表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/38

21.《種族進化》

──帝闘祭前日 朝



 この世界の《種族》には二つの分類がある。生涯ほぼ変わることのない大枠の《大種族》とそれを細分化した《小種族》だ。

 俺の《種族》を例に見てみよう。



===============

人間種―魔人 Lv112

===============



 《人間種》が《大種族》、《魔人》が《小種族》だ。通常の《種族進化》であれば《魔人》ではなくなるが《人間種》であることは変わらない。

 《大種族》を変更する手段は極々一部の《ユニークスキル》か〈超越級呪詛術:リィンカーセイション〉のみだと言えばその特異性が伝わるだろうか。



 《種族》と言えば、今まで何の説明もしていなかったが《魔人》というのは普通の人間、つまり地球人と同じ人間のことだ。《魔力量》や《魔導力》等が育ちやすいためこんな名称になったと思われる。

 《魔人》、《森人(エルフ)》、《獣人》、《地人(ドワーフ)》が基本的な《人間種》であり、基本的な《人間種》同士の交配ではこれら四種族のいずれかが生まれて来る。《種族》ごとに得手不得手はあるがさほど大きな差ではないため【鏡界】では人間の《小種族》はあまり重要視されていない。

 基本的な、と付けたことからわかるようにこれら以外の《人間種》もいるにはいる。《超魔人》や《超森人(ハイエルフ)》といった正当な《種族進化》先である《超人》系などがそうだ。《レベル百五十》が《種族進化》の最低条件となるため滅多に現れないが。

 他にも《人間種》はあるがそれらにはさらに特殊な条件が課されるので数はより少なくなる。



 どうしていきなり《種族》の話を始めたのかというとこれから奴隷の青年を《種族進化》させるからだ。

 家まで帰ってきた俺の前では青年が横になっている。昨日|《迷宮》から戻った時に《起死回生》を使ったので健康状態に問題はない。

 一日以上にわたって三種の《呪詛》に耐え忍んだことで潜在していた《ユニークスキル:呪容の器》が覚醒し、その身を蝕んでいた三つの《超越級呪詛》も今の彼には強化(バフ)として機能している。あらゆる《呪詛》を無効化し逆に強化(バフ)に変えてしまうのが《呪容の器》という《ユニークスキル》の効果なのだ

 もっとも、あらゆる《呪詛》とあるが実際は《超越級呪詛》までにしか働かないのだが。《ランク》差があればゴリ押しできるパターンがこの世界には多い。

 《スキル経験値》を溜めて《スキル》が上位のものに変われば《神淵級》すら糧にできるがそれには早くとも数年はかかるので今回の作戦には《超越級呪詛》だけで参加してもらう。



 なにはともあれ準備は終わっているので《教唆扇動》を通して《種族進化》するよう命令を下す。

 変化はすぐに訪れた。胸の中心に濁った紫色をした花の紋様が浮かび上がりそこから全身に同色の細い模様が根を張るように伸びていく。枝分かれしながら広がった細い(すじ)達はさながら葉脈のようだった。

 やがて筋の侵食が止まると今度は目と髪の色が変わって行く。筋が達しているのが顔の右側だけだからだろうか。濁った紫に変色したのは右目と髪の右半分だけだった。

 《種族進化》はこれで完了だ。青年の《小種族》も変わっている。



===============

人間種―穢人(けがれびと) Lv46

===============



 《穢人(けがれびと)》は満遍なく高い《パラメータ》を持つ《人間種》だ。《種族進化》条件は『複数の《呪詛》に適応する』こと。今回は《呪容の器》で無効化することで『適応する』という条件を満たした。



 恐らく史上初となる《穢人(けがれびと)》への《種族進化》を遂げた青年に《装備品》を与えていく。昨日の《迷宮》攻略の合間に集めたものだ。肩慣らしに《迷宮》に入る帝闘祭の参加者もかなりいるため青年向きの強力な《装備品》をいくつか入手できた。



 《教唆扇動》の指示に従って《装備》していく青年。《種族進化》したことで《抵抗力》も上昇したが《洗脳》を自動解除できる域には達していない。

 だが原因はそれだけではない。《洗脳》を解除、ないし弱化させるには《抵抗力》の他にも意思の強さが関わってくる。魂無きこの世界で意志の強さとはお笑い種だが実際にそうなっているのだ。一から十までの《感情ランク》で判定されている。

 《洗脳》状態の意識は夢を見ているときのように朦朧としている消えてなくなるわけではない。心の底から嫌なことをされたりどうしてもしたいことを見つけたり、そうした時の強い感情の爆発で《感情ランク》が閾値を超えれば《洗脳》を解くことができる。



 これまで《呪詛》を掛けたり《穢人(けがれびと)》に《種族進化》させたりしてきたが《洗脳》が解ける気配がないのはひとえに青年が無気力だからだ。

 青年はかつて帝都近傍の都市で活動していた反乱軍だった。しかし単独行動中に主君にして幼少の頃からの親友が討ち取られてしまい意気消沈、呆然とスラムをさまよっていた時に奴隷狩りに捕まり帝都の奴隷商に売られたのだ。

 それなりの《パラメータ》はあるが《洗脳》には抵抗しないこの上なく優れた駒だ。



 無事|《穢人(けがれびと)》に《種族進化》させた俺は次の目的のために家を出た。




◆  ◆  ◆




──帝闘祭前日 昼



 帝城の一角は十二騎士達の居住スペースとして与えられている。その中の一室、大きな円卓を中心に十二の椅子が置かれたこのホールは十二騎士達の会議室だ。現在ここでは帝闘祭での持ち回りの最終確認が行われていた。

 座席は半分しか埋まっていないが内三名は聖国との戦争に、二名は皇帝の護衛に就いているのでサボっているのは一名だけだ。帝国最強と名高い十二騎士は強さだけでなく人格面もある程度考慮して選出されるためその多くは騎士の模範……とまでは行かずとも真面目な性格をしている。



「──以上が我ら帝下筆頭十二騎士の帝闘祭での持ち回りである。何か質問はあるか?」



 今回の進行役である第二席ガンクの問いに十二騎士達は沈黙を返す。任務内容が複雑ということもないので特に訊くことはないのだ。



「では此度(こたび)の十二騎士会議はこれにて終了とする。各自の持ち場に戻るように」



 会議の終わりを宣言したガンクがまず最初に席を立ち、続いて序列が上の騎士から順に会議室を退出していく。

 第十一席リアンは順番が回って来るのを待ちながら今年の帝闘祭での自身の役割について考えていた。



 リアンの仕事は街の治安維持に決まった。十二騎士はそこに居るだけで犯罪への抑止力となるためこういった祭事では最低一人は詰め所の前で目を光らせているのだ。

 これまでは第五席のレークスと半日交替で務めていたが帝闘祭が始まればレークスは皇帝の護衛に行くため、リアンは二日間ぶっ通しで詰め所に詰めることになる。規格外の《レベル》や《装備品》を持つ十二騎士ならば体力的な問題は解消されるが精神的には今から憂鬱である。



(やはり陛下も反乱軍のことが気掛かりなのだろうな)



 例年ならば護衛は十二騎士三名、近衛騎士五名のところを今年は十二騎士四名、近衛騎士十名の大所帯で観戦しに行く。リアンの聞いた噂によればいつも帝国のどこかをほっつき歩いている幻の第一席も呼び戻すそうだ。

 これほどの戦力を揃えるのは反乱軍の活動が活発化してきているからだろう。二か月ほど前に近くの都市を拠点としていた反乱軍を滅ぼしたが他の反乱軍はいくつも残っている。

 亡国の搾りかすである反乱軍など何の脅威でもないがメルチーヨの事件の実行犯は別だ。ここ最近の反乱軍の活力が災害級の力を持つ契約者という切り札を得たことに起因するかもしれない以上、警戒しすぎるということはない。



(だがしかしこうなったのは陛下の自業自得……いやいや、私はなにを考えているのだ!)



 額を抑えて頭に浮かんだ不敬な考えを振り払う。だがそれは紛れもない彼の本音であった。帝国に征服された地が受ける苛烈な支配を思えば皇帝を憎む者が次から次へと湧いてくるのは必然に思える。

 リアンは冷血漢というわけではない。一般的な人情や思いやりといった心を有している。だが十二騎士として、民の上に立つ者としての広く合理的な視野も持っていた。

 全ての人間を等しく幸福にするなど不可能で、誰かの利益は他の誰かの犠牲の上にしかない。そのことを理解しているからこそ、自国の民に益をもたらすため征服した他国の民から搾取するのも一つの国家の在り方だと納得していた。



 ──とはいえもう少し締め付けを緩めても良いのではなかろうか。

 近頃の彼を悩ませるのは胸の内から這い出て来るそんな問いかけだった。戦争で多くの戦力を失い重税を課せられた地域では強力な魔物が蔓延(はびこ)り人心は乱れ明日の食事もままならない。正に末法の世といった光景が広がっている。

 都市を滅ぼすような魔物を倒すのも十二騎士の仕事のためリアンはそういった地域を何度も訪れその惨状を目の当たりにしてきた。

 だからこそそんな疑念が浮かぶのだ。



 先代皇帝の時代ではここまで苛烈な搾取は行われていなかったという。被支配地域の状況が魔物の間引きもままならぬほどに悪化したのは今の皇帝に変わってからだ。

 締め付けが緩すぎれば力を蓄え蜂起されるかもしれないが、現在の支配は度が過ぎているように彼には思えた。

 だが思うだけ、口には出さない。国政を議論するのは騎士の仕事ではないしそれをした場合のリスクを考えると見て見ぬふりが無難である。要するに彼は、義を為す勇気を持てないでいるのだ。



 そうこうしている内にリアンが退席する番になった。長く放置していた物置の埃みたいな、何度掃き捨てても尽きない感情を胸の奥に仕舞って彼は仕事に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ