06 二人のコモン
「聞き耳スキルLv.25、疾走スキルLv.26、暗視スキルLv.27、同時発動。…あの山賊共のせいで帰りが遅くなっちまったな…まぁ根城に早く帰ったところで誰も待ってはいないが今日は早く眠りたい。」
ブルーフォレストの森の入り口まで送ってもらった馬屋の馬車に代金を渡した後、今まで鍛え上げたスキルをフル活用し根城へと帰っていた時だ。サラの聞き耳スキルが川の水の音に混じった人の気配を捕らえた。
「グーー。グーー。」
「何だ!?人のいびき?」
音のする方を暗視スキルで見ると河原の近くの茂みに何か寝ているようだ。薄水色交じりの銀髪に桃色のメッシュ。ゴシック風のドレスに頭から猫科の白い耳が生えている。年齢は10歳に満たない程の女の子だ。
「なんでこんな所にこんな小さな女の子が…奴隷商から逃げ出した…?にしては良い服を着てるな。ワイルドキャットと人間の混血か…?」
サラはしばらく少女を観察し少女のステータスカードを確認。
「レアリティーは当然コモン。持っている三つのスキルは全部Lv.1又はそれ未満。年齢8歳、名前はエアル・F・イン・フロージ…フレイ?どっかで聞いた名だな…」
サラが考え込んでいると人の気配に少女が目を覚ました。
「…誰!?」
「おいガキ、こんなとこで寝てると風邪ひくぞ。親はどうした」
「…あっそうだ!人に会えた!よかった!実は私が乗ってた馬車が崖から落ちたみたいで!」
「崖から落ちたみたいで…?やけに他人事だな、お前も乗ってたんだよな?」
「えっ…あっそっか…実は私、馬車の事故で記憶が無いみたいで!」
「記憶が無いみたいで…?(変な話し方をするガキだな…)」
「助けが必要なんです!」
「で?いくら払うの?」
「え?」
「金が先だ、いい服着てんじゃねぇか持ってんだろ?有り金全部出しな!俺はバンディットだ!」
「バンディットって何ですか…?」
「・・・」
「・・・」
お互い話がかみ合わず変な間ができた。川のせせらぎと虫の音だけが沈黙の中響いていた。
「バンディットだよ!悪党!山賊や盗賊、荒くれ者!そういった総称だ!ふざけてるとぶった切るぞこのガキ!」
サラは腰のサーベルを抜きいつもの調子で脅しにかかる。
「え、私と戦うつもりですか?私はカニの恩恵というチートスキルを持ってるんですよ!?」
「…カニの…なんだ!?」
「神の恩恵スキルって言ったんですよ!」
「馬鹿なこというなガキが!私は異世界転生者だ、相手が何のスキルを持ってるかは一目で分かる!ふざけてないでさっさと有り金出しやがれ!」
「・・・」
エアルは今現在会話している相手が異世界転生者だと聞き、会話の情報を整理する。
(ん…転生者?私と同じ?転生者は相手が持っているスキルが分かる…?)
「相手のスキルカードを表示。…名前はサラ、19歳。すごい!この人、持ってる殆どのスキルがLv.20を超えてる…あっでもレアリティーは私と同じコモンか…」
エアルはサラに習うように相手のステータスを確認できるという事を知り、食い入るようにサラのステータスを確認し無意識に読み上げた。それを聞きサラの表情が変化する。
「なっ…お前まさか転生者か!?」
「えっと…そう。」
お互いが転生者であることを知りエアルはこれまでの経緯をサラに説明した。黙って話を聞いていたサラが口を開いたのはワームホールで起こった事を説明した時だった。
「やっと見つけた・・・」
「どうゆう事?」
「私も本当のレアリティーはコモンではない、お前と同じで黒い影に襲われて…私の場合はスーパーレアだったから肉体はこの世界で新たに得られるはずだったが、ワームホールでスーパーレアの転生石を奪われ、この異世界で生まれた時私のレアリティーはコモンになっていた」
「転生石を奪われた?」
「お前から有り金奪ってとんずらするつもりだったが、事情が変わった。」
「お金だけ取って逃げる気だったの!?」
「当たり前だ私はバンディットだって言っただろ。それに面倒事になるのはごめんだからな。だけどお前の経験談をもっとしっかり聞いておきたくなった。ここら辺にだって魔物は少なからず出るから今日は私の根城に泊めてやるよ。」
「もう騙されない!油断した所を襲ってお金を奪う気だ!さいてー!(実は私のお金ではないのだけども)」
「まぁ私の協力無くして、この森を抜けられるならいいぜ?お前のステータスじゃ魔物に襲われたらひとたまりもないだろうな。根城に来れば食べ物も布団もあるのにな」
「・・・」
エアルがたどってきた川の少し奥に進むと森が開けた場所があり、そこには廃墟と化した協会がぽつりとあった。小さな教会ではあるが正面扉を開き中へ入ると天井の高い礼拝堂が広がっており外見よりも広く感じる。
礼拝堂わきのカギがかかった木製の扉をサラが開け中に入るとそこは生活スペースになっており、干し肉や野生動物の毛皮などが吊るされてあった。生活空間の雰囲気からサラが長期的にここに住み着いてる事が分かる。
「ようこそ、ここが私の根城だ。今朝の猪肉のスープを温めてやるから待っていろ」
ぱっと見渡しただけでも台所にトイレに寝室、生活に必要なものが殆どそろっていた。乱暴に樽に詰められている武器はデザインも形も様々で、剣の装飾に使われている紋章も様々だった、おそらくいろんな場所から窃盗してきた物だろう。
「ほらスープが温まったぞ、飲め」
サラの先ほどの山賊モードの気迫に比べると言葉は強いが落ち着いた印象である。言われるがままエアルがテーブルに着くと、続けてサラが話し始める。
「さっきの話だが、百歩譲ってお前が最高レアリティーのレジェンドを引いた事を私が信じたとしても、森で出会った魔女にハイポーション貰ったって話は夢じゃないのか?」
「どうしてその話を疑うの?ここは異世界だし魔女ぐらいいてもおかしくないよね」
「確かに魔女と呼ばれる種族は存在する、だが、まずハイポーションはこの異世界において最高級品の薬だ、それに――」
「それに?」
「赤い目の魔女はセイン王国の五大英雄と呼ばれる五人の王達に全員処刑されている」
「セイン王国という所には五人も王様がいるの!?」
「あぁ、しかもその五人は全員、私たちと同じ異世界転生者だ。五大英雄は魔王を討伐後、セイン王国の王位を継承し、その後魔王復活の儀式を行っていた灼眼の魔女と呼ばれる赤い目をした魔女達を火あぶりにして処刑したんだ。だから赤い目の魔女を見たなんて――」
エアルは驚きスープを飲んでいた木製のスプーンをスープの中に落とした。
「ちょっと待って!じゃなんで私はこの世界に転生させられたの!?」
「どうゆうことだ?女神から何か聞いてるんじゃないのか?」
「世界の秩序を乱す魔王を討伐して欲しいとだけ…なのにもう魔王は他の転生者が倒しているの?」
「ん?確かに変だな五大英雄が魔王を討伐したとされているのは10年も前、私が異世界年齢で9歳の時だ。私が転生をする時は魔王はまだ生きていたから同じ説明を受けたが――」
「でも私が転生してきたのは数日前…とっくの昔に魔王は倒されている…」
サラもスープを飲む手を休めしばらく考え、また話し始める。
「だとしたら可能性としては、エアルの言う灼眼の魔女は本当にまだ存在していて、魔女は再度儀式を行い魔王を復活させた?又は五大英雄が討伐した魔王は偽物か?エアル、お前はどう思う?」
「・・・」
「おい聞いてるのか」
「あ、そっか、エアルは私か!」
「早くその名前にも慣れろよ…まぁ俺も転生したばかりの頃は大変だったが…」
「俺?…サラさんってたまに一人称がコロコロ変わるよね」
「あ、そっかまだ言ってなかったな私、いや俺は転生前は男だった。」