表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/38

10.メルチーヨの街の闇組織

 メルチーヨの街東部に立つとある倉庫、否、倉庫に偽装した建物は闇組織の拠点となっていた。



「脅しに行った奴らがいなくなった?」



 暗殺、恐喝、違法賭博、違法薬物の売買。違法行為は何でもござれなメルチーヨ最大の闇組織『クライシス』。その長であるダラスは拠点の地下室で側近の報告に訝しむような声を上げた。



「はい、どうも昨日から姿が見えなくなっているようです。おそらくは返り討ちにあったものかと」

「小娘とはいえあのババァの孫だ。刺激しすぎるなって言っただろうが、愚図共が。期限までまだ一月(ひとつき)あるんだからもっと慎重にやれよな。とはいえ俺も街の中でマジで()られるとは思ってなかったがな」

「ええ、しかし私の《コマンダーリスト》からも削除されているため死んだと見て間違いないかと」



 報告に来た部下の《ユニークスキル:コマンダーリスト》は同意を得た相手をリストに加え、加えた相手の現在の《状態》と居場所を確認できる。死亡した者はリストから自動で消去されるため死亡確認にも役立つ。

 そこでこれまで黙ってソファに寝そべっていた小柄な男が口を開いた。



「へっ、情けねーやつらだな。オレなら女子供が何十人いようが皆殺しにしてやれるぜ」

「殺したら駄目なんだよ馬鹿。俺達の受けた依頼はあのババァに《迷宮強化薬》を作らせることだ。作らねーと孫を襲うぞって脅しを掛けるだけならまだしもマジで()っちまったら絶対作ってもらえねぇだろうが。匙加減が大事なんだよ、匙加減が」



 小柄な男、用心棒へ呆れたようにそう告げたダラスは部下に向き直り唇を歪ませる。



「だがこれはチャンスだぞ。殺しの証拠が掴めれば脅しの材料になる。上の連中を二十人まで使っていい、なんとしても死体を見つけ出──っ!?」



 ダラスが命令を下そうとしたそのとき、地上一階に居た部下達の気配がまとめて消失した。中には腕の立つ者も居たというのに一人残らず消えてしまった。



「おいおいやべーぞボスっ」

「どうかされましたか?」

「ああ、少しマズイことになった。とっととずらかるぞ」



 腰を上げ隠し通路に向かおうとして、即座に飛び退く。天井から降ってきた斬撃がダラスが直前まで座っていた椅子と側近を斬り飛ばした。

 高校の教室程の広さがある地下室。それを縦断する傷跡を見ただけで相当なレベルの《剣術》使いであると分かる。



「クソっ、〈徹甲鋼鉄散弾〉!」



 続けて放たれた斬撃を躱し貫通力に優れた〈魔術〉で反撃する。限界を迎えた天井が崩れ落ち土埃が舞った。

 用心棒がダラスに駆け寄り身構える。もうもうと舞う土煙の向こうで襲撃者の気配がダラス達と隠し通路の間に飛び降りた。



「お前どこ──っとぉっ、()ねぇな!」

「ハハッ、話なんて殺してからゆっくり聞けばいいんだよ‼」

「殺したら聞けねえだろうが!」



 誰何(すいか)の声に〈術技〉を返した俺へと用心棒が飛び出してくる。視界は依然、砂に塞がれたままだがダラスの〈上級魔術 :砂中の晴眼〉で砂を透視しこちらの姿をしっかり捉えている。

 用心棒は鉤爪の生えた籠手で両腕を覆っている。籠手は肩まで伸びており二の腕の位置には小さな盾。避けられない攻撃を小盾で逸らしながら俊敏な動きで翻弄しつつ鉤爪で着実にダメージを重ねていくのがこいつのスタイルだ。《装備品》を《敏捷性》強化系のもので固めているのもありそのスピードは俺を超える。

 また《爪牙術》には瞬発力を補正する〈術技〉が多数あるため回避や移動に応用することでさらに速度を上げられる。


 牽制として放たれた飛ぶ爪撃、〈遠牙(おんが)〉を右手の長剣で受け止める。そのタイミングに合わせて〈翔奔爪(かけはしつめ)〉で一気に加速、真っすぐに突っ込んできたがこちらが迎撃に黒剣で放った〈九重斬(くじゅうざん)〉──九つの斬撃を同時に繰り出す〈剣術〉──を見た瞬間弾かれたように右へ飛び回避した。直後、ダラスの〈上級魔術:ドリルクロスファイア〉が俺を襲うが数重視の〈魔術〉では鎧と〈神金拳〉を貫けない。

 ドリルの集中砲火は無視して用心棒に斬りかかる。同士討ちを恐れて〈魔術〉が止まりそれと入れ替わりに用心棒が〈術技〉を使った。



「〈万丈牙(ばんじょうが)〉!」



 力強く床を蹴り向かってくる用心棒。黒剣から衝撃波を放つが躱され、間合いに入られる寸前に右手の長剣を振るう。

 互いの速度が乗った刃と鉤爪が激突、硬質な音が鳴り響く。用心棒は赤熱した刀身から逃げるように左腕を引っ込め、同時にもう片方の鉤爪で突き出された黒剣を弾く。



 それから数度、剣と鉤爪をぶつけ合う。右に左にステップを交えながら〈術技〉の高速移動を利用して接近を試みる用心棒へ、そうはさせじと進路を潰すように剣を振るう。

 勝負を急ぐ必要は無いので大振りは控え隙の少ないコンパクトな動きを意識する。互いに決定打を与えられないまま時間だけが過ぎてゆく。



 《剣術》の強みは近~中距離の高威力〈術技〉だ。それに対し《爪牙術》はリーチが短く近づかなければ攻撃できない。

 だが一度(ひとたび)鉤爪の間合いに入ればその速力は他の武器を圧倒する。腕の延長にある鉤爪に剣のような長物ではどうしても取り回しで劣ってしまう。

 だからこそ用心棒は手を尽くして懐に入ろうとしているのだが心を読んだかのように振るわれる剣が接近を許さない。ように、ではなく実際に《全知全能》で読んでいるのだが。



 《全知全能》は記憶も思考も趣向も知識も潜在能力でさえも全てを見透かす。ソースコードを確認しながらゲームを攻略するが如く相手のあらゆる情報が筒抜けなのだ。

 しかしそれらの情報から相手の行動を予測するのは自身の頭脳だ。時間に余裕があるならともかく戦闘のような瞬時の判断が連続で求められ続ける状況では予測が追いつかない。

 この弱点を克服するために取得したのがこの《スキル》だ。



《即決即断(450P)》ランク3:思考を補助し即座に判断を下せるようにする。



 判断力が大幅に強化され手練(てだ)れとの高速戦闘にも付いていけるようになった。

 速度では若干負けているが膂力ではこちらが完全に上回っている。攻勢に出れば腕の一本くらい落とせそうだがこの用心棒は即死させなければ回復してくるため現状維持に努める。

 油断を誘い大技を使わせてその隙を狙うのが望ましい。そのために今回は《呪詛渾然》を使っていないのだ。



「〈メタルチェイン〉」



 停滞した戦況を打ち破ったのはダラスの〈魔術〉だった。虚空から伸びた数本の鉄鎖が俺の四肢を縛り付ける。俺の《攻撃力》ならすぐに破壊できるがそれでも一瞬、動きが止まってしまう。



「〈光牙(こうが)〉!」



 その一瞬を逃さず準備していた〈特奥級爪牙術:光牙(こうが)〉を発動させる用心棒。彼の持つ最速の〈術技〉で俺の背後へ回り込み首を狙う。

 それは《大型迷宮》で強敵を何度も打ち破ってきた必殺の連携だった。鎖を避ければ回避の隙を突かれ、絡めとられてしまえば背後からの攻撃に対処できない。



「〈手刃裂〉」



 長剣を手放し右腕の切断力を高め拘束を破ると共に上半身を捻り、背後から迫る鉤爪を手刀で受け止める。『準備していた』ことは《全知全能》で知っていた。当然対策も考えてある。

 受け止めた鉤爪を鷲掴みにし体の向きを戻しながら眼前に放り投げ、



「〈五妖斬〉」



 筋力だけで鎖を引き千切る。黒剣を振り抜き五条の剣光で寸断する。言うまでもなく即死だ。



「〈飛礫撃〉」

「〈フェイタルスナップショット〉!」



 用心棒がやられた瞬間に地下室の出口へ駆け出したダラス。その背中を目掛けて飛びかかる。《魔道具》で煙幕を張っていたが《全知全能》にはまるで意味がない。煙幕の中から飛来した〈魔術〉の弾丸を蹴りで相殺し硬直が解けるや否や黒剣で斬りつける。

 咄嗟に張られた〈魔術〉の障壁を薄紙みたいに斬り裂いて、冷たく無慈悲な黒の刃が肩にザクリと沈み込む。ダラスは勢いよく転げ扉に衝突した。



「〈飛断〉」



 斬撃を飛ばしてトドめを刺し、隠し通路に向かう。用心棒の死体の近くに落ちていた長剣も忘れず拾い鞘に納める。



 狭くて暗い隠し通路を抜けた先は一軒の空き家だ。衛兵に嗅ぎつけられないよう仲介に仲介を重ね闇組織とは全く関わりのない人間の持ち物ということになっている。

 空き家から出た俺は次の目的地、《大型迷宮》へ向かう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ