2.創世
「どうして異世界が出来たのか?」を一話使って説明していますが長い割に本編にはあまり関わってきません。出て来る用語も覚える必要はありません。
一応必要なことは次話のあらすじにまとめておきますので飛ばしていただいてもあまり問題はありません。
地球には【魔法使い】が存在する。
彼らは【秘杖】と呼ばれる道具と自身の【魔力】を用いて【魔法】を行使する。
そして最上位の【秘杖】である【神器】を持つ者たちはその強大な力から【神器使い】として恐れられていた。
自室の鏡に向かって話しかけるナルシスト風の青年、加賀美恭弥も【神器使い】の一人である。
「ミー爺、今日はどんな【魔法】を覚えるのかな?」
「ふっふっふ、聞いて驚け! 今日教えるのは鏡の向こう側に新世界を創り出す【魔法】、【鏡界神話】じゃ!」
否、彼が話しかけているのはただの鏡ではない。【神器・八咫鏡】の当代の依り代である。
「それは前にやったじゃないか。鏡の中に空間を作って仕舞うスペースにできるってやつ。【鏡内空間】だっけ、今も物置代わりに使ってるよ」
「それとこれとは全然違うのじゃ! 【鏡内空間】は物質を情報に分解して【鏡】という記録媒体に留めておるだけじゃ。【鏡内空間】という名前じゃがその実、空間を創っておるわけではない、……という話を以前もしたんじゃがなあ」
鏡の中から恭弥に三白眼を向ける老人は【八咫鏡】に宿る精霊ミーである。神器の人格とも呼ぶべき彼らは神器の使い手を選び、導く役割を担っている。
「そういやそんなことを言っていた…ような? ミー爺の話は難しくて覚えづらいんだよねえ」
「すまんかったのう!」
「それで何が違うのか手短に教えてよ」
「そういう横着の積み重ねが理解を浅くしとるんじゃ! 知識を頭に叩き込み、実践を通して自身の血肉へと変えていくことが大切なんじゃ。それを怠ると──」
──以下説教を交えながらの長い長い説明。
「えーとつまり、前に習ったのが鏡にものを入れる【魔法】で、今回習うのは自分の好きなように弄れる世界、【鏡界】を創る【魔法】ってこと?」
「平たく言うとそうじゃな。どのような星を創るかもそこにいかなる生命を棲まわせるかもお主の思うがままじゃ」
ミー爺が得意げにそう言った。そんな老人の様子を意に介さず恭弥は質問する。
「で、具体的にはなにすればいいの?」
「まずは【魔源万華鏡】で魔力を増やすのじゃ。【鏡界神話】の必要【魔力】はこれまで教えてきた【魔法】の中でも群を抜いておるからのぅ」
「わかったよ」
恭弥が神器と机の上の鏡の間に立ち両手の指を絡み合わせて印を結ぶ。そして合わせ鏡の向こうの自分から【魔力】を引き出す【魔法】を発動させた。
「オーケー、繋げたよ。これでいくらでも【魔力】が使える」
「では次はこの印を結んでくれ。理論は先ほど教えた通りじゃ」
「うんうん、覚えてる覚えてる」
「本当じゃろうな」
軽口を叩きつつも【鏡界神話】の印を作る恭弥。
「この後は創りたい世界をイメージすればいいんだよね」
「うむ。じゃが一度に想像しきれるものでもない。最初はこの部屋だけを細部まで再現するのだ」
「りょーかい」
そう言って部屋を見回す恭弥。
「うん、できたよ」
「ならばいつものように【八咫鏡】に【魔力】を流せ。今回はお主数人分の【魔力】が必要じゃから決して【魔源万華鏡】を切らすなよ」
「りょーかいりょーかい」
そして【八咫鏡】に手を触れた瞬間、部屋に眩い光が溢れた。
「成功したっぽいね。窓の外真っ暗だし」
「うむ、今この部屋の外には何もないからの。これから外も作っていくわけじゃがまずは時間の流れを加速させるぞ。現実世界と同じ速さでは色々と不便じゃからな」
「百万倍くらいでいいかな」
「良い良い、どうやら法則の操り方は理解できておるようじゃな」
「そうだね、【鏡界神話】を使ったときに法則改変の仕方はなんとなく掴めたよ」
「よしよし、では世界創造を進めるぞ!」
「おー!」
数時間後そこには、太陽を登らせ、空気を満たし、雲を浮かべ、大地を埋め立てた恭弥が大の字になって寝そべっていた。
「だっるっ‼ びっくりするくらい面倒くさいね。え、これ創り終える頃には僕お爺ちゃんになってない?」
「このペースじゃとそうなるかもしれんの。じゃが【転写】を使えばかかる時間を大幅に短縮できるぞ」
「だったら先に教えてよ」
「最初は基礎を練習した方がよいのじゃ。ふむ、お主もだいぶ慣れてきたようじゃしそろそろ【転写】を使っていくかの」
「そうしよそうしよ」
恭弥が体を起こして賛同する。それに対し、ごほん、と大きな咳払いをしてミー爺が説明を始めた。
「ではこことは違う次元に新しく世界を【創造】してくれ。大規模な改変を行うときは操作ミスの巻き添えを食らわんよう別次元からするのが基本じゃ」
「創れたよ」
「次に影響範囲を今創った世界に限定せよ。間違ってもこの部屋を含んではいかんぞ。それが終われば現実世界全てが鏡に映る様を思い浮かべるんじゃ」
「むむむ……」
恭弥が目を閉じて唸る。
「よしっ、できた」
「ならば鏡を通してその世界の出来を確認するぞ」
「わかったよ。……あれ、そういえばさっきまで僕が創ってたこの部屋の世界は使わないの?」
「あれはただの練習じゃからの。今後も使うことはないじゃろう」
「ええ、あんなに頑張ったのに……」
落ち込みながら手近な鏡を覗き込む恭弥。鏡の中には見慣れた都市の街並みが映っていた。しかしいつもは人で溢れかえっているはずのその場所に今は人っ子一人居ない。
「生き物以外は転写できたみたいだね。【魂】を持つ存在は【転写】も【創造】もできないんだっけ」
「よく覚えとるの、その通りじゃ。【鏡界】でも【魂】の複製だけはできぬ。じゃができんのはあくまで【転写】と【創造】だけ。【魂】の抜けた死体を【転写】し修復して生前の人格を再現したり、【魂】の宿る肉体ごとこちら側に【転送】することは可能じゃ」
とはいえ【神器使い】には通じんがの、と付け加えるミー爺。
「ふーん、思ってたより弱いね。【神器使い】に利かないなら意味ないじゃん」
「【転送】した【魂】を弄れば【魔力】を増やすことができるぞ。お主の十分の一くらいにはの」
「ダメダメじゃん、昔の僕の十分の一って」
「駄目ではない。十分の一でも最高峰の【魔法使い】以上はあるぞ。お主には自覚がないがの、【神器使い】とそれ以外の【魔法使い】では天と地ほどの魔力差があるんじゃ」
原則、【魔力】は親から遺伝するが極稀に親とは無関係に膨大な【魔力】を持った子供、【神子】が生まれてくる。
【神器使い】はほぼ必ず【神子】から選ばれるが、これは【神器】を扱うに足る【魔力】があるのは【神子】だけだからだ。【神器使い】であるということは、途方もない【魔力】を宿していることの証明なのだ。
なお【神子】の【魔力】は子孫に遺伝しない。世界に百一個ある【神器】の約半数が使い手不在の状態なのは先代の使い手が後継者を発見できていないからである。
「そんなこと言われても他の【魔法使い】と会ったことないしなあ」
「奴らも普段は社会の裏に潜んでおるからの。魔女狩りが怖いとかなんとか。大手を振って歩けていた千年前が恋しいわい」
ミー爺がそういって首を振る。
「【鏡界】創りを続けるぞ。現実世界の全ての物質を【転写】したわけじゃが、この【鏡界】をどのような世界にするか決めなければならん。今回は初めてじゃし実用性は考えず創りたいと思う世界を創ったので良いぞ」
「それなんだけどさ、レベルとかスキルとかある世界にしたいんだよね」
「いつも読んどる『らのべ』の舞台みたいなか?」
「そうそう、それで事故に遭った人の記憶や人格を【転写】して転生させたり魔王退治みたいな使命を与えて転移させたりしたいんだよね」
「ほう、ではとりあえずそれを目指そうかの」
それから彼らの苦闘の日々が始まった。
「やけに災害が多いね」
「無理やり地形を変えた反動じゃろう。時間を進めれば収まるはずじゃ」
「環境の変化に耐えられなかった動物たちが滅んだようじゃぞ」
「気候帯に合った《スキル》を持つ新種にして復活させるよ。スノーマンモスとかファイアウルフとか」
「そもそも適切な環境を考えず手当たり次第に動物を配置したのが間違いだったんじゃないかのぉ……」
「なかなか個体数が伸びないなぁ」
「《レベル》があるせいでどうしても捕食者側が有利になってしまうからの」
「《潜伏系スキル》も《スキルレベル》で上回られたら意味ないからねえ。《気配察知系スキル》を下方修正しておこうか」
「ああっ、人間が絶滅した!」
「《魔王》を強くしすぎたのう。自己強化の《勇者》と軍隊強化の《魔王》という方向性じゃったが魔王軍の規模が大きくなると《勇者》一人では手が回らんくなるようじゃ。無論《勇者》以外にも戦える者は居るが《魔王》の力で強化された魔物の群れには分が悪いの」
「配下なら何体でも強化できるのは強すぎたか~、制限かけとこっと。あと魔物が皆《魔王》に絶対服従なのもよくなかったね。町の周辺の魔物を束ねてけしかけるだけで滅ぼせちゃうからなぁ」
「……なんで星が凍ってるの? 遅めの氷河期?」
「結論から言うとの、〈神淵級魔術;全球凍結〉が使われたんじゃ」
「え、あれ使えるようになるまで《魔術》極める奴なんていんの?」
「どうもこの〈魔術〉を発動させたやつは奴隷のようでの、幼いころから国の兵器となるべく秘密施設で英才教育を受けさせられていたのじゃ。《ユニークスキル:知の導》と《称号:水魔術の申し子》の成長補正も手伝って齢六十四にして遂に〈全球凍結〉を使える域に達したという訳じゃ」
「それで試し撃ちしたら地球がアイスになったんだ。地球じゃないけどさ」
「まあそういうことじゃな」
「《神淵級魔術》は単体攻撃ですら余波でかなりの被害が出るからなぁ。範囲攻撃を使っちゃうとなぁ。習得に必要な《スキル経験値》と範囲を見直すよ。威力も少し調整する」
「それと所持の威力や効果を理解できるようにするべきじゃな。今回ほど酷い例はないにしても、《スキル》の詳細が分からんせいで類似の事故が幾度も起こっておるからの」
「あれ、この人達僕の知らない言葉喋ってるんだけど。初期配置の時点で言語は日本語に統一したはずだよね?」
「まあかなり時間を進めたからの。変化するのは必然じゃろう。しかしこれでは人を招いたときに不便じゃのう。言語も【停滞事項】に含めるかの?」
「うーん、送られる地域の言語知識を頭の中にインプットする方がファンタジーっぽくない?」
「ではそうするかの」
「転生は死んだ人の人格を【転写】するとしてさ、転移はどうしようか。【転送】すると【鏡界】で死んだら現実でも死んじゃうわけでしょ。流石にそれはかわいそうっていうか……」
「【魂】の宿った本体は時間が止まった世界に隔離し、その者の肉体と人格を【転写】した複製存在を転移させたんでよかろう。【鏡界】内でなら一時的に肉体から【魂】を分離させ身体を複製することもできる。この手法ならば記憶を消す手間も省けて一石二鳥じゃ」
「それならわざわざ鏡界に連れてこず人格だけをコピーしたんでいいんじゃ……いや、こういうのは雰囲気か。うん、折角だし異世界で活躍した分だけ【魔力】を増やしてあげようかな。【秘杖】なくても風邪予防くらいには役立つはずだよね」
それから数週間後のこと。
「おっほん! 使い魔三号、君にはこの【現実と鏡界の境界にある教会】を与える。ゲストの対応や【鏡界】の管理に励むように」
「お役目確かに承りました。ご期待に沿えるよう身命を賭させていただきます」
「うん、何か問題があったら遠慮なく言ってね、怒らないから。いってらっしゃーい」
恭弥の前に居た金髪の女性が白い光に包まれ消えていく。
「うむ、これで全行程終了じゃ。後は問題が起きた時に対応するだけでよいじゃろう」
「んん~、ようやく完成かぁ。大変だったけど楽しかったなぁ」
「さて、次に創る世界じゃが……」
「えー、もう創るのー? いま創り終えたとこなんだし少しくらい休もうよ」
「ならん! お主が無駄にこだわったせいで予定しておった期限を過ぎてしまっておる。次の世界……【魔力】が無い地球はテキパキ創っていくぞ!」
「うっそぉ」
そんな話をしながら二人も姿を消す。しかしこれから数日後、彼らはある事件に巻き込まれる。それによりこの世界のことはすっかり忘れてしまい、二度と思い出すこともやって来ることもなかった。
彼らの組んだシステムに不備などもなかったために鏡の隅でひっそりと、今日も【鏡界】は稼働している。




