リートの大断崖03
岩の尖塔が霞む彼方まで続く大地
大地には色鮮やかな植物と花々
花々を掠めて流れる白い綿雲
綿雲に包まれる冒険者たち
■システィーナの視点
ほおぉ~~。
吐く息が白く色付く。
天空の大地には凍てつく空気の層が落し蓋のように乗っているようで、とても寒い。目に見えない冷気の落し蓋ね。
青く透き通る空は、岩の尖塔が柱となって支えているみたい。風精霊が尖塔をクルクルと回って遊んでいる。何て光景……綺麗……魔獣がいるとは思えない、穏やかで静かな時が流れている。
尖塔の根元、波打つ高山植物の野原には、色とりどりの花。咲き誇って、冷たい空気の中に甘い蜜の香りが広がっている。はあ、小さな花々が散りばめられて、その上を小さな蝶がヒラヒラ舞う姿は、心が和む。一角馬が踏み込む野原は柔らかな感触で、旅を続ける私たちをいたわってくれる。
目と同じ高さに白い綿雲が流れていて、濃い影を落として。はあ、たまに雲の中に入るとひんやりと気持ちいい……
「「ふわぁ~あ……」」
私の隣を歩むテル君と後ろのアグが同時にあくびした。
うふふ。
ああもう、テル君は目を瞑ったまま歩いている。ああマズイわ。隊列から離れちゃう。
野原のそこかしこに可愛い草食動物が後ろ足で立ち上がって見慣れぬ一行の私たちを眺めている。地面に穴を掘って暮らすプレーリードッグの仲間ね。でも立つと二メートルくらいあるから人が立ってるみたい。のどかだわ……昨晩の騒ぎが嘘みたい。
「うふふ。眠いよねぇ、はい手」
「う~~ん、ぁんがとう」
私は一角馬に跨がりながらも、テル君と手をつないで彼がおかしな方向にいかないように気を付ける。
うふふ、眠いからか温かな手だわ。うふふ、十歳くらいだから手のひらも小さいし。ああ~~、あと十年もすればハルさんやコックリみたいに大きくなるのかなぁ?
はあ、小さいと言えば、サテュロスの幼児たちだ。はあぁ~~元気にしてるかなぁ。小さかったなぁ、可愛いかったなぁ……
「むにゃ」
「うふふ。うふふ」
昨晩は大変だったの。
サーペントと巨大アリの挟撃!
真逆の方角からの同時攻撃!
絶対無理! 助からない!
でもコックリの一瞬の戦略で危機を逆手に取ったの。
コックリは鎌首を上げたサーペントの虚をついて、一瞬で移動して! 胴体を真っ二つにしたの!
サーペントも獲物が瞬間移動するとは思わなかったんだろうね。
のたうち回るサーペントを、ハルさんが獣闘気キックで巨大アリの方へ吹き飛ばして!
巨大アリは何匹かサーペントに下敷きになったけれど、無事なアリはサーペントの肉に飛び付いて!
サーペントを倒した上で、巨大アリの意識をサーペントに向ける、見事な戦略!
危なかったと胸を撫で下ろしたのも束の間、さらに続きがあって。
あまりにものたうち回ったので辺り一帯が血で染まって、それが多くの肉食魔獣を呼び寄せることになったの。周囲から光る双貌が幾つも見えてその恐ろしいこと。肉食の魔獣や昆虫獣類は、夜行性が多いのね。
慌てて拠点を移動して野宿の準備をし直したので、皆あまり眠れなくて……
結局、昼前まで休んでいたけれどそれはそれで魔獣が襲いかかってくるし。
「「ふわ~~ぁ」」
後ろでディアオロスの女の子たちがやっぱりあくびしている。
彼女たちも昨晩、戦闘になったからなあ。彼女たちは荷物運びの山羊たちを守るため、よく戦っていた。華奢で美人な女の子たちなのに強いの!
「!」
ああ~~、そうだ! 女の子たちを見ていたら思い出した! ハーレムのこと!
結局コックリにハーレムのことを聞けなかったの! 彼がハーレムのことをどう思っているのか!
うう。「個人的に好きじゃない」って、どういう意味?
そんなこと言って、アグや族長をいやらしい目でみてるんだもん、怪しいよ! 絶対、「美人だ」とか「綺麗だ」って思ってる! スケベだよ!
確かに彼女たちは美人だよ。綺麗だよ。でも私だって、私だって! そんな風に見られたいの!
ああもう、男性を相手に容姿や見た目を気にするなんて、生まれて初めてだ……
ああもう、ああもう! メロメロ作戦どうしよう? 早くアルたち来ないかしら? 相談したいのに!
うう~~! 頭も心もグルグルする!
「~~~~~~」
私のモヤモヤなど知る由もない当の本人は、嫌味男と並んでウォーエルクに跨っている。人の気も知らないで! この!
ああもう! スリムに見えて逆三角形の背中がもう、グッと来る~~! もうだめ~~!
防寒用の上着を着ているから、キュッとした腰からお尻が見えないのが残念だぁ~~! くぅ~~っ、残念~~!
そんな彼は、ふと右方向を見た。はぁ凛々しい。カッコいいの。ああもう、そんな表情されたらドギマギしちゃう。どうしよう、彼への想いがどんどん積み上がって、積み増されてしまう。どうしよう。
すると横顔が険しくなった。
「右の丘の上に昆虫獣類が」
「昆虫獣類!?」
「「ええ!?」」
岩の尖塔群の向こう、綿雲の園の先に何かが飛ぶ!
大きい! あれはバッタ!? カニのハサミを持つバッタ!
体長四メートルはあろう黒いバッタが三匹、低空飛行で草食獣を追う!
「天空大地では逆!? 巨大昆虫獣類が草食獣を狙うのか!?」
あわわ、気持ち悪い!
大きい昆虫は気持ち悪い!
ブブブブブッと巨大な羽音を立てて飛ぶ!
雲を吹き飛ばし、植物を巻き上げながら凄い勢い!
とその時、逃げていた草食獣が!
ドカンッ!!
「「うおおっ!!」」
大地が突然爆発!? そう思えるくらいの勢いで大地が隆起して!
草食獣とバッタ一匹が爆発に巻き込まれる!
ああっ、爆発だと思ったら、大地に擬態して待ち伏せする蛙に似た魔獣!
蛙に似た魔獣が爆発的に口を開いたんだわ!
「あわわわっ! 僕たちもあそこを歩いていたら!」 震えるテル君。
「はわわわ、ここ怖い!」
「索霊域で待ち伏せ型魔獣の霊力は感知できているから大丈夫」 私たちを見るコックリ「でも後続部隊は危険だから、土人形や樹人形で周りを固めて進むように指示しておいたよ」
「「う、うん!」」
私が休養している間の天空大地アタックで分かっていたのね!?
「あのバッタは、このままこっちに気づかずやり過ごせれば……」
「ウム」
願いも虚しく、巨大バッタはこちらに気がつき、羽音を響かせながら迫ってきた!
あわわわわ!
◇◇◇◇◇
旅は続く。
天空大地の奥へ向かう毎に、広々とした大地は鳴りを潜める。
岩の柱の距離が狭くなってきて、巨大樹の森のような、岩柱の森みたいになってきたの。不思議。枝葉のない幹だけの森って感じで、何だか淋しい。枯れた森のよう。でも大地を覆う絨毯のような高山植物は勢いがあって目に鮮やかだわ。
「シス姉ちゃん、何だか景色が変わってきたね」
「うん、そうねぇ」
二人して周囲を見渡して感想を言う。ああ、あっちの石柱には足が八本もある巨大なトカゲが……襲ってこないか見ていたとき、ハルさんの緊迫した声が!
「おいコックリ! あれは何だ!? 何か動いてるぞ!?」
「え!? あっ!」 驚くコックリ!
「「何だあれ!?」」 驚く皆!
見れば、岩柱の森の先で何か動いてる!上下に、緩やかに!
ええ? 魔獣? ハルさんやアグたちが戦闘態勢に!
「魔獣!? 魔獣なの!?」
「いや、違う!」 コックリが千里眼で「マジか!?」
「「な、何があった!?」」
怖い怖い! 何が見えたの!?
「岩です! 岩が浮いていて! 上下に動いている!」
「「何!?」」
「「岩が! 浮いている!?」」
恐怖も吹き飛ぶ好奇心!
恐怖を忘れて、我先にと走り出す私たち!
するとビックリ! 本当に岩が浮いているの!
「はわわ、な、何で岩が?」
「「何で!?」」
大地から数メートルのところに、大きな岩が!
重そうな、灰色の大きな岩が!
それは何の変哲もない岩で、下界だったら峡谷の河原に転がっていそうな大岩! 岩のでっぱりには高山植物が生えているわ! 下から大岩の底面を見上げるなんて! 普通、地面の中でしょ!?
何で!? 何で浮いて!? どういう原理?
「でし~~! 見えない水とかあって浮いてるのかな!?」
まさにそれ! ぷかりぷかりと水に浮く氷みたい!
「ああ! これはもしかして、文献にあった『 浮遊石 』か!?」
「「浮遊石!?」」
コックリ曰く、法王庁の奥の院に所蔵されている文献にあったんだそう! 浮遊の力を持った石!
彼も実物を見るのは初めてなんだって!
「おいおい、これは石なんてもんじゃねえぞ! 岩だ!」
「本当です!」
見れば、至るところに浮いている!
象のような丸みのある岩や、直立した鯨のように大きな岩もあって、虚空に幾つも浮いていて……彼方先まで続いているの!
ぷかりぷかりと上下にゆっくり揺れ動いている!
ほおお~~、壮観! 壮観だわ!
こんな重そうな岩が!
お、落ちて来ないかしら? 間近で見たら、ほわ~~固そうで重そうな岩の迫力がもう! 思わず触ってみようとしたら嫌味男が「触れるな! 落ちるかもしれんぞ!」って!
ほわ~~!
「文献には、石そのものに浮力があるのではなくて、石に宿る霊力に浮遊の力か重力を遮断する力があるとか」
「石に宿る霊力」
石そのものじゃないのね!
コックリは目を輝かせる!
「し、調べたいな! け、研究したい!」
「研究!?」
「「いや、駄目だろ!?」」
そうよ、まだ駄目よ!
研究に時間を取られたら怪異の解決が遅くなるもの!
怪異が解決できてからでもいいじゃない!
「そ、そうだよな。怪異が先だ。ついつい目の前のことに興味を惹かれ、重要なことを忘れてしまった」
「駄目です神殿騎士殿! それは私の決め台詞です! 勝手に真似しないで下さい!」 アグが叫ぶ!
決め台詞なの!?
「あ! 神殿騎士様! 浮遊岩の上に大きな山羊が!」
「マジか!」
「「スゲエ!!」」
宙に浮く鯨並みの大きな岩には沢山の足場があって、三メートルはある大山羊が浮遊岩に生える草を食んでいる! ほわ~~っ!
あんな重そうな大山羊が何頭乗っても落ちてこないなんて!
見上げる私たちを尻目に、次々と林立する石柱から浮遊岩に飛び乗る大山羊が! それでも岩は落ちてこない! わずかにわずかに、大山羊の動きに合わせて上下に動いている!
ああ、大河にも浮遊岩が浮いているし、岩と岩が蔓草で繋がっているところがあるから、それを利用して移動するのね!
絵になる、何て絵になる風景なの?
「ああ、あっちの浮遊岩には大カモシカの群れがいますね!」 アグが見上げて。「大きいですね! 美味しそうです!」
「ホントだ! って美味しそう!?」
そうなの。
緑の浮遊岩の側面には栄養が豊富そうな高山植物が茂っていて、大山羊や大カモシカの群れがそこかしこで蔓草を食べている。
「フム、あの浮遊岩の上なら、地を這う魔獣類から逃げられるか」
「あっ、見て!」 私は左の大河を指した「大河から魔獣が!」
「「おお!?」」
イグアナのような顔の魔獣が緩やかな大河から長い首を出して!
大河脇の浮遊岩を見上げてる!?
視線の先には壁の足場を歩いて遠ざかるカモシカの群れ! 何かする気!? 首長とはいえ、とてもじゃないけれど届く距離じゃないよ!?
「「あっ!!」」
ああっ、首の付け根がボコッと膨らんだと思ったらゴボゴボッと顔の方に持ち上がって!
次の瞬間、鼻から「ボボッボボッ!」って水の弾丸が!
連射連射!
絶壁上の大カモシカにバシバシ命中! 巨大でどっしりしているとはいえ、突然の水攻めで滑って、何匹ものカモシカが落ちる!
ドボボ! ドボン!
「「ああっ!!」」
「大河の魔獣が!」
鼻から水弾丸を発射した魔獣とは別の魔獣が!
落ちたカモシカたちへと一斉に襲いかかって! ひゃあ、穏やかだった水面が血の池地獄のように!
「離れているとはいえ、こちらも用心しましょう!」
「「おう!」」
なるべく大河には近づきすぎないように、でも離れないように進む。
緩やかな大河を眺めながら進む緑の大地。緑の大地には幹のような岩柱が林立し、浮遊岩が実のように静止する……何て光景なの!?
ほわ~~! 重そうな浮遊岩が、まるで雲みたい! でも雲と違うのは、風で流れて行かないし、形を変えることもない。上下にゆっくり、ゆっくり浮いたり沈んだり……何て不思議な光景なの?
思わず宙を見上げながら緑の天空大地を歩む私。
だからこそ注意が散漫になってしまって……
「危ない、大地の中に土蜘蛛が!」
「「うおおおっ!?」」
「今度は浮遊岩の陰に昆虫獣類です!」
「「うおおおっ!?」」
てんやわんやだわ!
何でこんなに肉食昆虫が多いの!? しかも大きいし!
大河のそばも危険だけれど、大地も危険! 色々なところに潜んでいてキリがない!
さらに支流がちょくちょく大河に合流するから、そのたびにコックリが大河の中の青砂を調べに行くので、もう気が気でない。『 探索圏 』の魔法は、調べたいモノへの集中力を要するらしいから、魔獣の接近にまで気が回らないんだって。
今も大河を調べて来たコックリは水棲の爬虫獣類に襲われて! はあ~~。
「フッ、ご苦労だったな神殿騎士殿。やはり青砂は多いか?」
「言い方っ!」
「凄い多かった~。光の加減によっては、肉眼でもキラキラ輝いて見えるかもしれない」
「「そんなに!?」」
コックリ曰く、深い水底には満天の星空のように青砂が輝いていたんだそう。人間の世界では雲泥の差だって。
「でしし、僕も見たいな!」
「もう~~、夜空の星にしておきなさいね」
「あの青砂の量や砂底への潜り込み方からすると、恐らく数年前から流れてきているんじゃないかな」
「「数年前!?」」
そんな以前から!?
「フム、あの広大なマヌーの湖沼帯を越えて人間界まで流れているんだからな。だいぶ前からだろう」
「そうか、そうだよね」
全然気づかないうちに怪異は侵攻していたのね。
少なくとも二~三年くらい前から流れているんじゃないかって。ハルさんが珍しく難しい顔で首をひねりながら。
「まったく何なんだろうなあ、この砂はなあ」
「本当ですね。このテーブルマウンテンと言える天空大地特有の稀少で霊妙な鉱石なのか……?」
「フム。言われてみれば、奇岩に囲まれたこの大地なら、あり得る話だな」
奇岩か。そうよねえ、奇岩だわ。
皆で周囲に広がる岩柱に浮遊岩を見渡す。
はあ~~、不思議な景観。
「青石によって意識を失いつつあった子供たちの話では、『とても綺麗な場所で心を惹かれた』と言っていたから、剥き出しの鉱脈の可能性があるけれど……」
「神殿騎士殿、空からはそれっぽい鉱床が見えたりは?」 とアグ。
「うう~ん、特には見えないな」
「でしし、これだけ不思議な岩が多いと、絶対青石の何かがありそうだよね」
本当にね。
でもコックリは何もないっていう。じゃあまだまだ先なのか、あるいは鉱床ってわけではないのか……
うう~~ん、本当に何なんだろう?
「あれ?」 と突然訝しむコックリ。何々!?
「「何!?」」「「どうした!?」」
「ああいや……この先で大河が二つに分かれるみたいなんで」
「「何だ、そうか」」
「「びっくりしたなあ」」
口々に安堵の声をあげる仲間の中で、コックリだけ考え込んでいる。あれ? どうしたのかしら?
「どうしたの? コックリ?」
「ん? うん。どちらに行くかは青砂次第だけれど、一方の大河は先の方が何だかガスで淀んでいて見えづらいなって。できれば遠慮したいなってね」
「そうなんだ。じゃあ淀んでない方だといいね」
「うん。でもその淀んでいない方の河へ行くには、大河を渡らないといけない」
「ああ~~、なるほど」
この人数で大河を渡るとなると、ちょっと大変よねえ。大河の幅は百メートル近くあるし。
浮遊岩を蔓草の橋で繋げても、さっきの水鉄砲の魔獣がいると、エルクや馬たちまで並んで渡ったらそれだけ危険だし……
「まあ、とりあえず先のことだし、進もう」
「「はい!」」
そう言って進んでいくと、コックリのいう「大河が分岐している場所」にやってきた。
ほわあ~~、そこは今までとは打って変わって岩柱がない広々とした場所で、ちょっとしたダム湖のようになっている。
ああ、ダム湖の上に浮遊岩があって、湖面に映りこんで……
何て幻想的なの?
胸が騒ぎだす光景なの。
「向こう岸なんで、自分一人で行って来ます」
コックリは飛翔脚で浮遊岩に飛び乗ると、足場を確かめるように岩を踏み込む。岩はわずかに揺れるけれど安定してるの。
コックリは鼻息を荒くしながら、膝をついて浮遊岩を調べている。
「ちょっと、コックリ!?」
「あ、ああ!」
コックリはハッとした。もう、珍しい浮遊岩に興味を持っていかれてたのね!
浮遊岩から浮遊岩へと、宙を翔けながら向こう側に到着する彼。
ああ、護衛をしたくても何ともできないのが歯がゆい。
遠くで湖を一人調べる彼の元に、手が四本ある巨大なカマキリが襲い掛かって肝を冷やしたけれど、相変わらずの戦闘力で返り討ちにしていた!
一方、こちらにも巨大カマキリが! ええ? ここら辺はカマキリの巣!? でもハルさんや嫌味男、娘戦士たちが撃退してくれて! 皆強いわ!
しばらく待っているとコックリも無事に戻ってきて! はあ~~良かったあ。
調査の結果、分岐している河のどっちからも青砂が流れて来てるって。きっと上流で繋がっているのね。
「うう~~ん、渡るかどうか……」
「コックリは渡りたいの?」
「うう~~ん、何とも迷う。渡らずにこっちの道を行けばガスっている部分にぶつかって……先が見えないしなあ」
「フム。渡るとすると、後続部隊も無事に渡る方法じゃないとな」
「そうなんだよな」
「まあ~~コックリよ。危険を冒して渡るよりも、ガスって先が見えない程度の方に行く方がいいかもな~~、知らんけど」
「「ぷっ」」
もうっ! 知らんけどなら言わないで!
でも一旦ガスってる方に行って、危険だったら戻って来て渡ることにしようって。このまま進むことにしたの。
実はちょっと残念。
実は私も浮遊岩に乗ってみたくって……うふふ、雲の上に乗った気分になれるんじゃないかしら?
「数キロ先です」
浮遊岩の浮かぶ不思議な世界を進んでいくと、コックリの言うとおり徐々にガスってきた。
それが予想外だったの。
「え? コックリ。ガスってるって、このこと?」
「そう」
「「え? マジ?」」
「「おいおい」」
皆がざわめく。
皆、予想外だったみたい。
そうガスっているというから、てっきり白いモヤだと思っていたのだけれども……
「「黄土色? 何この変な色」」
そうなの。
茶色のような変な色。
うう、髪や防寒着に色が着いてしまいそうで、何だか嫌だわ。
「「土埃……じゃあないよな」」
そう、埃っぽくない。でも茶色い。
はあ、岩塊を包む植物の緑がくすんで、別の色に見える。不気味だわ。黄土色の何とも毒々しい、不吉な世界を作り出している。
と私の後ろを歩むアグが。
「クンクン……何か臭いますね」
「え!?」
「ああっ! シス姉ちゃん、オナラした!?」
「はぁっ!? し、してないわよ!」 何言ってるのこの子!
「いや、そういう臭いじゃないですね」
「ほらっ! ほらっ!」
「アグ姉ちゃん、優しいなあ」
「してないもん!」
「でしし、冗談はさておき、僕もオナラとは違う何かが臭うな~って思ってたんだ」
「冗談かい!」
私は思わずツッコミを入れた。するとコックリが。
「うう~~ん。これはただのガスじゃないな」
「「ええ!?」」
「ここより先に送り込んでいる千里眼が一瞬で壊れる。霧や霞程度なら少しはもつんだけれど、何らかの毒性を持ったガスだと思う」
「「ええ!?」」
ヤバイじゃん! 私と嫌味男は皆に風の守りを使うと、途端に臭いが遮断された。よしよし!
何とも嫌な予感に包まれながらもそのまま進むと、徐々に高山植物が茶色く枯れて来て……
ああ、植物が禿げて大地が丸見えになって来たわ……
「「おお……」」
「「何てこった……」」
皆が呻いた。いつしか私たちは、緑と花の園から茶色や灰褐色の無機質な大地へと足を踏み入れていて……何、ここは。生命の息吹を感じない死の大地のよう。胸が痛くなった。
「そうだ」 コックリが私と嫌味男を交互に見て「千里眼に風の守りってできるかな?」
「なるほど? たぶん──」 できるんじゃないかしら?
「フム、まあやってみるか。そんなに長くは持たんだろうが」
「ああっ!」
私がかける前に嫌味男は千里眼に魔法をかけた。もう! もう! 私が怒っていると最後尾でハルさんが。
「うう~~ん。この感じ、あの時と似てるなあ……」
「あの時って」 テル君が振り返って「ファラレルの森が腐ったあの時、だよね?」
「おう。デルモスの時だな」
だよね! 私もそう思っていたの。
その時、先頭のコックリが!
「あっ!」
「「ええっ!?」」
な、何!? 何があったの!?
皆に緊張が走った!




