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28,各所の戦い

──帝闘祭本戦当日 昼



 帝都の地下に伸びる隠し通路を皇帝一行は走っていた。隠し通路には灯り一つないがここに居る者は皇帝を含め全員が《暗視》を持っているため活動に支障はない。

 埃っぽい通路の先に階段を見つけた皇帝が歓喜の声を上げる。



「おぉ、出口が見えて来たぞ」

「ええ、ですが追手も来たようです」



 ガンクが言うや最後尾に配置されていた第五席レークスが背後へ〈弓術〉を放つ。飛来する矢が三つに分裂した丁度その時、曲がり角から人が飛び出してきた。



「〈ウォール〉!」



 その人物が掲げた盾の前に〈盾術〉による《障壁》が展開される。矢が当たったとは思えないような重い音が鳴り盾使いはたたらを踏むが十二騎士の攻撃を無傷で凌いだことからその実力の程が窺える。



「陛下達はお逃げください。ここは私が足止めします」

「では任せたぞ、レークス殿。陛下、我らは先を急ぎましょう」



 ガンクに促され皇帝達はレークスを置いて先に進みだす。そうはさせじと盾使いの後から現れた軽鎧の女が〈魔術〉を放つがレークスの矢に相殺された。



「弓使いのアタシ一人なら無視して陛下を()れるとでも思ったかい? 生憎アンタらの手緩い〈術技〉じゃアタシの守りは抜けないよ。個人的に聞きたいこともある、降参するなら今の内にしときな」

「だとよ、降参してみるか?」

「バカ言うんじゃないわよ、とっととこいつ倒してあのクソ皇帝を追うわよ」



 女が再び〈魔術〉を放ち盾使いが盾を前面に押し出し駆け出す。

 それをレークスも〈術技〉で迎え撃つ。



「〈群千鳥〉」

「〈頗多派盾(はたはたて)〉!」

「かかったねッ、〈スーパーアロー〉!」


 数十本に分裂した矢の面制圧に盾使いはカバー範囲の広い〈盾術〉を発動、そこへ狙い澄まされた高威力〈弓術〉が炸裂する。



「うおっと!」

「ちょ、危ないじゃない! 〈ライトニングパイソン〉!」



 あまりの威力に後退させられる盾使い。盾使いの後ろを走っていた軽鎧の女が悪態をつきながら〈魔術〉を使うがやはりこれも射落とされてしまう。



「やっぱ十二騎士は一筋縄じゃいかなさそうだな」



 気合を入れ直した二人組とレークスの戦闘は激化していく。




◆  ◆  ◆




 一方その頃、皇帝達は隠し通路の出口に辿り着いていた。出口は人気(ひとけ)のない細道に立つ小屋へとつながっており、その小屋には迎えの者が一人。



「お待ちしておりました、陛下」



 帝城から駆け付けた第九席シューフィだ。狭い小屋内では振り回しにくそうな大鎌を持つ彼女は皇帝達より先に小屋へ到着していた。

 合流できた旨を各所に絡した皇帝一行は小屋のを出る。ちょうどその時、《気配察知》が異変を捉えた。



「一直線にこちらに向かって来ている……?」

「ガンクよ、どうしたのだ?」

「強力な気配が近付いてきています。接触する前に広い場所へ出ましょう」



 急いで細道を通り過ぎ皇帝一行は人でごった返す大通りに入った。騒ぎになった人混みを皇帝の威光でどかしながら進んでいたが、ついに強力な気配に追いつかれてしまう。



「見つけたぞ! 皇帝!」




 俺が洗脳した青年に与えた命令は三つ。

 まず帝闘祭の一回戦で勝つこと。次に《呪詛》を舞台の中心で発動させること。最後に一定時間経過後、隠し通路の出口付近で強い気配を探ること。



 こんな指示を出したのはルネリスとの戦いを邪魔されないためである。

 雑兵程度ならともかく十二騎士クラスがちょっかいを掛けてくると勝率が大幅に下がる。それをされないためにあちこちで騒ぎを起こしたり皇帝を狙わせたりした。

 少し刺激してやればあの小心者の皇帝が他所の守りを疎かにしてでも自身に戦力を集中させることは分かっていたのだ。



 そういうわけで一回戦の後に《呪詛》を拡散させた青年は阿鼻叫喚の闘技場を去り隠し通路の出口へ向かった。隠し通路の出口は複数あり皇帝達がどこへ向かうかは事前には絞り切れなかったため青年にはそれらを順に巡ってもらった。

 この最後の指示はダメ押しの意味が強いので失敗しても構わなかったのだが。



 しかしそこは元反乱軍としての意地か、十二騎士及び皇帝をきちんと見つけてみせた。そしてその時の感情の昂ぶりにより《洗脳》が解ける。

 青年は《呪われた七炎の不死鎧フェニクシェル》で大幅に強化された《パラメータ》を十全に発揮し皇帝に襲い掛かる。

 突然の凶行に周囲の喧騒が悲鳴に変わり民衆が逃げていく。皇帝達も足止めを一人残して逃走した。



「〈フロストソーン〉」



 十二騎士第三席、セレーナが錫杖を振り上げの〈魔術〉が発動する。氷の茨が青年を拘束し冷気で蝕んでいく。茨の触れた部分から冷却していき対象の身体機能を低下させるその恐るべき〈魔術〉は、しかし今の青年には脅威足り得ない。



「邪魔だァ! 《七炎(しちえん)》発動!」



 霜が降りた不死鎧の各パーツが燃え上がる。七色の炎は霜と茨を溶かし青年に七種の強化(バフ)をもたらす。牽制に放たれる〈魔術〉を不死鎧任せで防ぎながら飛躍的に上昇した《敏捷性》で一気に間合いを詰めて行く。



「多少被害が出ますが致し方ありませんわね、〈メテオライトシュート〉」



 まだ近くに残っている民衆を気遣い小規模な〈魔術〉を使っていたセレーネだったがそれでは止められないと判断を下す。両者の距離が二十メートルを切ったところで〈魔術〉が発動した。

 それはその名の通り岩を隕石のように高速で撃ち出す〈魔術〉だ。

 《風魔術》の《特奥級》と《土魔術》の《超越級》を前提とするだけあってその威力は別格。セレーネの放った岩石は回避行動を取る暇も与えず青年に突き刺さる。咄嗟に張った紺の炎の《障壁》もまるで薄紙のように貫かれた。



「ゴヒェっ」



 漬物石より一回り大きい岩を腹部に受けた青年は、体をくの字に折り曲げて逆方向に吹き飛んだ。大通りを転がり止まったが内臓が潰れてしまい兜の隙間から赤い液体がこぼれ落ちる。

 だが倒れていたのも束の間、セレーネが油断なく追加の〈拘束魔術〉を使おうとしたその時、不死鎧の左腕部を覆う緑の炎の輝きが増し青年が何事もなかったかのように立ち上がる。



「まあ、回復もできるのですか。便利な鎧ですこと」



 殺すつもりで放った〈メテオライトシュート〉からすぐに復帰されたことでセレーネは警戒を強める。七色の炎がこけおどしでないのなら同レベルの《装備効果》をあと六つ持っていると考えられる。躱されるだろうと思いつつも出来上がった〈ミスリルチェイン〉を発動させると、意外にも聖銀(ミスリル)の鎖は抵抗される事なく青年を捕らえた。

 はて、余裕そうに見えるが実際は立っているだけで限界なのだろうか。セレーネがそう疑問を抱いていると青年が口を開く。



「礼を言う、自分はどうやら冷静でなかったようだ。十二騎士を相手に出し惜しみなどして勝てるはずがなかったな」



 だから、と続ける青年。



「この手で仇を取ることはもう考えない。正直、まだ状況が把握できていないが今は目の前の障害を除くため全霊を尽くそう。──《漆焔(しちえん)》、発動」



 鎧を覆う七つの炎が胸部に集まり融けていく。

 絵の具さながら混じり合い生まれた炎の色は黒。

 暗く輝く火に()べるのは(よろ)いし者の生命力。



 黒い炎が不死鎧全体を呑み込む。炎は巻き付く鎖にまで延焼。竜の息吹にも耐える聖銀(ミスリル)が黒に侵され枯れ木の如く燃え尽きた。

 青年とセレーネの真の闘いの火蓋は、今、切られたのだった。

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