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05 ブルーフォレスト


「うぎぎぎぎっ重いいっ!」


 両手でレーヴァテインを振ろうとしたが自身の身長の半分ほどまで切っ先を持ち上げるまでが限界だった。八歳の体重25kg弱の体に対して1kgを超える重さの武器では戦うどころか振るう事すらできない。



「何となくこうなるだろうと思ってたけど、やっぱりこれはダメだ…」



 転生後三日目の朝、打撲と骨折は完全に治癒しており通常ならば投薬と電気治療で早くて全治三か月の怪我を10倍以上の速さで回復していた。昨晩には既に骨が治癒しているのが分かり、一晩様子を見て朝には体調が万全である事が実感できた。



「やっぱりこのハイポーションのおかげだよね。あの魔女の子がくれたものなのかな」



 あの日以来赤い目の魔女は姿を現すこ事も無く、感謝の気持ちすら伝えられてないままだ。記憶が曖昧だが、こちらが転生者であることを見抜いていたようだ。それにハイポーションを置いて行ったのは単なる親切心だったのか少し気になっていた。

 どういう理由にせよ感謝すべきだ。食べ物は既に底をつく寸前でハイポーションも残り僅かになっており、あのまま三か月治療に当てていたら危なかった。



「とりあえず魔女さん探しよりも食糧調達しないと、本当はお墓を作ってあげたいんだけど。多分馬車の二人は両親だし、馬車の外に投げ出されてる男の人も親しい人だっただろうから…」



 食糧問題は最悪の場合、馬車に繋がっている馬の死体を調理する事になるだろうと考えていた、無論、馬をさばくナイフも無ければ、動物をさばいて下処理、調理できる程の知識を転生前から持ち合わせているなんて都合の良い事はなかった。

 8歳の体でレーヴァテインを振るい敵と戦うのと同様に、馬を調理するのは無謀な事だと感じていた。



「せめて人に会えればお金はあるんだけど…。娘の体を乗っ取り、財布まで取る…まるで盗賊…。いや、今は私がエアル・F・イン・フロージなんだ!生き延びる事をまず考えよう!」



 初めに水没した馬車の中を漁った時、父の死体の側らにあった綺麗な刺繍の巾着袋には金貨が大量に入っていた。

 大量の金貨に食料、着替え。彼らは何のためにあんな夜更けに馬車を走らせ、何が原因で崖から落ちたのだろう。崖の上に行ければ何か分かるかもしれないが、まずは自身の生命維持のための行動が必要だ。


 父の手帳にはおそらく彼の仕事に必要なメモが書きなぐられており、住んでいる住所の記載もあった。人に会えれば自身の身元の確認と、馬車の転落事故の事を誰かに知らせる事もできるだろうと森からの脱出を決意する。



「そういえば前世の最後の記憶も脅されて万引きだったなぁ…あの後大騒ぎになったんだろうな。お母さんたち大丈夫かな。いや今は誰かにこの場所を知らせてこの世界での両親を埋葬してもらおう、そしたらこの金貨のせめてもの償いにはなるかもしれないし、前向きな気持ちで帰宅しよう!そうしよう!」



 人に会う事を目標に必要な荷物をトランクケースに入れ川を下り始める。

 川沿いに進めば水や食料も確保しやすく森も抜けやすい、ついでに運が良ければ人に出会えるかもしれない。両親の乗った馬車の場所へも、この川をさかのぼって人を案内できる。全て怪我の治療中に考えていた事だ、あとは人に出会えるまで歩き続けるだけである。




 F・イン・フロージ家の馬車の転落事故があったブルーフォレストという名の森、その同大陸にて一、二を争う規模の国家<セイン王国>。その中心部セイン王城のある王城区は多くの貴族たちが暮らす街であり市場の動きも盛んである、その外周を円周状に囲うように多くの国民が暮らし商いを行っている市民街が広がっている。

 市民街の片隅には貧困層の住む貧困街がセイン王国各地に点々と存在していた。貧困街は衛兵の目も届きにくく国のはみ出し者やごろつきの巣窟となっていた。



「せっかく儲かったんだ娼婦に一晩相手してもらうのもいいけどよ、お前ブルーフォレストの森の何処かを根城にしてんだろ?一緒に仕事こなした仲間なんだし今晩そこに招待して俺達の相手してくれよサラちゃんよぉ」


「そうだぜ、せっかく財布も温まったんだ今晩は一緒に温まろうぜ」



 物資や金銭の巡りが悪い貧困街ではあるが、国内で暗躍、潜伏しているバンディット達により唯一繁盛しているのが酒場である。その酒場で今しがた悪事で儲けた金で酒を酌み交わしてる一団がいる。



「何が一緒に仕事こなした仲間だ!ただ商会の荷馬車を襲って小銭を手に入れるだけの計画だった、殺しは無しだと言ったはずだ!」


「仕方ないだろあのバカな護衛の冒険者が抜きやがったんだ。まぁ結果的に根こそぎ奪えて計画より多く設けられたわけだがな」


「もう付き合ってられん!今後お前達との仕事は無しだ!」



 追剥ぎ仲間の山賊二人組に対しそう言い放ち店を後にしたサラという女性、褐色肌に黒色のへそ出しノースリーブのシャツにデニムのスカート、腰や足には獣の毛皮をつけ、首には白いスカーフ、大きなサーベルを持っている。眉間にしわを寄せ酒場のあるさびれた裏路地から一人帰路に就く、その後ろを性欲にまみれた不敵な笑みでしつこくつけてくるのは先ほどの山賊の男二人組。



「しつこい奴らだ…」



 サラは追跡にはすぐに気が付いた。首に巻いているスカーフで頭をすっぽりと隠し、道の脇にある細い路地に素早く身を隠す。



「おい、サラの奴そこの路地に入ったぞ」


「あそこは行き止まりだ、今日は心行くまで満足させてもらうぜ」



 サラに続き、行き止まりの路地に駆け込む山賊達だが、二人はそこにいるサラの姿を視認する事はできなかった。二人の山賊に自分の姿が見えていない事を確認し、サラは堂々と二人の横を抜けようとした時だった、山賊の一人が道を手で塞いでくる。


「サラの奴どこ消えやがった!?」


「隠密布だ」


「おんみつふ?何だそりゃ」


「サラの奴が首に巻いていた白いスカーフだ。特殊なスキルが無くても認識阻害?とか言うもんを使えるらしい。要は俺達にはサラが見えているのに見えてない事にされてるって事だ。カラクリが分かってりゃ何て事はない、サラはこの路地にいる、そう思いながら見渡してみな」



 半信半疑で言われたとおりに目を凝らすもう一人の山賊。先ほどまで見えていなかったサラの姿が二人の山賊の前に浮かび上がる。



「ほんとに出やがった!」


「何でサラがこんなレアな代物持ってるかは知らんが、バンディット仲間の情報は正しかったみたいだな」


「ちっ」


「なぁサラ冷たくすんなよお互い一晩楽しむだけだろ?」



 道を塞いでいた男が口を開いた瞬間だった、道を塞ぐため路地の壁についていた腕が突然なくなり男はバランスを崩した。



「うぎゃぁぁ」


「失せろくず共!」


 そう威嚇するサラが握っているサーベルは男の腕を切り落とした血で赤く染まっていた。


「サラてめぇ!やりやがったな!」


「血を流さずに済んだものを、私の隠密布の事を喋った奴は、お前らに教えてくれなかったのか?私、いや、俺は異世界転生者だ!お前たちのステータスも見えている、お前らのスキルじゃ俺には勝てない」


「な、サラが転生者!?やべぇぞおい!」


「俺の腕がぁ!!」



 もだえる男の肩でサーベルの血を拭き、すました顔で路地を抜け、隠密布を被り街の門番の衛兵をかいくぐり、街外れの馬屋へと向かった。


「お、あんたかい馬車予約のサラさんは」


 先ほどサラが山賊の腕をちぎったことなど知らず、軽快な口調で馬屋が話しかけてくる。


「あぁ今日は疲れた早く馬車を出してくれ」


「あいよっ!ブルーフォレストまでだね!」



 血生臭いのは今日だけではない、転生してからというもの気が休まる瞬間などほとんどなく19年もこんな生活を送っている。サラはそう悔やみながら淡々と自らの過去をぼやく。


「こんなはずではなかった、19年前女神の神殿で確かに私はスーパーレアというレアリティを引き当てた、だが私がこの世界に生まれた時ステータスカードのレアリティーは最低のコモンになっていた。やはりあの黒い影に何かされたんだろう…」


 気が付くと、いつの間にか馬車は木々が生い茂るブルーフォレスト前に到着していた。


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