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闇夜の礫

「アイ、そちらの様子はどうだ」


 ぼくらは一斉にテーブルから飛び退いた。まるで穴から手が突然に伸びてきたかのように、見知らぬ男の声が聞こえてきたのだ。皆一様に、ぼくが得意げにひけらかしたモノを凝視し、あまりの慮外な出来事にとっさに魔術の詠唱を口ずさむ者すらいた。


「ウォードへカムラを向かわせた。今まで通り、君はベレトの言うことを聞き、動けばいい。レラジェもそのうち、勝手に動き出すと思うが、判断は君に任す」


 カムラ、その名が出た瞬間、暖炉で爆ぜる木の枝の音に合わせて、数珠繋ぎに記憶が蘇っていき、過去の出来事として咀嚼音し終えたはずの苛立ちや憎らしさが勃然と姿を現す。犬歯を中心に上下の歯を擦り合わす。忌々しいと声を出すより語るに落ちた。すると、ぼくの横に立っている仲間の一人、マーカスは、刻一刻と青くなっていく顔を晒し、モノが独りでに喋り出す奇怪さを注視している。怒りに基づく感情と、文目も知れない恐怖に因んだ感情が横並びになれば、一瞥して差異に気付けるほどの溝があった。ぼくもまた、そんなマーカスの様子が気になって、動向を窺っていると、震える唇をどうにか操り、オズオズと吐露するのだ。


「ベレトに、レラジェ……。間違いない」


 脳裏にある確信めいた言葉選びに伴って、マーカスは今にも膝を折って崩れ落ちそうな虚脱感を全身に漂わせ、「絶望」を背中に貼り付けた舞台人形のような、うつけた顔を見せた。ぼくはそれを見逃す訳にはいかず、直下に尋ねる。


「マーカス。知ってることがあるなら言え」


 半ば睨み付けていると言って過言ではない、ぼくの厳しい視線を避けるようにしてマーカスは顔を俯かせた。玩具を散らかした子どもの駄々を想起させる稚拙なごかましを演じるマーカスに、苛立ちがこんこんと湧いてきた。ぼくが舌打ちを打つと、マーカスは目を泳がせながら、まるで可愛げがない言葉の辿々しさを披露する。


「その、これは、おそらく」


 自信たっぷりに口走った確信から一点、半信半疑な様相を呈す。まどろっこしく口を回す煩わしさがここまで感情を逆撫でするとは、ぼく自身、驚きだ。何故なら、マーカスの胸ぐらに向かって猛々しく手が伸びたのだから。


「ハッキリしろよ。今、ぼく達は岐路にあるんだぞ」


 部屋に糸が張り巡るような緊張が走り、凝然と固まって事の成り行きを見届ける衆目の関心はぼくの手に委ねられた。


「待ってくれ。これは本当に、憶測でしかないんだ。確かなことじゃない!」


 唾を飛ばして言い訳を並べるマーカスの小賢しさに、ぼくは掴んだ胸ぐらを捻り上げ、語気を荒げて言う。


「だから! その憶測もぼくらの助けになんだよ。何も言わないのは間違ってるだろ」


 目付きは輪を掛けて険しくなった。「カムラ」という名前を耳にした以上、知らぬ存ぜぬではいられない。仲間がそのことについて把捉することが少しでもあるのならば、全てを吐き出させて共有するのが筋であり、義務だ。

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