17.魔竜
Sランク冒険者達を殺しこの街ですることは粗方片付いたので街の外を目指す。
適度に間を置いて〈壊都薙ぎ〉を放ちながら西に小走りで向かう。小走りとはいっても常人の全力よりは遥かに速いが。
しばらく走っていると街を囲う城壁が見えてきた。最後にもう一度〈壊都薙ぎ〉を放って剣を鞘に納める。そうして腕をフリーにしてランニングフォームを整え足にグッと力を込めて加速する。
ぐんぐん迫る城壁。トップスピードになったところでハードル走でもするかのように腿を大きく上げて跳躍。
来た時は各種《スキル》と〈術技〉を活用して乗り越えた壁をただのジャンプで飛び越えて、俺はメルチーヨの街を後にした。
◆ ◆ ◆
《万夫不当(10000YP)》ランク7:《レベルアップ》時の全の上昇率を大きく補正し、常に体力と《魔力》を急速に回復させる。常に再生させる。
メルチーヨの街を出てすぐに作った《万夫不当》は《一騎当千》を前提とする《スキル》だ。
この《万夫不当》のように特定の《スキル》や《称号》を持っていなくては取得できない《スキル》も存在する。そして前提側の《スキル》が新《スキル》の完全な下位互換ならばその《スキル》は消失する。《術技系スキル》がその代表例だ。
《一騎当千》は《万夫不当》の下位互換のためここでお役御免だ。《オリジナルスキル》は扱いが特殊なため消失こそ免れるが使用することはもうできない。
他方で《紫電一閃》の前提となった《電光石火》は今も変わらず使える。これは持続時間や再使用までの時間といった面で一概に《紫電一閃》が上位互換とは言えないからだ。
話を戻そう。《万夫不当》は《ランク七》なだけあって《一騎当千》とは桁違いの効果量をしている。《パラメータ》補正率もそうだが体力回復効果が凄まじい。高速化した体力回復に《再生》効果も加わったことにより疲労が風に流されるように癒えて行く。全力疾走するならともかく小走り程度なら回復量が釣り合いいつまででも続けられそうだ。
そのずば抜けた回復性能に任せて走り続けること数日。辿り着いたのは切り立つ山々が雲を衝く峻厳なる山岳地帯、ギラディエナ山脈である。木々の合間からは灰色の岩肌が見え隠れし山頂付近には白雪が積もっている。
大陸最高峰。世界を分断する者。最難関魔境。そして竜の坩堝。
多くの異名で呼ばれ畏れられるのがこのギラディエナ山脈である。
「グゥギャアアァァァー!!」
麓を走っていると腹の底まで響く重低音が大気を震わせた。それは象くらいのデカさのトカゲに蝙蝠みたいな羽を移植したような生物、《ドラゴン》の咆哮である。山を登っていると時折、好戦的な《ドラゴン》が襲ってくるのだ。
「〈飛礫撃〉」
とはいえ奥地ならばいざ知らずこの辺りの低位の《ドラゴン》は敵ではない。〈術技〉一発で殺せる。
そうして《ドラゴン》を乱獲しながら登山を続け一つ目の山の頂上に着いた。そこで目に飛び込んできたのは遥か遠方まで連なる峻嶺の密林。俺はこれからこの先を進むことになる。
一山越え二山越え三山越え……。日もすっかり暮れてしまったが目的地に到着した。
山脈の中でも一際大きな高峰。
中腹の窪みに溜まった広大な湖。
流れ落ちる湖水が作るごうごうと轟音を吐き出す瀑布。
瀑布の傍に仁王立ちする蛍光色の光を帯びた巨木。
その根元にソイツは居た。
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竜種―獄魔竜 Lv148
状態 睡眠
スキル 爪牙術(超越級)Lv7 風魔術(上級)Lv6 土魔術(上級)Lv4 火魔術(超越級)Lv1 光魔術(上級)Lv8 水魔術(特奥級)Lv4 闇魔術(超越級)Lv5 意思疎通Lv4 気配察知Lv6 獄魔の波動Lv3 高速自動治癒Lv8 自動再生Lv7 爪牙凶化Lv9 体力節約Lv10 ドラゴンブレスLv10 飛行Lv10 ヘルイラプションLv2 魔竜の血Lv-- 魔竜翼Lv10 魔力超速自動回復Lv3 未知なるは闇Lv-- 猛毒爪牙Lv8 闇魔術強化Lv7 夜竜の眼力Lv19 夜の帳は全天を覆うLv-- 竜王の威迫Lv4 竜王鱗Lv3
称号 無明の化身Lv7 魔竜王Lv3 迷宮攻略者Lv6
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丸まってぐっすりと眠っている魔竜に《暗中飛躍》を使って近づく。生まれながらに強大な力を宿す《ドラゴン》、その中でも抜きんでた力を有していたこの個体は誕生以来、生命の危機を感じたことがほとんどない。そのため野生生物としての警戒心に欠けておりこのレベルの魔物にしては《気配察知》の《レベル》が低い。
故にこうして気配を消せば気付かれずに近寄れるのだが魔竜も馬鹿ではない。〈魔術〉の障壁や地雷を設置しており近づきすぎれば攻撃を受け魔竜も起きてしまう。
それら敷かれた〈魔術〉の一歩手前で立ち止まり長剣を構える。こいつに《状態異常》は効かないため今回は《呪詛》はなしだ。狙うは折りたたまれた二対四枚の翼の内、右側の二枚。意識を研ぎ澄まし横一文字に一閃。
「〈大閃〉」
《職業スキル:万断つ刃》により刃の通った場所にあった〈魔術〉は消滅する。三重に張られた障壁を豆腐みたいに斬り裂いた斬撃はその奥にある二枚の翼を見事断ち切った。これで上空から一方的に攻撃される展開を防げる。
「ギヮゴォオオオオォォ!!」
「〈訃刃〉」
二階建てアパートくらいある巨体をのたうち回らせ絶叫する魔竜。そこへ駆け寄りながら追い打ちをかける。
「〈訃刃〉」
黒い斬撃が飛んで行き魔竜の腕を深々と抉った。〈訃刃〉は体力消費こそ激しいものの威力と速度は斬撃を飛ばす〈剣術〉の中ではトップクラスなのだ。
痛みに悶えているところへ全力で走り接近する。けれどあと少しという所で反撃された。魔竜の口元に《魔力》が集まり風属性の《ドラゴンブレス》となって放出、扇状に広がったそれを真正面から受けて後方に吹き飛ばされる。
そんな俺を追撃しようと魔竜が赤紫の鱗で覆われた両脚に力を込める。魔竜の《敏捷性》では高速で水平移動する俺に追いつくことは出来ないが、移動速度を爆発的に上昇させる〈超越級爪牙術:狐裘賭す絶爪〉を使えば話は別だ。
ゴルフボールみたいに河の上を吹き飛ぶ俺へと魔竜が猛スピードで迫り紫紺の爪を振るった。
「〈勁通〉」
繰り出された爪と長剣がかち合った。いくら速くとも来る方向とタイミングがわかっていれば迎撃は容易だ。同じ方向に動いていたため相対速度が減少していたのも一因である。
だが筋力差、体格差、〈術技〉の等級差。諸々の要因から押し負けたのは俺だった。自由落下以上の速さで叩き落される。
「〈踏藍空〉」
〈術技〉により空中で踏みとどまる。〈術技〉の反動で硬直した魔竜が頭上を通り抜けていった。野生生物の多くは《職業スキル》を持たず〈武術〉使用後の硬直時間が長くなる傾向にある。そしてそれはこの魔竜とて例外ではない。しばし身動きできない時間が続く。
再び〈踏藍空〉を使って魔竜の腹の下に移動し長剣を突き刺す。
「〈咎串〉」
《魔力》をたっぷり吸収し夜の帳を引き裂かんとばかりに輝く長剣が魔竜の腹に刃を中程まで|埋《うずさんめる。そのまま長剣から手を放し肉の焦げる音を聞きながら今度は《呪われた行雲羊の靴》の効果で宙を蹴って岸に着地する。
けれど翼が半分になった魔竜は宙で動けず河にドボンと入水。一度水面が大きくへこみ、次いでこちらも大きな水柱が立つ。四肢と翼でがむしゃらに藻掻くも沈んでしまいごぼごぼと気泡だけが浮かんでくる。
一旦、川下の方に離れてから《暗中飛躍》を使いすぐに河辺に戻る。これで魔竜には俺が逃げたと思い込ませられた。
月明かりの下、キラキラと飛び散る水飛沫を見ながら川の縁に足を掛けて機を窺う。
まもなくしてその時はやってきた。水中で〈魔術〉が使われ魔竜を中心にして衝撃波が広がっていく。水が押し出され河底が露わになる。水が戻るまでの短い時間だがこれで魔竜は自由に動ける。
怒り心頭の魔竜は俺の気配が消えた川下を睨む。
「〈秘鋭斬〉」
だから川上から奇襲をかける俺に直前まで気付けなかった。腹を焼かれる苦痛で注意が乱れていたのもある。結果、突然現れた俺に何の抵抗もできず首を刎ね飛ばされてしまう。
「〈踏藍空〉」
腹の長剣を引き抜き間髪入れず〈術技〉で飛び退き戻ってきた水から逃れる。魔竜の亡骸は河に吞まれた。
普通の人間にとっては竜の死体は宝の山だが俺には使い道がない。このまま誰にも見つけられなければ数百年かけて河の藻屑となるだろう。
魔竜がねぐらにしていた光る木の下に帰ってきた。
巨木の裏に回り込むとそこには二枚の大きな扉、《大型迷宮》の出入口が背中合わせに立っていた。




