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リートの大断崖08

 

 峡谷に影が落ちる。

 断崖の険しい影が。

 影は針葉樹と広葉樹の森を包み、独特の暗がりを作り上げる。

 森の暗がり。

 その暗がりの中には、白く発光するようなゲルが幾つも点在する。

 オークたちが襲った、獣人の移動用住居だ。

 ゲルは選ばれた者だけが利用する。

 オークたちの実力者、メスのボスオークたちが。

 オークはメス中心の社会で、オスよりも体が大きく力も強い。ボスオークたちは、比較的強いオスのオークをゲルに呼び込み、性交し、子を産む。半年で数匹を産み、若いオスや弱いオスに育てさせる。

 ゆえに若いオークたちは強くなるため、または日頃のうさを晴らすため、時間を見つけては戦闘訓練を行う。

 その時もそうだった。


「ヴギイイイイッ!!」

「ブガアアアアッ!!」

 ドカンッ!!

 重いものが激しくぶつかる音が響く! 分厚い大胸筋と大胸筋が押し合い、逞しい腕が互いの腰布を握りしめ、がっぷり四つに取っ組み合う! 身長二メートル、体重二百キロを越える者同士の取っ組み合い! その光景は豪快の一言だ。


「「ブオオオオ! 押ゼエエエッ!!」」

「「ブギイイイ! 投ゲロオオオオッ!!」」

 周囲を取り囲むオークたちの怒声と歓声! 拮抗した豪快な取り組みに、その場のオークたちも興奮しているのだ。

 それは他の場所でも。

 堅牢な石垣を望む大きな広場では、そこかしこで力比べをしている。素手で殴りあいしているものもあれば、棍棒で殴りあいをしているものもある。

 自分たちが造り上げた圧倒的な建造物は「絶対に破られない」という安心感を生み出し、ある種の高陽感を生み出す。

 オーク、オーガー、トロールは、入り交じり、怒声に歓声を上げ、さらなる高揚感と闘争心を高める。最も多くの魔人たちを集め、盛り上がっていたのは、断崖寄りの空き地で力比べをしている組だった。


「ヴギイイイイッ!!」

「ブガアアアアッ!!」

 がっぷり四つに組む両者は、足の指で大地を、草花を握りしめ、押し負けないよう、投げられないよう、鷲掴む!

 上腕二頭筋には青筋が走り、茶褐色の肌は赤みを帯びる。下牙の生えた歯を食い縛り、両者から湯気が立ち上ぼり始めたその時だった──!


 ドッパーーーンッ!! ズズンッ!!


「「ブヒヒッ!?」」

「「ウガウガ!?」」

 突如、炸裂音とともに地響きが! 自分たちの真後ろで!

 オークたちが振り返ると、何人かのオークとオーガーが倒れているではないか!


「ブヒッ!?」

「ドウシタガ!?」

「一体、何ガ!?」

 よく見れば、一番上で倒れているオークは革鎧を着ている。ここに集まっているものは皆、裸に腰布程度なのに。ということは石垣の上で警備をしているオークか!?


「「ブヒヒッ!?」」

 皆で石垣を見上げたその時、視界の片隅に!

 断崖の上から! 落ちて来る影!


 ドッパーーーンッ!! ズズンッ!!


「「ッッ!!」」

 避ける間もなく! 一匹のオーガーが下敷きに!


「「ブヒヒッ!?」」

「「何ダ!?」」

「断崖上ノ警備ノ奴ラダ!」

 そう、断崖上の砦を守っていたオークが落ちてきたのだ!


「足ヲ踏ミ外シダガ!?」

「馬鹿ナ! 二人モ足ヲ踏ミ外スナンデ、アルガ!?」

「見ロ! 刀傷ダガ!!」

 そう、肩口から脇腹にかけて、撫で斬りにされた痕が!

 最初に落ちてきたオークを見れば、脳天を斧のような凶器でかち割られている!

 すなわち!


「「断崖上ノ砦ガ襲ワレデイル!!」」

 オークたちが断崖上を見た次の瞬間!

 バラバラと何かの破片が!

 あれは!


「岩ダ!」

 ドドドドッと岩が頭上から降ってくる!


「「ブギャアアア!!」」

「断崖ガラ離レロオオオッ!」

「「ブヒヒ~~ッ!」」

 断崖から離れて間一髪難を逃れる魔人たち。

 断崖上に目を凝らせば、影で見づらいものの、何十人と一列に並んで石や岩を落とす人影が見える! あれは!


「獣人ドモダ!」

「ブヒッ!? 人質ノ獣人ドモガカ!?」

「護衛ノ奴ラハ!? ドウシダガ!?」

 混乱しながらも、護衛のオークたちがやられたことを理解したオークたち!


「クソガ! 負ケタダガ!?」

「無能ガ! 何ヤッテンダ!!」

 頂上には三十近いオークとオーガーがいたハズなのに! 人質として弱らせた上、武器のない女獣人に負けるなんて!


「ドウスルガ!?」

 頭上から石や岩を投げ落とす敵との戦いなど、まるで想定していない!


「ドウスルモ! 登ル他アルマイガ!!」

 その時!


「「ブアッ!? 何ダアレ!?」」

 皆がある一点を見上げている。

 それは断崖の角部分。

 最初、小さな石だと思った。だが、八百メートルの高さにあるそれが小石であるハズがないと次の瞬間には分かった。


「「ブヒヒッ!! アレハ!!」」

「「ママ、マサカッ!!」」

「「イッ、岩ダ!!」」

「「デカイッ!! ブギャアアアッ!!」」

 岩は直径十メートル超!

 長細い岩が、ゆっくりと断崖から剥がれて!

 横倒しに!


「「落ヂデグルゾオオッ!!」」

 自分たちのいる場所から離れている! 自分たちは無事だ! だがオークたちは思わず頭を抱えた! その落下地点にあるものが予想できたからだ!


「「石垣ガアアアッ!!」」

 そう! 落下地点には石垣が!

 激突の瞬間、目を閉じる!


 ゴッパアアアアーーンンッッ!! ガラガラガラッ!!


「「~~~~~ッッ!!」」

 けたたましい破壊音に、細かい砂礫を帯びた爆風が突き抜ける! チリチリと肌を刺す砂つぶての爆風。恐る恐る目を開けるオークたち。

 そこにはモクモクと立ち上る砂煙が。灰色がかった煙の中に、高さ三十メートルまで組み上げた石垣が! だが!


「「ブヒヒ~~~ッ!!」」

 オークたちは情けない悲鳴を上げた。

 煙の中、大岩が激突した石垣は見るも無惨に大きく抉られ、崩れていたからだ!


「ヤバイ!! 壁ガ!」

「ボ、防御ガ!!」

 今までは見えなかった向こう側の景色が、砂煙の中に見える! 壁が崩れてしまったのだ! 魔人たちは悲鳴を上げた!


「「ブヒヒヒヒイイイッ!!」」

「落ヂ着ゲ! 良グ見ロ! 一部ガ壊レタダゲダガ!」

 そう、良く見れば高さ三十メートルの石垣の一部が、深く抉れただけ。それに抉れたといっても、まだ地上から十数メートルはある! また積み上げれば!


「「ブヒヒッ、ダ、大丈夫ガ!?」」

「「大丈夫ガ!?」」

 だが砂煙が治まるにつれ、魔人たちは再び狼狽し始めた。


「「ブヒヒッ! 瓦礫ガ!」」

「「ブヒヒッ、坂道ダガアア!!」」

 そう、瓦礫! 瓦礫の坂道だ! 崩れた石垣の瓦礫が足場になっている! 絶壁だったハズの石垣は崩れ、瓦礫によって坂道になってしまった! それゆえ、登ることは容易い!


「「ブヒヒッ!! アレハ!!」」

「「マサカッ!! 二回目!?」」

「「マタ岩ダアアア!!」」

 また! 長細い岩が断崖から剥がれ始める!

 なぜ!? なぜ続けて!? 断崖に目を凝らせば、馬のシルエット!


「ゲンダウロズダガアアア!!」

 そうケンタウロスだ!

 ケンタウロスが仁王立ちしているシルエットが! その時!


「ウルサイネエッ!! 何ダッテンダイッ!!」

 森の奥から、一回りも大きなボスオークたち数匹がドスドスとやってくる。明らかに不機嫌そうなメスのボスオークたち! だが石垣を見た瞬間、目を見張る!


「「ブホッ!?」」

「「ナッ、何ダイ、アレハ!?」」

「「ドウナッテンダイ!?」」

「「何故! 壊レテル!?」」

 ボスオークたちの剣幕にたじろぐオークたち。その時、二回目の大岩が剥がれ落ちて!


 ゴッパアアアアーーンンッッ!! ガラガラガラッ!!


「「ブアアア~~ッ!!」」

「ド、ドウナッテンダイ!?」

「ウ、上ニ連行シダ人質ノ獣人ドモガ、ヤッダヨウデ!」

「ボケガ!! ジャア早ク登ッテ、ブッ殺シテ来ナッ!!」

「「ブヒヒッ!!」」

「待テ、ヘルハウンドヲ先ニ放チナッ!!」

「「ブヒヒッ!!」」

 オークたちは、峡谷の奥で牢獄の番犬として放し飼いにしているヘルハウンドを五十匹近く連れて来る!

 降ってくる石や岩の少ない部分を選びながら、大洞窟へ! 投石によって怪我をするオークたちが少なからず出たものの、その大洞窟の入り口はオーバーハングしているゆえ、そこに入ればこっちのものだ!


「「ブヒヒッ、辿リ着イタ!」」

 洞窟内には既に多くの魔人たちが武器を装備している。

 ヘルハウンドを連れてきたオークたちは、首輪とロープを外すと大声で命令する!


「犬ドモ! 登ッデ、獣人殺ズガ!!」

「頂上ノ敵ヲ噛ミ殺ゼエエ!!」

「「ゴアアアアア!!」」

 ヘルハウンドは風の如く、坂道など存在しないかのように駆け上がってすぐに見えなくなる!


「マダマダアアッ! 犬ヲ解キ放ツゾオオオ~~ッ!!」

「「行ゲ行ゲエエエ~~ッ!!」」

 続けざまに、別の場所の番犬を連れて来ると解き放つ! 風が駆け昇るかのごとくだ!

 最終的に百匹近い番犬が洞窟の坂道を駆け登って行く!


「「行ゲ行ゲエエエッ!!」」

「「噛ミ殺ゼエエ!!」」

 オスたちの歓声の中、それをかき消すような怒声が!


「クソオスドモガ!! オ前ラモ行ケイッ!!」

「「ブヒヒッ!!」」

 ボスオーク一匹の怒声は大洞窟を震わせ、パラパラと砂粒が落ちてくる!

 魔人たちは坂道を走り出した!

 オークたちは出来れば行きたくはなかった。何故ならば、頂上までは十キロ近く坂道が続いているからだ。なだらかな坂ではあるが、十キロ近く登りっぱなしは疲れる。

 人質を連れて断崖上へ連行する仕事は、罰ゲームのようなものだった。


「「ゼエエッ!! ゼエエッ!!」」

「「ブヒイイイッ!! ブヒイイイッ!!」」

 暗い洞窟内にオークやオーガーたちの激しい呼吸音が響く!

 元々走るのが苦手な上、登り坂ときているのだから当然だ。オークやオーガーたちは次第に歩きだした。


「ゼエエッ、今頃ヘルハウンド共ガ倒シテルガア~~」

「ウガウガ~~」

 暗い洞窟内。カビ臭いような、埃っぽい空気が洞窟内に漂う。光が射し込まないためヒンヤリと冷たく、熱くなった身体に気持ちいい。オークたちはドッシリと尻を着くと、大の字に寝そべる。


「ブヒイ~~、生ギ返ルガー」

「「ブヒブヒ」」

 寝そべればアーチを描く天井が続く。テラテラと光って見えるのは、水が染みでている証拠だ。染みでた水は壁を伝い、ダラダラと流れ落ちる。

 喉の渇きを覚えた魔人たちは壁を舐めると、程よいミネラルも取れて、疲れが少しだけ引く。


「オイ! ドウジダガ~?」

「サッキ、犬ガ登ッテ行ッダガー?」

 洞窟の奥から見張りをしているオークたちがやってくる。


「頂上ニ敵ガイルガー」

「「マジガ~~!?」」

「サア~~、行グガ~~!」

「「ブヒヒ~~ッ!!」」

「「ウガウガ~~」」

 重い腰を上げると、やはり体は重い。だが行かなくてはならない。もう四十分以上は経っているが、八階層ある洞窟の登山道の四階層までしか来ていない。


「ゼエエッ、今頃ヘルハウンド共ガ倒シテルガア~~」

「「ゼエエーー、ゼエエーー、ソウダナ~~! ブハアアーーッ!」」

 きっとヘルハウンドたちはもう、頂上に着いて獣人どもを噛み殺しているだろう。百匹近く放したのだ。きっと噛み殺している。間違いない。

 ならば急ぐ必要はない。

 そう思っていた。



 ◇◇◇◇◇



 その頃、地表に残っていたボスオークたちは、残ったオスのオークやオーガー、トロールに革鎧やヘルムを装備させると瓦礫の撤去を急がせる。


「先ニ石壁ノ外ノ瓦礫ヲ撤去シナアッ!!」

「外カラ侵入出来ナイヨウニスルンダヨ!!」

「「ブヒヒッ!!」」

「「ウガウガ!!」」

 撤去中も相変わらず小さな石が降ってくる! ボスオークたちは石が当たらない場所で指示をするが、瓦礫撤去作業のオークたちはゴツンゴツンと当たり、革鎧を纏っていても負傷を大きくしていく。


「「グガ!! 痛デデッ!!」」

「「グギャッ!」」

「ヌウウ、石ガウルサイネエッ!!」

「マダ倒セナイノカイッ!」

 苛立つボスオーク達が上を見たその時、信じられない物を見た!


「「ブッ!?」」

 今まで落ちて来た小さな石とは比べ物にならないほど大きな影が! 大量に! 落ちて来た!


「「ブヒヒッ!? オ前ラ避ケナアアッ!!」」

 しかし、時既に遅し!


「「ブヒッ!?」」

 ドドドドドッ!!

 ゴスゴスゴスゴスッ!!


「「オゴゴッ!?」」

「「ブギュエッ!?」」

 何体もの魔人たちが下敷きになる!

 一体何が!? 石ではない! それに気づいた時、ボスオークたちは目を見張った!


「バ、馬鹿ナッ!!」

「マサカッ!?」

 大量に落ちて来たそれ!

 それは少し前に頂上へ走らせたヘルハウンドたちだったのだ!


「「ソンナ馬鹿ナッ!!」」

 あり得ない! そんな馬鹿なことが! しかし尚も落ちてくる!

 ドドドドドッ!!


「「馬鹿ナ! 何匹送ッタ!?」」

「「百匹ダ!!」」

「「早スギル!!」」

 そう、早すぎる! 犬が頂上に行くまでに要した時間を十五分としても! 倒すのが早すぎる! 一匹やニ匹なら倒すのに時間はかからないだろうが!

 ここに落ちて来たヘルハウンドの数は!


「「百匹全部!?」」

 そう、おびただしい数のヘルハウンドが!

 全て首を斬られ倒されている!

 慌てふためくボスオークと間一髪で助かった魔人たち! と、ボスオークの一匹がヘルハウンドの死体を確認する。ボスオークの中でも最年長のヤーオマリコだ。


「ドウヤラ、人質トハ別ノ戦士ガイル!」

「「別ノ戦士!?」」

「アア! 複数ノ戦士ガ!」

 ヤーオマリコは見抜いていた。ヘルハウンドの多くは鋭利な刃物で首を斬られているが中には斧のような武器で押し潰しながらぶつ切りにされた物もいる。その事から複数の武器を持つ戦士がいると分かる。


「犬百匹ヲコンナ短時間デ倒スナラ、相当数イル!?」

「アア!」

「犬ノ後ニ、オスヲ送リコンダガ! ドウナル!?」

「ヌウウ! 最悪、既ニヤラレテ……!」

 話している間でも、今度は一メートル程度の大岩が立て続けに落ちて来ては砕け、なだらかな坂道を作って行く!


「クソガア!」

「次カラ次ニ!」

 上から岩を落とされると石垣が壊れ、瓦礫によってなだらかな坂道になる! 瓦礫を撤去しようにも上から岩が落ちてくるため、危険すぎて続かない!

 だが倒しに行こうにも、かなりの手練れと人数の戦士たちが待ち構えている! 返り討ちに合う可能性が!


「ヌウウ! 主力部隊ヲ呼ビ戻スシカナイ!」

 さっき、獣人と妖精の混成軍を一掃しに行った部隊が主力部隊だ! しかし! 今、主力部隊を呼び戻したら、獣人と妖精の混成軍も来てしまう可能性がある! そうなったら、この坂道を登って来てしまう!


「ヌウ! 今地表ニイル戦士ハ何人ダイ!?」

「二百程! 犬ハ五十!」

 オークとオーガー、トロールが合計二百。だが、この壁の大穴を守るためには百は必要! 使える駒は百!


「上ニ行クヨ! 百、ツイテキナ!」

「「ブヒヒッ!!」」

「「ウガウガ!!」」

 ヤーオマリコは考えていた。

 先ほど上へ送った戦士たちも百はいた。頼りないボケナスのオスばかりだったが、さすがに敵にかなりのダメージを与えて、敵の数を半減させているハズだ。いやボケナスだから半減とは行かずとも、三割超減らしておけば、ボスオークを含めた追加の百で押しきれるハズ。さらに一人でも頂上へ抜けられれば、オークの巣窟へと援軍を呼びに行ける!


「人質ヲ! ニ十匹連レテオイデッ!! 先行サセルヨ!!」

「「ブヒヒッ!!」」

 そう、人質をロープで繋ぎ、二十匹ほど先行させる。合間合間にオークやオーガーを配置し、いざという時は盾や人質にする!

 頂上にはケンタウロスの影があった。獣人が仲間を裏切るハズがない!


「サア! 行クヨ!」

「「ブヒヒッ!!」」

 薄暗い洞窟内を、人質に先行させてボスオークたちは歩く。

 坂道が延々と続くゆえ、ヤーオマリコも登るのは好きではないが、ボケナスのオスどもでは頼り無さすぎなのでボスオークたちが行く他ない。


「フウー、フウー。コノ苦労ハーー、高クツクヨーー!」

「「ブフー、アア! 八ツ裂キニ、シテヤル!」」

 ボスオークたちは疲れを糧に、怒りを溜め込んでいく。生きたまま、棍棒でグチャグチャになるまで叩いてやる! ヘルハウンドどものエサだ!


「ブフー、ブフー!」

「「ブフー、ブフー!!」」

「「はぁ、はぁ」」

 先行する獣人たちも疲れの色が見える。反抗できないよう満足な食事も与えず、弱らせたからだ。


「ブフー、ブフー!」

「「ブフー、ブフー!!」」

「「はぁ、はぁ」」

 延々と洞窟の坂道を登ること五キロ。第五層の大洞窟内に入った時のこと……

 洞窟の半ばまで来たところで!


「「ブヒヒッ!?」」

「「はっ!! あれは──!」」

 先行していた人質とオークが、洞窟の奥にその人物を見つけた!


「「誰ダガ!? オ前ハ!?」」

 そう、洞窟奥のかがり火の近くで! 背の高い戦士が佇んでいる! いつの間に!? 最初からいたのか!? 後から光の範囲に来たのか!?


「ドウシタアッ!?」

 ヤーオマリコの怒声が後ろから聞こえる!


「誰カ! イルガ!!」

「動クナ! 人質ガイルガ!」

「「きゃああ!」」

 オークたちは乱暴に獣人女性たちを自分の目の前に引き寄せる!


「ソウダヨ! 動クンジャナイヨ!」

 ヤーオマリコと他のボスオークたちも、人質の髪を鷲掴むと自分たちの前に盾とする。


「「痛い! やめてえ!」」

「「助けてえ!!」」

「オ黙リ!」 ヤーオマリコは牙を剥く「オイ! オ前ダケデハアルマイ! 他ノ仲間ハドコダイ!?」

「ああ、確かに戦士は俺だけじゃない」

「ドコダイ!?」

「まあ待て。俺は人間の戦士でコークリットという」

「「人間!?」」

 人間!? 人間の戦士がなぜここに!?

 コークリットは、両手を上げると人間であることを証明するかのようにゆっくりと背中を見せ回転する。獣人とは違い、尻尾はない。


「ブフー、ブフー! 人間ガ何ノ用ダイ!?」

「人間の世界で不可解なことが起きているので、わざわざ調査に来たんだ」

「「不可解ナコト!?」」

「これだ」

 コークリットは手に隠し持っていた青石を見せる。

 するとヤーオマリコたちボスオークが目を大きくした!


「「ソレハ!」」

「『フェラトゥー』ノ霊石!!」

 それにはコークリットも僅かに目を大きくした。


「フェラトゥーの霊石?」

 フェラトゥー? 初めて聞く名前だった。

 やはり、オークたちは何か知っているのだ。


「知っていることを話して貰おうか」

 コークリットは霊石を懐にしまった。


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