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35.最強の《勇者》

本日二話目です。

「〈ホーリーアバランチ〉」



 後衛組を殺し終えた俺を光の奔流が襲う。聖女の〈魔術〉だ。

 夜闇を押しのける白光はかなりの速度と幅であり、《電光石火》以外の《敏捷性》強化(バフ)が切れた今の俺には避けられない。

 しかし来るのは分かっていたので身を屈め《不可侵の指環》の《障壁》で防ぐ。屈んだのは《障壁》の面積を抑えるためだ。



「よくも彼らをっ! 《超聖獣爪牙》、〈エクスキューションスラッシュ〉!」

「〈ウェポンズシャドー〉、〈シャドーダンス〉」



 と、聖女の〈魔術〉が終わったタイミングで両脇からアリアと軽戦士の攻撃が迫る。

 アリアは雷を纏わせた剣を真横に振りぬき、軽戦士は〈魔術〉で影の短剣を複数本生成しそれらを一斉に射出する。



「〈荷流美〉」



 アリアの斬撃を澄剣で受け止める。と同時に後ろに跳び撥ね飛ばされるようにして威力を逃がす。これにより影の短剣の攻撃範囲からは自動的に離脱できた。

 〈エクスキューションスラッシュ〉は〈複合術技〉なだけあって強烈な衝撃が剣越しに抜けて来たが、〈荷流美〉で受け流すことにより無傷でやり過ごした。纏わせた雷では俺を傷つけるには威力不足、雷に付随する《麻痺》も《現人神》で防げる。



「〈リーサルポイズンレイン〉! 〈ディーザリングジュエルショット〉! 〈ヘルブレイズブレス〉!」



 しかし距離が開いたことで魔導士の〈魔術〉が立て続けに叩き込まれる。ただでさえ範囲の広い〈魔術〉が今回は強化(バフ)で一段と広範囲になっているため躱せない。



「〈クリスタルスラッシュ〉」



 躱せない。が、範囲が広い分威力は低い。追加効果(デバフ)に比重を置いた〈魔術〉なのも拍車をかけている。

 相殺するのは〈ヘルブレイズブレス〉だけで他はノーガードでいい。



「《毒》も《幻惑》も《火傷》も《苦痛》も無しですか。《状態異常》対策は万全のようだね」



 それを見た魔導士は苛立たし気に《迷宮》産の眼鏡のブリッジを押さえた。

 だがその間にも新たな〈魔術〉の構築を進めている。《勇者》パーティーとして幾度も死線を潜って来た彼女はこれしきのことでは動じない。



 さて、攻撃が途切れ十分に距離を取れた、仕切り直しだ。

 ここらで一旦、敵のメンバーを整理しておこう。


 《雷切(らせつ)勇者アリア》はこのパーティーのリーダーにしてエースだ。最も警戒すべき人物でもある。

 二度の《種族進化》を果たした彼女の身体能力は《電光石火》や《獅子奮迅》等の数々の《スキル》で強化された俺に匹敵する。

 まともに一撃を貰えば即死もあり得るレベルだ。


 《護衆(ごず)勇者ボゼフ》もそれなりに強い。《勇者レベル》は五。得意な《スキル》は《剣術》と《火魔術》。

 《ユニークスキル:ガーディアンズプライド》を持ち《勇者》パーティーの黒一点として前衛を張っている。


 軽戦士は遊撃担当の小柄な少女。アリアに迫る《敏捷性》と《影魔術》を武器に戦場を駆け回る。欠点である火力の低さも今はふんだんに掛けられた強化(バフ)で補えている。


 真っ白な法衣を着込んだ長身の女性である聖女は《光魔術》と《祝詞術》に秀でる。

 主な役割は強化(バフ)と回復であり、今掛かっている強化(バフ)が切れても半分くらいは彼女の手で掛け直せる。また隙を見ては〈魔術〉や《ユニークスキル》で攻撃もしてくる。


 そして最後に魔導士。彼女は多彩な〈魔術〉による攻撃や援護を得意とする。火・水・風・土に加え《闇魔術》も《特奥級》で所有しており〈術技〉のレパートリーは人類の中でもトップクラスだ。



 そんなそうそうたる面々が各種強化(バフ)を効果限界まで受けさらに強くなっている。

 しばし睨み合っていたが戦闘が長引けば不利になるのはあちら側。魔導士の〈魔術〉を合図に仕掛けて来た。



「〈ドラゴニックストーム〉」



 《ドラゴニック》系統は軌道をかなり自由に操れる〈魔術〉だ。おまけに威力も速度も高い。四つの竜巻が東洋の龍の姿を(かたど)り、それぞれの軌道で俺に伸びてくる。

 視覚で捉えられない風の〈魔術〉と自在な軌道を描ける《ドラゴニック》系統の組み合わせは普通ならそれなりに厄介だ。《全知全能》がある俺には無駄に曲がりくねるだけに過ぎないが。

 前方斜め左に走り出す。このタイミングならばこの位置に竜巻は一つしか来ない。澄剣を振るいそれを掻き消しアリア達に接近する。

 次に放たれたのは火炎の飛ぶ斬撃。ボゼフの〈複合術技〉だ。横に大きく広がった炎を避けるのは難しいが範囲の分威力は低い。〈複合術技〉だけあって無傷とはいかなかったがこの程度のダメージならばものの数瞬で癒える。

 だがこの〈術技〉は元より攻撃のために放たれたのではない、視界を埋め尽くす炎を目眩ましにアリアと軽戦士が忍び寄っていた。

 二方向からの挟み込むような斬撃。アリアのものは澄剣で、軽戦士のものは《三面六臂》の腕で防ぐ。



「〈ダークネスピアース〉!」



 魔導士の狙撃を半歩引いて躱し次いで振るわれたアリアの斬撃を《魔力》の腕一本を犠牲に往なす。軽戦士の〈魔術〉を蹴りで打ち消し追いついてきたボゼフの唐竹割りに澄剣をかち合わせる。

 その衝撃で風が平原を吹き抜け足がくるぶしまで土に埋まる。だが攻撃は止められた。そのまま反撃に移る、直前で跳び上がる。



「〈秘鋭斬〉!」



 アリアの〈剣術〉をすんでのところで躱せた。一度距離を取ろうと〈浮藍空〉を使うも軽戦士に先回りされてしまう。着地と同時に始まった連続攻撃を捌いていると《勇者》二人が追いついてきた。三人は目まぐるしく立ち位置を入れ替えながら縦横無尽に動き回り攻撃してくる。

 《勇者》パーティーは一人一人が圧倒的な力を持つために協力して一つの敵と戦う機会はほとんどなかった。けれど訓練の相手として、戦場を共にする者として、互いの能力や動きの癖は知り尽くしている。即席の連携であっても付け入る隙はそう易々とは見つからない。常に一人は俺の死角を取るように動いているため《全知全能》と《三面六臂》が無ければとっくの昔に傷だらけとなっていただろう。

 最もスピードの遅いボゼフが狙い目だがあちらもそんなことは承知済み、即座にカバーできる位置取りを保っている。どうにか傷を与えても自動治癒の強化(バフ)によりすぐに塞がってしまう。互いに決定打に欠け、しかし一つのミスが命取りになる張り詰めた膠着は続く。



 アリアの袈裟斬りを澄剣で逸らす。後方から飛んできたボゼフの〈魔術〉を《魔力》の腕で打ち払いつつ足首狙いの軽戦士の斬撃を片足を退いて躱す。

 軽戦士と入れ違いに近づいてきたボゼフの大剣を弾き返し《魔力》の腕二本でアリアの斬撃を受け流し背後の軽戦士が投げて来た物をもう一本の《魔力》の腕で叩き落とす。

 瞬間、視界が煙に包まれた。軽戦士が投げたのは煙玉の《魔道具》だったのだ。ご丁寧にネットによる拘束効果まで付いていて移動を阻害されてしまう。無論|《魔道具》の拘束などコンマ数秒で抜け出せるのだが《勇者》達の行動はそれより僅かに早かった。



 俺を囲っていた三人の気配が勢いよく遠のく。間髪入れず襲い来るのは聖女と魔導士の〈魔術〉爆撃。また前衛三人も長射程の〈術技〉を放つ。

 強烈な集中砲火。拘束により回避は不可能。故にここで切り札を出す。



「《金剛不壊》」



《金剛不壊》ランク8:瞬間的に発動者とその《装備品》の《防御力》を極限まで引き上げる。



 ほんの一瞬、絶対的な《防御力》を手にした俺は《勇者》達の攻撃を無傷で凌いだ。

 しかし効果時間の極端に短いタイプの超強化《スキル》は今回ので打ち止めだ。



「……これに耐えますか」



 歴戦の《勇者》を瞠目させられたので戦果としては上々か。

 そのアリアは動揺を早々に抑え込み攻略の糸口を探し始める。瞬きの間の思考で至ったのは極めてシンプルな結論。それは彼女も切り札を使うというものだ。



『《憤怒》を使用します。良いですね?』



 《勇者》の《称号効果》であるテレパシー能力によって仲間達に確認を取るアリア。仲間からの反対はなかった。

 そして今この瞬間、彼女を最強の《勇者》足らしめている《スキル》が発動された。

【補足】

 強化(バフ)の効果限界。

 作中では軽くしか触れられませんでしたが重ね掛けには限界があります。

 同じ発生源(《スキル》/《称号》/《状態》等)による同じ項目(各種パラメータ/《パラメータ》の成長率/耐性等)への強化(バフ)は重ねるごとに効果が低下していきます。

 複数の強化(バフ)が掛かっている場合、効果の高い順に十割、九割、八割……と徐々に効果が落ちて行き十一個目以降は不活性化されます。

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