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リートの大断崖07

 

 広々とした空間

 空間にポツリポツリと佇む巨大な岩石の柱

 柱を縫うように流れる白い雲の塊

 雲の塊に包まれる旅の一団



 ■システィーナの視点



 冷たい空気が汗ばむ体を冷やす。

 体を凍らせるような綿雲が、広々とした大地スレスレを流れる。

 いつか見た景色。

 美しくて、幻想的なような、胸の奥が切なくなる情景。でも悠長に眺めてはいられない! 見惚れている余裕はない!

 急がないと!

 警戒しながら、急がないと!


「ふっ、ふっ……」

 冷たい空気に鼻と喉が痛む。

 私は一角馬を降りて歩き、代わりに人質のうち疲労が重い少女たちを乗せている。

 少しでも急ぎたいから!

 早く進まないといけないから!


「ふうっ、ふうっ……」

 冷たい空気が、歩き通しで熱くなった体を冷やしてくれる。

 エミタリアさんたちを助けてから早くも一日。

 私たちは真南へと進路を変えて歩んでいるの。

 閉塞感ある岩塊の大地を抜けると、高山植物の平原。所々に伸び上がる岩の柱の地になって。

 もう大断崖の縁に近い!


「皆、あとちょっとよ。頑張って!」

 人質の女性たちは疲れの色を隠せない。

 家族を殺され、自分たちもどこへ連れて行かれるか分からない恐怖から解放されたとは言え、本当に助かるかは分からないんだもの……

 今は麻痺してるかもしれないけれど、助かって、気が緩んだ時に家族を失った悲しみや喪失感、そしてオークへの恐怖が襲ってくるかもしれない。心のケアをしてあげたい。


「……」

 私は振り返る。

 多くの女性獣人たちが重い足取りで歩む。

 数時間前のこと、オークやオーガーの一団がまた人質を連れて向こうからやって来ることをコックリが察知して。

 どうやら一日一回のペースで連れて来るみたい。再びそのオークたちを退治して人質を助けたの。

 今では人質の女性獣人たちが七十人くらいいる。

 この人数ではもう、間違いなくディアオロスの集落方面へは行けない! 水も食料もままならないわ!


「よし、ではここで止まりましょう」

 尖塔に似た岩柱の影で先頭のコックリは号令する。

 ああ、ボロボロになった獣人女性たちがへたりこむ。疲れてるんだわ。でも仕方ないの!

 せめて滋養強壮の丸薬を……と、思ったら最後尾から走りよる蹄の音。


「止まってどうした!? 敵か!?」 とハルさん。

「「どうしました!?」」 アグやエカもやってくる。

「いえ、偵察です!」 と汗を拭くコックリ。「あと七~八キロほどで断崖の縁になるんだ。敵地が近いから今回は念入りにやりたくて」

「おお、ついに断崖の縁か!」

「やっと着いたか!」

「やった!」「よしよし!」「やったね!」

 私とアグとテル君はハイタッチする。

 コックリは、断崖の状況とオークの要塞、敵の数や人質の数がどうなっているか偵察するという。


「周囲の警戒をよろしくお願いします」

「おう、任せろや!」

「ウム、いいだろう」 上から目線! くわあああっ!

 コックリは千里眼を飛ばすと目を閉じる。幾つも飛ばすときは集中するため目を閉じるみたい。

 彼の代わりに周囲を警戒すれば、切迫した私たちの悲壮感など意に介さない、柔らかな綿雲の絶景が流れる。

 ふぅ、この綿雲が私たちを隠してくれているならいいか……


「凄いな」 ボソッとつぶやく彼。「想像以上だ」

「「どんな感じだ!?」」

「「どんな感じ!?」」

 一斉に問いかける私たち。

 人質になった獣人たちから事情聴取したものの、彼女たちは主に夜に連行されて、ずっと牢屋に閉じ込められていたらしいので、あまり分からないらしく。


「ううむ、何から話すべきか……」 彼は目を閉じたまま「まず断崖ですが──」

 要約すると、こうなっているらしい。

 ・高さは八百メートルほど

 ・ほぼ垂直の断崖絶壁

 ・十数キロ奥まで裂け、巨大な峡谷になっている

 ・峡谷の幅は五百メートルで、奥に進むほど狭まる

 ・滝や川があり、森がある


「なんと! そんなに大きい峡谷が!」

「フム、川や森がある『 風の峡谷 』に似た場所だな?」

「うん、ヴァルパンサードが王だった峡谷ね。動物が多そう」

「そんなところに要塞なんてあるの!?」

 テル君がたまらず訊くと。


「要塞は──城壁のようだ」

 ・峡谷を塞ぐように築かれた壁

 ・壁は大小さまざまな石を組み上げ石灰質の粘土で固めた石垣

 ・厚みは五十メートル超

 ・高さは三十メートル超

 ・石垣中腹に小さな門

 ・働いているのはオーガーとトロール


「おいおい! デカい石垣だな!」

「ムウ、峡谷自体を壁で封印し、要塞化している感じか」

「そうです!」

「オーガーとトロール!?」 私は思わず唸った。「トロール……見たことないけど、岩みたいな肌の巨人よね?」

「ウム、そうだ」

「オーガーもトロールも力仕事が得意そうだね。そして戦闘も脅威だ」 テル君も唸る。

「妖魔は何匹いるんです?」

 アグが訊く。


「うん。オークやオーガーの数は──」

 ・オークは約三百~

 ・オーガー、トロールはともに約百ずつ

 ・ヘルハウンドは二百前後


「凄い数だな!」

「あれは獣人から奪ったゲルか? 大多数のオークは峡谷の中央に並ぶゲルで寝ています。夜行性だからか。しかし起きて活動しているものもいるので、概ね半々を昼の組と夜の組で分けて活動しているようです」

「ぬうう、我々の住居を!」ハルさんが怒る!

「ん? 峡谷を奥に進むと巨大な柵があるな」

「「巨大な柵!?」」

「二メートルはある……ああ、動物? 食料用の家畜か? 獣人たちの家畜をそのまま奪ったな。放し飼いになってる」

「僕たちの財産を!」

 今度はテル君が怒る! そうよね、家畜は彼らの財産だもん。


「あ、待て。動物だけじゃない」

 ・断崖の下に無数の洞窟。格子戸の無数の牢屋

 ・それぞれの牢屋にケンタウロス、サテュロス、リーフロスの女、子供、老人──

 ・三百名以上


「おおい、こっちも凄い数だな!」

「断崖の奥地に高い柵があって家畜が放し飼いになり、さらに洞窟が沢山あって木の格子がはまっているという」

「二重構造ってことか」

「囚われた獣人は──」 とコックリはハッと「あ! 妖精!?」

「「ええ!?」」

「耳が!」

「「耳が!?」」

「魚のヒレ」

「「湖妖精ニンフだ!」」

 ニンフが! まさか捕まっていたなんて!

 父さんたちはニンフに相互の協力関係を結びにマヌーの湖沼帯に向かっていたから、その前後!?


「数人います! 女性と子供、高齢な方!」

「「何てこった!」」

「ニンフはマヌー湖沼帯に三百名くらいいたハズよ。数人ということはどこかのニンフの村が襲われたってことかしら!?」

 ニンフは水中に家々があるらしいけれど、たまに湖面に浮上して日光や空気を補給するんだとか。その時に襲われたのかも?


「ん!?」

「「次は何だ!?」」

「子供!? いや、耳が少し尖っている?」

草妖精コロボクルだ!」

 コロボクルも十数人捕まっているって!

 彼らもケンタウロス同様、ファラレルの森を転々としながら、大陸を周遊して生活している。周遊している中で、オークらに捕まってしまったんだわ!


「助けなくちゃ!」

「どうやって助ける!? 本当に降りれるのか!?」 ハルさんが頭をかきむしりながら「確か道は、洞窟になってるんだよな!?」

「はい。断崖上下の道は──城壁から一キロほど奥」

 ・峡谷の下に巨大な洞窟の入り口

 ・中は広くオーガーも通れる高さ

 ・鍾乳洞に似た構造

 ・なだらかに登る大洞窟と崖っぷちのあぜ道が交互にある

 ・崖っぷちには橋がかかっている場所もある

 ・広めの洞窟には篝火とオークの見張り

 ・断崖上の崖っぷちにある出入り口には砦とオーク十数匹


「断崖上の出入り口に砦が!? 魔獣対策用の見張りだな? こちらからも攻めづらくなるな!」

「ただ、砦というにはお粗末な作り。蟻塚のような岩場で攻めるのは難しくありません」 コックリは探る「見張りは明らかに怠けている。恐らく一度も襲われたことがないのでしょう、緊張感はない。寝てる者もいる」

「ムウ、そこは上手く近づければ突破できるか。問題は洞窟にいるオークたちだな!」

「音を消す風の精霊魔法が行けるんじゃ?」

「「ああ! 行ける!」」

「フーム、ならば襲撃前に魔法をかけないとな。襲撃の音で気づかれよう」 嫌味男が唸る。

「ならばシス。私がシスをおぶって断崖絶壁を移動して近づきますか!?」 アグが私を見る。

「うん! そうしよう!」

「ならば我々ディアオロスが断崖絶壁を移動して近づき、砦を制圧しましょう」とエカ。「よもや目の前の大地からではなく、砦の後ろにある絶壁から襲われるとは思わないでしょう!」

「ウム、頼む! だが気をつけてくれ!」 嫌味男の言葉にエカたちが喜ぶ。

 そんなに嫌味男っていいかな?

 とテル君が重要なことを話す。


「ちょっと待って! 断崖上を制圧したとして、そのまま降りられるの!? 断崖の洞窟も、下の峡谷もオークたちの巣窟でしょ!?」

「「そうだった!」」

 そうだった! 現実的な問題として、こちらの戦力は少なすぎる! 砦を制圧しても後が続かない! テル君は続ける。


「このまま断崖脇を通って、ディアオロスの大瀑布まで行った方がいいんじゃないの!?」

「「そうか!」」

 そうか! その手があったか!

 私たちが来たルートだと毒の湖地帯があって全員分の風の守りは難しいけれど、断崖スレスレを通れば毒地帯がなくて、いずれディアオロスの集落につくかも!


「いや、それだとディアオロスの集落にオークたちを連れていく可能性が高い」 とコックリ。

「「ええ!?」」

「オークたちは疑問に思っているだろう。『 人質を奥地に送ったはずなのに、どこに逃げた 』と。向こうにはヘルハウンドがいる。匂いで追跡される可能性が高い」

「「そうか!」」

「あと、今現在断崖下に囚われている獣人や妖精たちを助けてやりたい! もう少し情報を探ります!」

「「頼む!」」

 皆が頷く!

 とアグが来た道を振り返って目を凝らす。


「ですが悠長に調べてはいられないのでは? オークたちの巣窟から、そろそろ大軍がやってくる頃じゃないですか?」

 そう! 昨日倒したオークに尋問をした結果!

 オークたちは人質を一日一回、断崖下の要塞から上へと連れて来て、岩塊の先にある「オークの巣窟」に連行しているんだって! 一日一回連れて行くから、昨日・今日と人質が連行されてないという異常事態にオークの巣窟から大群がやってくる可能性があるの!

 急がないといけない!


「そうだ、周囲への警戒を怠るな! オークだけじゃなく魔獣も襲ってくるかもしれん!」 ハルさんが周囲に視線を配る。「夜行性が多いとはいえな!」

「そうだわ! 魔獣や昆虫獣よ! ここら辺にいる魔獣をオークにぶつけるのは!? そのまま洞窟まで送り込んで下まで行かせるの! 沢山集められれば力になるわ!」

「悪くないですね!」 とアグ。

「いや、どうかな」 と嫌味男が「魔獣はオークの血肉に毒素があることを把握しているから元々襲わないだろう。逆に我々に襲い掛かってくるかもしれない」

「そ、そうか!」

「魔獣も狙い通り下まで行くかな!? 崖っぷちの道はあぜ道みたいなんだよね!? 怖くて降りないんじゃ!?」 とテル君。

「ああっ! そうかもっ!」

「くそっ! この人数でオーク軍団に正面からぶち当たるしかないか!?」 とハルさん。「崖っぷちの細道で、戦う人数が少なければ交代で何とかなるかもしれないが!」

「下から登って来るオークたちと戦うのはそれでいいとして、最悪のタイミングで奥地からオークの大軍が来たらどうしましょう!?」 アグが「挟み撃ちにされるんじゃ!?」

「「それはヤバいぞ!」」

「断崖上の砦でオークを迎え撃つ組と降りる組に分かれる!? 砦は籠城するような感じ!?」 とテル君。

「組を分けたとて、より少数で大軍を抑えられるとは思えん」 嫌味男。

「少ない戦力の分散は避けたいですね!」 エカ。

「むしろ砦を壊して通れないようにすれば!?」 とアグ。

「「なるほど!」」

 砦を壊す! 壊せば通れるようになるまで時間が稼げる!

 とコックリが目を瞑ったまま眉間にシワがよる。


「ん!?」

「「どうした!?」」

「武装したオークとオーガーが、要塞の壁から外の地へ出て行こうとしている!」

「「何だって!?」」

「「何匹!?」」

「百以上いる!」

 一体、なぜ?

 コックリは壁の外に千里眼を飛ばしているみたい。高い位置から俯瞰して見ているよう。


「あ! 数キロ先に獣人と妖精の一団が!」

「「何だって!?」」

「恐らく三百以上の獣人と妖精がいます!」

「「何だその一団は!?」」

「もしかして! スランたちが集めた混成軍!?」

「「そうかも!」」

 そうだよ、きっと!

 弟たちのミッションはそれだもん! 各種族を上手くまとめて軍にしたのかも!


「フム、確かにスランかもな! 獣人たちに一連の状況を報せて、オークを追って戦いに来たのかもしれんぞ。きっと防備が整ったから、撃って出ようということでな!」

「「なるほど!」」

「妖精の一団にスランやアルはいそう!?」 私は気が気じゃない!

「限界まで飛ばしているが、そこまでは見えない! でもウォーエルクっぽい四足獣に乗っているので、妖精はいるとは思う!」

「武装したオークらは、混成軍を急襲するか外で迎え撃つかってことか!」

 恐らくそう!


「援軍がいる! この状況を利用できんか!?」 とハルさん。「援軍との合流が!」

「そのためには、援軍に要塞を越えてもらわないといけない!」

「「それは、こちらから出来ることなのか!?」」


 まとめるとこう!

 ■最大ミッション■

 ・七十名の人質を守り、家族の元へ送り届ける

 ・三百名超の人質を助け、解放する


 ■戦場の状況■

 ・断崖上の数十キロ奥地にオークの巣窟があり、追手が来る可能性大

 ・断崖上の縁には砦あり、数十匹のオークらが見張り中

 ・断崖内部には、大洞窟と崖際の細道

 ・断崖内部にはオークの見張り

 ・断崖内部には迂回路、抜け道は見当たらず、概ね一本道

 ・地上の広場には数百超の妖魔

 ・地上には巨大な石壁の要塞

 ・石壁の向こうには、獣人と妖精の一団


「今、何とかなりそうなのはこの先にある砦!」

「はい! 私たちディアオロスに任せてください!」

「問題はそこから! 洞窟、断崖下、要塞!」

 皆がコックリを見る!


「どうする!?」 ハルさんがコックリを見る!

「どうする!?」 嫌味男がコックリを見る!

「「どうする!?」」 皆がコックリを見る!

 どうする!? でもとてもじゃないけれど、不利過ぎる!

 無理! 絶対無理!


「……」

 コックリは目を閉じてしばし考え込む。

 そして次の瞬間、目を開けると右手をグッと握りしめた!


「整いました! 皆さんの会話がヒントになり、戦略と戦術が整いました!」

「「ええっ!?」」

「地の利はこちらにあります! 耳を貸して下さい! うまく行きます! 楽勝です!」

「「楽勝!?」」

 それは驚くべき戦法だった!



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