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ヴァチカニアの神殿騎士と森の妖精の物語  作者: 藻屑のもずく
人外の地(オークとの戦い)
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オークとの戦い02(断崖下)

 

 重くのしかかる圧倒的な大地

 大地を深く切り裂く鋭い峡谷

 峡谷の底に沈む野営の光

 野戦病院の光



 ■システィーナの視点



「しっかり! 大丈夫よ!」

「うぅー……うぅー」

「エルフの秘薬をたっぷり塗ったから、大丈夫! 魔法も利いてるわ!」

「あ、ありがとう……ううぅー、死んで、たまるか!」

「そうよ! 意識をしっかり!」

 そのリーフロスの若者は、しっかり目を見開き歯を食い縛る。ケガに負けてたまるかと、挑むような姿に胸が熱くなる。彼はきっと持ちこたえる! 大丈夫!

 一方。


「ひゅー……ひゅー……」

 隣のサテュロス男性は、目の焦点が……ああ肌が土気色だ。


「しっかり! 薬が利いてるからね! 魔法も!」

 手を握って声をかけるも、驚くほど冷たい……ああ、負けちゃダメ! 魔法と秘薬で傷は癒えたのよ!

 コックリの懸念が脳裏をよぎる。


「癒しの魔法は『 その人の生命力 』を燃料にして傷を治す。だから瀕死の人はもう生命力が少ないから、癒しの魔法の効果は少ない。生命力を燃やすから、瀕死の人は逆に命を奪いかねない」

 だから生命力が沢山あるうちに魔法が必要で、早さと時間が勝負になるって言っていた!


「これを飲んで! 生命力の源になるわ!」

 栄養価の高いクルコの実を煎じてお湯で溶かした薬湯を水のみで口に含ませる。生命力の回復にはこの薬湯が一番だから!

 何とか生命力を! 負けないで!

 サテュロスの戦士は薬湯を飲み込んだ後、わずかに笑んだ。そうよ! 頑張って!


「ぁ……り……が……」

 彼は感謝の声を小さく吐き出すと、もう息を吸い込むことはなかった……


「ごめんね」

 遅かったんだ……ごめんね。私は目の回りが熱くなって、鼻の奥が詰まる。

 でも! 私は哀しんでいる時間はない! 泣いている時間はないの! まだ、今夜が山の戦士たちが多いんだから!


「『 ノーム、サラマンダー。湯を沸かして持ってきて 』」

 私は精霊たちに指示を出すと、次の患者の元へと歩む。励ましの声をかけ、薬湯を飲ませて、額を冷やす布を変える。


「うぅ……ありが、とう! 負けて、たまるか……!」

「そうよ! 気をしっかり! 体は治ってるからね!」

「あぁ……ああっ!」

 頑張って! 助かるわ! 気をしっかり!

 その時。


「シス、交代よ」

 看病していると、艶やかな銀色の髪を後ろで縛ったアルが、ノームとともにバケツを持っていて。ああ、もう交代の時間だったのね。


「う、うん、でも……」

「ダメよ! 休まないと! 貴女はたくさん血も使ったし。ううん、朝になって断崖上に行くなら、今すぐ休まないとダメ!」

「で、でも」

「看病は貴女じゃなくてもできる! コークリットさんと上に行きたくないの!?」

「い、行きたい!」

「なら休む! 朝まで!」

 私は半ば追い出される感じでゲルを出ると、闇の中に幾つものかがり火が……それはまるで命の火のよう。ああ、ずっとゲルの中にいたから気づかなかったけれど、もう深夜なんだ。


「はあ、寒い」

 寒さが襲いかかって来る。

 冷たい闇に包まれた峡谷は、赤く燃える炎の中に妖しい光が混ざる。ウィスプの光。ゲルの中を照らすウィスプの物悲しい光……


「こっちに水を!」

「暖を取りたいの!」

 ゲルからは獣人女性や妖精女性がひっきりなしに出入りして慌ただしい。ああ、ゲルの入り口が開く度に、うめき声が聞こえてくる。


「皆、頑張って! 助かるわ!」

 私は最後に祈ると、意識を「明日の戦い」へと無理矢理変える。明日の戦いのために、休まなくては! 明日の戦いに勝てなかったら、このケガ人たちが断崖上のオークの軍団に襲われるかもしれないんだもの! 休まなくては!

 無事な獣人や妖精の戦士たちが寝所としている峡谷内の森を目指す。休まなくては! アルの言うとおり、断崖上に行くなら休息を取らなければ足手まといになる。私は彼の役に立ちたい!


「コックリは……大丈夫かな?」

 凄く魔法を使っていたから、かなりの霊力を消耗しているはず。明日のために、彼を休ませてあげたいけれど……今、どこにいるかしら。もう寝所で休んでいるかしら? ディアオロスの断崖の時のように、彼を安心させて眠らせて上げられたら、きっと霊力が回復すると思うんだけど……

 物悲しさを掻き立てる明かりの中、彼を探しながら歩いていると、遠く先にある一つのゲルの出入口に大きな人のシルエットが!

 あっ! あれはコックリ! 間違いない!

 遠くても分かる!


「コッ──!」

 呼び掛けようとした私は声が! 心臓も一瞬! 停止!

 彼がゲルから出てきたところで!

 もう一人出てきて!

 す、凄く綺麗な女性! 綺麗過ぎて呼吸が止まった!


「(あ、あれは)」

 あ、あれはレリー!? ニンフの美女が!

 しかもレリーはコックリの胸板に両手を当てていて。

 何か話していると、おもむろに彼の頬に手を当てて!


「~~~~~~っっ!?」

 し、心臓が! 押し潰される!

 す、すごく親密そうで……こ、恋人、同士のような……

 どどどどうしよう!

 み、見たくないのに、視界がそこしか!


「(あ、あわわ……あわわわ)」

 か、彼女もコックリのことが……?

 ど、どうしよう! どうしよう!

 あ、あんな美人、どうしよう!

 あんな美人、アルくらいじゃないと太刀打ちできないよ!

 あ、足が、膝がグラグラする! はぁ、はぁ!


「~~~~~~っっ!!」

 後退りしたら、ドスッと何かに当たった。

 人影が! 水がバチャッとこぼれる!


「あっ、ごごごめっ」

 人影に反射的に謝ったら、そこにはノームが鍋を持っていて! 鍋で水を運んでいたんだ。


「ご、ごめんね」

 ノームは頭をフルフルする。

 すると。


「シス?」

「っっ!!」

 コックリが私に気づいた。レリーもこちらに顔を向けて微笑む……何て綺麗なの……


「あ、あの、あの……」

 し、しどろもどろに。ど、どうしよう。

 わ、私、お邪魔虫だ。


「シス?」 怪訝そうなコックリ。あわわ。

「あ、あの。私。そ、そろそろ、休もうかなって、こっちに来ただけで(邪魔するつもりじゃ)」

「まあシス、ちょうど良いところに来てくれましたね」

 微笑むレリーはとても艶っぽくて……あわわ。


「ちょ、ちょうど、良い……?」 な、何が?

「ええ本当にちょうど良かったわ。神殿騎士様を休ませてほしいの」

 そう言って、レリーは彼の逞しい二の腕を抱き締める。

 あわわ、だだ抱き締めるなんて……!


「いや、まだ俺の魔法で救える患者たちが……」

「いえ、充分です。もう肉体的には治ってますから。そんなことよりほら、こんなに顔色が悪い。霊力の使い過ぎだわ」

 とレリーは悩ましい表情で彼の頬に手を!

 ひやあああああああ~~~っ!


「はぁ。こんな酷い顔色……相当な霊力を使っているわね……一晩じゃ回復しないかも」

「自分のことは自分で分かります。霊力は回復しますので」

「どうかしらねぇ?」

 物憂げな表情が女の私から見てもドキリと妖艶なレリー! ひやああああ、コックリの顔や身体を撫でまくる彼女。


「(やめて~~)~~~~~っっ!!」

「あ、あの、人前でそんなに触られるとちょっと……」 コックリが私を見て。

「フフ、必要なのよ。ごく一部の妖精の女性には、触ることで男性の霊力を回復させる力があるの」

「「そうなの!?」」

 コックリと私は同時に叫んだ。

 ああっ! あの夜もそういうこと!? ディアオロスの断崖で、コックリを抱き締めて寝たあの夜……彼は翌日、霊力が完全回復したって言ってた。

 あれ? 嫌味男もかしら? センチピードヒドラとの戦いの時、霊力が底をついて倒れそうな嫌味男にちょっと肩を貸したけれども、霊力が少し回復していた。


「だからシス、神殿騎士様を連れて行ってほしいの」 と妖艶な笑みで「貴女にも力がありそうだし、何となくだけど貴女のいうことなら聞きそうな気がするから。フフフ、女の勘」

「「……」」

 ど、どういう意味だろう?

 コックリを見ると、バツが悪い様子で私から視線を外す。でも耳が少し赤いのはどういうこと!? 色っぽい彼女に触れられて!? うう、コックリの本心が知りたい。霊力の色でどんな感情か見たいけれど、コントロールしているのかよく分からない。


「さあ、明日断崖の上へ行くなら、休んで? 二人とも」

 彼の腕を抱き締めたまま、私の方に……な、何て大胆なの……人前で……あわわ


「う、うん。じゃあシス。や、休もう?」

「う……うん」

 私たち二人は、ほんの少しだけ離れて歩く。うう、本当はコックリにくっつきたいのに……私には、できない。

 コックリは妙に神妙で……

 うう、逃げ出したい。

 あんな、あんな色っぽい美人に敵うはずないもの。うう、あんな美人の後にこんな子供っぽい自分を見てほしくない。コックリから顔をそむけるように空を見上げる。


「……」

 はああ、寒い。

 空気が冷たくて澄んでいて、星々の瞬きがハッキリ見て取れる。

 峡谷の空は、満天の星が峡谷の形に切り取られて、まるで天の川のよう……ああ、あの大きくて一際強い輝きを放っている星は、まるでコックリみたい。彼の輝きは凄いもの。その周囲で美しく輝く小さめの星はレリーやアルっぽい。私はと言えば、もっと小さいあの沢山ある星々のどれか……コックリから見れば、有象無象かも、はあ。

 美しく煌めく夜空を感じれば、心が洗われるんだろうけれども、今の私はそれどころではなく、どうすればコックリが心から求める女性になれるか悩んで、気づけばずっと無言で歩く。

 そんな時だったの。


「怒ってる? シス」

「えっ!?」

 な、なに何に!? 怒ってるように見えるの!? 思いもよらない言葉に私は彼を見ると、彼は不安そうな顔で。

 ああ、レリーとイチャイチャしているのを見て、ヤキモチ妬いている風に見えてる!?

 ち、違うよ、逆だもの。私なんかじゃ色っぽい美女に太刀打ちできないって、落ち込んでるんだよ。


「休んだ方がいいとは思うんだけどジッとしていられなくて……怒るよね」

「あ、ああ~~……」

 そっち。そっちね!

 なるほど、そっちのことで怒ってるって思ってたのね。

 何となくホッとする私の心。嫉妬してるって思われなくて良かった。

 うう、確かにレリーとの仲睦まじいシーンを見て落ち込んでなかったら、怒っていたかもしれない。


「シス?」

「ああうん。怒ってなんかなくて……」

「そう? でも何だか怖い感じで」

「こ、怖い!?」

 ええ~~、コックリに恐怖を与えてしまっている!?

 これじゃあ、益々彼を支えるなんてできっこない。


「あ、もしかして血を使い過ぎて!? 体調が!?」

「ち、違う違う! ちょ、ちょっと落ち込むことがあったの」

「落ち込む? そうか、そうだな。助けられない命があったし、今も苦しんでいる獣人たちがいるもんな」

 何だかコックリは色々思い違いをしているみたい。でも確かにそのことも心が苦しいのは確かだ。


「うん。でも私たちは休まないと……明日、断崖上でオークたちの軍団を迎え撃って、倒さないとオークの軍団がここを襲ってくるかもしれない。そうでしょ?」

「ああ、そうだ。俺たちは万全な状態にならないとだめだ。ケガした仲間のためにも、看病してくれる仲間のためにも、万全にならないと」

「うん」

 話せたことで、なぜか心が軽くなった私。きっと一人で考え込むと悶々としてしまうんだ。何でもない話でも、彼と話せば気分が晴れるのが分かる。

 はあ。もっと話したい。何でもいいの。

 ううん、やっぱり話さなくてもいい。そばにいられれば、それだけでいいの。

 休まなくちゃって言ったけれど、このままいたい。彼のそばに。

 でも彼は森へと歩きだそうとして。

 私は思わず彼の服の裾をつまみ引き留めてしまう。


「シス?」

「……」

 もう少し、いたい。

 そばにいたいの。コックリのそばに。

 コックリの呼吸を感じて、匂いを感じて、温かさを感じたい。寝ちゃったら感じられないんだもの。

 彼は察してくれたのか、立ち止まったまま空を見上げる。はあ、首が太くて長くて、横顔が凛々しい。はあ、レリーはあんなに簡単に彼に触れられて羨ましい。

 私は彼の服をつまむ。それしかできない。

 寒い峡谷の合間で、私たちは立ち止まり夜空を見る。ああ、空気が凛として、まるで冷気の毛布にくるまれるよう。


「綺麗な星空だね……峡谷が星空を切り取って天の川みたいで」

「うん」

 彼は一緒に星空を眺めてくれる。

 疲れているハズなのに、それが嬉しかった。

 二人でか細い虫の音を聞き、風の冷たさを感じ、星の降る夜空を眺めていると、いつしかさっきまでの心苦しさが嘘のように晴れ渡って……

 ああ、ありがとう。

 はあ、好き。コックリ。

 星空を見上げながら、コックリの横顔を見つめる。凛々しい。凛々しいの。何でこんなに凛々しいんだろう。ずっと見つめていたら、私の視線に気づいた彼がこちらを見たの。ひゃあ、恥ずかしい!


「ふふ、どうしたの?」

「な、何でもないの。ありがとう、コックリ」

「ふふ、さあ宿坊はすぐそこだね。早く休んで、しっかり回復しよう」

「うん」

 森を見れば、霊妙な大樹のシルエットが私たちを静かに密やかに、見守るように待っている。

 そこには不思議なシルエットも。

 大樹の枝から幾つもの綱がぶら下がり、繭玉のようなものがついているの。彼は私の指が服の裾から離れないよう、ゆっくり歩く。


「ふふ、蚕とミノムシの中間みたいな寝床だね」

「うふふ、本当。蔓草が多い森だからできるのね」

 ああ、笑えるようになった。

 この繭玉の中に入って、ハンモックのように妖精や獣人たちが眠っている。うふふ、適度な揺れが凄く心地よくて、疲れにとってもいい宿泊形態なんだ。

 どの繭玉からも盛大ないびきが聞こえてくる。大柄なライオロスでも入れるくらいの繭玉が幾つもあるわ。ああ、小柄なコロボクルは何人か一緒に入っている。うふふ、リスの寝床みたい。


「コックリ、どこか空いてるかなぁ?」

「んーー。出遅れたから、どれも入ってるね」

「あ、コックリ。そこが空いてるみたいよ」

「ああ」

 一つの繭玉が空いていたの。

 入り口が二つあって、中央に蔦と葉のカーテンで仕切られている。ちょうど二人用だ。


「やったね、コックリ。ちょうど二人用だよ、ここ。私はこっち側で寝るから、コックリは反対側で寝れるね」

「んーー? うーーん」

 コックリは腕組みしたまま、首をひねっている。


「? どうしたの?」

「うーーん。仕切りで隔てられてるけれど、ちょっとな」

「え?」

「いや、二人用で隣が俺じゃあ……問題でしょ」

 女性二人用だよ、と彼は他の寝床を探す。

 な、なるほど。言われてみると付近では女性二人が入って寝ている。気づかなかった。じゃあ別々? ここで別々? 離れるの? 私、一人? 私、一人?

 嫌だ! 離れたくない!


「だ、大丈夫だよ~~。気にしないよ私」

「気にすべきだ。シスの名誉に関わる問題になる」

「~~~~~~~っっ!!」

 だ、駄目だ頭カッチカチだ!

 どどど、どうしよう! 離れたくない。でも今にも別の場所へ行こうとするコックリ。私は彼の服の裾を握り締める。

 同時に頭をフル回転して、コックリが断れないような言い訳を考える。


「あの……その。ふ、不安で、怖いから一緒にいてほしいの」

「え? 不安? 怖い?」

「う、うん。もし私が一人で寝たとして、知らない人が逆側に入ったら」 私は繭玉を見て「それが男性だったら、怖いし……私はコックリが隣にいてくれた方が安心して休めるの」

「ああ~~」コックリは悩む「ううーーん」

「お、お願い!」 思わず祈る私「助けると思って、ね? 不安で、心細いよ~~! 皆が起きる前まででいいから~~!」

 うう。我が儘なのは分かってるよ。でも、どうしてもそばにいたいの!


「ううーん。皆が起きる前に出れば、か。じゃあ、夜明け前までだよ?」

「!」

 や、やったぁ~~! 上手く説得できたぁ~~!

 私は跳び跳ねそうになるのを必死にこらえる。

 うふふ、嬉しい。寝る時もコックリをそばで感じられるなんて。とコックリが呟く。


「ローレンが怒るかな? 知られないようにしないと(ブツブツ)」

「え? まあ、いつも怒ってるから大丈夫よ~~」

「いや、そういうことじゃ……フゥ全く鈍いというか。まあいいや、じゃあ俺はこっちから」

 鈍い? 何かしら? まあいいや。

 まずコックリが入ると、重みで一段下がる。

 うふふ、重い重い、やっぱりマッシヴだわ。筋肉と立派な体躯の重み、うふふ。私も繭玉に入ると、見えない壁の向こう側にコックリを感じる。


「うふふ~~」

「どうしたの?」

「ううん、何でも~~」

「イビキうるさかったらゴメンな」

「音消しの魔法あるから大丈夫」

「くく、それは安心」

 蔦の間仕切りの向こうで楽しげなコックリを感じる。うふふ、私も楽しくなる。私は思わず壁の葉をめくる。


「あ、コックリ。ここの葉を動かすとコックリが見えるよ~~」

「ちょ、寛いでるところを見ないでくれ」

「うふふ、いいじゃない。減るもんじゃないし」

「いや、減ることはないけどシスだって無防備なところ見られたら嫌だろ?」

「コックリは神殿騎士だから見ないでしょ?」

「話が噛み合ってないよ、もう~」

 コックリが呆れてるので私は可笑しくなった。ああ、はしゃぎすぎかなあ? だって嬉しいんだもの。


「うふふ、じゃあこっちの下から手を出して」

 私は壁の下の隙間に手を突っ込み、合図を送る。


「え、何で?」

「いいからいいから」

「え? 何か企んでない?」

「信用して」

「ううむ、シスはイタズラ好きだからなあ」

「もう! 意気地無し!」

 そう言うと「意……じゃあやってやらあ!」と手が出てくる。うふふ、子供っぽい!


「うふふ、出てきた出てきた」

 はわぁ~~、大きな手だ~~。指が長くて太くて、はわぁ~~爪も幅広で大きいなあ~~。でも豆やタコができた厚くて硬い手。

 私は横になると彼の手に自分の手を重ねる。壁で彼が見えないから、ちょっと大胆なことができて、彼の手首から肘までの部分をふわりと抱き締めてみたの。


「ちょ、何? 何してんだ?」 慌てふためく彼。

「横にいるのは確かにコックリだって確認」

「い、いるよ、確認しなくても!」

「うふふ、それとこれならコックリの霊力回復するんじゃないかな?」

 そう、レリーの言う力があれば、これで霊力が回復するはず。


「き、気になって眠れないんですけど?」

「じゃあ眠りの精霊かける?」

「そうじゃなくて……まったく(ブツブツ)」

「うふふ。きっと霊力回復するよ」

 はあぁ~~

 大きくて温かい手に安心する。

 抱き締めた分厚い手を見つめながら軽く吐息を吹き掛けると、ピクッと反応する。可愛い。もう。

 好き。

 彼の手にちょっかい出していたら、彼の手に私の髪がハラリと垂れて。そうしたら彼は私の髪を優しく摘まんで撫でる。


「は、はわわっ!」

「ふふ、御返しだ」

 もう! また女性の髪を撫でるなんて!

 私は彼の手を思い切り抱き締める。胸にめり込むとコックリは「うわっ!」と叫んで慌てて手を引っ込めようとしたけれど、そうはいかないもん。

 全体重を乗せてしがみつくと「分かった分かった」と静かになった。うふふ、勝った~。勝ったわ~。

 その後、私は彼の手の平の上に顔を乗せる。

 ほわぁ~~、指が長くて大きな手だ~~。

 私のあごから頭頂部まである大きな手。鍛え上げられた、硬く分厚いガサガサの手。でも暖かい……

 手の平を枕に、彼の太く逞しい腕に触れると、熱い血潮がドクンドクンと流れているのが分かる。はわあぁ~~コックリの鼓動のリズムに胸がドキドキする。息遣いと気配を感じられるの……

 仕切りを隔てて、数十センチの距離に彼が横たわっているんだわ……

 もう、添い寝しているようなものよね……

 こ、恋人、同士みたい……


「……」

 好き。はぁ、彼が好き。

 もう……何でこんなに想いが溢れてくるの?

 どうしようもなく好き。

 好きすぎて、嫌がられたらどうしよう?

 はぁ……

 でもコックリが私なんかに、こんな私なんかに良くも悪くも心動かされることなんかないかしら。

 彼は特別なひとだから、私なんかじゃ……

 コックリの心が分からなくて、それで思い悩むことがあったけれど……

 今は……忘れよう。

 今は、そばにいたい。そばにいさせてほしい。


 彼の手の温かさに癒されていると、いつの間にか熟睡していて、気づいた時にはもう朝だった。

 コックリの手はまだ私の頭を支えてくれていて、ずっと私を守ってくれていた。そんな状態で彼が休めたか心配になったけれど彼の霊力も大きく回復していて、彼も私も凄くビックリした。だってニ~三時間しか経ってないんだもの。

 私にも、男の人の霊力を回復させる力があるんだろうか……

 彼は、私たち妖精や獣人たちにとってかけ替えのない存在。そんな彼を私は癒せたんだ……嬉しい。ただただ嬉しい。

 今日、私たちは朝一番に断崖を登る。

 万全な状態で臨ませられる。

 私はそれが嬉しかった。



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