オークとの戦い08(断崖上)
青色が濃い澄み渡る空
空の所々に流れる灰色の雪雲
雪雲の影に入る戦士たちの列
■コークリットの視点
ふう、寒いな。
防寒着がない頬や耳が、冷たくて痛い。
初冬の朝に似た空気が肌を刺す。気温は一桁台か? 風があるので体感的には氷点下だろう。
ふう、冷たくて少し湿り気のある空気が肺を通ると、身が引き締まるようだ。冷たい空気には、緊張感を持たせる何かがあるような気がする。
「コッフ、コッフ、コッフ」
俺を乗せるウォーエルクが、鼻から白い雲を吐き出す。ああ、寒い中で重い俺を運んでくれてありがとう。防寒用の馬着を纏ったエルクの首を撫でる。本来寒い地域に住むエルクだが、まだその毛は冬用の毛になっていないから馬着で寒さ対策をしている。
「ぶへっっくしょい! ええ~いっ!」
「(ビクッ)声デカッ!」
後ろの方で盛大なくしゃみの後、何か一言付け足したのはギムドワッハで、ビクッとしたのはテルだ。
ああそういえば、フィガロ団長やウォゼット先生もあんな感じだったな。年配になったら皆あんな感じになるのかな?
「オウオウ、神殿騎士殿。まだ巣窟にはつかんのかい」
シスの三人分はありそうな巨大な防寒着を纏ったガノンレオルが、鼻をすすりながらやってくる。筋肉量が多いからちょっと気温が上がったような気がする。
「千里眼にはオークの巣窟は見えませんね。まだ先のようです」
そう、俺は今妖精と獣人を引き連れて断崖上の奥地へと向かっている。
オークを探りに行く斥候部隊として奥地へ向かうも、心を和ませる風景に頭と心が結び付かない。
「ふぅ~~……」
とにかく、凄い。
目の前には、寒さに負けない緑の高山植物の園が広がる。まるで寒さから大地を守るように敷かれた緑の絨毯のようであり、色とりどりに咲き誇る花々は精緻な刺繍だ。
天空の花園。天国。
その天国には鍾乳石のような岩の柱が大地から生える。樹木の代わりを務めるように。高さは十~二十メートルほどの不揃いの森。
その不揃いの森の宙に浮くのは、厳つい大きな岩の塊。浮遊岩。象の大きさのものや、熊の大きさのもの、幾つか連なって親ガモについていく子ガモにも見える。
のどかだ。
だが騙されてはならない。
和まされてはならない。
ここは魔獣の跋扈する天空の大地であり、オークの巣窟はもう間近のハズだ。
「あれ? シス姉ちゃん、あれは何だろう?」
「え? あれって?」
「ほら、あそこ、あれ!」
「え? まあ!」
後ろでシスとテルが気になる言い方をするから俺も彼女らの視線を追うと……浮かぶ岩。うん? 何も変わらない浮遊岩の園だよな。
「水の雫が浮いてるわ!」
水の雫? もう一度見てみると、浮遊岩の周囲に小さな小さな雫が浮いている。
おお、陽の光にキラキラ煌めいているじゃないか。なぜ気づかなかった、俺。おお、無数の綺麗な水玉が宙に浮いて……何て幻想的!
「「おお! 凄いな!」」
「「何てメルヘンチックな!」」
しばらく進むと、そこからはもっと大きな水玉がふよふよと浮いている地帯に突入した!
凄いな! とつややかな美男美女のニンフたちが水玉に触れる。絵になるな。
「どういうことかしら? ウンディーネの力は感じないのに、こんな浮いているなんて」
「ふむ、醜いオークを倒した美しい我々を祝福し、歓迎しているのだろう」
凄い発想だな。俺は探索圏の魔法で浮いている水玉を探ってみる。
「雫の中に、浮遊の霊力を感じます。どうやら浮遊の霊砂を包み込んでいるのかも」
「「おお!」」
真の水玉の空間。そんな空間を歩くなんて……
何てメルヘンチックだ。
「不思議だ。何て不思議な大地なんだ……」
「うふふ」「でしし」
小さく小さくつぶやいた俺の後ろで、シスとテルが笑っている。
聞こえていたのか。いや別におかしなことは言ってないよな? 俺から漏れ出た素の感想で喜ぶ二人は、何だか姉弟みたいだ。
うん、本当に姉弟。似たようなモコモコのフードジャケットを着た二人は本当に姉弟に見える。実の弟であるスランには悪いけれど、そんな風に思ってしまう。
「うふふ。ふふ」
嬉しそうなシスは本当に可愛い。
フードを被った彼女は十四~五歳の少女に見えて、可憐だから本当に可愛い。正に妖精。妖精の中の妖精だと思う。赤ん坊のようなツルツルの頬が寒さで朱く色づいて可愛すぎる。妖精であり天使にも見え、ローレンがうらやましい。
はあ、彼女が俺の手を枕にして寝たのは絶対に秘密にしないといけない。はあ、でもあの感触は生涯忘れられないな。彼女の頬は凄く柔らかくてしっとりして、肌に吸い付いてきて……
凄い癒された……いいな、ローレン。
などと妄想に耽っていたその時、石柱林の向こう側に威容たる「絶壁」が見え始めた!
「皆さん! 第二の断崖です!」
「「おお!」」
「やっと来たな!」
ハルさんは拳を差し出してきたので、俺も拳を出すと、ハルさんはガツン、と当ててくる! おお、ビリビリきた!
ここまで来たか。
数日前、俺たちは青砂の流れる大河を辿ってこの断崖に行き当たったんだ。ここよりもっと西だった。ハルさんたちやエルクが登坂できる場所がないか探していたら、ちょうどオークの一団が「拉致した獣人女性たち」を連れて歩いている場面に出くわし、助けに行ったので越えることはなかった。
「神殿騎士様! 僕たちでも越えられるかな!?」 心配するテル。
「ああ、ボスオークたちがアンデルサルクスで行き来していたハズだから、大丈夫さ!」
「そうか! そうだよね!」
そう、オークたちが作った登坂ルートは、千里眼で見た限りはテルたちでも難なく登れそうだった。
断崖に近づいて行けば、目の前に迫る威容たる絶壁は、正に来る者を拒むように立ち塞がる。
だが、足元を見ればオークたちの血痕はある場所へと続き、皆の目もそれを捕らえた!
「「あっ! 道がある!!」」
そうなんだ、目の前に迫る威容たる絶壁には、荒々しい肌を這うように、坂や階段、洞窟や蔦の橋があるんだ!
「オウオウ! 割りといいんじゃねえか?」
「こがん道ば作るっちゃ、中々やるたい」
ドワーフも驚く断崖の道だ。オークやオーガーが人海戦術と力業で一気に作り上げたんだろう。
「神殿騎士殿。オークの待ち伏せはどうかな?」 ジーク族長が天を見上げ「登坂中に上から襲われるのが一番危険だ」
「はい、断崖上に千里眼を持っていきましたが、いないようです」
逃げ帰ったオークたちがいたが、オークの巣窟まで戻るのがやっとで、新たな部隊の派遣は間に合わなかったんだと思う。
オークたちが来ないうちに登っておきたい。
「あ! あそこに巨大ムカデが!」
「千里眼で見ると、オーガーの死体を食べています!」
中腹あたりでは、いつか見た気持ち悪い巨大ムカデが壁にしがみついてオーガーを貪っている。逃げ帰ったオーガーだが、あそこで力尽きたんだろう。
オーガーを食い終わるまで待っているか? いや倒してしまう方が、後続部隊のためであるか。
「登りましょう! 巨大ムカデを退治します!」
「「おう!」」
◇◇◇◇◇
階段の途中で巨大ムカデをバラバラに粉砕した俺たちは、駆け上がる風に気をつけながらも、ついに断崖の上へと到達した。
「「おお! ここが!」」
「「やっぱり鍾乳石の森が!」」
そう、そこは下の大地と同じように鍾乳石の柱が林立する土地であり、勢いの強い高山植物の緑が目に鮮やかな大地だった。
大地には層雲が地表スレスレを流れて石柱林に潤いを与える。その潤いで石柱林は鮮やかな緑色の苔で覆われ、樹冠のない森のように見える。
「まあ! この苔はファラレルの森では滅多に見られないハイラルゴケよ! こんなに沢山!」
草原妖精のパララが驚く。どうやら希少価値の高い苔のようで、ジーク族長やシスが驚きを見せている。どうやら薬の原料になるようだ。
寒くて湿度が高いけれど日差しも必要という難しい条件でないと育たないらしい。妖精たちが苔を調べているので、オークや魔獣が潜んでいないか俺は索霊域を広げた。
「近くにはいない……恐らくは青砂による影響だな」
デルモスの棲息地である汚泥湖を奪った巨大クマノミは、青砂から逃れて移動した。それは他の魔獣にも言えるだろう。巨大クマノミ同様、多くの魔獣や幻獣も青砂の発生源から逃げて、青砂の発生源へ近づけば近づくほど魔獣や幻獣は減ってくるハズだ。
いや、昆虫獣類はいるか。油断は禁物だ。
と索霊域に集中している俺の前にふわりと女性が……
「大丈夫? また顔色が悪いわ」
「!?」
そう言って俺の首筋に手を当てたのは、卒倒ものの妖艶な美女レリーだ。
「だ、大丈夫です」
いきなりのことでビックリする俺。
うおお、柔らかな手が首を撫でるのでビックリ!
「全くもう。また霊力の使いすぎよ。顔色が悪くなってきてるわ」
そう言って、もう片方の手で俺の心臓付近に手を当てるレリー。
むう、確かに霊力は使っている。相当。
夜を徹した戦いの後、少しだけ仮眠して出てきたから、霊力を半分近く使った気がする。
「少し待ってね。こうすれば少しは回復するから」
首筋と心臓に手を当て集中。
そう、霊力は頭部と心臓に多く宿るから、そこを触っているようだ。レリーは断崖下で「霊力を回復できる妖精」と言っていたから、これで回復させているってことか?
心臓に手を当てているからヤバい。妖艶な美女に触れられているドキドキ感が伝わっているかも。霊力強化で様々な欲求、つまり性欲や食欲、睡眠欲求などは抑えることができるが、それでもドキドキはする。
「ふふふ。凄い筋肉。素敵ね」
アーモンド型の大きな目を細めて色っぽく微笑む。
待て待て、凄い妖艶だな。色香が凄い。
シスが華奢で可憐な美少女なら、レリーは妖艶で色っぽい美女。アルは清楚で穢れない美女、アグは健康的ではつらつとした美女って感じか。レリーは防寒着を着ていてもほっそりとした印象で、シスの天使的な可愛さではない。
その時、怒気が俺を襲う!
「!?」
シスか!? 偵察中の千里眼でそっちを見れば、テルとアグが!
無茶苦茶怒って、何か話し合ってる! 口元を読めば。
『何ですかあの男、デレデレと鼻の下を伸ばして!』
『シス姉ちゃん、いいの!?』
『え、う……』
『そうですよ、シス。どうするんですか!?』
『し、仕方、ないよ……』
『仕方なくないよ! シス姉ちゃん、頬を引きちぎって来なよ!』
『そうですよ! 私も支持します! 何なら私が!』
待て待て! 物騒なこと言うな! テルとアグは今にもこっちに来そうな剣幕で!
でも止めているのは、シス!
あれ!? 以前と違う!?
以前、俺が気絶したアグを診ていたら、シスが怒って頬をつねられたし、ディアオロスの族長を綺麗だなと見てただけで頬を膨らませたが!?
あれ!?
シスは二人をなだめながら、こっちをチラリと見た。その表情はとても悲しそうな、とてもとても悲しそうな笑顔で。な、何でそんな悲しそうな笑顔を!?
「(ズグンッ)っ!!」
ぐああ、胸が! 急にっ! ぐああっ!
彼女の悲しそうな笑顔に……胸が!
ギリギリと締め付けられる胸を押さえれば、柔らかな手が!
「あら、ふふふ」
「あっ、申し訳ない!」
レリーの手に俺の手を重ねてしまった!
その瞬間、シスが目を大きくすると、すぐに顔を背ける! ぎゅっと目を瞑って! ヤバッ、見られた!
「!?」
いや、何でヤバいって思った!?
俺とシスは、何でもない関係だぞ!?
でもシスが、あのいつもニコニコと明るいシスが、今にも泣きそうな顔をしたから、ヤバいって!
「ふふふ。シスが気になる?」
「!?」
何で!? 何でシスだと!?
そう言えば下にいた時「シスの言うことなら従うでしょう?」って分かってたな、この人。そう、シスに叱られてばかりだったから、逆らえないというか。見透かされていて恥ずかしかった。
「ふふ。可愛いわよね彼女。神殿騎士様に恋愛感情を抱いているみたい。でも貴方たちはまだ恋人同士ではないんでしょう?」
「えっ!?」
俺は思いもよらない言葉に硬直する。
は!? シスが俺に!? は? 何だそれ? そんなことあるわけない。シスにはローレンがいる。
レリーの真意はなんだ!? 何か企んでいる!? その企みはレリーやニンフにとって有利になるものだから言ってるのか?
「ふふ、とぼけちゃって」
「いや、とぼけるも何も、ありえない。何が狙いですか?」
「ええ~? 狙い? やだ、本当に気づいてないの?」
レリーは呆れている。俺は少し焦ってきた。
「シスにはローレンがいますよ」
「二人は結ばれる予定なの?」
「……たぶん」
「たぶんって……何で結ばれると思ってるの?」
「何でもなにも……二人は同じエルフ同士でしょう。見た目もお似合いで、彼女はエルフ男性のスマートさが釣り合いをとれます。逆に俺と彼女の見た目からして合わないでしょう」
「見た目? 種族? はあ~、シスは意外とバカにされているのね」
「バ……し、してませんよ!」
と否定しつつも、確かに俺の発言はシスを「見た目や種族で決める女性」と言ってるに等しいと思った。俺は咳払いをしてから話を少し変える。
「彼女はローレンの前では素の自分を出せていると思います」
「ふふ、兄弟や家族に近いと思っている男性と好きな男性の前ではそりゃあ違うわよ」
そうなのか? こちらが何か言うたびに否定されるようで、また話を少し変える。
「逆に訊きます。なぜ、恋愛感情を抱いていると思うんですか?」
「ふふふ。見ていたら分かるわよぉ~。ずっと貴方を目で追ってるし、貴方のそばにいると緩んだ表情で目尻が垂れるし、貴方への敬愛の念を感じるわ。多分、ここにいる獣人や妖精たちはもう皆、知っているんじゃないかしら?」
はっ!? そうなの!?
確かに常に彼女の視線は常々感じていて、それは「俺がバカなまねや一人で無茶しないか」と見張られていると思っていたが。
あれ!? 断崖登坂の時、テルとアグが「可哀そうなのはシス」って言ってたのって、そういうこと!? 俺が気づいてなかったからか!?
「ふふふ。見た目を気にしているけれど、華奢で可愛らしい彼女が、真逆の凛々しく逞しい貴方を好きになるのはおかしくないんじゃないかしら? エルフ男性にはいないでしょう?」
「それは……凛々しく逞しく見えるだけです」
この旅では思うように行かないことばかりで……実際は真逆の泣いたり落ち込んだり、情けないところを彼女に見られている。叱られることも何度もあった。思い出すに、結構情けないぞ。
伝説の神殿騎士たちならいざ知らず、俺じゃあ。
「ふふ。思うように行かない旅で、他種族を助けるために奔走しているから敬愛の念があるのね」
戦闘面で圧倒的に強い貴方が、それ以外の弱いところを見せたなら、彼女は嬉しいでしょう。自分を信じて、脆くて弱い部分を預けてもらえるんだから。叱るのも貴方を想ってこそでしょう。よっぽどよ、好きな相手を叱るっていうのは。嫌われるかもしれないのに、それでも叱るんだもの。自分が嫌われ傷つく恐怖よりも、貴方の幸せを願う心の方が大きいのよ。
とレリーは続ける。
「シスが……?」
う、うーむ。そうなのか?
シスが俺を? オーガーに間違えた俺を?
信じがたいが。
でも本当なら……
物凄く嬉しい。神殿騎士になれた時や旅が決まった時くらい嬉しい。
だがやはり信じられない。あれほど可憐で可愛い妖精が俺を好きになるなんて……
マズイな。
気になる。
つまりは集中力が散漫になるということだ。それに浮かれそうだ。浮かれたら緊張感がなくなる。警戒心が薄くなってしまう。
両者が合わさることで皆の危険が増す。
「どうするの? ねえ、どうするの~~?」
「……断崖上の大地で危険ですし、全部片付いたら彼女と話そうかと」
「あ~あ、逃げちゃって。意気地無しねえ」
「意……違いますって!」
「ふふふ。まあ、それがいいかもね。ああ~~楽しみだわ~~、妖精と人間の種族を越えた恋愛! 種族の皆の反対を余所に燃え上がる二人の愛……禁断の領域を越え、二人は愛の逃避行へ走るの。待ち受ける試練。二人は手に手を取って(ペラペラ)」
おいおい……
妖艶だけど少女のように嬉々として笑うレリーは、完全に他人の恋愛を楽しむ体のそれで、俺は思わずため息をつく。彼女はこういう女性だったのか。
「……」
俺はシスが本当に俺に恋愛感情を抱いていると仮定した時、彼女の性格や周囲の状況から、今後起こるであろう未来を数パターンほどシミュレーションしてみた。
「良くないな……」
「ん? どうしたの?」
レリーの問いをはぐらかしながら、シスの未来を考えると、どの未来も良くないと分かる。
不幸せだ。
俺が相手では幸せにならない。なれない。
「ありがとうございます。だいぶ回復しました。そろそろ行きましょう」
「ふふふ、楽しみにしてるわ」
楽しみにすんな! 他人事だと思って。
雑念を振り払うように皆を集め、オークの巣窟まであと少しであることを告げる。
そう、あと少しだ。
上空の千里眼が遠くに人工物を認めたんだ。
しばしの休憩後、再び歩きだす斥候部隊。
「お? 何だ、お嬢ちゃんやテルは隊列を変えたんか?」
ハルさんがいぶかしむ。
そう、さっきまでシスとテルは先頭の俺の後ろにいたのに、今は部隊の中央付近にいる。さっきの俺とレリーのやり取りを気にしているのか?
俺はこっそりと千里眼でシスの様子を見てみると、あまり元気はなさそう。うつむき加減だ。テルやアグが元気付けようと話しかけながらついてくる。
「……」
ううむ、シスは二人に心配かけないためのような、無理した笑顔を見せる。うう、そんな悲しそうな笑顔をするな。
しばらくするとローレンが彼女の横にやって来て何か話している。ああローレンはシュッとしていて、細身の繊細そうな美形だから、華奢で可憐なシスと本当に似合っている。やはりローレンの方がお似合いじゃないか!
俺の目には二人の存在が際立ち、空間が華やいだようにさえ見える。
美男美女カップルだと思って見ていると、シスは唇を尖らせプイッとソッポを向く。ああそれは俺には見せない表情だし、素の仕草はシスとローレンの長きにわたる信頼関係のなせる技だろう。あれだけ自然体のシスはローレンにしか出せない。俺には無理。素の自分の方がいいだろう。
やっぱり、俺じゃないよ。
そう思うとわずかに心が痛くなる。ああ、嫉妬かなこれ。いや喪失感の痛みかも。はあ。
「コックリ! おいコックリ!」
「えっ!? あ、はい!」
「何ボーッとしてるんだ! 先の方に何か見えるぞ!?」
「えっ!?」
ハルさんが慌てている! ヤバい! ボーッとしてた! やはり注意力が散漫に!
途端に俺は心臓が激しく脈動する!
「あれを見ろ! あれは何だ!?」
「えっ!?」
ハルさんが指差す方向は、やや上方!
指の先に目を凝らせば、数キロ先は小高い丘となっていて、丘の頂きには岩柱が林立している! その岩柱の尖塔と尖塔の間で、バタバタとはためく何かが!
「「旗じゃないか!?」」
そう、旗だ!
正確には旗のようなボロきれ! 尖塔と尖塔をロープで結び、そこにボロきれがはためいている!
「千里眼で偵察します!」
くそ、抜かった!
こんな近くまで接近して気づかないなんて、注意力散漫どころの話じゃない! 注意力欠如だ!
激しい自己嫌悪の中で千里眼が捉えたそれは、明らかに人為的な施工の跡!
丘の斜面にところ狭しと掘られたおびただしい数の洞穴! まるで熊の冬眠用の洞穴! ざっと千以上!
「オークの巣窟です!」
「「やはりか!」」
そう、ここが巣窟!!
千里眼は上空からオークの巣窟を映し出す!
そこは陸亀の甲羅のような半円形の丘陵地帯で、頂きには岩柱の奇岩が、丘の腹部にはおびただしい数の横穴がところ狭しと口を開けている!
これは気持ち悪い! 何だこの数の虫食い穴は! 体が痒くなってくる!
これがオークの巣窟か!
「あ、あれは!」
「「何だ!?」」
「「何があった!?」」
奇岩が立ち並ぶ丘の頂上に、建造物が!
白い壁の、建造物がある!
「「白壁の建造物!?」」
そう、白壁の。
それは城。城に似た建物!
あの白さは何だ!? 石灰か?
千里眼で近づいて見て分かった。
「うお! あれは!」
「「何だ!?」」
「あれは……骨だ」
「「骨!?」」
そう、骨。
色々な生物の、色々な部分の骨!
ドクロ部分や長く太い骨部分など、綺麗に並べて継ぎ目を粘土質の目地材で補強している。
何て不吉で不気味な建造物なんだ。
死者を冒涜し、自己顕示欲を満たすための象徴。
生物たちの怨念、怨嗟の声が聞こえてくるようだ。
「「骨で作った建物!?」」
「「何という悪趣味な」」
「「価値観を共有できん」」
俺の実況に、仲間たちが声を潜める。
「コックリ、それでオークやオーガーはどうだ!?」
ハルさんの言葉に、皆が周囲を警戒する。
どこかに隠れて今にも襲いかかって来ないか!?
俺は不気味に鎮まるオークの巣窟に千里眼を近づける。
するとその時、俺は異変に気づいた。
「あれ!?」
「「な、何だ!?」」
「「どうした!?」」
皆の不安の声を余所に、俺は千里眼を骨の館や岩柱の穴に飛ばし、くまなく調べる。
だが、思ったとおりだ。
「どうしたのだ神殿騎士殿?」 とジーク族長。
「オウオウ、どうした!?」
「「どうした!?」」
詰め寄せる獣人たちに、俺は見たままの情報を伝える。
「オークたちが、いません」




