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ヴァチカニアの神殿騎士と森の妖精の物語  作者: 藻屑のもずく
人外の地(オークとの戦い)
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オークとの戦い04(断崖上)

明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

 


 冷たい大気が座する夜。

 柔らかに浮かぶ層雲が、遥かなる大地を這うように、舐めるように、ゆっくりと厳かに流れて行く。

 静かで、密やかな夜。

 流れ行く雲はひんやりと湿り、眠りにつく高山の草木を包む。そして苔むした岩々を呑み込み、闇に潜む動物を湿らせ、獲物を探す魔獣を覆い隠し、長く連なる黒い影を呑み込む。

 連なる黒い影は人型の大軍。大きな大きな、魔人の大軍。魔人は十数匹の塊でまとまり、闇夜の大地を行進する。

 天空から見れば、巨大な黒いアメーバ。不吉に蠢く集団。黒いアメーバが幾つも列をなして、同じ方向に進んでいるように見える。


「オイィ、オ前ラ!」

 一つのアメーバの中で、オークの一匹が隣を歩むオークたちに呼び掛けると、何匹かがこちらを向く。目が赤く光る、揃って醜い顔だ。


「「ンガ、何ダガ!」」

 皆、お揃いで右目から頬にかけて斜めに走る刺青を入れている。同じ部族の出である証だ。


「アアッ、ゴノ大軍デ移動ッデゴドハ、要塞ガ落ドサレダガカ!?」

 前を見れば、複数のオーク部隊の後ろ姿があり、後ろを見れば赤く光る双貌が延々と続く。それは不吉な蛍火の列で、驚くべき大軍だ。

 問われたオークたちは醜い顔を険しくさせる。猪顔に幾つもの怒りのシワが浮かぶ。


「知ランガ! ダガ可能性ガ高イガ!」

「アアッ、何ヤッデンダ! 要塞ノ奴ラハ! 油断シタガ!」

「「アアッ、我々ニ迷惑ヲガゲヤガッデ!」」

 あの巨大な要塞を以てして落とされたということは、相当油断していたということだ。要塞の堅牢さに慢心し、警戒を怠ったのだろう。

 憤るオークたちは横から「ゴキンッ! ゴキンッ!」と硬い何かで殴られる。


「「ヴゲアッ!」」

 殴られた瞬間見えたのは、鉾の柄の部分。

 殴られたオークたちは一瞬怒りに燃えたものの、相手を見てグッと堪えた。


「要塞ノ奴ラガ負ケタノハ、弱イカラジャナイ! 相手ガ強インダヨ!」

 そう腹立たしげに威嚇したのは、アンデルサルクスに騎乗した巨大なボスオークだった。

 ボスオークはメスだが、オスのオークより頭二つ分大きく、筋力と脂肪も多い。絶対的な強者相手に、殴られたオークたちは堪えた。


「気ヲ引キ締メナ!」

「「ブギイイッ!!」」

 殴られたオークは仲間に、さらに気合いを入れる。


「要塞ヲ落ドシダ奴ラハ、我々ノ部族ガ殺ルガ!」

「「ブギイイッ!!」」

 オークたちに気合いが入る。


「ブヒヒッ、弱イ『 一ツ目 』の部族ガ良ク言ウガ!」

「「ブヒャヒャヒャッ!」」

 と後ろから嗤う声が。

 後ろを睨めば、揃って頬に三本の刺青をしたオークたちが嗤う。


「「黙レ『 三本頬 』! オ前ラニハ負ゲンガ!」」

「「ドウガナ!! ヤッデミルガァッ!?」」

 殺気立つオークたち。

 醜い猪の顔が歪み、噛み合わせの悪い口からダラダラと唾液がこぼれ落ちる。


「止メトキナ!」

 先ほどのボスオークが威嚇すると、両部族は臨戦態勢を解く。


「『 マザー 』ガ御怒リダ。何トシテモ獣人ヲ連レ帰ルヨ!」

「「ブギイイイイッ!!」」

「「マザー!!」」

 オークたちはマザーの名に士気が高まる。マザーオークと呼ばれるオークの王への忠誠心に。マザーオークのお陰で「他者から奪う喜び」を与えてくれる行動が多くなったからだ。

 オークたちは元々、断崖下の各地に部族ごとに、獣人たち同様住み処を移しながら暮らしていた。そこで獣人や妖精、そして人間の集落を襲い、多くのものを略奪しながら生きていた。

 そんなある日「マザーオークの遣い」と名乗るボスオークらが現れ、傘下に入るよう命じられた。圧倒的な力と数に従うことになり、自由を奪われたと思ったものの、組織的でより多い略奪の機会を与えられることになった。

 快感だった。

 奪われる側の恐怖にひきつった顔。泣き叫ぶ子供をいたぶり、男どもの前で女を犯す悦楽と優越感。最高に気分が高まる瞬間を、マザーオークは沢山与えてくれた。


「「殺ルガ! マザーノ怒リヲ敵ニブヅゲルガッ!!」」

「「ブヒヒッ!!」」

 マザーの怒りをぶつける。

 それだけで異様な興奮に包まれていく。

 まだ見ぬ敵を誰が多く殺すか、残虐で凶暴な心が高まり、異様な士気が高まっていく。士気に呼応しているのか、残忍な想像をすることでなのか、体が熱い!


「「ゲハハハハッ」」

「「ブギヒヒヒッ」」

 幻想的な赤紫や青紫に染まる夜空の下を、黒い負のオーラで汚れた醜い魔人たちが歩んでいく。鼻息が白く荒いのは寒さだけではない。これから行う一方的な暴力を想像すれば、異常な快感と興奮が体を駆け巡り、体が熱くなるのだ。

 オークやオーガーの体から湯気が立ち上り始めたとき、遠く前方から何かが向かって来る。


「全軍、止マレ!」

「「止マレエエイッ!」」

 先頭集団のボスオークが手で合図すると、後ろに列なる異形の部隊が次々に止まる。


「「偵察部隊ダガ!!」」

 冷たい層雲を突き破って現れたのは、アンデルサルクスに騎乗したボスオーク数騎だ。

 偵察部隊だ。


「ドウダッタカ?」 先頭集団のボスオークが問う。

 偵察のボスオークたちは険しい顔をさらに険しくする。


「要塞ヲ落トサレ、獣人ドモガ断崖上ニイタ」

「「ヤッバゾウガ!」」

「「落ドサレダガ!」」

 騒然となるオーク部隊。要塞が落とされた話は大声で後ろの部隊へと広がっていく。


「敵ハ何匹ダイ?」

「雲ガ掛カッテイテ分カラナイ。見エル範囲デ五十匹クライダ」

「「見エル範囲デ五十匹!」」

「「モットイルガ!」」

 そう、もっといる。

 五十程度で落とせる要塞ではない。雲の中に隠れているはずだ!


「他ニハ何カアルカイ!?」

「雲ノ中ニ壁ガ見エタ!」

「「壁ガ!」」

「「壁!!」」

 一体、いつ作ったのだろうか!?

 人質の獣人運搬が途絶えて早くも三日は経つ。すなわち三日で作ったとするなら、かなりの数の獣人が作業をしたに違いない。


「「敵ノ数ハ多イ!」」

「「迎エ撃ヅヅモリガ!」」

「「殺ッデヤルガ!」」

 常に狩る側、奪う側である自分たちを「倒せる」と考え待ち受けている! 思い上がりが! 一気に燃え上がるオークたち。気持ちが高ぶり、体が熱くなる。押さえきれない激情は、次第に気合いの掛け声となって空間を震わせる。


「「オッ!」」

「「オッ!」」

 一定のリズムで気合いの声が響く。

 掛け声の一体感が増していく。


「「オッ!」」

「「オッ!」」

 掛け声が最高潮に達したその時!


「止マレエエエッ!!」

 先頭のボスオークが叫ぶと、後ろを歩むオークたちは一斉に停止する。

 前方一キロほど先に、かがり火!

 行く手を阻むように、境界を定めているかのように、左右に列なり大きく広がる!


「左右ニ展開!!」

 その号令で後続のオークたちは一斉に左右に広がる。訓練されたような、あるいは見えない糸に操られているような、統率された規律ある動きだ。

 ものの数分で、翼を広げた竜のような陣形を展開する。


「全体前進!!」

「「オッ!」」

「「オッ!」」

 そのままの陣形で、一糸乱れぬ掛け声を上げながら前進する。

 前進することで、かがり火の列が手前に一列、奥にもう一列あることが分かる。二列の距離は百メートルほどあろうか。何かの意図があるのか?


「「オッ!」」

「「オッ!」」

 ボスオークたちは観察する。

 奥のかがり火の先は氷山のような雲が停滞し、何があるか分からない。いつもなら小さな雲が流れ、蟻塚のような砦が見えるはずだが……

 と近づくことで層雲の中に、うっすらと壁が築かれているのが見える。高さは三メートルほどか?

 横に長いようだが、途切れ途切れにも見える。どういう防塁だ?


「ブヒッ! 防塁上ニ何カイルガッ!!」

「「ブヒヒッ!! イルガッ!!」」

 そう、層雲と闇夜で見えづらいが、シルエットが見える! 途切れ途切れの防塁の上に、数人ずつ乗っているようなシルエットが見える!


「フン、オ出迎エカイ」

 ボスオークの一人が鼻で嗤う。

 防塁の上で待ち受けているのだ。あんな低い防塁で! オーガーなら容易に届く高さに、ボスオークは長い鼻の奥でクックッと嗤う。

 一方、オークたちは防塁上のシルエットに圧力を与えるように、さらに声を大きく張り上げ威嚇する。


「「オッ!」」

「「オッ!」」

 シルエットは多種多様で、数は少ない。ざっと五十名といったところか。

 シルエットが分かると、どのような種族が待ち受けているのかオークたちも分かった。

 馬に乗っているような姿はケンタウロス、重厚な四足獣に乗ったような姿はライオロス、二本足がスラりとした姿はディアオロス、ずんぐりむっくりな固太りの姿はドワーフ。

 もしかしたら、まだいるのかもしれない。隠れているかもしれない。油断は禁物だ。

 そう偵察部隊の言う通り、かがり火の奥には氷山のような大きな雲が鎮座し、奥に何があるのか全貌が分からないゆえ、あの層雲の中に隠れている可能性はある。小賢しい! 油断するものか!


「「オッ!」」

「「オッ!」」

 やれるものならやってみろ、とばかりに威嚇し前進する。

 さらに近づくと、防塁上で待ち受ける獣人それぞれが槍を十数本突き立て、仁王立ちする者や、構えている者が見える。

 投げ槍で迎え撃つ気だ。

 そのことでかがり火が二列に離れて並んでいることが分かった。あれは「目印」だ。奥のかがり火から百メートル離れたかがり火までが射程距離なのだろう。あの「目印」を超えたら撃って来るつもりなのだ。


「全軍、止マレエエエ!」

 目印のかがり火より百メートル手前で止まるオークたち。獣人たちの防塁まで二百メートルといったところか。

 と、防塁と防塁の間の通路にある雲の中からタイマツを持った人物が歩み出て来る。細く見えるがなかなか大きい体だ。金色に輝く鎧を纏い、キラキラと輝く様は明らかに妖精でも獣人でもないと分かる。この人物がリーダーなのだろう。その推測を確実にするものとして、少し後ろにはケンタウロスにエルフが従っている。


「ヨクモ要塞ヲ落トシテクレタネエッ!」

「「オッ!」」

「「オッ!」」

 ボスオークの言葉に怒りの同意を示すオークとオーガーたち。

 金色の戦士は、ケンタウロスとエルフを伴って目印のかがり火の手前まで来る。そしてよく通る声で話し始める。


「そうだ! 要塞を落としたのは俺たちだ! 武器を捨てて、投降しろ!」

「「ハッ!!」」

「「ブギイイイイイイイイッッ!!」」

 ボスオークたちは鼻で嗤い、オークとオーガーたちは一斉にブーイングする。けたたましい猪の号哭は不快な共鳴をみせ闇夜の空間に広がっていく。オーク以外のものが間近で聞けば、鼓膜がおかしくなり発狂する可能性のある、不協和音だった。


「我々は、雲の獣を手に入れた! その力をもってすれば、お前たちを倒すなど造作もないことだ!」

「「何ダッテエッ!?」」

「「雲ノッ!?」」

「「獣ッ!?」」

 オークたちは予想外の言葉に互いの顔を見合わせ、そして獣人たちのいる防塁を隠す氷山のような雲を見る。言われてみれば、あれほどの雲が断崖端の砦付近に動かず停滞していることなど、記憶にない。

 雲の獣!? 聞いたことはないが、現実的に目の前に鎮座している雲を見ると、嘘だと否定できない。


「雲の獣に襲われる前に、投降しろ!」

 その言葉にざわつき始めるオークたち。

 しかし、ボスオークの言葉にざわめきがおさまる。


「ハッ! 大方妖精ガ精霊ヲ使ッテ雲ヲ留メテイルダケダロウガ!」

「「オォッ!」」

「「オォッ!」」

 そうだそうだ! エルフがいるし、ドワーフの姿が見える!

 きっと妖精たちが他にもいて、周囲一帯の雲を集めて留めているだけに違いない! そうと分かれば動揺もなくなり、途端に威嚇の掛け声が復活する。


「「オッ!」」

「「オッ!」」

「「ヤレルモンナラ、ヤッテミナァッ!」」

 ボスオークたちがまた鼻で嗤ったその時。


「ならば見せてやろう! 雲の獣よ! その鋭利な爪と牙で敵を切り刻み、その血肉を存分に味わえ!」

 金色の戦士がタイマツを高々と掲げると、一気に振り下ろす!

 次の瞬間、氷山のような雲の一画が崩れたかと思うと、雲とは思えない動きを見せる!


 ボワッ!


 白く薄い雲はもうもうと逆巻きながら、地表を這うように、滑るように、まるで生き物かのように動き出す!


「「ブオッ!?」」

 それは津波。決して波が来ない陸地を驚くべき速さで侵略する、津波のごとく走り出す!


「「ブオオオッ!?」」

 その雲の速さは異常!

 津波となった雲は瞬く間に大地を覆い隠し、金色の戦士を覆い隠し、目印のかがり火の列を覆い隠し、勢いを弱めず一気にオークたちの軍列まで押し寄せる!


 バフォッ、バフォフォフォッ!!


「「ブギイイイイイイイイッ!!」」

「「ブオオオオオオオオオッ!!」」

 冷たい白煙が周囲を逆巻く!

 突然の白い襲来に浮足立つオークやオーガーたち。

 雲の異常な速さに恐怖を感じたオークたちは、隊列を乱し、お互いの肩や武器が当たり、転倒や負傷する者が出てきた。


「「ボケ共ガアッ! 狼狽エルナ!」」

「「タダノ雲ダッ、ボケ共ッ!!」」

 部隊の長たるボスオークたちは狼狽えることもなく、冷静に状況を判断する。

 そう、これはただの雲だ、そのはずだ。精霊で動かしただけの、ただの雲! オーク側を混乱させ、獣人側の動きを隠すことを目的とした、揺動の雲! あるいは、獣人側の動きを隠す目隠しの雲!

 そう、これはただの目隠しに過ぎない!


「煙幕ダヨッ!」

「気ヲツケナ! 仕掛ケテクルヨッ!」

 そうボスオークたちが叫んだ時だった!


 ヒュドドドドドッ!

 ヒュドドドドドッ!

 ヒュドドドドドッ!


「「ブギャアアアアアアアアアアッッ!!」」

「「ナ、何ダイ!?」」

 風切り音がしたかと思えば、雲の中でオークたちの絶叫が響き渡る! 何が起こった!? 逆巻く雲のせいで、周りがよく見えない!

 だが、間違いなく攻撃を受けた者がいて、絶叫したのだ!


「「ク、雲ノ獣ガカッ!?」」

「「マザガ、本当ニ獣ガカッ!?」」

「「獣ノ爪ガカッ!?」」

 霧中と言える雲の中で、オークやオーガーたちは狼狽える。

 やはり雲が、獣となって、襲い掛かってきたのではないか!?

 そうすると、自分たちは既に雲の獣の腹の中! いつ攻撃を受けるか分からない! 何匹ものオークたちが、思わず逆巻く雲に棍棒を振るうと、至るところから「ギャアッ!」「グエエッ!」と悲鳴が!


「武器ヲ振ルンジャナイ!」

「同士討チニナルヨ!」

 叱咤と悲鳴の雲の中で!

 再び!


 ヒュドドドドドッ!

 ヒュドドドドドッ!

 ヒュドドドドドッ!


「「ブギャアアアアアアアアアアッッ!!」」

 雲の中で響き渡る絶叫!

 その絶叫を間近で聞いたボスオークの一匹が理解した!


「投ゲ槍ダヨ! 槍ヲ投ゲテヤガルンダ!」

 そう、ボスオークの近くにいたオーガーの胸に、太く長い木の槍が突き刺さっている!

 堅い樫の木を加工した槍だ。その瞬間、ボスオークは二つのことを理解する。


 一つは、長い時間をかけて準備した用意周到な相手だということ!

 堅い樫の木を加工するには時間がかかる。獣人たちが大地に突き立てていた槍が全て樫の木だとすると、一人当たり十数本、ざっと七~八百本は用意していることになり、相当な時間と労力をかけてこの時のために作ってきたのだということが読み取れる!


 そしてもう一つは! 獣人たちは雲に乗じて目印のかがり火までやってきたということ! 投げ槍を二百メートルも離れたこの場所に投げるなど、ボスオークでさえ不可能! すなわち雲と一緒に防塁を駆け降りて、あの目印のかがり火までやってきて投げている! それは相手から近づいてきたということ! こちらからの投げ槍も当然届く!

 ボスオークは自らに飛んで来た槍を圧倒的な動体視力と反射神経で掴むと、騎上から思い切り投げ返す!


「ヴリャアアアッ!! 槍ヲ拾イナ! 届ク距離ニイルヨ!」

 しかしオークたちは混乱状態だ。槍だと言われても、見えないところから飛んで来るのだから! ボスオークほど動体視力が優れているわけではないゆえ、多くの者が体の大きいオーガーの後ろに隠れようとしてオーガーと争いが起こっている!


「「ゴアアアアアッ!!」」

「「ブギャアアアアッ!!」」


 ドドドドドッ!

 ドドドドドッ!

 ヒュドドドドドッ!


「「逃ゲルガアアッ!」」

「「ブギャアアアッ!!」」

 我先に逃げようとしたオークたちは、至るところで倒れたオークに足を取られ転倒し、逃げ惑うオークが別のオークとぶつかり転倒する! その上に槍が飛んで来る!


 ドドドドドッ!

 ドドドドドッ!

 ヒュドドドドドッ!


「「ブギャアアアアッ!!」」

「落チ着ケ! 獣人ドモガ近クカラ投ゲテルンダッ! 投ゲ返スンダヨッ!」

「「ソウダッ! 投ゲ返セ!」」

 他のボスオークたちも投げ返す!

 側近のオークたちも混乱から立ち直り、槍を手に取る!


「「投ゲ返ゼエエ!」」

「「ブギイイッ!!」」

 大地や仲間に刺さった槍を抜き取ると、あの目印のかがり火に当たりをつけて投げ返す! 当たっているかは分からない! だが威嚇にはなる!

 だが!


 ドドドドドッ!

 ドドドドドッ!

 ズドドドドドッ!


「「ブギャアアアアッ!!」」

 さらに槍が飛んで来る音と突き刺さる音!

 正確すぎる! 雲の中なのに、なぜこんなに正確なのか!? ボスオークは直感的に理解した。恐らくこの雲こそが目印なのだ! この雲は精霊魔法でオークたちが多いところに厚くなっている! 獣人たちはその雲に向かって投げればいい!


「クソガアアッ!!」

 雲が追い付けない早さで、四方八方に走って雲から出ればいいだけだが、雲の中で転倒し混乱状態のオークとオーガーにはそんなことさえも出来そうにない!


「「チイイッ!!」

 ボスオークたちは痛感する! 獣人たちに恐怖感と圧迫感を与えるための布陣が仇になった!

 七百超が集まっていたため、投げればオークとオーガーの誰かしらに当たる! 雲のヴェールのそこかしこで悲鳴が聞こえてくる!


「死ンダ奴ヲ盾ニ使イナアアッ!」

「「ブヒヒッ!!」」

 無事なオークたちは、倒れたオークやオーガーを盾にする! その上に槍が降る!


 ドドドドドッ!

 ドドドドドッ!

 ズドドドドドッ!


「クソガアアッ! マダ槍ガ来ルカッ!」

 獣人たちは見える範囲に五十はいた! 一回の投擲で半分以上の三十発が当たったとしたら、十回の投擲で三百の負傷者が出る! ボスオークは矛を握りしめた。


「直接叩クヨッ! 着イテ来ラレル奴ハ着イテ来ナアッ!」

「「ブギイイッ!!」」

 その声に!


「突撃ダヨッ! 一ツ目、三本頬! サッキノ威勢ハドウシタ! 私ニ着イテ来ナアッ!!」

「「ブギイイッ!!」」

 他の鋭いボスオークたちも、次々に続く!


「突撃ダッ!! 近クニイルヨ!」

「「ブギイイッ!!」」

 矛で小突かれ、次々に突撃するオークの軍団!

 視界が十メートルもない雲の中で、正面から飛来する槍に恐怖するオークたち! 案の定、逆巻く雲の中から!


 ドドドドドッ!

 ドドドドドッ!

 ドドドドドッ!


「「ブギャアアッ!!」」

「「クソガアアッ!!」」

 足の早いアンデルサルクスに乗ったボスオークたちは、槍が止むタイミングで一気に加速する!

 獣人たちは近い! 必ずいる!

 薙ぎ倒してやる!

 ミンチになるまで叩き潰してやる!

 前に出たことを後悔させてやる!


 ボフッ! ボフフッ!

 突然視界が開かれる!


「抜ケタアアッ!!」

「オラアアアッ!」

「ドコダアアアッ!?」

 先には目印のかがり火が大地を照らす!

 獣人たちがいるハズ!

 だが!


「「ナッ!?」」

 ボスオークたちは目を疑った!


「「馬鹿ナッ!?」」

 そこには! 荒涼としたかがり火の大地!

 かがり火の大地だけ!

 いるはずの獣人たちが、誰一人いなかったのだ!



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