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青の粒子発生の地01

3~5話、アップする予定です

でも今回アップ分ではまだ終わらず、その後も5~6話書きためたらアップして完結するんじゃないかと

もう少々、お付き合いよろしくお願いします

 

 水玉が転がる深緑の草葉

 草葉のうぶ毛に集まる白い霞

 霞に包まれる朝の大地



 ■コークリットの視点



 白い。

 天空の大地にはいつの間にか朝霧が立ち込め、母なる大地を優しく包み込んでいる。その抱擁は、狩りに生きる捕食者には身を潜め獲物に近づく隠れ蓑にもなろうが、逆に逃げるものにもまた身を隠すヴェールになろう。

 白いヴェールに包まれたおかげで、数百メートル離れたオークの丘の気持ち悪さは少しだけ和らぐ。そのことから視界距離は一キロ程度だろうか。霧の中に林立する石柱が、妖しい墓標のようで、ただでさえ寒いのに心にも寒気がする。


「はぁ、寒いねえ」

 愛馬の一角馬の首で暖まろうと頬擦りしたのはシス。彼女は朝霧よりも白い吐息を出す。絵画のような美しい光景だ。ああ、頬擦りされた一角馬がうらやましい。彼女の肌は赤ん坊のように柔らかできめ細やかだから、触りたい欲求にかられる。

 アグやテルは身仕度でシスの近くにいないから、今なら話せるかな? 少しだけでも話したいと思って歩きだした時、筋骨逞しい人馬が横から現れた。


「コックリよう、オークどもの足跡は見つかったか?」

 ハルさんの言葉に俺は身が引き締まった。そうだ、これからオークの後を追いかけるんだ。


「はい、昨日皆さんが野営の準備にかかっている時、調べておきました」

「さすがだな! 頼むぜ! この霧じゃよ、お前さんの魔法が頼りだからな!」

 そうだ、そうだよな。

 気持ちを切り替えなくては。シスのことは気になるけれど、切り替えなくては。


「皆さん、仕度を整えながら聞いてください。昨日オークがどこへ向かったか、その足跡を調べたところ、丘の裏側につい最近踏み締められて道となった下草の踏み跡を見つけました」

「「おお!」」

 昨日下草の踏み跡を見つけた時、探索圏の魔法で詳しく調査したところ、草で切ったと思われるオークの血が多数、まだ乾ききっていない状態で見つかった。その状態からつい半日前にオークの集団に踏まれたものだということが分かったんだ。

 念のためジーク族長に周辺の土精霊を呼び出してもらい、オークのことを問うてもらえば、やはり半日前に慌てた様子のオークの集団が北に向かって移動したということを聞けた。


「「北か!!」」

「「徒歩なんだな!」」

「そうです、ボスオーク以外は徒歩です」

 オークたちは徒歩だ。一方でこちらは馬やエルクという機動力に違いがある。現時点で、一日ちょっと離されているだろうが、恐らく今日には追い付くだろう。

 そのまま戦うか、あるいは斥候部隊として偵察に限定するか、その場の状況や流れで判断する。


「準備はいいでしょうか!?」

「「こっちは完了した!」」

「「私たちも完了です!」」

「風の守りは全員されましたか?」

「「馬やエルクまでやりました!」」

「「いつでも行けます!」」

「では足跡まで移動します!」

「「おお!」」

 士気は高い。ついにここまで来たからだ。

 野営地を後に、オークたちが踏み固めた殺風景な広場に入り、気持ち悪い巣穴だらけの丘を横に見ながら進めば、いつしか鍾乳石の岩柱が林立する大地へと入る。そこには膝上まである高山植物が朝霧を一身に浴びて、綺麗な水玉を転がしている。霊力で聴力を強化した俺には、水玉が落ちて大地を濡らすリズミカルな音が一斉に聞こえてくるので聴力強化をやめる。耳が疲れそうだからね。


「皆さん、葉にはあまり触れないように。青の粒子が付着しています。馬やエルクも草を食べさせないようにお願いします」

「「分かった!」」

「おお、コックリ! 道があるぜ!」

「はい、ここがオークの通った道です」

 霧に濡れる草地に、幅五メートルはあろう道ができている。もともとは、オークひとり分の細い道だったようだが、急ぎのためか大勢で並んで通ることで草が踏み倒されて、大きな道になっている。霞みゆく霧の彼方まで、右へ左へと太い道が続いている。

 ジーク族長が俺の横に来て、踏み倒された道につぶやく。


「ふむ、どこへ向かったか隠そうともしない感じですな」

「そうですね。あまりにも露骨すぎて、我々を誘い込むための罠のような気もします」

「グハハハッ、オウオウ! 罠でも結構、結構!」

「返り討ちったい!」

 ああ、ここ数戦の勝利で楽観視しているのだろうか?

 いや、これは鼓舞かな。


「それでは進みます! 魔法で探知を心掛けますが、左右の茂みや、岩柱の陰など気を付けてください!」

「「おおぅ!」」

 俺たちは白のヴェールに包まれた草原へと歩み出した。

 何という広大な大地なんだろうか……霧で見える範囲は限られているけれど、それでも圧倒的な大地が広がっているということは分かる。きっと、青の粒子の怪異がなければ、この草原は魔獣や幻獣のサバンナであるに違いない。

 樹木の代わりに岩柱が大地から生え、浮遊岩がそこかしこに浮かぶ。生物たちは、それらを巧みに利用して、狩りと逃走を繰り広げているんだろう。


「シス姉ちゃん、あそこの残骸みたいなの、何かな?」

「え、残骸? あ、本当だ。大きい」

「もしかして家の残骸!?」

 後ろでシスとテルが気になる話をしていたので、俺も二人が見ている方に顔を向けると、草むらに確かに残骸がある。湾曲した棒が数本並んですっかり苔むしている。俺は二人の会話に横入りした。


「あれは、巨大生物の肋骨部分だな」

「「でかっ」」

 湾曲した骨の高さは、ゆうに五メートルはあろう。肋骨だけで五メートルも超えると、相当な大型動物だ。


「ふふ、何だか物悲しい感じが胸に迫るわ。苔むして打ち捨てられた感じなんて、胸にキュウッと来ない?」

 色っぽいレリーが胸に手をあてると、物悲しいモニュメントにため息をつく。シスはその仕草にいたく感心すると、同じ仕草をする。おいおい、変なものを学ぼうとするな。シスに色っぽい要素はいらないぞ! 朗らかなシスがいいんだ!


「フン、何を真似している。自分がなくなるぞ」

 ローレンの言葉に頬を膨らませソッポをむく。くく、それそれ。凄く可愛い。さすがローレン。


「シス、見てください! 凄い数の骨ですよ」

「ほ、本当だ!」

 アグの声に俺も遠くを見れば、霞む世界には岩柱の他に様々な骨の影絵が。頭蓋骨であったり、背骨と肋骨であったり、様々な部位の骨が草原から墓標となって広がっている。


「「墓場だ……骨の墓場」」

 海抜で三千メートルはあろうテーブル大地には草原が広がり、朽ちた生物の残骸が広がっている。そのどれもが、苔むして緑色の森のように見える。霧にかすむ幻想的な風景だ。レリーの言うように、無常観や儚さで胸がキュウッとなる。はあ、何か切ない……


「ふむ、神殿騎士殿。これだけの巨大な骨が無数にあっても、動いているものがいないというのは、やはり青の粒子が原因ですな」

 ジーク族長の声で俺は現実へ戻る。メランコリックな気持ちは忘れよう。


「はい、自分も思います。念のため探索圏の魔法で視れば、青の粒子が大地に広がっていました。風の守りがなければ、我々も吸い込んで意識を奪われる可能性があります」

「ふむ、青の粒子の発生源が近いならば、風に乗って広範囲に舞うだろう。青の粒子は葉に落ち、その葉を草食獣類が食したり呼吸から取り込むことでやがて操られ、この地から消えた」

「まさに」

 そう、そして肉食獣類も呼吸から取り込んだり、あるいは取り込む前に餌となる草食獣類が少なくなることで、肉食獣類はこの地を去った。巨大ムカデや巨大クマノミはそれだ。


「うう~ん、静かだなあ。風の音さえしないよ」

 テルの声が自然と小さくなる。

 本当に静かだ。風が吹かないから草葉が動かず、音がない。あるのは水玉が落ちる音だけで俺にしか聞こえないかもしれない。普段は風に揺られ、葉と葉がお互いに手を叩いて騒々しいだろうに、霧の中は本当に静かだ。海の底や湖の底は、こんな感じなのかもしれない。


「うん。風精霊が動きを止めているわ。たぶん日がもう少し高くなると動き出すと思う」

「動き出すとどうなるの?」

「霧が晴れると思うわ」

「そうなんだ!」

 シスが言うには、あと一時間もしたら霧が晴れるという。ジーク族長も同じ見解のようだ。やはり妖精は凄いな。


「おお、あそこで動いているものがいるぞ!」

「どこだ? うおお、でかいダンゴムシか!」

 霞む彼方に動いている姿を認めれば、高さ一メートルはあろうダンゴムシが動いている。ダンゴムシも大きいと、神々しさがあるな。


「なんであんな大きい昆虫が動けるんだろうね?」 シスがつぶやく「重くて動けないんじゃないかなって思うんだけれど……」

「いい着眼点だね、よく気付いたよ」

「えっ!?」

 つぶやきに俺が反応したので、シスはビックリしたようだ。


「実は俺もずっと気になっていたので、倒した昆虫獣類を調べてみたんだ。探索圏の魔法で。すると興味深いことが分かった」

「「興味深いこと!?」」

「「何だったんだ!?」」

「はい、それはこの地の昆虫獣類や魔獣類には、浮遊岩と同じ『 浮遊の霊力 』を帯びていることが分かったんです」

「「浮遊の霊力!!」」

「「まじか!!」」

 そう、この地の魔獣には浮遊の霊力が感じられた。それはなんとあの巨大ムカデにもだ。


「この大地には浮遊の霊力が眠っている。その大地に住むことで、自然と浮遊の霊力が体内に蓄積していくのか、あるいは浮遊の霊力の大地に育つ植物を食べることで浮遊の霊力が蓄積されていくのか、さらにその動物を食べることで肉食獣も浮遊の霊力が蓄積されるのか……じっくり研究しないと分からないけれど」

「「な、何と……」」

「「見た目ほど重くないから動けるのか……」」

「そうです。そして仮説ですが、その浮遊の霊力はこの地にいないと無くなっていくものだと考えています。それは、天空大地の大型魔獣たちが、断崖下に滅多に降りてこないことから、本能的に『 下りたら重さで動けなくなる 』と理解しているからではないかと」

「「な、なるほど!」」

「「なんてこった!」」

 ディアオロスを襲った巨大ムカデも、結局は断崖の縁付近で下りていかなかった。

 デルモスは小型の「体重が重くないもの」だけが下りてきたし、もともと沼に生息しているので自重の増量には問題なかったと推察できる。


「そうか……滅多に天空大地から下りてこないのはそういうことか……」

「ドラゴンとか飛竜とか下りて来ることがあるけれど、幻獣だし何らかの魔法や霊力で浮遊の力を維持しているのかも……」

 妖精や獣人たちが口々に話し合う。ふふ、でももっと面白い仮説があるんだよ。


「実は、まだ面白い仮説がありまして」

「「まだ!?」」

「「どんなだ!?」」

「それはこの天空大地自体、浮遊の霊力で下の大地より持ち上がり、高い位置にあるのではないか、という仮説です」

「「何だって!?」」

「「マジかよ!?」」

 そう、ずっと不思議に思っていたんだ。なんでこんな巨大な大地が地上より高い位置にあって沈降しないのかと。おそらく、この天空大地には満遍なく浮遊の霊力の地層や鉱脈のようなものがあるようなので、それで持ち上がっているんではないだろうかと。


「す、凄い! 凄いよコックリ! 何でそんなことを考え付いちゃうの!?」

 シスが興奮する。くく、久しぶりに元気なシスを見た気がする。


「フッ、それは突拍子もない話だ。大きすぎではないか?」

 ローレンは懐疑的だ。うんうん、スケールが大きすぎるからな。俺も空想に近い仮説ではある。


「想像を超える凄い仮説ですな、神殿騎士殿。ふふ、いつの時代も神殿騎士は驚きを与えてくれる」

 ジーク族長が、実に満足気に、感慨深げに頷く。


「じゃあさ、じゃあさ!」 テルは興奮気味に「その仮説が本当だったら、いずれこの天空大地も、本当に空の上の天空大地になっちゃうのかな!?」

「どうだろうな? 浮遊岩を見れば、大地から数メートルの距離で浮いているから、浮かび上がる限界がありそうだな」

 今のままでは空の上まで大陸を浮かせることはできないだろう。鉱脈から採掘した浮遊の霊石を圧縮・集約して結晶化に成功にすれば、その霊力の大きさに応じて浮かべる物の大きさや重さが変わるかもしれない。

 と、その時霊力反応が!


「ムカデに羽が生えたような昆虫獣類が来ます!」

「「任せろ!」」



 ◇◇◇◇◇



 空飛ぶムカデを倒した後も霞む大地を進む。

 静かな霧の中で、遠くから重いものが水面を打つ音が響いてくる。音の質から大きく重いものだと分かる。

 余韻の残る大地を進めば、霞む中に湖が見えてきた。


「大きいな」

 対岸は見えない。大きな湖だ。湖の上には大小様々な浮遊岩が浮かぶ。普通なら水鳥の格好の巣になるだろうが、恐らく青の粒子にやられて姿は全く見えない。

 オークの道は、起伏のある大地の小高い部分を通り、湖を見下ろしながら進む。凄い広大な湖だな。巨大な首長竜と思われる影が悠々と動いて行く様は、肝が冷える。


「あ……シス姉ちゃん、何だか明るくなってきた?」

「うん、もう間もなく霧が晴れるよ」

「凄い、予想どおりだね!」

「うふふ、でしょ~?」

 くく、二人のやり取りはほのぼのしていて癒される。


「「おお、視界が良くなってきた」」

「「見える! 見えるぞ!」」

 ああ、霧がどんどん薄くなっていく。それはどこかに流れていくというよりは、空気中に消えていくような、光に浄化されるようなイメージ。

 視界が良くなっていくと共に周囲が明るくなっていく。


「「うおおお!」」

「「霧が晴れた!」」

「「だだっ広いな!」」

 霧が一気に消えた。霧散するとはこのことか!

 起伏の高台にいる我々は広大な大地を目の当たりにして興奮する。オークの巣窟に到達する前の天空大地は岩柱が林立して視界が悪かったが、今いる場所はまばらな岩柱で視界が通る。


「オウオウ、すげえな! リートシュタイン山系があんなに近いぜ!」

「「おおっ!」」

 おお、距離的には三~四百キロ程度か? 圧倒的な白い山脈が俺たちを見守っている。


「おお、湖はこんなに大きかったのか。海ってやつじゃね?」

 ハルさんが湖を見てうなった。おお、確かに予想以上に大きな湖で、湖面からは点々と島や巨大な岩柱が列島となって続いている。ああ、確かに海に見える広さだ。


「はわぁ~~……凄い……何て幻想的なの……はわぁ~~」

 シスはため息を我慢できない。それも分かる。

 湖面は実に静かで、まるで鏡面。湖面には空の青さや白い雲、そして浮遊岩が映りこんで……涙があふれてきそうだ。天空大地の生命は、こんなにも心を揺さぶる美しい景色を見ながら生きているんだな……


「お、おい! あっち! あっちを見ろ!」

「「ええっ!?」」

 獣人の一人が慌てふためき、皆の視線を湖から別の方向へと無理やり向ける。そこにはリートシュタイン山系があるだけだが……


「違う! その下だ! ふもとの方!」

「「ふもと?」」

「「んん?」」

 皆、リートシュタイン山系のふもとへと視線を落とす。

 そしてそれに気がついた!


「「うおおっ! 何だあれ!?」」






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