4、歯車は勝手に回りだす
本日もよろしくお願いします。
ちなみに彼女たちは17歳くらいの設定で書いています。
「おはようターシャ、行こう」
「おはよ…あ、鞄くらい自分で持つよ!」
ハドリーが戻って来てから様々なことが変わった。まずこれまでは登校に馬車を使っていたが徒歩になった。というのも十年間会えなかった間に何があったのか聞きたいらしい。別に劇的な変化があったわけではないので返答に困る。今を時めく小説家先生になっているのはもちろん秘密だが、それ以外の何気ないことは殆ど話した。
「誰かとお付き合いしたことはあるの?」
「無いよ!私みたいな地味な人…ローズは大変そうだったけどね」
ローズが人気だから気を付けてね、と暗に言ったつもりだが気づかなかったのか、ハドリーは興味なさそうに相槌を打った。興味が無いというよりは、別の部分に関心があったように上の空だ。何か変なことを言ったかと思い返すが、特に何も思いつかない。
「ターシャは地味じゃないよ。こんなに長くて綺麗なシルバー色の髪と蜜色の瞳の人間が、この世に沢山いるわけない。流石アリスは天才だ」
「あれ?アリスが髪の毛を綺麗にしてくれているの言ってたっけ?」
饒舌だったハドリーが突然もごもごしだした。見たことのないハドリーの反応に思わず笑ってしまう。そんな私に共鳴するようにハドリーも笑い出した。穏やかな空間で幸福に満たされていると、いつの間にか学校の前まで来たようだ。本来ならば学校から少し離れたところでバイバイするつもりだったのに。やっぱり色んな生徒が私たち二人をチラチラ見てきて居心地が悪い。私じゃなくてローズが隣に並んでいる方が違和感が無いに決まっている。私に聞こえないようにコソコソ噂話をするのだろう。勝手に気まずくなった私はハドリーから鞄をさりげなく取り返すと、うまく笑えていないことを自覚しながら話す。
「じゃあ、先に行くね!」
「ちょっと待って…」
ハドリーの言葉を待つことなく足早に昇降口に向かうと、眠そうに大きなあくびをしているエリックがいた。モヤモヤしていた自分が馬鹿らしくなるほどに大きなあくびを見て、自然と笑顔になる。私が立っていることに気付いたエリックは、わざとらしく一礼して場所を開けてくれた。私が靴を履き替えているのを見てくる。
「なんか大変そうだな」
「エリックは何で普通に話しかけてくれるの?」
特進科の教室での公開処刑後、何故か私は教室で浮いてしまった。「何故か」というよりはローズを好きな子たちが話しかけてくれなくなったのだ。あの場で透明人間になったかのようにハドリーから無視されたローズは、明らかに自尊心を傷つけられた顔をしていたから。
実は放課後に誰もいない教室で責められた。私とハドリーのことを応援すると言ったのに抜け駆けしないで、酷いことしてる自覚あるの?と言って涙を流すと教室から出て行ったのだ。それをクラスの誰かが偶然見ていたらしく、私はローズからハドリーを奪った悪い女になっているのだ。本当に運が悪い。
「俺は中立かな。その特進科の教室での出来事を見ていないから、判断つけようもないってわけ。だから普通に話しかけるぜ」
「…ありがとう」
「ま、そんなことより、今日の魔法の実技のことでも心配しといたら?」
「うわ、本当だ忘れてた!」
エリックは大げさにリアクションを取りながら、さりげなく他の生徒の視線を遮ってくれている。ありがとう、と言ってもとぼけるに決まっているから言わないことにした。当たり障りのない会話をしながら教室に向かう。
靴箱の陰から見られているとは気づかずに。
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