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春祭り

 アメリアのお妃教育がいよいよ始まるようだ。


 先生にこの国の歴史を習いながら、アメリアはなんとか質問に答えている。

 私も隣に座りその様子を眺めているが、春の陽気の暖かさと早起きした事でつい欠伸が出そうになるのをなんとか止めるのに苦心する。


「メリッサ様は分かりますか?」


 突然振られた質問に目が一気に醒める。アメリアが答えられなかった質問が私に振られたようだ。

 なぜ私に聞くんですか、先生。


「え、確か、五百八十年だったと思います」


 なんとかうろ覚えの知識を、頭を振り絞り答えを導き出す。


「正解です」


 ふぅと安堵するが、私が答える必要はなかったと思い直す。

 その後もアメリアが詰まるたびに先生は私に振ってくるので、落ち落ち居眠りもできない。


「先生、私に聞いていてはアメリアの勉強になりません」


 遂には先生に苦言を呈してしまう。先生は苦笑しながらも最後まで私に聞いてくるのであった。


 授業が終わりすっかり疲れ果てて部屋へと戻る。


「アメリア、きちんと復習しておくのよ。もう先生が私に振らなくてもいいように」

「だって難しいんですもの。メリッサが教えてくれると助かるわ」

「アメリア、私を家に戻してもらえるようにルーク殿下に頼んでくれないかしら? 両親がどうしているか心配なの」


 物語補正で両親が余計なことをしでかさないか心配だ。


「だ、駄目よ! メリッサが帰ると私一人ではとても無理だわ。お願いだからもう少し一緒にいてほしいの」

「もう少しってどれくらい?」

「そうね、……一年くらいかな」

「そんなには無理よ。それなら一週間ね」

「それじゃあ困るわ。せめて一か月はお願い」

「分かったわ、一か月ね。一か月したら私は家に帰るわね」


 それまで両親には手紙で何もせず大人しくしておくように言っておこう。



 今度はダンスのレッスンなのだが、王宮の先生は流石だ。アメリアが踏む前に足をサッと避けている。それを横目に見ながら、なぜか私もレッスンを受けている。私は侍女ですのでと固辞したのだが、アメリア一人では寂しいだろうと付き合わされているのだ。


 もう一人の老齢の先生も流れるようなダンスでとても踊りやすい。段々ステップが速くなっているような気がするが気のせいだろうか。


「これに付いて来れるとは大したものですね」


 やはり速くなっていたようだ。曲が終わりすっかり息が上がっている。私相手に本気を出さなくてもいいのに。


「もう一曲踊りましょう」

「いえ、もう、」


 私は息を整えながら断ろうとするが、先生は再び私の手を取り踊り出してしまう。必死で付いていくと先生は私をくるくる回し始める。なんの苦行ですか、これは。

 やっと曲が終わり目が回った私はその場に座り込む。


「いやぁ、実に楽しかった」


 老齢の先生を見上げると息も上がらず背筋をしゃんと伸ばして立っている。とても敵わない。


「あ、ありがとうございました」

「また是非踊りましょう」


 アメリアのダンスはどうだったのか、聞く元気もなくホールを後にする。


 ――


 昼食を終えアメリアの部屋にいると第二王子がやって来る。王子は今日は簡素な庶民のような出立だ。


「出かけるぞ」

「え?」

「早く支度をしろ」


 そう言うと王子は出ていってしまう。

 困惑しながらもアメリアと私はカーラに着替えるように言われて、庶民が着るような簡素なワンピースにショートマントを羽織る。


「どこへ行くのでしょう?」

「さあ、私は聞いておりません」


 カーラも知らないようだ。


 アメリアと私が部屋を出ると王子が待っている。


 王子は私達を見るとニヤリを笑い何も言わずに先に行ってしまう。その後を付き従い王宮の門へ行くと、簡易な馬車が待っている。


「ルーク様、どこへ行かれるのですか?」


 カーティスはいないのかと周りを見ながら馬車に乗るとすぐに馬車は走り出す。


「今日はお忍びで視察に行く」


 王子はどこか浮かれて楽しそうに見える。王都を進むとお祭りをしているようだ。あちこちで花が飾られ、王都民は皆色とりどりの衣装を身に纏って、噴水広場では踊っている人たちもいる。子ども達は邪気を払うと言われている水の神様の被り物をして駆け回っている。


「今日は春祭りだったのですね」


 馬車が止まり三人で王都の街を散策する。露店もたくさん出て、いい匂いがそこかしこでしている。

 女性が近づいてきて花の首飾りを私達の首にかけてくれる。春の色とりどりの花の甘い香りがして胸が弾む。


 龍のハリボテが道を練り歩き、その後を楽器を鳴らした大人が続いて、子どもが歓声を上げながら後を付いていく。今日の春祭りを祝おうとどこも人で溢れている。


「春祭りは初めて来ました」


 アメリアが辺りを見渡しながらはしゃいでいる。

 私も子どもの頃は何度か来たが、伯爵家に引き取られてからは危ないからと一度も連れてきてもらったことがなかった。


「あれを食べよう」


 露店へ行ってみると、薄いパンの上に砂糖のかかったイチゴを乗せたお菓子だ。前世のクレープのような物だろうか。食べるとイチゴの酸味と砂糖の甘さの加減が丁度いい。


「さっぱりしていてとても美味しいです」

「これならいくらでも食べられそうね」


 露店の外れを見ると、ベールで顔を隠した女性が一人座っていて、占い・まじないと立て札に書いてある。


「興味があるのか?」


 王子は私が見ているのに気づき声をかけてくる。


「はい、当たるのでしょうか?」

「さあな、行ってみよう」


 王子は先に立ち露店の方へ行く。私とアメリアも一緒に行くと、露店の前の椅子に座るように女性が手で指し示す。

 アメリアと二人並んで座ると、女性はベール越しに私達を見る。


「複雑な運命が絡まっているわ」


 顔が分からなかったので、おばあさんかと思っていたが声が若い。


「二人の運命が絡まり混在している」


 しばらく私達を見つめた後、私に聖水で手を洗うように言う。私が瓶の中の水に手を浸して濯ぐと、女性はカードを手渡し、シャッフルしてから一枚ずつ七枚のカードを黒い布の上に置くように言う。私が並べ終わると、女性が一枚ずつ捲っていくように順番を示す。


 一枚目のカードを捲ると魔法使いの絵が書いてある。女性は何も言わずに次を指し示す。指されたカードを捲ると次は戦士のカードが逆さまだ。そのまま置くように言われる。次々と捲るが全体的に逆さまが多い。


「過去の行いをきっかけに今の状態が複雑になっているわ。今は迷いや不安があり周りが見えていないわね」


 過去の行いってなんだろう?アメリアを虐げたことだろうか。確かに今は物語のように断罪されないか不安だらけだ。なんとか今の状況を打開したいと切に思っている。


「まだこれからも困難に立ち向かう必要があるわ」

「おおぅ。……それで、私はどうすれはいいのでしょう?」

「あなたには運命を変える力がある。自分を信じて進んで大丈夫よ」


 その言葉を本当に信じていいんでしょうか?今の所、私の思惑通りに物事が進んだことはないのですが。


 最後のカードを捲ると恋人のカードだ。


「これは、近々素敵な恋に出会える暗示よ」

「そうですか……」


 一番いらない情報をくれる。それより私の破滅を回避する方法を教えてほしいんですけど。


 私の占いの後にアメリアも占ってもらう。


「あなたはとても強運を持っているわ。今まで上手くいかなかったことも、将来あなたに幸運として返ってくる。あなたも自分の思うままに生きればいいわ」


 これは当たっていると思う。これからアメリアは第二王子と結婚してハッピーエンドを迎えるのだ。







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