捕まったメロス
「困惑するセリヌンティウス」
セリヌンティウスは困惑した。必ず、メロスは戻ってくると信じている。セリヌンティウスはシラクスの市の石工である。今日は、竹馬の友であるメロスがやってくる。妹が結婚することになり準備のためにこのシラクスにやってくることになっている。久しく逢わなかった友が訪ねてくる。しかし、今のシラクスの現状を見てメロスはどう思うだろうか。何か問題を起こす前に来てくれればよいが……。
今、このシラスクの王は人を信じることができず人々を殺している。最初に自身の妹婿を殺しそれから、御自身のお世嗣を殺した。そこからたくさんの人々が殺された。
メロスは人一倍邪悪に敏感だ。王を事の悪行に気付いたら王のいる城に殴り込みに行きそうで、不安でしかたなかった。
明日、外に出て君が殺されていたならば私は、正気を保てないだろう。メロスはまだ来ない。もう少しで日が沈んでしまう。何かトラブルにでもあっているかも知れないと思うと不安で仕方がない。入れ違いの可能性があるがメロスを探しに行くべきだろうか。その時、扉をたたく音がした。やっと、メロスが来たのだ。セリヌンティウスは勢いよく扉を開けたが、そこにいたのはメロスではなかった。そこに立っていたのは一人のやつれた兵士だった。
「あなたがセリヌンティウス殿ですか」兵士が尋ねた。
「そうだ。私に何かようか」セリヌンティウスはいたって冷静そうに振舞っていた。
「セリヌンティウス殿、城までご同行をお願いします。城にてあなたのご友人がお待ちしております」
セリヌンティウスは思わず兵士の胸ぐらを掴み叫んだ。
「メロスのことを言っているのか。メロスは無事なのか」
「手を放してください」兵士は苦しそうにそう答えた。
「すまない」セリヌンティウスすぐに手を離した。
「あなたのご友人はまだ無事です」
セリヌンティウスはメロスが無事だと知り安心した。しかし、兵士は、『まだ』無事だと答えていた。ここで私が行かなければ確実にメロスは殺されてしまうだろう。
「そうか。ならば城に急ごう」セリヌンティウスは急ぎ城を目指して走りだした。兵士が慌てて叫んだ。
「急がなくても大丈夫です。少し落ち着いてください!」セリヌンティウスは、まさか自分を城に連行しようとしている兵士に落ち着くように言われるとは思ってみなかった。そもそもセリヌンティウスはメロスがなぜ捕まったのかわからない。だが、正義感の強いメロスの事だ。どこかで王の事を知り、正面から城に殴り込みにいったに違いない。だがなぜ、私が城に呼ばれるかわからない。
「城に向かいながらメロスに何があったのか教えてくれ」
セリヌンティウスは兵士に尋ねた。城に行く道中、兵士にメロスに何があったのか教えてもらったがそこまで詳しくは知らないようだ。
メロスは王を殺すつもりでナイフを持ち城に侵入し他の兵士に拘束されたらしいが、なぜ私が呼ばれたのかは知らないようだ。メロスの行動に腹を立て私も殺すつもりなら兵士が一人で来るのは些か疑問だ。だが、そんなことは関係ないメロスがピンチなら助けるのが友と言うものだ。