」


 共に哄笑し、酒を呷る男達の会話は歯抜けのように理解し難い。受け皿にすらなれないぼくが、仔細顔を浮かべて耳を傾け続けるのも億劫に思い、酒の肴に頼んだソーセージを平らげて、舌の上で酸味が広がる赤ワインを喉に流し込んだ。晩酌に来店した客の中でとりわけ早く席を明け渡すぼくの身の振る舞いに、小首を傾げる店員を横目に酒場を出て行く。上記の出来事が鮮明に立ち上がり、眼前で繰り広げられるモノが喋り出す奇怪な光景と符号した。マーカスが口にしたことを鵜呑みにし、女のポケットから掠めたモノを仮に魔石と過程しよう。所在不明な声の主が魔術師の肩書きを背負った人間ならば、カムラはやはり、“アニラ”にとって排斥すべき部外者であったことが証明された。魔術師は“アニラ”を目の敵にし、注視を向けなくてはならない集団だと認知しているようだ。「背信者」と呼んで。


「これは利用できる」


 あくまで独り言のつもりで呟いたものの、隣に立っているマーカスの耳にはしっかりと届いていたようだ。呆気に取られように、だらしなく開いた口の形は、平和ボケを象徴する。拳を詰め込むには丁度いい穴ではあったが、手の施しようがない内紛を自ら起こすつもりはない。ぼくはマーカスを黙殺し、思案の入り口に顎へ手を当てた。


「どうやって?」


 対面に立っているカイマンが訝しげにぼくの見解について興味を示す。考えがまとまった訳ではない。おいそれと口にすれば、矛盾を多く孕んだ企みが露見し、遠慮会釈ない注意を受けそうだ。それでも、マーカスが口籠るのを頑なに拒否した手前、閉口し続けようすると信頼は瞬く間に水泡に帰し、“アニラ”での立場をなくす。それだけは避けたい。


「誘き出してやるんだよ」


 蠱惑的な唇の隙間から、好奇を舐める舌が覗けば、如何わしい惹起を連想した仲間がおっかなびっくりに上体を反らす。


「そんなことしてどうするんだよ」


 カイマンの視線は鋭さを増し、ぼくがどのような意図を持って発言に至ったかを理解する為の材料を求めた。ぼくも脅し文句を吐いたつもりはない。ただ、綱渡りのように薄弱な推測の上を歩いているだけの曲芸に過ぎず、易々と答えて然るべきものではなかった。


「……」


 固唾を飲んで静観する仲間が纏う雰囲気は時間が経つにつれて重苦しく、決して触れてはならない刺々しさが醸成され始めた。それでも、個人の思想や主義主張をこの場に持ち込んで、講釈を垂れるのは甚だ憚られ、ビーマンが黙して“アニラ”に顔を出さなくなった理由を思い知った。

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