オークとの戦い03(断崖上)
視線と同じ高さにある太陽
太陽光を冷ますように駆け昇る峡谷の風
峡谷の冷風でも冷めない歓喜の雄叫び
獣人と妖精の雄叫び
■コークリットの視点
「「うおおおおおっっ!」」
「「ここが断崖上かっっ!!」」
「「うひょおお~~~っ、想像以上ばい!」」
「「寒いっっ! 気持ちいい~~っ!!」」
「「何て絶景だ~~っ!!」」
「くく」「うふふ」
俺とシスは、一緒に登って来た獣人と妖精たちの歓喜の雄叫びに思わず笑む。いつか見た光景だ。
そう自分たちもそうだったからだ。
「「何て大地だ! 広大な緑の原かよ! 花畑か! 広っ!」」
「「見ろよ! 綿みたいな層雲が地表スレスレを流れているぜ! 雲の影がくっきり!」」
「「おいおい、岩の尖塔が! こういう大地だったんか!」」
「「うおおお~~っ! リートシュタイン山系があんなに近くに!」」
「「絶景ばい! 絶景ばい!」」
「「ここがリートの大断崖かっっ!!」」
興奮、興奮! 興奮のるつぼだ! はしゃいで子供のような獣人たち。
そりゃあそうだろう。数百年前の獣人が登って以来の、伝承や寝物語で伝えられてきたのみの、想像上の大地だから。獣人も妖精も、皆同じキラキラと輝くような笑顔だ。特に厳ついライオロスの輝く顔は、何か可愛いな。
「「後ろ! 後ろを見ろ!」」
「「うおおおお~~~っ!!」」
「「世界が! 世界の果てが霞んで見える!」」
「「何て広大なんだ~~~!!」」
うんうん。分かるなあ、共感しかない。
周りに遮蔽物のない高い断崖の上だから、遥かに霞む地平の彼方まで遠望できて……広大な世界の片鱗を心に刻めれば、自分の小さな価値観まで塗り替えられるような、生まれ変わったかのような境地に達するんだ。
「「オオオオオ~~~~ッッ!!!」」
地鳴りのような遠吠えの協奏が天に放たれる。
峡谷の洞窟や断崖の道を十キロ以上駆け上がって、なおもこの興奮を残す体力! さすが選りすぐりの戦士たちだ!
ケンタウロス六名、ライオロス十名、ドワーフ十名、その他リーフロス、サテュロス、エルフ、ニンフ、コロボクルで三十五名という部隊だ。この後、下で看病しているアグやアル、レリーたちも午後には登って来る。
興奮する一行をそのままにしていると、層雲の向こうからドドドドッと足音が。
と綿の雲を霧散させ、見慣れた戦士たちが!
「ぶおおっ! 騒がしいと思ったら! コックリ! 嬢ちゃん!」
「シス! 神殿騎士殿! 無事か!」
「コークリットさん! 姉さん!」
「「ハルさん! ローレン、スラン、皆も!」」
上で待っていた青砂調査隊の皆が現れる。
断崖の洞窟にいないと思ったら、綿雲の向こうにいたか。
と、口ひげが渋いロマンスグレーのエルフがやってきた。ジーク族長だ。おお~、何だか俺への視線が凄く優しくて何だか包み込まれるようで嬉しい。父親ってこんな感じかな? 俺もこんな感じの壮年の紳士になりたいなあ。
「ふふ、力が漲っているようでなによりだ、神殿騎士殿。ケガはないかな?」
「はい、ありません」
「ふむ。シスもお役に立てたか?」
「はい! もう大活躍でした!」 シスが自信満々に言う。くく。
「フン、自分で言う大活躍は到底活躍しておるまい」
「くわあああっ!」
くくく、相変わらず息がピッタリな掛け合いのローレンとシスだ。
ローレンは相変わらずシスと話している時が最も幸せそうだ。見ていれば分かる。分かってないのはシスだけという本当に鈍感少女で、ローレンが不憫に思える。俺も俺でシスには感謝と好意を持っているが、彼女への好意は忘れなくてはならない。彼女はローレンと結ばれることが幸せだからだ。
「コックリ! 私、大活躍だよね!? ね!?」
「ん? うん。そう思う」
そう俺にとっては間違いなく大活躍だ。
俺は魔法を使い過ぎて、すなわち霊力を使い過ぎた。一晩寝ただけでは到底回復できる減り方ではなかったが、彼女が俺を癒してくれたお陰で霊力が完全回復したのは間違いない。
シスは本当に大活躍だと思ったが、昨晩のことはローレンには一生の秘密だ。
と嬉しそうなシスの声で意識が戻る。
「ほ~らっ! コックリもほ~らっ! ほ~らあ~~っ!!(得意気)」
可っ愛いい! 嬉しさできめ細かい頬が薔薇色に染まる彼女は本当に可愛い。
「フン、神殿騎士殿は他人に甘そうだからな。話をあわせてくれているのだろう」
「くわああああっ!」
仲のいい二人を羨ましく微笑ましく思いながら、意識を変え族長やスランが大地の奥から表れた理由を訊ねる。
「奥地へ行かれていたのはもしや?」
「はい、偵察を兼ねて戦闘に向いている場所を探していたんですが」
「どうでしたか!?」
「多勢に対して、無勢で戦えそうな場所はありませんでした」
そうか、残念だ。
こちらの戦力は九十~百で、オーク側は五百~七百くらいだと考えている。周りを囲まれないよう、できれば①狭いが逃げ道のある場所で、②狭いゆえ少数の正面の相手、と戦いたいところだったが、この広大な大地にそんな都合のいい場所はなかった。
と男性ながら魅力的な美しさを持つニンフのクレイがギムドワッハに気がついて艶めくように話す。
「ほほう。ドワーフがいるならば、機能美のある強固な防塁を作れるかもしれないな」
「「確かに!」」
そう、防塁を作って足止めをしつつ、一方的にこちら側から攻撃ができれば最高だ。俺も昨晩からそれを考えていて、ドワーフに多めに来てもらった。
景色を眺めて興奮しているギムドワッハを呼び、防塁の構想を話す。
とギムドワッハは毛むくじゃらの顔をしかめて。
「そげんこつば、難しいばい」
「「ええ!?」」
いきなり構想が頓挫しそうな不穏な雰囲気になった。俺は訊ねる。
「難しいとは、防塁作り自体ですか?」
「んにゃ、防塁ば作れるばってん、今日の今日そがんデカイの無理たい」
「大地に強い力を持つドワーフでも無理ですか?」
「まあ論より証拠ったい」
と言ってギムドワッハはおもむろに精霊魔法を使うと大地が動き始めた。
「土を集めったい。まあ一ヶ所から集めっば、空堀もできるばい」
「「なるほど」」
俺たちの目の前で土が波打ち、山脈のように盛り上がって行く。一方で、盛り土の隣はへこみ始め、やがて溝穴となり、大きく深くなって行く。
と、ものの数分で横幅二メートルの防塁ができた。
高さは一・五メートル、厚みも一・五メートルの山と、その前には深さ二メートル、奥行き二メートルの穴が出来上がった。
なるほどこの要領で横長に作れば、防塁と空堀になるだろう。
が問題が分かった。
山の高さが低い。低すぎる。空堀もオーガーなら跨げるくらい幅が狭い。
「山の高さば一・五メートルなんは土を押し固めたばってん。足りんちゃろ? 二メートル掘って作った山の高さば、やっと一・五メートルったい」
「ウム。助走をつければ空堀は簡単に飛び越えて防塁の上に飛び乗れるな」
ローレンは唸る。俺は提案する。
「逆側からも土を集めれば、山の高さは三メートルになりますか?」
「まあ可能たい」
ギムドワッハは逆側に回ると同じ作業を行う。やはり数分で山は高さ三メートルほどに到達した。
「ふむふむ。機能的な高い壁ではあるな」 と洗練された仕草のクレイ。「だが、オークやオーガーでも助走をつければ空堀を飛び越えて上半身が防塁の上にかかるだろう。無様で滑稽な姿でな」
そう、オークやオーガーは重そうな印象だが、重そうなだけで動きは意外に機敏だ。高さ三メートルはあるがジャンプすれば簡単に登れるだろう。
とハルさんが無精髭を擦りながら。
「コックリの考えでは、防塁の上で戦士たちが弓や槍で戦うって感じだろう?」
「そうです」
「防塁の両側が空堀だと、登るこっちも大変だぜ」
「確かに……」
そうなんだよな。防塁に登るために空堀を飛び越えて移動することになる。不便だし危険だ。何せ戦闘は夜だから。
「時間ば三日かけられっちゃ、片側の空堀で五メートルくらいできるばい。ばってん今晩必要っちゃろ?」
「ええ、そうです」
ううーむ、そうか。時間をかければできるか。と俺はふと考えついた。
「固めなければ、どうですか?」
「固めんとか? まあ空堀を掘った分だけ山ばできるばい。でも防塁にはならんちゃろ? 崩れっばい」
「フム、崩れたら防塁の意味はないか……固めなくていいなら他の妖精でもできるしな」
ローレンの眉間にシワがよる。ううむ、神経質そうな表情が本当に似合う。
「ぶはは、まあまあ。我々が機動力をいかし、広さと早さを武器に戦うから問題ない!」 とハルさん。
「んにゃ。ならばってん、わしらがオークを迎え撃つばい! 防塁はなくともドワーフの壁があるったい。ばり任せんね!」
「いや!?」
相手は五百以上だから! ドワーフ十名じゃ話しにならない。
さらにケンタウロスも無理だ。広大な断崖上は広く戦える場所に見えるけれど、実際は砦を落とされないように守らないといけないから一ヶ所に留まる必要があって、広く戦えない!
「オウオウ! 戦いの話しかよ、おい! 俺らも混ぜろや!」 ガノンレオルたちが入って来て「なあ~に俺たちライオロスが先陣を切ってオーク本体に突撃する! 防壁なんぞなくてもライオロスの無敵の矛があれば十分よ!」
「いやいや!」
ライオロスも十数名しかいないから無理!
すり潰されるぞ! っていうか、皆さん楽観的じゃないか!? いや、自信過剰!?
「いえ、オークの数が多い! 多勢に無勢だからこそ一気に襲いかかられないよう防御が必要です」 とコロボクルの戦士が助け船を!
「罠を張って攻撃した方がいいんじゃ!?」 サテュロスの戦士が続く。
「雲に隠れながらヒット&アウェイは?」 リーフロスの戦士が!
「戦う場所は広い場所よりも、断崖などで足場が悪い方がオーク側の突進力を奪えるのでは?」 エカチェリーナも入る。
「「こうした方が!」」
「「いや、こうするべき!」」
「「これならどうだ!?」」
おいおい!
皆、思いのまま自分の得意分野での主張をし始めたぞ!? それぞれの特性を活かした戦法ばかりの主張でバラバラだ。皆が集まってきて、ケンカに発展しそう!
「これなんです」 スランがため息交じりで「皆、強いんですが……」
「分かります」
協調性がないんだな。
不思議に思っていた。オークとの戦いも苦戦していたのは、それぞれの得意手を思いのままに繰り出すことで、非効率になっていたんだ。
でも、それぞれの主張も分かる。
例えば獣人は。
・ケンタウロス……時速五十キロを維持したまま一時間以上走れる(体力を考慮しなければ、七十キロで十数分走れる)。弓、槍どちらも得意。
・ライオロス………時速五十キロで数分走れるが、足を止めて肉弾戦が得意。斧槍、鎚、矛が得意。
・ディアオロス……素早く走れるが一キロほど。断崖生活ゆえ足場が悪い方が得意。斧槍、矛が得意。
・リーフロス………素早く走れるがごく短距離。弓やナイフなど隠れてのブッシュ戦が得意。
・サテュロス………罠作りが得意。戦闘は苦手。
妖精は皆、精霊魔法が使え、肉体回復能力が高く寿命が長い。
・ドワーフ……………走りは遅いが、肉弾戦が得意で妖精随一の肉体回復力を持つ。土や石への干渉力が強い。
・コロボクル…………素早く走り、隠れながらの戦いや罠作りが得意。草木への干渉力が強い。
・エルフ………………素早く走り、弓矢が得意。樹木への干渉力が強い。妖精の中では回復力が弱いが、その血は他種族の回復薬になる。
・ニンフ………………素早く走り、水中戦が得意。水への干渉力が強い。
こりゃあ、ジーク族長かスランに間を取り持ってもらって、早めに調整しないとヤバイかも。
今、朝の九時過ぎとして、夜行性のオーク襲来予想は日の入り後の十六時以降。数は五百~七百くらい来よう。こちらの八倍~十倍くらいの戦力差がある。闇夜にそんな大軍が来たら、一方的に負ける。
まともに正面衝突はダメだ!
数が違いすぎる!
正面衝突だけは避けねば! 多くの戦士たちが犠牲になる!
その時、静観していたジーク族長が話し始めた。
「ここは神殿騎士殿に軍師、参謀となってもらい、戦略と戦術を任せるのはどうだろう?」
「!?」 俺はビックリした。
「「神殿騎士殿に!?」」
「「突然どうした!?」」
一斉に族長と俺を見る戦士たち。
でも族長は理知的な涼しい顔で続ける。
「我々は各々特性が異なる異種族の連合ゆえ、まとまるのに時間がかかる。だが神殿騎士殿は、樹海や山海に不慣れな人間という身でありながら、青砂を調査するために異種族の中に入り、我々を尊重し、上手く調整してここまで来た実績がある。今のこのバラバラな状況も上手くまとめてくれよう」
「「なるほど?」」
「「ううーむ」」
皆が思い悩む。
うんうん、分かるよ。この大事な局面で人間に命を預けるようなことに抵抗があるんだろう。
族長は神殿騎士アヴァン様を知ってるから、あまり接点のない俺を信用してくれてるのかな。
とシスが割って入る。
「うん! コックリならできるわ! 上の砦と洞窟を制圧して、下の要塞を破壊した作戦立案は彼だもん!」
「「そうなのか!?」」
「ぶはは、そうだそうだ。色々な作戦を練って圧勝だったわ。四~五人でオークとヘルハウンド計百匹を一分で倒したもの!」
「「一分で!?」」
「「百匹も!?」」
皆が俺を見る。
「オウオウ、今回も圧勝の作戦はあるんかい!?」
「オイたちドワーフは迎え撃つ作戦ばできっか!?」
「ケンタウロスは広い場所で戦いたいです!」 エルが手を挙げると。
「ディアオロスは足場が悪いところで戦いたいです!」
「「じゃあ我々も!」」
またごちゃついて来た! 俺は意識的に少し声を大きくした。
「できます!」
「「!!」」
「皆さんの話を聞いていたら、皆さんが気づいていない強みを利用した効果的な戦術を立案できました!」
「「おお!」」
「「マジか!」」
「「気づいていない強み!?」」
そう、思いついた!
人間にはできない面白い戦術を!
その戦術は「越えられない防塁」を作るよりも遥かに効果的な戦術だ。
妖精や獣人ならではの戦法! 人間にはできない戦法!
「「どうやるんだ!?」」
「必殺の『 陣 』を作ります」
「「必殺の!?」」
「「カッコイイ!」」
「守り側の良い点は、色々な準備ができることです」
「「準備が!?」」
「「どんな!?」」
「二つあります」
「「二つ!?」」
「ですが一つ目で仕留めたい」
「「一つ目で!?」」
「「なぜ!?」」
「二つ目は、残酷なものになるからです」
「「残酷!?」」
「「構わない! 我々はいきなり襲われて殺されたんだ!!」」
「「情けは無用だ!」」
「では準備に入ります。あと六~七時間あります! その時間で『 必殺の陣 』を作ります! 圧倒的不利をひっくり返す戦法です!」
「「カッコイイ!!」」
「忙しくなりますよ!」
「「任せろ!」」
圧倒的不利をひっくり返す!
それは精霊魔法で自然を味方につけ、さらに地形環境をこちらに有利なものに作り変えるという方法だ。
オークたちは数にものを言わせた肉弾戦を仕掛けてくるだろうが、その前に立ち塞がる自然と地形に対応を強いられ、予定していた戦闘を行えず一手から二手分、後手に回る。後手に回せられれば、戦力差・物量差は確実に狭まる。
相手に戦闘をさせず、自然や地形の相手をさせ続け、対応に追われているうちに、こちらだけが攻撃するんだ。それが必殺の陣!
俺は考えた必殺の陣を説明した。
◇◇◇◇◇
夜。
吐く息が白く凍る、空虚で寒い夜だ。
見上げる濃紺の空には美しく輝く星々。
まるで宝石箱をちりばめたような夜空だ。
遠く西の空には赤紫や青紫の星団が輝き、見る者の心を癒す。はあ、胸に迫る幻想的な夜空だ。
そんな美しい夜空に似合わない醜悪な影が、リートの大断崖の大地を蠢き歩んでくる。
「来ました。オークとオーガーの軍団です」
「やはり来たか!」 隣のジーク族長が息を吸い込む。
砦で主だった面々と最終確認していたところを、俺の千里眼が捕らえた。ちょうど飲み物を皆に給仕してくれていたシスが不安そうに問いかける。
「ど、どのくらい?」
「うん。距離は七キロ地点で、数は六~八百か? 闇夜で見る奴らは醜悪だな」
「ぶは、想像できるわ!」 とハルさん。
闇夜を無言で行進する様は、地獄から現世を目指し行進するゾンビにも見える。体から湯気が立ち上ぼり、既に臨戦態勢になっているような状態だ。
「オウオウ、どんな部隊構成よ?」 ガノンが問う。
「はい。大体の数ですが、まずは徒歩のオークが約五百、アンデルサルクスに騎乗したオークが三十、オーガーが二百」
「むう、約八倍か」 ローレンが唸る。
「ふ、醜いオークは美しいニンフが美麗に倒そう」 魅惑的なクレイ。
「約一時間後に到着します。皆さん、準備を」
「「おう!」」
各種族ともオーク襲来の情報を伝達し、準備に取りかかる。とハルさんが胸の前で握りこぶしをバチバチしながら。
「コックリ、ケンタウロス部隊がひとっ走り行って、ちょっと数を削って来るか?」
「なるほど? ちょっと調べますね」 俺は千里眼で様子を探る「いえ、オークの大軍に行き着く途中に魔獣がいます。この魔獣との戦いはかなりの労力になりそうですので予定どおりとしましょう」
「そうか! クソ」
ハルさんは悔しそうにこぶしをバチバチする。やはり一番槍をつけたいんだろう。と儚げな美青年のスランが。
「コックリさん。千里眼魔法は本当に便利ですね」
スランは俺をコックリさんと呼ぶようになった。くく。
「ええ、神殿騎士が最も使う魔法かもです」
戦いが多いゆえに、偵察することで戦況を的確にとらえ易いから本当に便利だ。壊れやすいけれど、今はシスに風の守りをかけてもらって、壊れにくくなっている。妖精の魔法と合わせると利便性が上がることから、歴代神殿騎士が妖精とともに旅をしている理由が分かる気がする。
これからも誰か一緒に旅してくれないかな?
誰か……と言いつつも頭に浮かんだのはシスだったので、自分の気持ちに胸が昂る。いやいや、あり得ないよな。彼女はエルフの里に戻ってローレンと結婚するだろうし。
当のシスは、夕方やってきたアルやレリーと共に、持ち場につこうとしている獣人たちに水を振る舞っている。美女たちに励まされ、鼓舞された獣人たちは、一気に士気が高まる。凄いな。
はあ、本当に可愛い。何であんなに可愛いんだ? 顔小さいからか? 昨晩、俺の手に顔を乗せて寝ていたがすっぽり乗ってビックリだった。
と気づけば、シスの面影があるスランが真顔で俺を見ていたので、ドキリとする。うおっ。まさか、気持ちを見透かされてしまったか?
「ふふ、どうしました? コックリさん?」
「い、いや。シ、シスたちのお陰で士気が高まってますね」
「はい。勝てますかね?」
「俺は圧勝できると思っています。この短期間に、これほどの罠と仕掛け、道具や自然環境を利用して戦えるのは、やはり精霊魔法の力が大きいですよ」
「ふふ、人間は土木工事が必要ですもんね」
「ええ」
そう、五十人ほどの妖精は俺の要求どおりに必殺の陣を作ってくれたし、それ以上に面白い案を挙げてくれて、まず負けることはないだろう。
俺は気合いを入れる!
「さあ、では我々も持ち場につきましょう!」
「ええ! ご武運を!」
2022年もありがとうございました。
また来年もよろしくお願いします。
(明日もUP予定ですが)




