オークとの戦い09(断崖上)
久しぶりに今日、明日二日続けて話をアップします
不気味で異様な丘が目の前に鎮座する
不気味な斑点に包まれた丘
オークの巣窟の丘
■システィーナの視点
「「オークがいない!?」」
各種族の主だったメンバーが、コックリに詰め寄る。あわわ、私が彼の位置だったら、圧で潰されそう。でも堂々とした彼はその中心で揺るぎなく立つ。はわぁ~、凛々しくてカッコいい。
「どこかの穴に隠れてるんじゃねえか!? 巣穴がボコボコ開いてるんだろ!?」
ハルさんが目を凝らしながら数キロ先に鎮座する巣窟の丘を見る。そこは草木も生えない禿げ山のような茶色の丘。その丘には斑点のようなおびただしい黒い穴が、びっしりと化粧しているの。それはまるで鼻の毛穴に詰まった汚れのようで、見ていて気持ち悪い。
私たちの肉眼では穴の存在は分かっても、中に何が隠れているかまでは見えない。でも目を凝らして見ずにはいられない。
「出来る限り、多くの穴を見て回っているんですが、どの穴ももぬけの殻です」
コックリ曰く、どの穴にも草が敷き詰められているのみでオークの姿はないという。この草はどうやら寝具代わりの寝藁のようなものかも……
「オウオウ、穴の深さとか中の形はどうよ? 奥に隠れられるスペースとかあるんじゃねえの?」
ガノンは「穴に入ったら横に隠れるスペースがあるんじゃないか」と言う。巣穴を持つ魔獣の中には穴を縦横無尽に広げて色々な部屋を作る者もいるからって。
コックリは穴の幾つかに千里眼を入れてみたみたい。
「ううむ、巣穴の幾つかに入ってみましたが、高さは一メートルくらいで奥行きが三メートル程でしょうか。雑魚寝するような簡素な穴で、奥に横穴はなさそうです」
ああ、その大きさだと本当に寝るだけの巣穴という感じだわ。洞窟の住居とかではないのね。とすると食事場所とかお風呂とか、洗面所のようなところはないのかしら?
「他に何かなかね? 建屋ば生活の場ったい、そこば調べんね」
ギムが巣穴だけでなく、何かの建造物がないか気になったみたい。そうよ、巣穴だけだと食事とかはどうするのか問題になるわ。別の施設があって、そっちに隠れているとかじゃ?
「建造物は特には……丘の下に、空き地があります。これは釜戸か? 石で組み上げられた簡素な釜戸が二百を越えています」
「「空き地に釜戸が!」」
「「二百を越える!」」
恐らくオークやオーガーで千を越える巣窟とすると、一つの釜戸で三~五体のオークたちが食事をするだろうから計算は合うみたい。彼の見ている空き地って、私たちが思う以上に相当広いんだわ。
「他にも、アンデルサルクスを飼育していたであろう厩舎のようなスペースがあります」
アンデルサルクスの厩舎が……確かにボスオークが騎乗していたから厩舎はあるはず。
「ホウ? 飼育していたであろう、ということは、その厩舎には今アンデルサルクスはいないということか?」
偉そうな口振りは嫌味男。何様なのよ、もう。
「はい、いません」
「ならば、騎乗して出ていった、と言えるか。やはり巣窟の丘を放棄したと」
そうか、そう言うことよね。どこかに隠れているとしたら、アンデルサルクスはそこにいるハズ。
騎乗してどこに行ったのかしら……
「ふーむ。これほどの巣窟。放棄するとは思えないが……」 父さんが唸る。「我々と戦うならば丘を利用し、上方に布陣した方が有利だろう。ここはオークどものホーム。地の利がある」
「「確かに」」
「オウオウ、もしかして周囲に散らばって隠れてねえか?」
周囲を見渡すガノンの言葉に皆がハッとして周囲を警戒する! 私たちの周囲には、トゲのような岩の柱が林立して、隠れるには持ってこいなの。
あわわ、急に寒気が……巣窟に気を取られて周囲の警戒が疎かになっていた!
「大丈夫。千里眼で上空から俯瞰して視ていますが、周囲に潜んでいる姿はみられません」
「コックリよ、もう埒があかねえから、行って調べてみようぜ!」
「オウオウ、それが早いな! 時間を食うだけだしよ。もし囲まれてもよ、俺らの戦力と足なら一点突破で逃げられるってばよ」
確かにそうかもしれない。最も足が遅いギムたちでさえ、アンデルサルクスに乗っているの。いざという時は、一目散に逃げられると思う。
「分かりました、そうしましょう」
「「よし!」」
私たちは隊列を組んでオークの巣窟へと進む。自然と男性陣が女性陣を中心に楕円形の隊列になるので、心強い。ほわぁ~、私の横には美しすぎるレリーが来て、目が合うと妖艶な笑みを浮かべるの……あわわ、凄い色香。
ふぐうぅ~、そんな色香を見せつけないで……私じゃ敵わないよぅ。コックリもこういう色っぽい女性の方が好みなのかも……うう
「シス、恐れる必要はありませんよ」
凛とした美しさのアグが、一角馬に乗る私の太ももに手を置く。ああ、アグは私がオーク達を恐れていると思って励ましに来てくれたのかしら……ごめんね、私は一人だけ場違いな気持ちで恐怖を感じているんだもの。この場に相応しくない、不謹慎な恐怖を……
「明るくて可憐な貴女は私が守ります、自信を持って」
と笑顔で。ああ、アグは私が本当に恐れているものに気がついているようで、励ましてくれているのね。
「でしし、僕もいるよ! 僕もシス姉ちゃんを守るよ!」
隊の物資をいっぱいに背負ったテル君が、励ましではなく本気で守ろうとしてくれている。うう、こんな子供にまで心配されて……情けない! 情けないぞ、私!
私は両手で自分の顔をバシバシッっと叩く!
「えいっ、えいっ!(バシッバシッ)」
「「うわあ、何を!?」」
私の突然の行動に、周囲の人がビックリしている。ああ、レリーまで目をぱちくり。
コックリとレリーのことは忘れて! 今はオークの巣窟に集中、集中! くう~~、空気の寒さでいつもより頬が痛い! でもそのおかげで情けない悩みが吹き飛ぶ!
「よし! 気合が入った! 私も頑張る! 自分の身は自分で守れるし、皆をフォローするから安心して!」
「はははっ、その意気です!」
「でしし、そうだね!」
「「がはは、よーし! 俺らもやってやるぜ!」」
「「おうよ!」」
あわわ、なぜか男性陣も俄然やる気に!
その状態で林立した鍾乳石の林を進むと、先頭のコックリが!
「前が開けます!」
「「おおうっ!」」
突然の変化! 今までは圧迫感を覚える林立した鍾乳石の林だったのに、突然開ける視界! ああ、広いわ! 何で?
ああ、この開かれた大地は、どうやら鍾乳石に似た石柱を根元から破壊して作った、人工の広場みたい。開かれた大地をよく見れば、踏み固められた茶色い土の中に円形で灰色の石がある。石柱と同じ灰色のタイル。茶色の大地に無数の灰色のタイルが埋まっていて、まるで模様みたい。
「おお、すげえな! 石柱を破壊して作った広場かよ」
「ここがオークどもの巣窟か!」
踏み固められて草も生えない大地。相当な重さの者たちが踏み固めた結果だわ。たぶん格闘訓練をやっていた場所じゃないかしら……いたるところに、どす黒い血だまりの跡が残っているの。殴られ、叩きつけられ、踏ん張ることで固く、堅く、踏み固められていった大地。オークの血と汗が不快な臭いとなって染み付いている。きっとこの空き地で、オーク同士の激しい格闘がさながら実戦のように繰り広げられていたハズだわ。
「うお、気持ち悪い丘だな」
「本当だ、何だあの無数の穴は」
「「気持ち悪い!」」
戦士たちが広場の先に鎮座する丘に表情をゆがめる。うわあ、本当だわ。気持ち悪い。
お椀をひっくり返したような形の良い丘が前にあるんだけれど、その丘の表面にはびっしりと穴が穿たれている。ああ、知らなかった。こういう無数の穴の集合体って、私は苦手だったんだ。あまり見たことがなかったから知らなかったけれど、とっても気持ち悪い。体が痒くなってくる感じがする。テル君とアグが私と同じ感覚だったようで。
「うげええ~~、僕ああいうの苦手。体が痒くなってきた」
「私もです!」
「シス姉ちゃん、アグ姉ちゃん。どうする? ああいう穴が体中びっしり開いたら」
「「気持ち悪いこと想像すんな!!」」
周りにいた全ての戦士たちがテル君にツッコミを入れる。もう! 何てこと想像させるのよ!
「確かに穴の中に動く影はないな」
広場まで来ると、穴の中まで分かる。パッと見、動く物はいない。コックリ曰く「丘の反対側まで穴が開いている」っていうけれど、この分じゃ反対側ももぬけの殻?
「すげえな、あの穴がグルっと一周分あるんだよな」
「ああ、オークなんざせいぜい四~五匹の群れで暮らしている魔人なのにな」
そう言われてみたら本当に凄い。一体、このオークたちを従えている者は何者なのかしら……
「おい、あれか? アンデルサルクスの厩舎ってのは」
若いケンタウロスが指し示す方向を見れば、石で作られた囲いのような壁が広範囲に続いている。ああ、石柱を砕いてできた石を組んで作ったんだわ。大きなアンデルサルクスでも数十頭が走り回れるくらい広い。何人かの戦士たちが確認しに行くも、一匹もアンデルサルクスはいなかった。
さらに周囲を確認すると、若い草妖精がそれを発見する。
「あそこらへん一帯が釜戸みたいね」
指し示す方向を見れば、小さな石で積み上げた高さ三十センチもない釜戸が広がっている。ああ、凄い光景だ。確かに二百はある。所々、今にも消えそうな細い煙が、上がっている。
と、コックリが「調べてみます」とエルクを釜戸の方に走らせて行く。ああ、どうしたのかしら。なぜ釜戸だけ調べようと? 私もその後に続くと、少し散らばっていた戦士たちがコックリの元に集まって行く。
彼は釜戸の近くでエルクから降りると、まだ僅かに煙る釜戸の一つにしゃがみこんだ。
「熱はほぼないな。消し忘れてそのまま出て行ったのか」
彼は温度から釜戸が放置された時間を計算しようとしているみたい。なるほど!
「ふむ、そのようですな」 父さんが彼の横に座り「どれ、私が直接火に訊いてみましょう」
「え?」
驚く彼をよそに、父さんは釜戸でくすぶる火に精霊語で話しかける。と、消えかけていた赤みが息を吹き返し、瞬く間に赤いトカゲへと変化する。父さんは幾つか声をかけると、赤いトカゲは火を吐き出したり、大きな目を手で隠したりした。
「ふむ。どうやら最後に釜戸の火を起こしたのは半日ほど前。火をつけたものの、オークたちは慌ただしく出て行ったようだね」
「凄い! 火の精霊に訊くとは! ありがとうございます!」
「ふふ、アヴァンによく『訊いてくれ、訊いてくれ』とねだられたものだよ」
「そうなんですね!」
コックリは目がキラキラして、まるで少年のよう。表情がだいぶ出てきて、完全に表情を取り戻すにはあと「楽しい」という感情を開放するだけ……
そして重要なことが分かった。半日前に慌ただしく出て行ったんだわ。
「半日前か」
「慌ただしく出て行った、と」
「「やはり放棄したのか!」」
「「どうしてだ?」」
皆の言葉に、コックリは考え込む。すると
「おそらく、我々の戦力を大軍だと見誤り、もっと有利な場所で迎え撃つ作戦に出たんだと思います」
「「有利な場所で」」
「分かっばい。オークの七百ば大軍を一晩で壊滅っちゃ、大軍と思うばい!」
そうか、確かにそうかも……生き残って逃げ帰ったオークたちは、精霊魔法で操った雲で私たちの全容がつかめなかったハズだもの。
「また、我々は投げ槍を使いました。この地形を見るとここはホームとはいえ、遮蔽物のない場所なので不利と判断したんでしょう」
「オウオウ、確かにそうだな! 隠れ場所のない雲の中で、槍の雨に串刺しにされた恐怖が頭にあるだろうよ」
確かに、ここは遮蔽物がない。自分たちで盾になる石柱を壊してしまったのが仇になったのね。
「ふむ、神殿騎士殿。ここより有利な場所、というともしや」 父さんが眉間に皺を寄せる。
「はい、オークたちを操る『 怪異の元凶 』がいる場所です」
「「何と!」」
「「そうか!」」
そ、そうか! 確かにその可能性が高いかも。
「これから先、青砂の鉱脈か何かが出てくるはずです」
「ちょっと待つばい!」 ギムが食い気味に「断崖の下でも言うたが、この青砂は鉱物じゃなかけん!」
「「そうばい、大地のものじゃなか!」」
憤慨の声。大地由来のもののせいにされてはかなわないと言いたげなドワーフたち。気持ちは分かるわ、私も樹木のせいにされたら嫌だもん。
「オウオウ、そういやそう言ってたな! 砂っていうと、大地のもんだと思っちまうわな」
「砂ば表現、止めんね。大地のものと間違えっばい」
「そうでした。今までの癖で『 青砂 』と言ってました。『 青の粒子 』とでも言いましょう」
「「分かった」」
青の粒子ね。コックリがアゴに手を当てる。ああ、逆三角形の体が強調されて、スタイルの良さに胸がキュッと来る。
「オウオウ、鉱物じゃないとすると、他に何かあるか? こんな砂みたいなやつ」
「例えば植物ばどうったい? 小麦粉とか、粉ったい」
「「小麦粉!」」
そうか、小麦も臼で挽けば粒子状になるわ! 小麦だけでなく、穀物ならば!
コックリはフェラトゥの霊石をパララに渡す。
「パララさん、このフェラトゥの霊石から植物であるか分かりますか?」
「調べてみます!」
小さくて可愛いパララは、コックリからフェラトゥの霊石を受け取ると、精神を集中している。植物を司る草原妖精だから、触れれば植物かどうか分かるけれど、念入りに調べているみたい! そうドワーフが鉱物かどうか分かるように、草原妖精も植物かどうか分かる。
固唾を飲んで見守っていると、パララは頭を振った。
「植物ではありません。穀物を挽いたようなものではないです」
「「そうか」」
鉱物でもなく、植物でもない?
でも砂状、粉状のもの。とコックリがさらに質問する。
「胞子であったり、花粉などでもないですか?」
胞子や花粉! 確かにそれらも粉状だわ。
私たちは固唾をのんでパララを見つめる。けれども……
「胞子でも花粉でもないです」
「やはり、胞子でも花粉でもない」
何てことなの。花粉でも、何かの実を挽いたものでもないって。
ええ~~、鉱物でもなく植物でもない……じゃあ、何なの? 砂でも花粉でもない粉状のものってあるっけ?
私はすぐには思いつかなかったけれども、コックリはすぐに思いついたみたいなの!
「では、例えばこういうものの可能性がありますね。そしてこの先に待ち受けるものの正体もある程度推察できます。つまり、心構えや準備ができます」
「「マジか!!」」
「「どんなモノだ!?」」
私も皆もコックリの言葉に興味津々! 固唾を飲んで言葉を待っているのにコックリは!
「それは野営の準備が済んでからにしましょう」
「「ええ~~っ!?」」
「「ここまで引っ張っておいて!?」」
酷いよ! でもあと一時間もすれば日が暮れるから、仕方ない!
皆、早く答えを聞きたいから大急ぎで野営の準備に取り掛かった。




