『あなたはワタシとかくれんぼ』
□◆□◆
★
も~い~かい……
ワタシの声、あなたに届いているのかな?
届いているよね?
だって、あなたはワタシとかくれんぼをすることにしたんだもの。
あなたは上手に隠れているつもりなんでしょ?
きっと、ワタシはもうあなたを見つけていることにも気付いていないわよね。
見つかったのならはやく声をかけてほしいのかな?
――ま~だだよ。
もう少し我慢してね。
まだ見つかったことに気付いていないあなたを見つめていたいの。
もしかして、見つかっているわけないって思ってる?
ふふ……本当に可愛い人。
ワタシは、そんな鈍感なあなたが大好き。
あなたが鈍感でもワタシは気にしないわ。
大切なのは、ワタシたちはお互いに愛し合っているというこの事実なんだもの。
あなたが男でも女でも、それは変わらない。
ワタシたちは、人として心を通わせているの。性別を超越した絆で結ばれているのよ。
ワタシたちは決して離れる事はない運命にある。
これってとても素敵なことよね。
だから簡単にあなたを見つけられたわ。最初は少し驚いたけどね。
だってあの夜も、いつものように家の前まで行ったのに、あなたはいつの間にか引っ越しをしていたんだもの。
なかなかかまってあげられないからすねちゃったのかな?
だからかくれんぼをしてワタシの気を引きたかったんだよね。
うん、わかっているよ。
あなたは寂しかっただけなんだってわかってる。
大丈夫よ。ワタシは怒っていないから。
あなたはとても恥ずかしがり屋さん。
ワタシと目が合うと、いつも照れてうつむいちゃう。
そしてそそくさとその場を離れて行っちゃうよね。まるで初恋に戸惑う女の子のよう。
でも、それはお互いさま。
ワタシだって、あなたに話しかける時は目を合わせられないし、緊張して胸がドキドキするもの。
だから、いつも少し離れた所からあなたの背中を追うばかり……。
ワタシたちって似た者同士ね。
でも言葉なんていらない。
ワタシとあなたは心で通じ合っているんだもの。
あ。そうそう、知ってる?
その今のお家ね、窓の鍵を難なく開けられるの。
だからあなたのお部屋に行くのは簡単だったわ。
可愛かったな、あなたの寝顔。
まだかくれんぼを終わらせたくなかったから声はかけなかったけれど、毎晩天井の隙間からあなたを見ていたのよ。
わからなかったでしょ?
いま天井を見上げてもだ~め。
ワタシはそこにはいないわよ。
それに、隠れているあなたがワタシを探しちゃダメなの。
さっきも言ったけれど、まだかくれんぼの途中じゃない。
先に声をかけるのはワタシの方なんだからね。
でも、そろそろ声をかけてあげようかなー―。
かくれんぼは楽しいけれど、あなたもはやくワタシに会いたいだろうし。
それにね。ワタシこのかくれんぼの間、いつもより近くであなたを見つめていたから、今ならあなたの目を見て話せると思うの。
あなたが寝ている時に髪にも触れてみたわ。
あなたの呼吸も感じた。
だからきっと、あなたに抱きしめられても大丈夫。
ワタシもぎゅっと抱きしめてあげるね。
あなたの体温……あなたの鼓動……。
ああ……。想像するだけで嬉しくなっちゃうわ。
それにしても――あなたって本当に小説を読むのが好きなのね。
あなたはこのサイトをよく利用しているから投稿してみたの。
数多くの作品があるから不安だったけれど、やっぱりあなたはワタシを見つけてくれたね。
運命って素敵だわ。
ねえ。そろそろ気付いているんじゃない?
あなたの背中を見つめているワタシの視線――。
もう気付いているんでしょ?
いいよ、振り向いても。
あなたが振り返った時、このかくれんぼを終わらせてあげる。
あなたのすぐそばで、振り返ればあなたの息を感じられるここで、あなたに言っ
てあげる。
はやくワタシを見て。
かくれんぼを終わらせるこの言葉を言ってあげるよ。
み~つけた~――。
読んでくださりありがとうございました。
夏のホラー2021。
恒例となったお祭りですね。
少しでも涼を感じていただけたら嬉しいです。