29.星々の舞踏
「《獅子奮迅》、《日月星辰》」
《日月星辰》ランク8:常に金烏の加護を得る。常に玉兎の加護を得る。常に星辰の加護を得る。魔力を消費して《陽光の聖剣》、《月影の妖刀》、《星明りの千刃》のいずれかを《召喚》する。
《全知全能》を除けば、《日月星辰》は俺の所持《スキル》の中でも一、二を争う強さである。三種の加護はそれぞれ《回復系スキル》、《精神状態異常系スキル》、《鑑定系スキル》を強化し、さらに《パラメータ》を増幅させる。
「《三面六臂》、《召喚:星明りの千刃》」
また《装備品》も《召喚》できる。どの《装備品》も異なった特徴を持っており対応力が高い。
今呼び出した《星明りの千刃》、星刃は十字架型の鍔付きダガーだ。
柄から刃まで全てが同じ素材で造られており、目を凝らしてよくみると薄っすら光っていることに気付ける。
「《召喚》、《召喚》《召喚》《召喚》《召喚》《召喚》《召喚》──」
現在のルネリスが主体にしているのは〈メテオシャワー〉の廉価版である〈上級魔術:ガトリングシューティングスター〉だ。
威力や速度、範囲は落ちるが燃費が良く長期戦に向いている。発動にさほど集中しなくて良いため隙も少ない。そして廉価版と言えどその威力はまともに受ければ俺でもかなりの深手を負ってしまう。
非常にいやらしいチョイスである。
「──《召喚》《召喚》《召喚》《召喚》《召喚》《召喚》《召喚》──」
ルネリスの〈魔術〉から逃げながら星刃を無数に《召喚》していく。他の《装備品》は同時に一本までしか《召喚》できないが星刃は《魔力》の続く限り何本でも呼び出せるのだ。呼び出した本数に比例して維持に必要な《魔力》も増えていくが長手袋に蓄えられた《魔力》も合わせれば千本|《召喚》してもしばらくは持つ。
避けきれない〈魔術〉は澄剣か星刃で斬り払う。俺の手は《三面六臂》のを含めてもう満杯なので余分に呼び出した星刃は童話のパンくずのごとくそこら中に落としておく。星刃は脆く一、二回〈魔術〉に当たっただけで燐光を散らし消えていくが《召喚》速度の方が速いため地面にはポイ捨てされた短剣がどんどん増えていく。
なお星刃は《召喚》した全てが同一の《装備品》という扱いになる。そのため一つでも星刃を《装備》していれば地面に落ちている星刃も《装備》していることになり、またその場合でも《装備》枠は一つしか消費しない。
「《スラスター》《スラスター》《スラスター》」
《召喚》した星刃が一定数に達したところで《装備効果》を発動、散らばっていた星刃達がぽうっと淡い光を放ち、流星群を逆再生するように空へ飛び立っていく。星刃達の向かう先に居るのはもちろんルネリスだ。
《スラスター》は星刃を任意の方向に加速させる《装備効果》である。向きを決め《魔力》を与えるだけで発動でき消費も少ないため使い勝手がいい。
「おっとっと、そういうのか。でもこの程度なら当たらないよ」
だがルネリスは四方八方へ機敏に飛び周りながら器用に避けていく。
その間も攻撃の手を緩めない技量はさすが百年を生きるだけはある。ひらひら避けられ続けること数秒、ついに地上の星刃は俺の持つ五本を除いて使い尽くしてしまった。だが俺の攻撃はこれで終わりではない。
「《召喚》、《スラスター》、《召喚》、《スラスター》、《スラスター》《スラスター》《スラスター》」
星刃を《召喚》、即、射出を何度か繰り返してから、上空にある星刃達を加速させる。それらはこれまでルネリスに放ち、当たらなかった星刃達だ。《スラスター》の効果が切れ重力に従って落ち出していたそれらをルネリスに向けて再度、加速させる。
「〈サンクチュアリシェル〉!」
ルネリスが自身の周囲を覆う光の殻を浮かべる。上下から次々迫る星刃を回避しきれないと判断したのだ。意識が防御に割かれたことで彼女の攻撃の手は緩み、自然、俺の攻撃は激しさを増す。
空中に、それこそ星の数ほど散らばる星刃を立体的に飛び回るルネリスへと射出する。なんてことないように行っているがこれは《全知全能》がある故の離れ業だ。
まず狙いを定めるのが難しい。三次元空間を動き回る相手に同じく三次元空間に散らばる星刃を当てるには超人的な空間把握能力と反射神経が必要になる。角度やタイミングがほんの僅かにズレるだけで明後日の方向に飛んでしまうからだ。
完璧に空間を把握できる《全知全能》、判断を補助する《即決即断》と《一刀両断》、これらの《スキル》に支えられ初めて実用レベルになった戦術である。
また、いくら《スラスター》の燃費が良いといってもこれだけ使っていれば普通は《魔力》が枯渇する。《マガツヒ》の補正で《魔力》が桁外れに多く、長手袋という《魔力》タンクがあり、戦闘中に〈魔術〉を使わない俺だからこその使い方だ。
「鬱陶しいねぇっ、〈スターリーナイト〉!」
「〈訃刃〉」
絶え間なく襲い来る星刃の弾幕が薄まる一瞬の間隙を突いてルネリスが切り札の〈魔術〉を発動させる、のを待ち構えていた俺は澄剣を振るった。
黒々とした飛ぶ斬撃はすんでのところで回避されたが彼女を守る〈サンクチュアリシェル〉と〈インビジブルバリア〉を掠め破砕した。
それに前後して、空を覆い尽くさんばかりに広がったルネリスの《魔力》が数多の星に変わり流星となって次々降り注ぐ。
〈メテオシャワー〉以上の範囲と弾数を有する彼女の切り札は何本もの星刃を巻き込みながら大地を穿った。威力と操作性では〈メテオシャワー〉に劣るがそれでも俺に傷を付けるだけの威力はあるし大まかに狙いも付けられる。そう、大まかにだ。
「やばやばやばっ」
俺の周辺に降る流星だがその通り道にはルネリスのいる場所も含まれていた。
発動時には範囲外に居たのだが〈訃刃〉と星刃で範囲に入るよう誘導したのである。範囲内から抜け出そうとするルネリスを妨害するように星刃を飛ばし、〈術技〉も使って逃亡を阻止した。
結果として〈サンクチュアリシェル〉を失った上、〈スターリーナイト〉の攻撃圏内にとどまってしまったルネリスは絶賛ピンチに陥っている。簡易な〈防御魔術〉では防げない威力の流星とそれを潜り抜けて来る星刃に対処するためてんてこ舞いだ。
「《堅塞固塁》、《剛力無双》、〈飛礫撃〉」
回避一択の今ならば相手の動きを少しだけ先読みできる。彼女が向かうであろう地点に《スキル》と〈術技〉で突っ込む。
流星に打たれながら強引に跳び上がった俺に驚愕しながらもルネリスは予想通りの軌道を通って来た。
無防備な彼女を澄剣で斬りつける。
「〈大閃〉」
「甘いよ! 〈アイギス〉!」
俺の愛用している〈剣術〉は、純白の《障壁》に弾き返された。
〈超越級魔術:アイギス〉は莫大な《魔力》を消費する代わりにその即効性、防御性能は他の追随を許さない。《剛力無双》の乗った〈大閃〉を防いだことからもそれは窺えるだろう。
けれどこの〈魔術〉には重大な欠陥がある。それは持続時間の短さだ。絶対的な強度を誇る真白き防壁は、しかしその堅牢さとは裏腹に朝露のような儚さで消えてしまう。
故にこれを使われた時は自然消滅するのを待ちながら次の攻撃の準備をしていればいい。
〈アイギス〉を連続発動できるだけの《魔力》はもはや彼女には無い。流星と星刃に埋め尽くされているため逃げ場はなく〈アイギス〉以外の〈防御魔術〉なら俺の〈剣術〉で打ち破れる。これで王手だ。
《呪われた不可侵の指環ラニジェ》で《障壁》を張り〈術技〉の準備を進める。
「甘いって言っったでしょっ、〈シャインストリーム〉!」
俺が〈術技〉を用意し終える寸前で〈アイギス〉がフッと消えた。〈アイギス〉が時間一杯に残っていたら俺の用意は間に合った、そうならないようルネリスが敢えて早めに解除したのだ。
光の奔流が俺を襲う。俺が〈踏藍空〉で踏ん張る中、ルネリスが回り込むようにして跳びかかって来た。彼女は〈魔術〉主体の戦闘スタイルであるが《体術》もかなりの腕前なのだ。
「〈コメットキック〉!」
「〈五妖斬〉」
〈複合術技〉を発動し、光の尾を曳きながら宙で加速したルネリスの飛び蹴りが迫る。左腕で〈シャインストリーム〉を凌ぎながら右手の澄剣で五つの斬撃を放つ。
斬撃は三つまでは相殺されたが四つ目で相手の勢いを殺し五つ目で防具ごと膝から下を斬り落とした。
「ぐぅ……っ!」
ルネリスの顔が苦悶に歪み呻き声が漏れる。トドメまであと一手、というところで星刃を手放し《三面六臂》の四本の腕を頭上で交差させる。直後、俺を上から襲ってきたのは縦に回転する白と黒の光輪。
〈シャインストリーム〉で俺の視線が遮られた時から光輪は密かにルネリスから分離していた。そして俺が彼女に痛恨の一撃を与え意識が追撃に偏る瞬間を狙って急襲してきた。
光輪は鋭利な縁を高速回転させ《魔力》の腕をガリガリ削っていく。〈浮藍空〉で踏ん張っている足にさらに力が入る。だがそもそも〈攻撃魔術〉ではない光輪はいかに〈超越級魔術〉といえど威力は低く、全ての腕が突破されるまでには今少し猶予がある。
俺がトドメを刺す方が早い。
「《スラスター》」
《魔力》の腕で握っていた、そして光輪を受け止める際に手放した星刃四本が加速する。半分はルネリスへ、もう半分は俺の首を狙っていた気配も《魔力》も薄い透明な〈魔術〉へ向かって行った。
ルネリスには光の《障壁》で防がれたが見えない〈魔術〉は威力が隠密性の犠牲になっているためそれだけで打ち消された。
「な、ここまで見破──」
「〈竜爪斬〉」
星刃を防いだことで消えかかっていた《障壁》ごとルネリスへ一閃。斬撃は最強の十二騎士の首を刎ねた。
発動者が死亡したことで光輪も動きを止め、俺は戦いに勝利したのだった。
【補足】
この世界の《森人》の寿命は特別長くはありません。ルネリスが長生きなのは《超人》系に《種族進化》したからです。




