24.帝城襲撃
──帝闘祭本戦当日 昼
闘技場で《呪詛》が振り撒かれた数分後、帝城。
「……はい……はい、ではそのように」
学校の教室ほどの広さがある十二騎士専用の待機室では三人の十二騎士がガンクの指示を受けていた。帝城の守りについていた彼らを含む全ての十二騎士は通信用|《魔道具》を与えられている。
通信が切られたのを確認してから第九席、シューフィが立ち上がる。
「それでは私は陛下のもとへ向かいます。先輩方もどうかお気を付けて」
言うが早いか大鎌を手に取り飛び出すシューフィ。十二騎士屈指の機動力を持つ彼女ならばすぐに皇帝達と合流できるだろう。
がらんとした待機室に残された褐色肌の偉丈夫、第六席ヘクターが小さくぼやいた。
「……正直、過剰戦力だと思うけどな」
「そのようなことはありませんよ。闘技場の虹色甲冑、たしかケイタと言いましたか? その者に加えてリアンさんを殺した者も潜んでいるのです。敵の狙いが分からない以上、陛下の守りを優先するのが得策でしょう」
ヘクターの愚痴にすかさず反論したのはレストランのシェフじみた白衣を着た男、第七席オスカルだ。煙突みたいな白い帽子も被っている。
「にしても五人は多い気がするけどな。ま、陛下の決定に文句はねーけどよ」
そう言ったヘクターは、この話はこれで終わりだとばかりに強引に話題を転換する。
「てかリアンの奴が殺さるなんてな。十二騎士としちゃ新米だったが並みのSランク冒険者には後れは取らねぇはずだぞ」
「不意打ちで片腕を落とされ一方的に負けたそうですが彼に奇襲をかけられる猛者が帝国にどれだけいるか……。下手人は《潜伏》系の《ユニークスキル》を使うのでしょうね」
《気配察知》持ちを奇襲することは難しい。音を立てず空気も揺らさず視界の外から無味無臭で攻撃しても《気配察知》に捉えられる。地球の気配とこの世界の気配は別物なのだ。
気配を隠し気付かれにくくなる《潜伏》があれば《気配察知》も躱すことができるが《潜伏》と《気配察知》は同格の《スキル》である。
《潜伏》と《気配察知》の《スキルレベル》が同じ場合、十分に離れていて攻撃の意思がないのなら《潜伏》が勝つ。しかし距離が近かったり矢や〈術技〉で攻撃しようとしていたりすると《気配察知》に引っかかりやすくなる。また十二騎士や高ランク冒険者のように《ステータス》が高い者は気配が大きすぎて《潜伏》では隠し切れないこともしばしばだ。
リアンの《気配察知》は《最大レベル》。そのリアンを《潜伏》程度で出し抜けるはずがないので《潜伏》の上位互換な《ユニークスキル》を持っていると推測したのだ。
「しかも加勢した兵士達をダース単位で殺してから逃げてやがる。こいつは相当面倒な……ん?」
「なんでしょうね、これは」
二人が雑談していると突然、《気配察知》に無数の気配が引っかかった。一つ一つは一般人程度の強さだが数が異常だ。ざっと百は超えている。それらの気配は帝城を目指しているようで堀の前に集まってきていた。
それから少ししてけたたましい警鐘が鳴り響き、待機室の中央に備え付けられた通信用|《魔道具》に光が灯る。十二騎士に配られる物と違い大型のそれから焦ったような声が聞こえてきた。
『十二騎士様、こちらは帝城を警備中の二等騎士、ティマです! 至急お伝えしたいことがっ』
「城の前の奴らのことか?」
『そのことでございます! 《洗脳》状態の民衆が迫って来ており跳ね橋を上げたのですが、奴らの一人が溶岩を使い堀を埋め立て始めました』
「待て、溶岩だと? そいつはまさか……」
『はい、溶岩を作っていると見られる者はリアン様の《岩漿ドラグマグラ》に酷似した剣を持っています。《状態異常》回復の〈魔術〉で《洗脳》を解いたのですが近くに使い手がいるようですぐにまた《洗脳》されてしまいました』
リアンの《岩漿剣ドラグマグラ》には溶岩を生み出し操る力があった。魔物の群れを一掃する規模の攻撃を何度も行えるほど燃費が良いため戦争や魔物災害の際には引っ張りだこだった。
その《ドラグマグラ》があれば堀の上に岩の橋を架けることなど造作もないだろう。
『この人数を傷つけず無力化するのは不可能と判断されたアミアス騎士長の命により、現在は堀の上に踏み入り次第、殺害しております』
「状況は分かった。一つ確認したいんだが《洗脳》は本当に解除できたんだな?」
『《状態》を確認できる《ユニークスキル》持ちに確認させたので間違いはないかと思われます』
「そうか、報告ご苦労だったな。防衛戦力は足りているみたいだから俺達はここで待機している。そっちの上官にも伝えておいてくれ」
『ハッ!』
その言葉を最後に大型通信用|《魔道具》の光が消える。通信を終えたヘクターがオスカルにジットリとした視線を向ける。
「お前も喋れよ」
「私、この《魔道具》苦手なんですよね。顔の見えない相手と会話するというのがどうも違和感がありまして」
「初対面の奴とは顔が見えてても喋らねーじゃんよ……」
第七席オスカルは人見知りであった。話せないわけではないがヘクターと一緒の任務では会話は彼に丸投げしている。
いつものことなのでヘクターも文句は言うものの気にする素振りはない。
「……まあ陽動だよな」
「ええ、集団|《洗脳》にかかる程度の民間人がどれだけ居ようと城壁は破れません。リアンさんを殺した者が来ても我々二人なら対処は可能。敵もそんなことは分かっているはずですから城攻めは目眩ましで他に本命があるのでしょう。問題はそれが何なのか、ですね」
「撹乱したいのは確実だろうな。闘技場の《狂乱》化にしろ集団|《洗脳》にしろ適当にデッケ―ことしてこっちを揺さぶりてぇって魂胆が透けて見えるぜ」
「しばらく前に報告があったあちらこちらで《悪魔》憑きが暴れているというのもその一環でしょうね」
「そういやリアンを殺した奴は詰め所をぶっ壊して捕まってた犯罪者共を脱獄させたらしいがこれもそうなんだろうな。たしかあの詰所には小物しかいなかったろ」
様々な可能性を話し合い検討を重ねるが相手の本命は見えてこない。
皇帝の殺害が最有力候補であるがそれにしては戦力を分散させすぎている。皇帝の居場所は分かっているのだから、リアンを殺す暇があったら増援が来る前に皇帝を襲うべきだろう。
だというのにシューフィとの合流を許しているのがどうにも解せなかった。
「ま、とりあえず陛下を守るのが最優先だな。さっきシューフィが合流できたって連絡があったしひとまずは大丈夫だろうが」
「そうですね。しかし侍従が正気なら今頃はもうお戻りになられていたのですが……」
「そうだな、まさかケヴィンでも解けねぇなんてな」
ケヴィンは回復系の〈魔術〉に秀でた十二騎士である。《状態異常》の解除もお手の物だ。そのためもしもの時の回復役として皇帝の護衛をしていたのだがそんな彼でも侍従にかかった《状態異常》は治せなかった。
侍従の片方は《空間魔術》を使えるため正気に戻せれば帝城のすぐ傍まで空間転移できたのだが。おかげでシューフィが出向く羽目になった。
「ったく、どんな手品を使ったのやら」
「《ユニークスキル》か《魔道具》か。考えても詮無きことですね」
「ま、手持ちの情報じゃ絞り──ッ!?」
「──〈大閃〉」
呑気に議論を続ける二人を俺の〈剣術〉が襲った。




