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侍女

 売られる小牛の気分で馬車に乗る。外では両親が嬉しそうに手を振っているのを、恨めしげに見送りながら馬車が走り出す。


 馬車には王子と護衛騎士が座り、向かい側にアメリアと私が座っている。広い馬車なのでゆとりがある筈なのだが、心が圧迫感を感じている。


 隣のアメリアを見ると嬉しそうに向かい側に座る王子を見ている。私も向かい側に座る護衛騎士を見ると、笑顔を向けてくれる。そしてチラチラと私の胸元へ視線が送られているのを感じる。

 今日のドレスも母お気に入りの露出の多いドレスだ。胸は大きく開き、ついでに背中も開いている。髪をアップにしているため、胸が余計に強調されている事だろう。


 私は前世の私と違い、自分で言うのもなんだが均整の取れたプロポーションをしている。

 外に出かけるつもりもなかったたため、このドレスを受け入れたが、今となっては是が非でも別のドレスにしておくべきだったと後悔しきりだ。


 前の騎士に嫌悪感を抱くよりも寧ろ、目のやり場に困られせて申し訳ない気持ちになる。


「これをかけておけ」


 王子が膝掛けを渡してくる。特に寒くはないが前の騎士を気遣ってのことだろう。


「ありがとうございます」


 私は素直に受け取り、膝掛けを肩にかけて前も隠す。

 護衛騎士は咳払いをすると外の景色を見始める。


 私も窓から外の景色を見ると、まもなく王都にある噴水広場を通過する。我が家は王都の中心から少し外れた所にあるため、馬車だと王都の中心にある王宮まで程ない距離だ。


 やがて馬車が王宮へとたどり着く。

 王子のエスコートでアメリアが先に歩いて行き、その後を私と護衛騎士が続く。


 今年のデビュタントで初めて王宮の舞踏会に来たが、私は敬遠されていた。今となってはそれが、母が愛人から後妻になった事と、私の趣味の悪い化粧及びドレスせいだと分かる。

 もちろんアメリアはデビュタントには出ていない。母が出ることを許さなかったからだ。

 今も通り過ぎる人達の視線は王子とその連れに集まるが、私を見て眉を顰める人もいる。


 ああ、もう帰りたい。なんとかアメリアを説得して早く帰らなければ。



 その後、王子自らによってアメリアの部屋へと案内される。アメリアの部屋は第二王子の部屋の隣にあり、家具や調度品は一流の物が揃えられている。壁紙やカーテンは可愛らしい花柄で、花瓶には綺麗な花が生けられて良い香りがしている。


 すっかりアメリアを迎える準備はできているようだ。私はもう帰ってもいいだろう。


「まぁ、素晴らしい部屋ね。アメリア良かったわね。では私はこれで帰るわね」


 早口で告げると部屋を出ようとする。


 しかしまた私は腕を取られてしまう。

 振り返ると今度は王子が私の腕を取っている。なぜ?


「そう急ぐことはない。アメリアはまだ来たばかりで一人では寂しいだろう。そうだな、メリッサにはアメリアの侍女をしてもらおうか」

「私が侍女、ですか?」

「そうだ」


 なぜ私がアメリアの侍女をしなければならないのか?


 王子は冷ややかな笑みを浮かべている。


 これはもしかして、王子はアメリアが我が邸で虐げられていたことを知っていた?

 それで仕返しに私をアメリアの侍女にしようとしているのでは?


 背筋が寒くなって来る。

 まずい、まずいよ。

 なんとかしないと。


「私の命令が聞けないのか?」

「か、かしこまりました」


 また命令が出て私は項垂れる。

 着実に破滅への階段を登っている気がする。




 その日から早速、私はアメリアの侍女として、アメリアの部屋の続きにある侍女部屋に住むことになった。


 アメリア付きの王宮侍女達に連れられ、侍女のお仕着せを着せられる。あの派手なドレスと化粧を落とせたことは嬉しいが、これからの事を思うと不安しかない。


「私はアメリア様付きの侍女長を命じられましたカーラと申します。アメリア様の妹様に侍女をしていただくは大変心苦しいのですが、王子殿下のご命令ですのでどうぞご了解ください」

「はい、分かっております。よろしくお願いいたします」


 カーラは二十代半ばのキリッとした女性だ。この人に付いていけば大丈夫という安心感を与えてくれる。


 萎れるように私が頭を下げると、私の態度に少々毒気を抜かれた感のある表情をカーラは一瞬したが、またキリッとした表情に戻ると私を先導してアメリアの部屋へと戻る。


 アメリアの部屋にはまだ王子がいて、アメリアと向かい合いソファで紅茶を飲んでいる。

 王子は私を見ると一瞬目を見開いたが、また紅茶を飲みアメリアと楽しそうに話している。

 アメリアは緊張しながらも笑顔で王子に答えて、中々いい雰囲気だ。


 私はできるだけ空気になり目立たないように過ごしてフェードアウトしていこうと思う。


「メリッサ、紅茶を入れ直してくれ」


 王子の声で、早速空気から侍女へと昇格する。


「かしこまりました」


 メリッサとしては紅茶などもちろん今まで一度も自分で淹れたことはない。しかし、前世では母が紅茶大好き人間だったので、お湯の温度から蒸らし時間まで紅茶を入れるタイミングに拘り極めている。


 私は手際良く茶葉をティーポットに入れお湯を注ぎ、その間にティーカップにお湯を注ぎ温めておく。

 蒸らしが終わるとティーカップのお湯を捨てて、ティーポットの最後の一滴までカップに注ぎ切る。


「お待たせいたしました」


 王子とアメリアの前に新しいカップをサーブすると、また壁際の列に並び再び空気に戻る。


 私の手際を見て周りの侍女は驚いた顔をしていたが、私は王子の断罪を回避することで必死だ。


「とても美味しいわ。メリッサもこちらに来て一緒に飲みましょう」


 アメリアが余計なことを言う。それよりもう帰っていいと言ってくれないだろうか。


「私は侍女ですので」

「それなのですが、ルーク様、メリッサは私の妹です。侍女ではなく私の付き人として過ごさせてもらえませんか?」


 いやいや、付き人も嫌です。それなら侍女でフェードアウトする方がいいです。


「そうだな。侍女として優秀なら付き人にしてやってもいい」


 王子の言葉にまたもや愕然とする。私はいつまでここにいて、こき使われるのだろうか?


 優秀なら付き人にさせられるなら、手抜きをしてしまばいい。これからは程々を目指そう。


「そういえば、メリッサはデビュタントで私と踊ったのを覚えているか?」


 王子の言葉にまたもや冷や汗が伝う。

 もちろん覚えている。私は第一王子と踊りたかったのだが、列をなす令嬢にやや押され気味になっていると、第二王子がやってきて私の手を取り踊り出したのだ。


「はい、覚えております」

「では、その時になんと言ったかも覚えているか?」


 それも覚えている。王子は自分を覚えているかと聞いたのだ。私はあの日が王子と会うのが初めてだった為、覚えていないと答えた。それより憧れの王子様と踊れていることに浮かれてもいた。今思えば、王子は私をアメリアだと思っていたのだろう。そしてアメリアがデビュタントに来ていなかったと知り怒っているのだ。


「……はい、覚えております」

「そうか」


 王子は私をじっと見ると眉根を寄せ顔を逸らす。

 断罪の可能性がまだ残っていることに戦慄する。



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