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ヴァチカニアの神殿騎士と森の妖精の物語  作者: 藻屑のもずく
人外の地(オークとの戦い)
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オークとの戦い06(断崖上)

 


 赤紫と青紫の夜空が広がる断崖上の大地。

 冷たい大気が漂うその場所で、薄汚れたオークとオーガーの集団は茫然としていた。


「「何ダガッ、ゴゴハッ!?」」

「「何ダガッ!?」」

 鎧男が立っていた通路まで到達したオークとオーガーは、周囲を見てざわめいた。


「「マタ壁ダガッ!」」

「「壁ガアルガッ!!」」

 通路を入って少し行くと、正面には壁があり左右に延びている。

 丁字路になっているのだ。


「「オイ、止マルナガッ! 早グ行ゲガッ!!」」

「「ブギャアッ」」

 先頭のオークたちは、後ろから押されて壁の中の通路に転げ落ちる。

 そう転げ落ちた。


「「何ダ!? 段ガアルガ!!」」

 そう、そこは三メートルほど掘り抜かれた通路で空堀のようだった。いや、これは空堀だ。

 壁を作るための土を掘り起こすと同時に、空堀を作っているのだ。

 三メートル掘って、その分の土を三メートルの壁にしたということだろう。


「「一体、ドウヤッデ造ッダガ?」」

 六メートルの壁を見上げて呟く。

 二~三日前までは何もない草原だったというのに、これほどの土木工事を完成させるとは……

 獣人と妖精は相当数いるのではないか?

 待ち受けている敵は多いのではないか?


「クズ共! ドウシタンダイッ!?」

 後ろを振り返れば、アンデルサルクスに騎乗したボスオークたちが悠然と死体の橋を渡って来る。


「「ブヒッ、壁ト通路ガッ!!」」

 オークたちは、自分たちの直感を話した。

 敵が多いのではないか、と。

 どこかで大量の獣人たちが待ち構えているのではないか、と。だがボスオークたちに鼻で嗤われる。


「フンッ、ボケガ! 逆ダヨ!」

 ボスオークたちは真逆を確信していた。

 数が少ないから、魔法を駆使して様々な準備をしていたのだ。もし多かったら、最初の投げ槍で全戦力を持って攻撃しているはずだ。たった五十人ほどで八百の相手をする必要がないのだ。


「左右ニ続イテルナラ、三十ズツ別カレテ、時間ヲ置イテ行キナ!」

 ボスオークの命令に、躊躇するオークとオーガーたち。正直、どんな罠があるか分からないので降りたくない。


「グズグズスルナ! 行ケジャ!」

「「ブヒヒッ!!」」

 嫌々、空堀通路に降りるオークたち。

 オークたちは罠がないか周囲を見回す。

 まずは足元。足元には高山植物が繁っていて、また草で転倒させるつもりではないかと勘繰る。

 そして壁。壁にも高山植物が繁っていて、グリーンモンスターのような錯覚を受ける。なぜ壁にも高山植物が生えているのだろうか? これも罠なのか、何かのカムフラージュなのか?


「「何ガアルガカ……?」」

 不気味だ。

 左右に延びる通路の先は、薄い雲が漂っていて霞んでいる。天を見上げても雲が垂れ込めて分からない。

 モヤモヤと蠢く雲のせいで視界は十数メートルと言ったところか?

 見えぬ通路の先でまた何をされるか、何が待ち受けているのか……

 仲間の死体の上を歩いてきたあの優越感と高揚感はなくなり、雲の中で槍に襲われた嫌な記憶が呼び起こされる。


「何人カ、壁ヲ登ッテ警戒ダヨ!」

 別のボスオークが声を張り上げる。

 鎧男はこの壁の上に獣人を立たせて、通路を通るオークたちを上から攻撃するつもりだろう。ならば最初から立たせて先に攻撃する方がいい。

 オーガーを土台に壁に登るオーク数匹。

 登ると五~六メートル先に次の壁があるのは見えるも、相変わらず雲が広がっていてその先はどうなっているか……いや、かすかだがまださらに壁があるように見える。


「先ハドウナッテルカイ!?」

「雲ノ中ニ更ニ壁ガ見エルガ! 通路ガ、ジグザグガ?」

「獣人共ハドウダイ!?」

「雲デ獣人ハ見エナ──」


 ズガンッ!


「ピッ!!」 答えようとしたその時、投げ槍が顔面を貫通!

 その衝撃でオークは後ろに吹き飛ばされ、下で待機する魔人の上に落下する。


「「ブヒッ! 何ダガ!?」」


 ズガンッ! ズガンッ!


「ゲピッ!!」

「ブヒィッ!?」

 壁上に登ったオークたちは、雲の中から放たれる槍に串刺しにされ、落ちていく!

 雲で敵は見えないのに! 敵は的確にオークたちに槍を当てていく!


「チィッ! マダ槍ガアルカ!」

「ソコジャナイッ! 何デ向コウハ雲ノ中カラ当テテクルンダ!?」

 そう、雲で見えないはずなのに!

 ボスオークたちは分からないが、この投げ槍はコークリットが投げている。索霊域を展開している彼はどこに何がいるか掴めているので、壁上に登って無防備なオークを狙い撃ちしているのだ。少しでも敵の数を減らしたい。


「チイッ! 壁カラ頭ヲ出スンジャナイヨ!」

 狙い撃つ方法があるなら仕方ない。いたずらに戦士を減らすわけにはいかない。


「鎧男ノ狙イハ何ダ?」

 ボスオークたちは、鎧男がこの空堀通路を用意した意図、狙いを考えた。

 今までは広い場所で迎え撃っていたというのに、今度はこれほど狭い空間の意味は?


「少数デ当タレル事ダネ」

 一人のボスオークの言葉に皆が頷く。

 そう、広い場所で戦うことになれば、少数派の方が圧倒的に不利だ。多数の敵に囲まれ、一気に殲滅されるだろう。

 だが、狭い場所ならその不利はなくなる。

 この空堀通路のように三人並べるかどうかの場所なら、囲まれる心配なく正面からの敵を撃破していくだけでいい。

 さらに、先頭が足止めされているうちに、後続部隊を壁上から弓を射かけることもできよう。


「小賢シイネエッ!」

「ヨォシ、二人一組デ死ンダ仲間ヲ背負ッテ行キナ! 上カラノ盾ダヨ!」

「「ブヒヒッ!」」

「投ゲ槍ヲ持ッテ行キナ! 壁上ニイル獣人ヲ攻撃ダヨ!」

「「ブヒヒッ!!」」

 まずは偵察部隊として二十名を進ませて、相手の反応を見る。

 それから距離を取って本隊を突入させるのが良かろう。

 偵察部隊のオークとオーガーたちは空堀通路に入り、ボスオークの一人も空堀通路に降り立つ。

 左の通路に二十名、右に二十名でそれぞれボスオークが最後尾で様子を見る。


「ヨシ、行クヨ!」

「「ブヒッ!!」」

 偵察部隊のオークたちは死んだ仲間を頭上に担ぎ、上からの攻撃に備える。

 死んだ愚鈍な仲間でも最後まで使い倒すのだ。

 固太りのオークが二人一組で横に並んで歩く。

 空堀通路は数十メートルあるようで、独特の土の匂いが充満し鼻をくすぐる。

 通路の先を見れば行く手を阻むような土壁が鎮座し、そのまま直角に折れているようだ。

 先頭のオークが曲がり角まで来ると、慎重に曲がり角の先を偵察する。


「誰モイネエ、何モネエガ」

 そう、曲がり角の先には誰もいない。

 そしてどうやら、道はまた直角に曲がっている。ジグザグ道だ。


「ハンッ、狭イ通路ノ一本道ヲ、ジグザグニシテルンダネ」

「「ブヒッ」」

 後ろからついて来る本隊にそのまま進む合図を送ると、ジリジリと道なりに進む。

 一方、本隊のオークたちとボスオークもぞろぞろと曲がり角までやってきた。

 本隊のボスオークたちはジグザグに続く空堀通路を見て嘲笑った。


「ホホウ、ジグザグ道カイ。ドウヤラ我々ノ全員突進ガ怖イヨウダネエ」

「「ブヒッ、ブヒヒヒッ」」

 本隊のボスオークは通路をジグザグにした鎧男の考えが透けて見えた。

 どんなに狭い通路で獣人が出口を堰き止めようとしても、百名を超えるオークやオーガーたちが体当たりで突っ込んで来れば持ちこたえることなどできない。だからこそ鎧男はジグザグ道にしたのだ。

 突進しても上手く曲がれないから、角で止まる。上手くすれば先頭のオークを圧死させられる。


「小賢シイ、実ニ小賢シイネエッ!」

 ボスオークの一人は鎧男の嫌がる手を思いつき、後続部隊へ指示を出した。

 別の入り口を探して突入せよ、と。

 そう、ジグザグ道で突進突破ができないなら、これほどの人数はいらない。

 外壁を伝って別の入り口を探し、少ない獣人たちを分散させさらに少なくした方がいい。

 鎧男もそれは嫌がるはずだ。


「ヨシ! 外ノ壁ニ沿ッテ他ノ入口ヲ探スヨ! 四十程、私ニ着イテ来ナ!」

「「ブヒッ!」」

 壁伝いに別の侵入口を調べる。なければ外壁を登って突入すればいい。

 壁伝いに右側へと進むとする。

 別動隊が別の入り口を探していることを分からせるため、わざと掛け声を上げながら移動する。


「「オッ、オッ!」」

「ヨオシ! 我々モダヨ!」

 別のボスオークも逆方向に壁を伝って侵入すると言い、オークの戦士を四十匹連れて行くことにした。


「「オッ、オッ!」」

 遠くで、遠ざかるオークたちの掛け声を聞きながら、偵察部隊のオークたちは緊張に汗を光らせる。

 この先に何があるのか? 罠か、待ち伏せか?


「「ブフウゥーー、ブフウゥーーッ!」」

 耳を澄まし臭いに集中するも、土壁は音を吸収して静寂の中。

 臭いは相変わらず土を掘り起こした臭いばかりで敵の放つ汗や体臭の臭いはしない。

 天を見上げても雲が垂れこめ獣人の姿はない。

 慎重に先へ進めば、再び正面は土壁で阻まれ横に折れ曲がる。

 先頭のオークは壁に背をつけ、慎重に曲がり角の先を盗み見る。


「誰モイネエ、何モネエガ」

 そこも先ほど同様、曲がり角の先には誰もいない。

 静けさが何とも気持ち悪い感じだ。

 相変わらず雲だけがモウモウと垂れ込め、自分たちを誘っているような動きで気分が悪い。

 慎重に慎重に、前へ進む。いつ、獣人共が飛び出してきても対処できるように。


「音ガシネエガ」

「ブヒッ」

 そう、音がない。

 入り口の丁字路から別れた偵察部隊も同じところあたりを進んでいるだろうが、全く声がしない。

 やはり戦ってないのだろうか?

 静かすぎて気味が悪い。

 するとその時。


 ズズンッ……

 ズズンッ……

 ズズンッ……

 ズズンッ……


「「ブヒッ?」」

 何かの振動が足元に響いた。

 パラパラと壁上から小石が落ちる。


「今、何カ揺レタカイ?」

 ボスオークが壁に手を当てる。

 地震、という揺れではなく、何かが歩くようなリズミカルな揺れだ。


「何カ歩イタガ?」

「「巨人ガカ!?」」

 巨人と聞いて、断崖下に封印していた巨獣を思い出す。

 まさかあれを持ってきたなんてことはあるまいな。

 いや、あれを手なずけるなど無理だ。オークの毒血をもって麻痺させるよりほかはない。

 一抹の不安を覚えながら再び曲がり角へと差し掛かる。

 そして曲がり角をソロソロと覗き込む先頭のオーク。


「ブヒッ!?」

 先頭のオークは目を疑った。

 曲がり角の先の様子に。


「「ナ、何ダガッ!?」」

「「獣人ガイダガ!?」」

「「巨獣ダガ!?」」

「イ、イヤッ!?」

 先頭のオークは通路に飛び出した。


「「オイッ!?」」

「行ギ止マリダガ!」

「「ブヒッ!?」」

 後ろのオークたちも通路に飛び出る。

 すると目の前には緑色の高山植物が生えているだけで、登り口さえなかった。

 絶壁が前にあるだけだった。


「「ブヒッ!?」」

 オークたちの異変に、偵察部隊を率いるボスオークがドスドスと高山植物を踏み荒らしながらやって来る。


「何ダッテンダイ!? ソコラ辺ニ出入口ガナイカ調ベナァ!」

「「ブヒヒヒッ!!」」

 オークとオーガーで緑の土壁をペタペタと探っていたその時だった。

 高山植物が手足に巻き付いてきたのは。


「「!?」」

 シュルルルル……

 手に植物が!

 強い!

 引き千切れない!

 ボスオークがオークたちの異変に気づいた瞬間、背筋が凍った!


「罠ダッ! 逃ゲルヨ!!」

「「ブヒッ!?」」

 逃げようと足を踏み出そうとした瞬間!

 何名ものオークとオーガーが倒れる!

 もちろん、ボスオークも!


「「ブヒヒッ!?」」

「何ダイッ!?」

 何かに足を取られた!

 足を見れば、高山植物が巻き付いている!


「ナッ!?」

 引き千切ろうとした時、手も胴体も、一気に高山植物が巻き付き、身動き取れなくなる!

 それはまるでミイラだ。棺桶に眠るミイラ。


「何ダイッ、コレハッ!?」

 一本だけなら簡単に引き千切れる植物だが、一体何百本が絡みついているだろうか!

 壁から大地から伸びた高山植物が、追加でグルグルと巻き付いてくる!

 大地に縫い止められたボスオークは眼だけを動かして周囲を見れば、無事なオークやオーガーがいる。


「誰カ! コレヲ千切リナ!」

「「ブヒヒッ」」

 ボスオークの体中に巻き付いた高山植物を千切ろうと手をかけたオークとオーガーだが、逆に手に植物が巻き付いて一気に五名が高山植物に拘束される!


「「ブヒイイッ!?」」

 それだけではなかった。

 壁を覆っていた植物が、壁から一斉に剥がれてオークとオーガーたちに覆いかぶさる!


「「ブヒヒッ!?」」

 何だこれは!?

 まるで投網にかかった魚のように、身動きできない。


「よし! 確保完了!」

「「ブヒッ!?」」

 甲高い声の方を見れば、壁の上に小さな子供の姿が!

 いや、小さいけれどそれは大人と同じ頭身がある、草妖精(コロボクル)だ!

 さらに壁上に耳の長い妖精が! エルフだ!


「族長! 奥のオークたちもほぼ確保できました!」

「よし!」

「「ブヒヒッ!?」」

 奥からやってくる本隊まで!?

 この状態になっている!?


「音消しが弱いな。『 風の乙女よ、音の波を止めよ 』」

 耳が魚のヒレの妖精が手をかざすと、オークたちが叫んでいたのに突然音が消える。


「「ブヒイ     」」

「「外レナ     」」

「「!!?」」

 音が消えた。

 静寂の世界が通路内を包む。

 勘が鋭いボスオークたちは冷や汗が出て来た。

 これから何をするのか、分かったからだ!

 そんな馬鹿な!

 何て惨いことをする気なんだ!


「「~~~~~~~ッッ!!!」」

 さっきの振動は、そういうことだ!

 丁字路を右に行った部隊のそれだ!

 何て酷いことを実行するんだ!

 何て酷いことをする気なんだ!

 止めてくれ!

 謝るから!

 謝るから!


「「~~~~~~~ッッ!!!」」

 もう殺さないから!

 もう奪わないから!

 心を入れ替えるから!


「『 地精霊よ、壁を崩して溝を埋め立てろ 』」

「「~~~~~~~ッッ!!!」」

 せめて、せめて……!

 一思いに殺してからにしてくれえええ!!

 ボスオークたちは糞尿を垂れ流しながら、時の流れが緩やかになった世界でそれを見た。

 壁の黒い土が、雪崩落ちてくる光景を。

 身動きが取れない中で。

 命乞いも救助の声も上げられない状況で。


「「~~~~~~~ッッ!!!」」

 ゆっくりゆっくりと、覆いかぶさって来る絶望の波。

 生き埋め!

 生き埋め!

 生き埋め!

 何て残酷な!

 いつしか黒い土が、別のものに変貌する。

 今まで奪ってきた生物の姿に変貌する。

 怒るような、叫ぶような、嘲るような表情で!


 ドドドドドオオオッ! ドドドドドオオオッ!


 やめろおおっ! どけえええっ!

 重いぃ!

 暗いぃ!

 うわあああ!

 何も聞こえないぃぃ!

 やめろおおぉぉっ!

 何て理不尽なあぁぁ!

 何て残酷なああぁぁぁ!

 体に圧し掛かる絶望の圧迫感……

 自分たちが殺してきた生物たちが、隙間なく、厚く重く圧し掛かっていた。


「よおしっ! こっちも終わったばい!」

 壁が埋め戻されて行く様子を、現場監督のようなギムドワッハが確認する。

 先ほどまで壁が林立していた場所は平らに均され、雲に隠れた外壁がかすかに見えている。

 周囲では出っ張ったところをサテュロスやリーフロスが飛び上がっては踏みつけ、固く均している。

 今までの恨みを叩きつけるかのように。


「全くばってん、ようこがん恐ろしか策略ば考えつくっちゃろか」

「同感です」

 隣にいたサテュロスの戦士が同意する。

 サテュロスの戦士は朝のやり取りを思い出した。

 ギムドワッハは、強固な壁を作るのは時間が足りないと言った際、神殿騎士は「強固じゃなければ簡単ですか?」と質問していた。

 皆が耳を疑った。

 そんな強固じゃないものが何の役に立つのかと皆が口々に否定したが、「強固じゃないから使える戦略がある」と言い返した。

 それがこれだったのだ。

 まさか、壁を「防壁」としてではなく「攻撃」に使うとは……何という発想力。


「強固な壁を作るにはドワーフが時間をかけないといけない。だが強固でなければドワーフでなくても妖精なら作れる」

 外壁は重い獣人たちが登って槍を投擲するため、強固なものにしたいからドワーフたちが作り上げ、内壁の通路はエルフやニンフ、コロボクルが作る。

 強固な壁ではないため、大地への干渉力が強くないエルフやニンフ、コロボクルでも作れる。

 作れるが脆い。

 脆いゆえにすぐ壁が崩れないよう、高山植物を網目状に壁に這わせて強固にする。

 土を固めるのではなく、網で壁が崩れないよう固くする。

 壁だけに植物があると不審に思われるため、通路床にも植物を敷き詰める。

 その通路床の植物は足を掴むための罠にもなる。

 そうして敵を縛り、動けなくした上で壁の補強をしていた高山植物の網を利用し、敵を覆う網にする。

 網状の植物は魔人たちに覆いかぶさると、今度は土から抜け出せないようにする網の役目となる。

 数が多いので、息の根を止める暇などない。

 一気に埋める。残酷だが。

 雲で目隠しをして防壁の数が減っていくのを別のオークたちに見せないようにして、さらに音を消して悲鳴や土砂崩れの音を消す。

 誰も思いつかなかった戦略。

 全ての手筈を思い出し、周囲を見渡した獣人たちは体を震わせる。


「圧勝だが、こりゃあ残酷だわ」

「人間は、よくもまあこんな考えを思いつくもんだ」

「死神だな」

 やはり人間は恐ろしいと思う。

 獣人たちは肥沃な沿岸部を人間に奪われて内陸部へと追いやられた過去があるため、人間は怖いと再認識する。

 雲内のどこかに人間がいると思うからヒソヒソと話すと、後ろから!


「あ、あのっ!」

「「うおっ!?」」

 人間かと心臓が跳ね上がったところで振り返れば、短い金髪の美少女が。

 エルフの少女システィーナだ。

 何事かと思って良く見れば、彼女は体を震わせている。

 人間でなくて良かったとホッとしていると、少女は堰を切ったように話し始めた。


 彼は最初からこの作戦は使いたくなかったと言ってました!

 だからこそ最後まで降伏を呼び掛けてたんです!

 でもオークたちは襲ってきたので、これを踏み切るしかなかったんです!

 私たちが傷つかないために!

 今も彼の心は罪悪感で一杯なんです!

 だから! 酷いこと言わないで!


 システィーナは声を震わせながら一気にまくし立てる。

 彼女の想い抱くコークリットは全く違う!

 彼は死神なんかじゃない!

 とても優しい人だ!

 大きくて、温かい心の持ち主だ!

 そんな彼を傷つけるような言葉は認められない!

 例え種族同士の諍いに発展しても、そこは絶対に譲れない!

 その決意で睨めば獣人たちが慌てて謝罪する。


「う、うん。そうだよね、ごめんね」

「オークとはいえ、ちょっと憐れに思えてね、ごめん。撤回するよ」

 獣人たちは慌てた。

 彼女が大きな目に一杯の涙をため、今にも泣き出しそうな表情で睨むから。

 自分たちの言葉で傷ついているのはこの少女なのだと、獣人たちは思った。

 そしてその表情の意味を理解する。

 このエルフの少女はあの人間を想っているのだと。

 その時、雲の向こうから悲鳴が上がった。


「「悲鳴! オークのものじゃない!」」

 そう、野太く低いオークたちの悲鳴ではない。

 それは女性の声が多く混じった声だった。


「向こうの罠が失敗したんだ!」

「「助けに行こう!」」

 獣人たちは走り出した。



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