36.エイプリルフール特別編 HAPPY END
本日一話目です。こんなタイトルですが普通に本編ですので飛ばさないでください。
午後にもう一話投稿します。
《憤怒》ランク7:一定時間、怒りの強さに応じて自身の全《パラメータ》を増幅させる。発動中は使用者に苦痛を与える。効果時間終了後、一時的に全《パラメータ》を低減させる。
《憤怒》を発動したアリアの体からはメラメラと赤いオーラが立ち上る。
怒りの情が強いほど鮮烈になるそのオーラは深紅、《ランク8》相当の怒りの色合いをしていた。連携を乱すこともなく冷静に戦ってはいたがその内心は絶えず怒りで煮えたぎっている。
前衛三人が同時に駆け出す。
最初に斬りかかって来たのは《敏捷性》の最も高いアリアだ。袈裟斬り、横薙ぎ、突きと見せかけて〈魔術〉、振り下ろし。動きは完全に読めているというのに遥かに増したパワーとスピードに押されてしまう。一合ごとに一歩ずつ後ろに退かされる。
まともに打ち合っていては押し負けるので受け流すようにしているが彼女一人にギリギリまで追い込まれてしまっている。
遅れて他の二人も追いつき攻撃を加えてくるが随分と引き気味だ。先程までの緻密な連携ではなく隙を見てはチクチク刺すような動きをしている。《パラメータ》で劣る二人は中距離からヒットアンドアウェイで撹乱するつもりなのだ。
常人離れを通り越し超人離れした《パラメータ》のアリアを軸として、《勇者》達の攻撃は続く。アリアだけでも厄介だというのに他の前衛や時折飛んでくる後衛の〈魔術〉にも苦しめられる。
このままではジリ貧だ。何か手を打たなくては。
「《天災地変》、《スラスター》」
俺を中心に竜巻を発生させ周囲を風の刃で滅多切りにする。さらに戦闘が始まる前から上空に待機させていた星刃達を一斉に降下させる。
「〈インヴィオラブルシールド〉」
「〈オーシャンクランチ〉!」
けれど《勇者》達は止まらない。聖女の《障壁》に防御を任せ攻撃を続行してくる。
竜巻を模した力である関係上、風の刃は同じ方向に回転し続ける。そのため一方に盾を一枚置けばそれだけで防げてしまうのだ。
星刃達も魔導士の〈魔術〉で燐光へと還って行った。
《天災地変》による妨害は失敗したので次の手段に移る。
「〈二条斬〉」
アリアの振り下ろしに合わせて〈剣術〉を使う。澄剣でアリアの剣を往なし〈術技〉の斬撃で右腕を狙った。右手を剣から離し半身になって回避した彼女はすかさず左腕だけで刺突を放ってきた。
心臓目掛けて突き出されたそれへ待ってましたとばかりに《三面六臂》の腕を絡ませる。残っていた三本の内二本が犠牲となったが辛うじて受け止めることに成功した。
最後の一本と左手でアリアの剣を掴み、こちらに引き寄せながら片手で澄剣を振るう。
「〈射影刃〉」
あと少し、というところで澄剣が軽戦士の〈複合術技〉に弾かれた。ボゼフが多剣を振り上げているのを横目で見ながらアリアの剣を手離し大きく飛び退く。
「〈息吹斬〉!」
「〈雷放剣〉!」
直後、斬撃と雷撃が俺の居た場所を襲った。
雷撃はアリアの〈複合術技〉だ。あのまま剣を掴んでいれば最後に残った《魔力》の腕も消失していたことだろう。
魔導士の追撃を《天災地変》で相殺しつつ剣を構え直す。先の攻防では《魔力》の腕を減らされただけで何も成果がなかった。やはり無理に攻めてこない相手を崩すのは難しい。
アリアが前に出すぎないよう魔導士が指示を出し、何かあれば軽戦士とボゼフがフォローしているためこちらの攻撃がことごとく潰される。というか攻撃できるタイミング自体がかなり少ない。
最初に掛けられていた強化が切れるにはもう少々時間がかかり、《憤怒》の効果時間もまだまだ残っているため焦る要素にはならない。
連携する強者というのは本当に厄介だ。
とはいえそれを嘆いていても始まらない。折角距離を取れたのだしめげずに仕掛けていこう。
澄剣から手を離しながら右足で地面を蹴りつける。
「〈大地暴〉」
大地が揺れる。《勇者》達は一斉に宙に逃れた、俺の目論見通りに。
〈術技〉発動から間髪入れず星刃を左右と《魔力》の腕に《召喚》、投擲。狙いは前衛達だ。
一人に一本、星刃を宛がう。しかしたったの一本では彼らには通じないだろう。
「《スラスター》」
なので途中で軌道を変え三本を一人に集中させる。標的は軽戦士。〈浮藍空〉で星刃を避けようとした彼女の移動先に三方向から星刃が迫る。
軽戦士は咄嗟に振るった剣と〈魔術〉で二本を撃ち落しもう一本は聖女の〈魔術〉に防がれた。
「〈大閃〉」
「〈秘鋭斬〉!」
追撃の〈剣術〉は軽戦士の前に飛び出したアリアに相殺される。
だがこれはこれで好都合。〈術技〉の硬直が抜ける前のアリアに攻撃できる。
〈大閃〉の硬直が解けるや否や〈訃刃〉を放つ。黒塗りの刃が空を翔けるが聖女の張った三つの《障壁》に止められた。
そしてチャンスを逃した俺にボゼフの〈特奥級複合術技〉が振り下ろされる。
「《滅灯輝》〈塔火倒壊〉!」
空に向けられたボゼフの剣が金色の猛火に包まれる。天を衝くように燃え上がる炎は刀身の何倍にも達しその姿はさながら黄金の塔だ。
その炎の剣が猛然とこちらに倒れてくる。
規模は大きいが同じくらい隙も大きい大技。されど〈訃刃〉の硬直があるため回避も妨害も間に合わない、どうにか防御しなくては。
「《呪われた不可侵の指環ラニジェ》、起動」
右手の指輪に《魔力》を湯水のごとく注ぎこむ。長手袋に貯蓄していた分の実に六割を消費して生み出された《障壁》の厚さは優に人ひとりの身長を超える。
金の柱が《魔力》の壁に衝突する。
《障壁》に守られていない平原の草が一瞬で焼き尽くされ《障壁》も半ばまで削り取られた。
しかし落下の勢いは殺せた。今も恐るべき速さで《障壁》が焼き切られてはいるがこれだけ時間を稼げれば迎撃の用意は万全だ。
「《天災地変》、〈九重斬〉」
《障壁》を越え幾分か弱まっていた炎の刃に白雪の激流と九つの斬撃をぶつける。《滅灯輝》により劇的に強化されただけあって凄まじい威力だったがこれだけすれば無力化可能だ。
雪が蒸発し湯気となって辺りに立ち込める、と同時に幾つもの〈魔術〉が霧を突っ切り飛来する。
「〈エレクトリックネット〉!」「《重魔技法》、〈ペナルティチェイン〉、《ディープクロス》」「〈シャドウバインド〉」「〈アースエンブレス〉、〈グラビティグラスプ〉!」
雷の網が、光の鎖が、大いなる十字架が、影の手が、大地の腕が、重力の掌が、俺をその場に縫い留めんと迫る。
一呼吸で硬直を脱し後ろに跳びながら〈竜爪斬〉を放つ。〈エレクトリックネット〉と〈ペナルティチェイン〉を相殺できたがそれだけだ。
射程外となった〈シャドウバインド〉以外の三つの〈魔術〉と《ディープクロス》は避けきれず、剣を振り切った体勢で捕まってしまう。先程使われた《魔道具》よりも拘束力が強い。抜け出すには僅かばかり時間が掛かる。
その寸刻の隙にアリアが〈術技〉をねじ込む。
「〈雷鳴剣〉」
雷と見紛うほどに鋭い踏み込みと雷を纏った横薙ぎの一閃。近くに雷が落ちたような腹の底まで震わせる轟音と共に振るわれたそれは、拘束する諸々の〈魔術〉ごと俺を両断する。
防御に差し込んだ《魔力》の腕も用をなさず俺の上半身が宙を舞った。今からでも《起死回生》を使えば助かるが残念ながらそれは叶わない。
「《迅雷の魔》っ、〈ライトニングライン〉!」
《ユニークスキル》によりノータイムで放たれる〈上級魔術〉。一条の雷撃は寸分違わず俺の頭蓋を穿ちその命を確実に刈り取った。
「……気配消失。アリア、どう?」
「ハァ、ハァ……どうやら無事に倒せたようです。《勇者》が《真勇者》に進化しました。《種族》も変わっていますね」
そう言って俺を仕留められたことを確認したアリアは自身を苛む《憤怒》を解除し悼むように空を見上げる。
「……守れなかった命は多かったですが、どうかこれで犠牲者達が報われますように」
《真勇者》になったことで《変生進化》を遂げた彼女の瞳には死者の旅立ちを見守るような満月が映っていた。
◆ ◆ ◆
──聖国ハーネシア首都ユクチア 光聖堂 神眼の間
《三千魔王図》の安置された神眼の間には数人の神官達が集まっていた。その中の一人が《三千魔王図》に手を付け《魔王》の情報を確認し続けている。
俺が死亡したのと時を同じくして彼の閲覧している情報に変化が起こる。
「《三千魔王図》より《千呪魔王》の名が消失しました! 《勇者》様方の勝利です!」
祝勝の報せはみるみるうちに上級神官に広がり彼らは揃って胸を撫で下ろしたのだった。




