リートの大断崖02
巨大樹林のように天に伸びる岩石の柱
柱を縫うように流れる白い雲の塊
僅かに薄くなった冷たい空気
高山植物の大地を踏みしめる軍馬の一団
■コークリットの視点
「ふぅ~~」
鼻が寒くて下唇を出して鼻に息を吹きかける俺。
ああ、空間を冷やす寒気に身が引き締まる。
海抜で言えば千五百~二千メートルほどの大地に到達している上、これから冬を迎える時期になっているから、これからどんどん寒くなるのか。
「はぁ……」
そのため息は寒さに滅入ったためじゃなく、心が震える感動から出たものだ。
なぜならば、俺はついに天空の園へと足を踏み入れたからだ。世界の中心部に広がる隔絶された天空の大地、「リートの大断崖上」にいるからだ。
はあ、胸がいっぱいになる。
圧倒的な喜びに、叫びながら走り回りたい気分だ。
そう俺は! 妖精も獣人も、滅多なことでは上がってこないという大地に足を踏み入れたんだ!
凄いぞ! これは凄いぞ! 人間ではもしかして俺が初めてなんじゃないか!? 人類初は俺!?
不謹慎とは思いながらも心が躍ってしまう。落ち着こう。
青砂の怪異を解決した暁には、もうここに来られるとは思えないから、今のうちに天空大地を知っておこう。今後の神殿騎士や人類の発展に寄与することになるかもだしな。
俺は周囲を観察する。
「ふぅ……」
苦労して登ってきたこの大地は、とても神秘的だ。
広大な天空大地には不思議な「柱」が佇む。淋し気な柱が。のっぺりとした表面の円柱の尖塔。見上げるほどの高さまで、天へ向かって伸び上っている。
不思議だ。なんだこの自然環境は? どうやってできた? 巨大な樹木の枝が落ちて幹だけ残って化石になったような印象だ。
尖塔の太さは直径五十メートルはあるだろうか……尖塔は高く、二百メートルはあるだろう。そんな尖塔が一キロ四方の中に十数塔林立し不思議な光景を作り上げている。
ああ、神話の時代に舞い降りた大いなる聖霊たちが、魔霊と戦うための「槍」を突き刺したかのような佇まいだ。厳かで、神々しい。
「はぁ……」
足元を忘れてはいけないな。
踏みしめる大地はなだらかな起伏で、高山植物が緑の絨毯のようだ。絨毯には不規則な紋様のように白や黄の花々が咲き誇り、甘い香りを届けてくれる。凄い蜜を蓄えているんではなかろうか……
大地を彩る緑色の絨毯は、寒さに耐えられるような進化が顕著だ。例えば茎や葉に毛が生えている。これは植物体表面を寒気から守ったり、強い日差しから本体を守るためだろう。意外なのは一年草も多いことだ。普通高山植物といえば、厳しい環境から成長が遅く根がしっかりとした多年草が多いのだが、意外にも一年草も多い。これは大地に栄養素が高いとか、あるいは大地の霊力が高い証拠でもある。
恐らくは後者だ。大地の霊力によって植物は瞬く間に成長する。
はあ、流れる雲の彼方には、草食系の巨大な四足獣の姿がいくつもあって高山植物を食んでいる。蜜の匂いが立ち込めるほど滋養に満ちた植物を食べるからこそ、体も巨大になるんだろう。その巨大草食獣を餌にすることで、狂暴な魔獣類や幻獣類、昆虫獣類も大型化して行き、生きて行く……全てが「大地」から始まる。
はぁ、何て大地だろう……
「はぁ……」
「うふふ。本当、ため息が出るよね」
俺の後ろを進むシスが目を細めて笑う。むう、ドキッとする。切れ長の目が糸を引いたようになり、大人の女性の美しさの中に幼さを同居させる神秘的な笑みで……彼女が妖精だと再認識させられる。
普段なら俺の横に来そうなものだが、今は隊列を崩さないようにするためか後ろにいる。そう、俺とローレンを先頭に、シスとテル、アグ他ディアオロスの戦士十名と荷物運搬用の大山羊数頭、そして最後尾をハルさんが歩む。
いや、俺の十数メートル前には地精霊で作られた土人形が歩き、ハルさんの後ろにも歩く。偵察兼囮の土人形だ。
「でしし、メルヘンチックだよね。彼方にはリートシュタイン山系が見えるし~~」
テルがウットリした目で彼方を眺める。
視線の先には圧倒的な巨大さで行く手を遮る白い壁、白い山脈リートシュタイン山系だ。
はあ、何と雄大なことだろうか。
陽の当たる雪山の峰は白く輝き、影になる谷間は蒼く冷たく鎮む。その象徴的な姿がどこまでも見渡す限り続いている。
はあぁー、何て美しいんだ……
はあ、あまりに大きすぎて遠近感がおかしいけれど、その前に広がる霞み行く山海を見れば、その遥か遠大な自然に目頭が熱くなる。圧倒的な大自然の美は絵画のようでもあり、心を揺さぶられる。この芸術を描ける人間がいるだろうか?
きっと描けたとしても、目の前の驚異の大自然を知る者からすれば、遥かに見劣りしよう。この感動を描き切れる者はいない。
「あ~あ、これで魔獣がいなければなあ」
テルがぼやく。おお、その通りだ。芸術に心を奪われ、警戒を緩めるところだった。
そう、魔獣がいなければいいんだが、そうも言ってられない。遠くから聞こえる恐ろしい吠え声や叫び声。風に乗って届く声は、恐怖を掻き立てる。かと思えば雲や尖塔の陰に隠れて魔獣や昆虫獣が襲い掛かってくる。特に尖塔の上から来ることが多いから近くを通る際には気を抜くことができない。実はさっきも頭が二つある鳥獣類が上から襲い掛かってきたし。
「ははは、大河も近づくのは危険ですしね!」
アグが笑う。そう、河も近づきすぎると危ない。
幅五十メートルはあろう大河を眺める丘を歩いているわけだが、上から見下ろせば止まったような水面に反して、水底には思わず呻いてしまうほどの巨大な影が見える。
比較的浅めな河岸付近には、白い砂底を這うように泳ぐ魚獣類や足が沢山生えた爬虫獣類がそこかしこにいて。一方で、大河の中央部は光が届かない鋭溝があり深淵の光を放つ。その深淵の中を巨大な何かが泳ぐ影があったりで……怖い。
厄介なことに魚獣類はどうやら水精霊を操れるようで、水辺に近づくと引きずり込まれる場合がある。一方、爬虫獣類は陸地に上がって獲物を捕らえたりもある。
どんな生物でも水を飲まなければ生きて行けないわけだから、危険を冒してでも水場に行く。そんな生物を大河の魔獣はジッと待ち続けているようだ。
「フッ、見晴らしが良い分こちらからも魔獣は見えるが、魔獣からもこちらが見える。そら、大河の向こうでは我々を狙おうと、走竜の群れがついて来るぞ」
「「うわあ……」」
皆がため息をつく。
体高三メートルはあろう二足歩行のラプトルが十数匹、こちらを見ながらついて来る。その気になれば大河を飛び越えて来るんだろうが、様子見という感じだ。数日前、拠点づくりのために少数で移動している時に襲い掛かって来たので応戦し、向こうにも甚大なダメージを与えておいたから容易には襲って来ないんだろう。
「前後左右上下、警戒しながら行きましょう! あと十数キロ先に比較的安全な拠点がありますので」
「「おうっ!」」
「あ! 西の方に!」
シスが指し示す方を見れば、のどかだった空間にゆるやかな渦が、白い雲を巻き上げて! 雨雲が急速に発達! ヤバい!
「天候悪化が来ます! ローレンとシスを中心に集まって防寒と雨対策を!」
「「急げ!」」
慌てて雨具を着込む俺たち。日中は太陽光のお陰で五~六度まであるが、雨で濡れたあと強風に晒されれば、凍傷は確実! 凍死の可能性もある!
「『 蔓草は高く伸びて傘を作って私たちを助けて 』」
ローレンとシスは二人で精霊魔法を唱える。
その詠唱に応え、蔓草は柱のように伸び上がると二メートルくらいの高さで円形に広がる。まさに傘だ。
と傘が出来上がると同時に、地表から吸い上がった雲が雨雲に完成! 上空数百メートルのすぐ近くに! それはまるで屋根! 黒くモヤモヤと蠢く不吉な天井に! 不吉!
「「来るぞ!」」
ドドドドオオオオッッ!
突然の豪雨!
「来た! 冷たい!」
「あわわ、足元が! 水脈だ!」
そう、足元が水脈に! 細い筋はまるで葉を透かした時に見える葉脈のよう! このまんべんなく降り注ぐ雨こそが、天空大地の植物を育てる!
「ぶおお、雨漏りが!」 ハルさんがビクッと!
「フ、雨の全ては防げん!」
「もう、そんなので威張らないで! ひゃあ!」
冷たい雨粒が!
だが雨の直撃は避けられる!
有難い!
「あ! ラプトルが来ます!」
「「マジか!?」」
◇◇◇◇◇
夜闇の中に、魔獣の遠吠えが響く。少し物悲しい声。
あれは縄張りを主張するものか、はたまた仲間とともに獲物を狩るための合図か……遮蔽物の少ない天空大地で、西の方から聞こえてくる。距離は数十キロか? 魔獣の種類によっては、油断できない距離だ。
「ふぅ……」
寒い。大断崖の夜はグッと冷えこむ。
吐く息が白くなって、防寒用のコートを纏っていても剥き出しの顔は寒さで強張る。はあ~。
夜空は見えない。訳あって。
俺は一人宿坊から離れて、野営地の端に座る。シスに出してもらった光精霊のランタンの下で、出会った魔獣のスケッチや戦利品替わりの牙や爪を保管して、さらには草花のスケッチをしならサンプルに押し花をする。
ふふ、人間が次にこのテーブルマウンテンへ来れるか分からないから、できる限り記録を残しておきたいんだ。ウォゼット先生に見せたら喜ぶんじゃないかなあ? それとも「何ぃい!? ワシも行きたかったあ~~!」って悔しがるかも! くくっ!
「どうだコックリ? 外の様子は?」
普段は上半身裸にベストくらいのハルさんが厚手の防寒着を着込み、馬体を保温する馬着を羽織ってやってくる。あれ、何だかヨタヨタしてる? 両手には飲み物を持っていて、一つを俺にくれた。おお~、酒だ。体を温めるようにディアオロスが持ってきた羊乳酒だ。それでヨタヨタしてるのか! 鼻をすすってるし、結構呑んでる!?
「ホラ、暖まるぞ!」
「え? しかし、酒──」
「ぬぁにいぃ~~!? 俺の酒を飲めんとは言わせんぞ~~!」
「くく、ありがとうございます」
ドカッと俺の横に座るハルさん。くく、ハルさんは既に鼻を赤くしてるわ。まあ、この量なら俺は酔わないからいいか。
ああ~、何かいいなぁ。夜に屋外で酒を飲むとか。場所が場所だけにそこまで気を抜けないけれど、今までそういうことがなかったから……酒を酌み交わす仲間がいることにワクワクする。
「ふ~~、近くに魔獣はいないだろう?」 酒くせえ!
「ええ、半径三百メートルの索霊域には魔獣類の反応はありませんね」
今、俺たちは岩の尖塔を背に、半円形に野営地を作っている。俺の後方には焚き火が二つあって、いつも通りの土と地下茎の宿坊がある。キャンプの独特の雰囲気は、いつも胸をワクワクさせてくれるなあ。
「まあ、ローレンやお嬢ちゃんが闇精霊で目隠しをしているから野営の光に引き寄せられる魔獣はいないだろう」
「そうですね」
そう野営地の回りには薄い闇のカーテンが降りていて、外からは中が見えない。夜空が見えないのはそのためだ。本来なら、寒い高山特有の満天の星空が俺たちを迎えてくれるだろうから本当に残念だ。遮蔽物のない天空の大地での星空の観測なんて、寝るのが勿体ないハズなんだけどなあ。
でもその代わりに、安心して休めるからいいか。
俺の後ろでは焚き火が幾つもあって、馬たちが横たわっている。これだけ見晴らしの良い大地で焚き火をすると、肉食の魔獣類を呼び寄せることに繋がるからマズイんだけど。
本当に便利だよなあ、精霊魔法は。
まあ外から中は見えないものの、中から外も見えないので、念のため索霊域で生命体が近くにやってこないか調べているんだ。
「ぶはああ~~、しかし感慨深いなあ~~」
「え?」
「ついにリートの大断崖の上に来たんだもんなあ~~」
ハルさんは酒をグビリとあおると、しみじみ言う。
くく、俺と同じように「ケンタウロスには名だたる勇者たちがいるが、その中でもここまで来た者はほぼいない。まさか歴戦の勇者たちを差し置いて俺が足を踏み入れるとはなあ~~」と、俺と同じような想いを抱いたようだ。
「それにしても、いつもは遥か彼方に見えるリートシュタイン山系をこんな間近で見るとはな!」
「ふふ、どんどん近づきますよ」
「本当だなあ~~。河は北東に向かってるようだが、このまま行けばリートシュタイン山系の東の方に繋がるんかな~~?」
「可能性はありますね」
二人で断崖の上の大地について想いを馳せる。
何が待ち受けているのか?
青砂はリートシュタイン山系から流れて来るのか?
もしや不思議で幻妖な力を持つ、鉱山があるんじゃないか?
このまま北西に進めば、オークたちとどこかで遭遇することになるのか?
後続の獣人たちは追って来られるのか?
自分たちは無事に目的地へたどり着けるだろうか?
考えればキリがない。
「ふ~~。まあ、根を詰めすぎて倒れられるのも何だしな。そろそろ寝ようや。外には地精霊の人形も見回ってるんだろう?」
「ええ。そうですね、これを飲んだら休むとするかな?」
「うむ」
と思ったら、後ろから何かが近づく音が。
俺とハルさんが同時に振り向くと、そこには防寒着を着たシスがお盆に湯気の立つコップを持っていて。切れ長の目をパチクリしている。ああ~~可愛い!
ああ、俺の手にある酒を見て驚いている!
「ああ~~お嬢ちゃん、すまん! 先に酒を持ってきちまったわ」
「ええっ、お酒!?」
「っっ!」
俺は焦った! 叱られる!?
怖いんだよ、叱る時のシスは!
叱るではなく、怒っている時のシスは不思議と怖くなくて「ああ~何か一生懸命怒ってる、可愛いな~」って思うんだけれど、俺を叱っている時は無茶苦茶怖い!
きっと俺を慮って怒ることと、自分のために怒ることでは、真剣さが違うからなんだろうな。
「もう~~! こんなところで酒盛りなんて!」
「ぶはは、スマンスマン! 怒った?」
「っっ!」 何て誤魔化す!?
「言ってくれればおツマミくらい持ってきたのに!」
「「そっち!?」」
俺は肩透かしを食らった!
あ、あぶねえ~~! 助かった~~! 内心焦り、安堵しているとシスが目尻を下げてクスクス笑っている。ああ、彼女なりのボケか?
「うふふ、コックリが自ら進んでお酒を持って来るわけないし、どうせハルさんでしょ? でも程々にね。断崖の上なんだし」
「ぶはは、了解了解。ところで持ってきたそれは?」
「ああ~~、気が落ち着くかなってキノコ茶なんだけれど……」
微妙な笑顔になるシス。
ああ申し訳ない、俺のために作ってくれたんだよな。二杯あるということは、俺と飲もうとしたシスの分だろうか。とてもいい香りがするので、キノコ茶も飲みたい気分になる。
「いい匂い。俺、そっちも飲みたいなあ」
「ホント? 無理してない?」
「全然」
俺はキノコ茶を受け取ると、酒と交互に頂く。ふぅ~~、癒される~~。そんな俺の様子にシスの顔が綻ぶ。うう~~ん、可愛い。垂れた糸目にちょっと赤く弛んだ頬がもう。
「うふふ。さあハルさんもいかがですか?」
「いやいや、俺は酒で充分。元々お嬢ちゃんの分だろう?」
「うふふ、まだあるから大丈夫」
「フ、なら私が貰おう」
「ふわあっ!」
くく、ローレンがシスの気づかない間に近づいていて後ろからキノコ茶を取る。俺は気づいていたけれど言わなかった。
「ビッ、ビックリした! もうっ! ビックリさせないでよ!」
「フン、何を言う。注意力がない証拠だろう。今からエルフの里に戻った方がいいんじゃないか?」
「な、何ですってええっ!?」
「ぶはは」「まあまあ」
まったくもう、本当に仲がいいな。やはり妬ける。
けれど、これでいいんだ。
二人は同じ時を過ごすエルフなんだから……
「ぶはは、ローレン眠れないのか?」
「ウム、女の匂いが充満して眠れない」
「「ぷっ」」
ローレンの周囲にはディアオロスたちが固まるように寝ているからそうだよな。
「ぶはは! 何だそれは、羨ましい! 贅沢な悩みだな!」
「イヤ? 種族が違うとな」
「そ! そんなことない!」 シスが力強く否定する「そんなことないと思うよ!?」
「フン、何だいきなり」
「ぶはは! まあ~~ほら、女の子に代わりあるまい?」
「そうよっ! 恋愛感情に種族は関係ないわっ!」
「なぜお前が必死なんだ?」 呆れ顔のローレン。
くく、本当。凄い必死だ。
恋愛に種族は関係ない、か……でもなあ。種族が違うと悲しい想いをすることが多いんじゃないか?
特に女性の方が。
「ぶはあ~~羨ましいな、女の子に囲まれるなんて。ハーレム状態じゃないか! 酒池肉林だぞ!?」
「クッ、イヤイヤ」 ローレンが苦笑する。
「ちょ、ハルさん!?」 シスが慌てる。「れ、恋愛は賛成だけれども! 何!? 酒池肉林って!」
くく、酒池肉林って! まあ、豪快なハルさんには似合いそうだな。
俺は……ちょっと無理かもなあ。
「なあコックリ! 男の憧れだよな! ハーレム!」
「ええ? 俺に振りますか?」
「あ、憧れ!? 憧れって何っ!?」
「ぶはは! 男は皆、ハーレム願望があるのよ!」
「はっ!? はあっ!? はあぁっ!?」 シスが俺を睨む!
「い、いや?」 何で俺を睨むのよ。
「いや? 男でも皆じゃあるまいて」 ローレンが呆れる。
まあ妖精は特にそうかもな。
その神秘性ゆえかあまり性的な行為を好まないような気がする。実際のところ霊力が高く寿命が長い存在ほど個として単独で存在するから子孫を残すための性交などはほとんどなくなるらしい。
逆に肉感的で情熱的な獣人は、厳しく非情な自然と共に生きるゆえ子孫を残すための性交は多くなるようだ。一方、子孫は関係なく快楽・欲望を追い求める人間も多くなる。
それを反映してか、このダロス大陸でも人間の数は五ヶ国合計で三千~四千万人と言われ、獣人は馬獣人他、鹿・獅・羊・狼獣人……など様々な全種を合計して一千万前後と言われているし、妖精は森・湖・海・地・草・花妖精……など様々合計しても百万人いないだろうと言われている。
と考えていたら、シスの怒った声で意識が戻った。
「ちょっ、コックリ! 何を考え込んでいるの!? どう思ってるの!?」
「え? あ、俺?」
「ぶはは、憧れるよな!?」
「~~~~~~っ! どうなのっ!?」
「なぜお前が必死なんだ」
彼女から漏れ出る怒気! 怖っ! 俺に圧力をかける目で、明らかに頬をつねる準備をしている!
「こ、怖い怖いっ!」 俺は身を引く。
「ぶはは、圧力かけたら本音が聞けんだろう」
「本心か分かるもん!」
頬が物凄い膨らむ! 可愛い!
と思ったら、彼女の切れ長の目がじわじわ潤んで来て!
かっっ、可っ愛いいっ!! こんなことでショックを!? って言うか、俺は焦った! 泣かれるのは困る!
「う、うう~~ん」 俺は腕を組んで唸った「まあ人間世界でも、王族や裕福な商家でハーレムのはありますが……」
「「ありますが!?」」
「俺自身は、『 個人的な理由 』からあまり好きじゃなくて……」
「「個人的理由?」」
「ぶはは、お嬢ちゃんがいる手前、そんなことを言ってるのか!? 本音を言え、本音を!」
「そう! 嘘ついたら分かるもん!」
「い、いや、嘘つく理由もないし。ううーむ、本音を言うと『 重い話 』になるから盛り下がるような」
「「重い話!?」」
皆が顔を見合せる。
「聞きたいな!」
「聞かせて!」
「フ、興味があるな」
皆が興味津々という感じだ。いや~、本当に盛り下がるだろうからなあ……
と思った瞬間!
「はっ!」
俺は瞬間的に背筋が伸びた!
「うお!? どした!?」
「ど、どうしたの!?」
「索霊域に! 何か入ってきた!」
「「ええ!?」」
西の端から何かが! というかデカイ!
「な、何が来た!?」
「何か!?」
「しっ!」
俺は口に人差し指をあてる!
緊迫した空気が! ハルさんの酔いが一気に冷めたのが手に取るように!
「この霊力のシルエット……竜、いや! 巨大蛇だ」
「「サーペント!」」
デカイ! 頭部から少ししか入ってないけれど、頭部だけで四メートル以上ある! 竜と間違ったのは身体を覆う鱗やヒレがあるからだ! 顔ビレや背ビレがカッコいい! じゃなくて!
体をくねらせながら、高山植物の大地を滑るように! 索霊域を通っていく!
だがそれで終わらない!
「うおっ! 逆方向から、巨大アリが!」
「「巨大アリ!?」」
デカイ!
体高一メートルはある!
それが十匹ほど策霊域に入った! ヤバい! 両方!?
「ぶはっ、やべ! 武器が!」
「私もだ!」
「はわわ、だ、大丈夫! 闇精霊のカーテンだからこっちは見えないハズ」
「そう! それに三百メートルは離れてますし!」
音もなく滑る巨大蛇。何て隠密行動! あの巨体で!?
逆側では巨大アリが触覚をピクピク! 何か探ってる!?
頼む、気づかずそのまま通りすぎてくれ!
と、祈りも虚しく!
サーペントが!
こっちを向いた!
「っ!? 気づかれた!?」
「「え!?」」
何でだ!? 闇のカーテンで見えないだろう!?
と俺はその可能性に気づいた!
「あ! もしや、ピット器官か!?」
そうか! 蛇はピット器官で獲物の体温を感じる! もしかして温度で!?
闇のカーテンは普通の視線は通さないが、温度の高低分布まで隠すわけじゃないのか!?
サーペントはこちらを見ている!
目ではなく!
温度で見ている!
鮮やかに! 明らかに!
「あわわ、土人形は」
土人形はサーペントに気づいていない! 土人形の見張りが気づく距離よりもさらに遠くから我々の位置を察知されたんだ! なんてこった! これじゃ見張りの意味がない!
これまでのやり方は通用しない!? 想定していたより、上を行く!?
ヤバイ!
「『 纏装っっ! 』」
俺が魔法の鎧を纏ったその時、サーペントは巨大な口を大きく開ける! デカイ!
と鎌首をもたげて! 高い! 上から!? 上から!!
上から音もなくゆっくりと上から近づいて来る!
その時やっと土人形が気づいて、鍋をガンガンと叩く!
「「な、なんだなんだ!?」」
「「敵襲!?」」
宿坊で騒ぐ声を後ろに、サーペントが胴体で土人形を押し潰した! 一瞬で土塊に戻る土人形!
サーペントは何事もなかったように俺たちの真上に!
うおお、巨大アリもこっちを見た!
「聖剣技! 『 波斬の太刀! 』」
俺はサーペントの方へ飛び出した!




