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お茶会

 今日は午後から王宮の庭園で第一王子の婚約者である侯爵令嬢イングリッドとのお茶会があり、アメリアの妹として私もドレスを着てお茶会に出席するようにとカーラに指示されている。

 久しぶりのドレスに、しかもいつもと違いシックな茶会用のドレスを着られて心が浮きたつ。


 実は私はイングリッドの大ファンなのだ。彼女は第一王子の婚約者でありながら、皆のファッションリーダーでもある才色兼備な女性だ。


 イングリッドは今日もシンプルながらもレース使いの素敵なドレスを着こなしている。


「お招きいただきありがとうございます、イングリッド様。アメリア・グリフィスでございます」

「お招きいただき光栄でございます。メリッサ・グリフィスと申します」

「お二人とも、よく来てくださいましたね。さぁ、お座りください」

「「はい」」


 イングリッドは私より二つ年上の十八歳で、今年の秋に第一王子と成婚式を挙げる予定になっている。今はその準備で忙しいはずだが、アメリアのために時間を割いてくれたのだろう。

 こんな素敵な姉ができるアメリアが羨ましい。アメリアも姉だが、姉というより私にとっては手の掛かる妹という感じでしかしない。


「これからお妃教育で忙しくて大変でしょう。分からないことがあればなんでも聞いてくださいね」

「イングリッド様にそう言っていただけて、とても心強いですわ」


 アメリアはとても嬉しそうだ。イングリッドはこういう心配りも自然にできるところが、みんなに慕われる所以だろう。


「ところで、メリッサ様は好きな方はおられるの?」

「え?好きな方ですか?」


 イングリッドに突然ふられて戸惑う。

 私に好きな人はいない。というか出会いも無い。将来は父の決めた人と結婚するんだろうなくらいに思っているだけだ。


「おりません」

「まぁ、そうなの?では初恋は?」

「初恋は、子どもの頃にありました」

「そうなの?どんな人なのかしら?」


 やけに食いついてくるイングリッドに戸惑う。人の恋バナは楽しいのだろうか?


「子どもの時に出会った黒髪黒目の男の子です。でも一度会ったきりで、それからは会えませんでした」

「そうなの。今もその子が好きなの?」


 身を乗り出して聞いてくるイングリッドにますます戸惑う。


「今会えばどう思うかは分かりませんが、その時は、好きでした。イングリッド様の初恋は、やはりアーサー殿下ですか?」


 もう私の話は恥ずかしいので私も話を振ってみる。第一王子との恋バナは是非聞いてみたい。


「アーサー殿下はとても素敵な方だから、婚約者として選ばれて幸せだと思っているわ。でも、身を焦がすような恋にも憧れてしまうのよね」

「身を焦がすような...」


 幸せそうにみえるイングリッドがそんなふうに思っているなんて思いもしなかった。私は将来はどんな人と結婚するんだろう。


 いや、それよりもまずは断罪を回避して家に無事に戻らないことには何も始まらない。



 イングリッドと三人で歓談していると何やら向こうが騒がしい。

 首を伸ばして見てみると一人の令嬢がこちらへやって来ようとして護衛騎士に止められている。


 イングリッドもそちらを見て悩ましげな顔をしていたが、手を挙げて令嬢へ手招きをする。

 護衛騎士を振り払い、こちらへやってくるのは確か公爵令嬢のライザだ。歳は私と同じだったはず。彼女は第一王子の婚約者候補であったが選ばれなかった為、今度は第二王子を狙っているらしいと母から聞いたことがある。


 私達は立ち上がりライザを出迎える。


「父に用があって王宮へ来たのですが、イングリッド様がこちらに居られると聞いて挨拶に参りましたの」

「そうでしたの。わざわざ来てくださってありがとうございます」


 どこかピリピリした空気を感じるのは気のせいだろうか。


「こちらはどなたかしら?」


 ライザは顎を上げて見下ろすように私とアメリアを見る。


「グリフィス伯爵家の娘、アメリアでございます」

「妹のメリッサでございます」


 スカートを摘み膝を曲げて礼をし、ライザに挨拶をする。それに対してライザは頷くだけだ。


「まぁ、あなた達が……私はタリス公爵家の長女ライザよ」


 まだアメリアの正式なお披露目がされていない為、第二王子の婚約者は知らされていない筈だが、噂では知っているのかもしれない。


「メリッサ様はいつもと雰囲気が違うのね」


 以前の私の派手な化粧とドレスを知っているのだろう。語気に嫌味を感じ、嘲りの視線を向けられる。


「ライザ様はいつも通りとてもお淑やかでいらっしゃいますわね」


 私は微笑みながらもライザに応酬する。

 ライザのドレスは夜会に行くような豪華なドレスだ。王子に会えるかもと張り切って着てきたのだろう。首から下げている宝石も昼にするには大きすぎる。先ほどの騒ぎもとても公爵令嬢とは思えない。

 私の嫌味も伝わったようでライザは顔を赤くして睨んでくる。


「ライザ様、お席をご用意いたしますわ。どうぞお座りになって」


 イングリッドの言葉に侍女がライザの席を用意すると、ライザは当然のように椅子に座る。


 とんだ波乱のお茶会になりそうな予感にため息が出そうになる。


「そういえば、アメリア様はどうしてデビュタントに来られていなかったのかしら?」


 ライザの言葉に思わず息を呑む。デビュタント出ていたのなら、私だけが出ていたのをおかしいと思うのは当然だ。

 アメリアはなんと答えるのだろう。


「私は具合が悪く伏せっておりました」


 アメリアはサラッと答えている。

 しかし、あの日アメリアはとても元気だった。私は母にアメリアは行かないのかと聞いたが、連れて行く必要はないと言われた。


「まあ、そうでしたの」


 ライザは不満そうにアメリアを見ている。


 そこへ第二王子がやって来るのが見えて、ライザは立ち上がり嬉しそうに駆け寄って行く。


「ルーク様、お久しぶりでございます」


 ライザは第二王子へ膝を折ってお辞儀をしている。その変わり身の速さには感心する。


「ライザ嬢、久しぶりだな。しかし、君は茶会に呼ばれていないはずだが?」

「イングリッド様に挨拶に参りましたら、私も招待されましたの」


 第二王子がイングリッドを見ると、イングリッドは少し困った様に微笑む。

 第二王子はため息を吐くと、後ろを振り向きカーティスが抱いている白いモフモフした物を受けとる。

 よく見てみると白い子兎だ。


「これをやろう」


 王子は私の元へ来ると私に子兎を手渡して来る。兎は鼻をひくひくさせて、でも手の中で大人しくしている。


「私にですか?」

「そうだ」


 兎を見るのは久しぶりだ。前に見たのはあの丘であの男の子と出会った日だった。あの時も兎はこんな風に私の腕の中で大人しくしていた。


「どうして私に兎をくださるのですか?」

「何故だか分からないか?」


 質問に質問で返されて困惑する。私が兎を好きだと言ったことがあっただろうか?


 私が腕の中の兎を撫でていると、ライザがいきなり私から兎を取り上げる。


「私も欲しいですわ」


 ライザは兎を抱きしめるが、驚いた兎が腕から出ようとする。ライザも抜け出させない様に力を込めるため、更に兎はもがいてライザの腕から抜け出ようとする。


「ライザ嬢、それはメリッサにやったんだ」

「兎が嫌がってますわ」


 私は兎を取り戻そうとするが、その前に兎はライザの腕から飛び出して駆けて行ってしまう。


「あなたが無理に取ろうとするから逃げたのよ。あなたが探してらっしゃい」


 私はまだ兎に触れてもいなかったが、ライザは私を指差して命令してくる。

 腹が立つが、今は子兎が心配だ。私は兎が逃げていった方に庭園を走っていく。


 植え込みが多く迷路の様になっていて、ここから見つけるのは途方もない。


「うさちゃん」


 私は植え込みの下を覗きながら、探し回るが一向に姿は見えない。厨房からにんじんをもらってこようか。


「メリッサ」


 しゃがんで植木の中を覗き込んでいると、後ろから声をかけられれ、振り返ると第二王子が立っている。


「闇雲に探しても見つからないだろう」


 そう言うと私の肩を抱き寄せて杖を振る。二人の体がふわりと浮き上がり高い木の枝へと降りる。


「ここならよく見える」


 浮遊魔法も高度な魔法だ。第二王子は相当魔法に熟練しているようだ。しかし、私はこの魔法を子どもの頃に見たことがある。あの丘で男の子がいとも簡単に使ってみせていた。


 というか、アメリアの帽子もこの魔法で取れたのでは?


 下を見下ろすとかなり高い。恐々目を彷徨わせると右の茂みに白いものが見える。


「あ、あそこにいます」


 私が指を指すと再び二人の体が浮かび上がり、兎の元へと降りる。

 私は兎の背後から近づきそっと抱き上げる。兎はビクッとなりながらも優しく撫でると大人しくなった。


「ルーク殿下はどんな魔法でも使えるのですね」

「私のように魔法を使える者はいないだろう」

「私は子どもの頃に、もっと凄い魔法使いに出会ったことがあります」

「もっとか?」

「はい、彼は稀代の大魔法使いでした」

「そうか」


 第二王子は嬉しそうな残念そうな複雑な表情をしている。

 自分以上の魔法使いがいると知り面白くないのだろうか?


 兎を連れて二人でお茶会に戻ると、ライザがまた第二王子に駆け寄って来る。


「兎は見つかりましたのね?」


 ライザはまた私から兎を取ろうと手を伸ばしてくるが、私がその手を避けるとライザは明らかに機嫌を損ねた顔をする。


「ルーク様、私も兎が欲しいですわ」


 ライザは甘えたような声で第二王子にお願いしている。


「そうか、では、タリス公爵に言っておいてやろう」


 ライザはその返事を聞くや私を睨みつける。

 睨まれてもこの兎はあなたには絶対に渡しませんよ。


 私はその目を避けるように、兎の世話があるのでと、お茶会を早々に退出させてもらった。








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