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34.VS討伐隊

今日と明日は二話ずつ投稿します。

これは一話目です。

 行く手を阻む全てを殺し聖国を横断する。

 聖国入国から一日、今のところは特にトラブルなく進めていた。

 途中、俺を止めようとする軍隊に絡まれることもあったが雨霰と降りかかる天災の前にあっさり全滅していった。中には天災を突破してくる剛の者も居たが消耗しきった彼らを屠るのは容易かった。俺は現在、諸事情により《パラメータ》が低下中だがSランク程度では最早相手にならないのだ。

 そして勇気ある兵士と俺の地道な努力の甲斐があって先程遂に《魔王》が《レベル10(最大レベル)》になった。達成した条件は『十万人殺害』と『配下を千体作る』だ。どちらも尋常でない難度なだけあって一つ達成するだけで《称号レベル》が二つも上がった。お得だ。

 この系列の次の条件は『九十九万人殺害』と『配下を六千体作る』だが二日もあればどちらも達成可能だ。あと一つでも《称号レベル》を上げれば《魔王》はめでたく上位の《称号》に進化する。頑張って行こう。

 その過程で得たYPも相当量になるが《四字熟語スキル》は作っていない。既に必要な《四字熟語スキル》は全て揃っているからだ。新しい《スキル》を作るのはこれからの戦いが終わってからにしよう。



 丘陵の頂から砦の立つ平原を見下ろす。日が沈み夜の帳が落ちた平原の只中(ただなか)、そこには『敵』と呼べるだけの力を持つ相手がいる。

 それは聖国の切り札にして人類の希望。《魔王》の宿敵。

 即ち、《勇者》である。




◆  ◆  ◆




 ハーネシア聖国の国教、ハーネ教では聖神と邪神の二柱の存在が信じられている。聖神は人に、邪神は魔物に《ステータス》をもたらしたとされる。そして聖神と邪神の代理として数百年に一度、生まれ争うのが《勇者》と《魔王》である、と言われている。

 このような信仰が広まったのは先天的に《勇者》と《魔王》の《称号》を持つ者が百年周期で誕生するからだ。他の大陸で生まれることもあるため百年ではなく数百年と伝わっている。



 そういうわけで聖国において非常に特別な立ち位置にいるのが《勇者》と言う存在である。最上位の地位であり教皇の権限ですら協力を要請するのみに留まる。とはいえ現在聖国に在籍する二人の《勇者》は民を虐げる《魔王》を放っておくような冷酷な人間ではない。話を聞いた二人とその仲間達は二つ返事で魔王討伐を受諾した。

 そして要請があった翌日、防衛線に定められた平原の砦には勇者二人を始め《魔王》討伐隊の面々が集結していた。



「観測班から報告です。高速でこちらに接近する人影を確認。外見的特徴から《千呪魔王》であると思われます」

「ついに来ましたか。では強化(バフ)班をこちらに。観測班には撤退の準備を。手筈通りに行きましょう」

「ハッ!」



 砦から観測班と強化(バフ)班と呼ばれた人々を乗せた二台の馬車が俺が居るのとは逆の方向に出て行った。

 《千呪魔王》防衛線の砦には《勇者》達を始めSランク冒険者以上の力を持つ者だけが残っている。《魔王》は《洗脳》能力を持つため数だけの兵士では足手まといにしかならない。強化(バフ)を存分に浴びた選りすぐりの勇士達で討伐するというのがハーネ教の編み出した《魔王》討伐ドクトリンであった。



 残された戦闘班は砦を出て見晴らしの良い平原に陣取った。砦など戦闘になれば積み木の城と変わりないことを彼らは知っているのだ。戦いの余波が砦に及ばないよう戦闘班は平原の真ん中で俺を待ち構える。

 それから少しして、観測班の見立て通りの時間に丘の上に俺が姿を現す。一キロメートル以上距離があるが《和光同塵》も《潜伏系スキル》もオフにした俺の気配はこれだけ離れていても十全に伝わった。互いに互いを認識し、有効射程に捉えている。



「《天災地変》」



 戦端を開いたのは巨大な竜巻だった。平原に深い傷跡を残しながら進むそれを〈儀式魔術〉が打ち払う。戦闘班は〈魔術〉使いを三組に分けそれぞれに〈儀式魔術〉を使わせている。そのため竜巻を止めたもの以外に二つ、〈儀式魔術〉が迫る。

 《魔王Lv10》で纏えるようになる闇はあらゆる攻撃を無効化ないし減衰させられるが今回は相手に《勇者Lv10》のアリアが居るため用をなさない。他の方法で身を守らなくては。

 とは言っても防御が必要なのは実質一つなのだが。



 目も眩む輝きを放つ巨大な炎の球が草を焼き焦がしながら猛進する。それを睨み剣に力を込めると同時、カっと光が走ったかと思うと全身を正体不明の不快感が襲った。もう一つの〈儀式魔術:リスプランデントサンクチュアリ〉の効果だ。

 一定時間周囲の味方に強化(バフ)と再生効果を、敵に弱体効果(デバフ)を与える〈魔術〉だが例によって俺には通じない。

 しかし炎の球の方はそうはいかない。こいつの爆発に巻き込まれれば気分を害されるでは済まない。



「〈訃刃〉」



 澄剣から放たれた漆黒の斬撃が炎球の体積を幾分か減らしめる。されど火勢は未だ強盛。Sランクの放つ〈儀式魔術〉に〈剣術〉一本ではあまりに荷が勝ちすぎた。



「〈離撲ち〉、〈九妖斬〉」



 《三面六臂》の拳で衝撃波を放ってさらに威力を散らし、直撃のタイミングに九つの斬撃を合わせてダメージを最小限に抑える。



「《天変地異》」

「〈ブライトブレイド〉!」



 お返しとばかりに火災旋風を差し向けるが女|《勇者》が振るった輝く剣に相殺された。



「その程度ですか《千呪魔王》! こんな攻撃では誰一人殺せませんよ!」



 相殺した《勇者》が啖呵を切る。彼女の名はアリア。百数十年前に後天的に《勇者》と成った英傑でありその《レベル》はなんと百六十二。《獣勇聖人》から《超獣勇聖人》に《種族進化》しておりその力は並みの《勇者》の比ではない。

 事実、もう一人の男の《勇者》、二十年ほど前に《勇者》として生まれたボゼフの力量は彼女に遠く及ばない。彼も《勇者》として努力を重ねて来たため有象無象のSランク冒険者よりは強いがそれでも十二騎士第一席のルネリスには及ばない程度だ。

 鍛え抜かれた肉体と大剣で前衛を務める彼だがアリアと役割が被っているので埋もれがちだ。《スキル》も《剣術》がようやく《特奥級》の後半に入ったところでありさほど注意する必要はない。今は彼よりも再度放たれた〈儀式魔術〉への対処が急がれる。



「《獅子奮迅》、《堅塞固塁》、《天災地変》、《起死回生》」



 多少の被弾は覚悟して全速力で突っ込む。切り抜けたところで《起死回生》を使い回復する。

 俺の前方にはアリアとボゼフと三人の仲間達。戦闘班の精鋭でも《勇者》と《魔王》の戦闘速度に付いていけない可能性が高かったため、パーティーメンバー以外の人員は後方で援護とその護衛に徹している。そしてこの位置では《勇者》達を巻き込むため〈儀式魔術〉による攻撃は来ない。

 故に俺は《勇者》達のみを見据える。走る速度は緩めず間合いを測りながら澄剣を強く握り──



「《天変地異》」



 ──噴火の力を発動させる。灰が視界を覆うと同時に範囲の割に威力の低い爆発が俺の足下(・・・・)で起こり体を斜め上へ打ち上げる。



「《電光石火》、《紫電一閃》、《光芒一閃》、《剛力無双》、〈浮藍空〉」



 そこで《敏捷性》強化(バフ)を最大にし一気に突撃。ここで《勇者》やその仲間を狙っていれば防がれただろう。彼らは煙幕に視界を遮られていても俺の動きを《気配察知》で正確に把握し防御策を講じていた。

 だが後方に居る者達は違う。離れていても警戒を怠ったりはしていなかったがそれでもこの距離を瞬時に詰められるのは想定外だった。

 援護射撃のために《障壁》は最低限しか張られていない。



「〈大閃〉」



 その隙を突かれ最速の斬撃を叩きこまれた彼らは呆気なく死んでいった。守りやすいよう一か所に固まっていたのも仇になった。

 事前に掛けられた強化(バフ)の中には《敏捷性》を高めるものが幾つもあったが、持続時間が長めの強化(バフ)と《紫電一閃》や《光芒一閃》のような一瞬しか持たない強化(バフ)では効果量は雲泥の差だ。そも素の《敏捷性》からして俺の圧勝なのだから反応できなかったのも止む無しである。

 澄剣の一日一度の《装備効果》を起動していたのでいくつかあった《障壁》にも止まられることなく斬り裂けた。



 何はともあれこれで邪魔者は居なくなった。残るは《勇者》とその仲間達だけだ。

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