26.十二騎士との戦い
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《呪われた神金晶の澄剣マリノルキナ》ランク8:装備者の全パラメータを大きく増幅し魔力を高速で回復させる。装備者の剣術を大きく強化し、また装備者の剣術を六時間に一度だけ飛躍的に強化する。刃の切断力を大きく増幅する。装備者の剣術の溜め時間を短縮する。損傷を自動修復する。
この装備は呪われており装備解除できないが、全ての装備効果が強化されている。
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それはまるで純金の輝きだけを抽出し鍛造したかのような透き通る黄金の刀身をしていた。
白銀の鍔には橙の文様の刻まれ柄には天を支える巨人がデフォルマシオンで描かれている。
その長剣の銘は《呪われた神金晶の澄剣マリノルキナ》。俺が修行していた《大型迷宮》で手に入れた《装備品》に《呪詛》を付与して完成させた最高峰の逸品だ。
澄剣は《ランク8》に相応しい強力な《装備効果》を幾つも具えるがその最たるものが〈剣術〉の飛躍的な強化だ。
再使用には六時間かかるがその強化率は絶大。待機室の警備をしていた騎士と十二騎士オスカルを一刀のもとに斬り裂いてみせた。普通に〈大閃〉を使っただけではこうはならなかったはずだ。
「よくもオスカルをっ、〈オォバァドライヴ〉!」
だがヘクターを仕留め損ねてしまった。オスカルが防御に使ったフライパンにかなり威力を殺されたためヘクターの魔槍に止められてしまったのだ。
気配は極小であったにも関わらずギリギリのところで反応して見せたのは流石十二騎士と言うべきか。
「〈踏藍空〉、〈息吹斬〉」
「〈大鋒槊〉!」
壁を蹴破って室内に飛び込みつつ斬撃を飛ばすもヘクターの〈槍術〉に相殺された。だがそれは想定通り。飛び込んだ勢いそのまま接近し、両手で握った澄剣で斬りかかる。
だが先に攻撃を受けたのはこちらだった。剣と槍ではリーチが違うのだから当然だ。ディマナ流槍術から発展させた攻撃的な槍捌きが俺を襲う。
苛烈な魔槍の連続攻撃を澄剣で防ぎながら間合いを詰めて行く。今は防戦一方になっているが〈超越級槍術:オォバァドライヴ〉による強化を加味しても身体能力では俺が勝っている。
防御しながらのため進みは遅いが距離は着実に縮まっていた。
「ぐっ、《シックスボックス・歯車匣》!」
ヘクターが《ユニークスキル;シックスボックス》を発動させた。
《シックスボックス》は《スキルレベル》を上げていくと最大で六種類の効果を扱えるようになる《ユニークスキル》だ。その効果の一つ、《歯車匣》は消耗が激しくなるのと引き換えに《敏捷性》を上昇させる。文字通りギアを上げたヘクターの《敏捷性》は俺に並ぶ。
かと言って苦戦するわけではない。戦況が拮抗したとして先に体力が尽きるのは《歯車匣》で強引に強化しているあちらであるし、そもそも優勢なのは未だ俺側だ。
首へと穂先が突き出されるが斜め前に移動しながら上体を反らして躱す。
素早く引き戻され首を斬り裂こうとする魔槍を澄剣で打ち上げその隙に一歩前進、向こうは半歩下がる。
足下への刺突と見せかけた斬り上げを体捌きだけで避けてさらに近づく。
一息の間に放たれる石突、払いからの突きを危なげなくやり過ごしもう一歩前へ。
緩急を付けブラフを織り交ぜ重心移動を滑らかにし的を絞らせない。
俺が《大型迷宮》に籠っていた十一か月で得たものは《経験値》とYPだけではない。強力な魔物との戦闘経験は俺を《ステータス》以上に強くしていた。
速く的確な判断、無駄なく力を伝える効率的な身体操作、そして《全知全能》に習熟したことでより高精度となった行動予測とそれを応用した行動の誘導。
どれも修行の日々で培ったものだ。
あと少しで剣の間合いに入る、という所で大きく踏み出した右足に刺突が放たれる。
気が急いてしまい一歩の幅を広げたために片足で攻撃を受ける羽目になった。咄嗟に剣の腹で魔槍を右に弾いたが片足で無理のある動きをしたため体勢を崩してしまった。ように見せかける。
普段ならこの程度のフェイントなど容易に看破していたはずだ。しかし突然の奇襲による動揺、仲の良かったオスカルを殺された怒り、得意の接近戦で全く歯が立たない焦り。諸々の事情で平静さを欠いていたヘクターは面白いくらい簡単に釣られた。
「! 〈魄砕〉!」
弾かれた魔槍が素早く水平に振り抜かれた。
〈術技〉により威力と速度を増した穂先が俺の脇腹を食い破らんと迫る。澄剣は先程の刺突を弾いた際の衝撃で両腕諸共魔槍とは真逆の方向に伸びてしまっていて防御には使えない。いくら冷静でないとはいえヘクターが騙されるのも仕方がないくらいのピンチぶりだ。
「〈手刃裂き〉」
先述の通り腕は反対側に回っているため使えない。今回〈術技〉の対象としたのは手ではない、足だ。
剣ごと腕が弾かれた俺はバランスを取るため片足を腕の逆側、すなわち魔槍の来る方向に軽く伸ばしている。その足を外に折り曲げ〈手刃裂き〉を使い魔槍を足裏で蹴り上げた。
軌道を上にズレされた槍が俺の頭髪を掠める。またも無理のある動きをしたために姿勢がさらに崩れるがこうなることは事前にわかっていたので当然対応も早い。
小さくくるりと側転し即座に体勢を整え駆け出す。
「《爆衝》起動!」
槍では間に合わないと判断したヘクターは《装備効果》で指向性の強い爆発を起こした。それを全速力の突進で突っ切り懐に飛び込む。そこへ爆発を抜けるまでの僅かな時間で引き戻された魔槍が振り下ろされた。
爆発で視界が塞がったところを狙った一撃は、しかし《全知全能》の前では不意打ちにはなり得ない。
バゴン‼
床が耐えうる限界の力で踏み込む。そうして生まれた反作用を足から膝へ、膝から腰へ、体中の筋肉と関節を利用して増幅させた力を剣に込める。《全知全能》により人体の構造を完全に把握している俺は十一か月の修行で自身の身体能力を最大限活用する技術を体得していた。
踏み込みの力を余さず注ぎ込んだ斬撃を魔槍目掛けて振り上げた。
待機室に響く激しい金属音。〈中級槍術:ホーククロウ〉により威力の高まった魔槍を、俺の澄剣が撥ね飛ばした。まさか〈術技〉が素の剣技に打ち負けるとは思いもしなかったヘクターは目を丸くして一瞬、呆気にとられる。
そんな意識の間隙にするりと滑り込むように、さらに一歩歩み寄る。敵は既に剣の間合い。
「《闇葉盾》!」
魔槍との反作用を利用して素早く翻した斬撃は後ろに退こうとするヘクターを急造の障壁ごと袈裟斬りにする。防具も骨も肉も叩き斬り刃は心臓まで到達した。致命傷である。もう魔槍を振るうこともできない。
「《タマ、テ……ボックス》……っ」
血を吐き崩れ落ち激痛に苛まれながらそれでも、友の無念を晴らすため、騎士として危険人物を排除するため、《ユニークスキル》を発動させてのけた。
彼の体が床に倒れると同時、辺りは灰に包まれた。




