リートの大断崖01
また書き溜めたのでキリの良いところまで連投します
天高く聳える圧巻の大地
大地は垂直に切り立ち無翼の者たちを拒む
拒まれた地を這う者たちは知る由もない
その頂きにかかる天空の橋を
■システィーナの視点
ああ、高くて怖いわ……
圧倒的な質量と重量を持つ地殻の頂き付近にいて、広がり行く世界を見渡しているんだもの。
でもその広大さとは反して、私の立つ蔓草の橋の小ささ、心細さは比べ物にならない。棚地と棚地を結ぶ蔓草の橋を渡りながら、手も足も震え、身体から血の気が失せて力が抜けて行く。はわわ、下を見ると物凄い高さだし、橋が風で揺れ動いて足元が不安定と来て……と震えた途端にくしゃみが!
「ぴくちっ!」
寒っ! 冷気によって別の身震いが!
はあ~~、寒い。頬や耳がキンキンに冷える感じ。空間を見れば、冷気をまとった風精霊が断崖の下から舞い上がってくる。
はわあ~~、空を自由に飛び回れるって、どんな気分なのかしら? きっと気持ちいいんだろうなあ。でも私は怖くて飛びたくないけれども……
風精霊は断崖に這うように進む私たちをどんな気分で見ているのかしら?
「『 気持ちいい? 』」
恐怖をごまかすように問いかけると嬉しそうに手を振る。うふふ、またね!
風精霊は一定の周期と間隔で複雑な断崖の迷路を駆け上ってくる。瀑布が作り上げた複雑な地形を。
怖いながらも見下ろすと、瀑布は左右に折れながら落ちる。その姿はまるで龍みたい。
「さあシス。もうちょっとです!」
「うん」
蔓草橋の向こうの棚地で鹿獣人のアグリッピナが待ってくれていて。ほわぁ~~凛々しい美人だわ~~。他に何人も斧槍や弓を持った女戦士たちがいる。ああ~~、皆スラッとした美しい肢体なので、羨ましい。
「そら、ここまでくれば、あと数十メートルなうえ、段差が緩やかでしょう?」
「ホントだ」
そうなの。見上げるとゴロゴロした岩場がなだらかに続いていて、頂上が見える!
そう、私はついに!
リートの大断崖の上に足を踏み入れるの!
「はわぁ~~、ドキドキする」
「ははは。私も最初はそうでした!」
アグが楽しそうに笑う。アグは時々トボケてるけれど凛々しい美人で、キリッとした彼女が笑うとカッコいい。彼女は今「最初は」と言ったけれど、何ともう五~六回登ってるの。
実は大断崖までのルートができて、もう十日間経ったんだ。
私は体力が完全に戻るまで待機を命じられていて。コックリに。獣人たちの治療で私は大量の血液を使ったので、しばらくフラフラになっちゃってね……
でも私は何度も「大丈夫! 体調万全!」って言ってるのに、コックリは信じず「勘違い」して。
私が「気絶」したから。
ルート開通のあの日に。
「ははは」 アグの爽やかな笑み「気絶した理由を勘違いするなんてあの男らしいですね!」
「もう! 笑い話じゃないもん! 本当に死ぬかと思ったんだからっっ!」
私は怒った。本当に怒った!
ルート開通を見に行ったあの日、私はコックリの腕の中で気を失ってしまったんだけれども……彼はそれを「血液を大量に消費した後の体力減退中に無理したから」と思ってて。
でも違うの。
「ははは、死ぬものですか! 背中や髪を撫でられ『 感極まった 』くらいで!」
「もうっ! 他人事だと思って! 私、そんな経験ないんだもん!」
私は顔が熱くなった。
私がルート開通を見に行ったあの時、コックリが怒り始めたでしょ? だからアグは他に気をそらそうとして、私の背中を押したらしいの。よろめくから。予想通り彼は怒りよりも心配が勝って成功したんだけれどね。
彼に抱きとめられてね。
私は気づいてしまったの。
このままでいれば、私は彼に触れていられるってっ!
霊従者じゃない、本物の彼にっ!
「~~~~~っ!!」
今思い出してもっ! 体が熱くなるのっ!
もう、胸板が厚くてっ、広くてっ、大きくって! でも柔らかくて熱くってっ!!
腕が太くて、長くて、逞しくって……! 私なんかじゃ、小さく包み込まれてしまってっっ!! 凄い体なの! 凄い体なの!! 思った通りの!!
もう、彼から離れたくなくってっ! 包み込まれる感がたまらなくってっ! 包容力がもう!
彼の匂いが! 匂いが! 日に焼けた彼の匂いが! 鼻腔いっぱいに広がって! 頭の中に広がって! 胸いっぱいに吸い込んで!!
クラクラして思わずしがみついてしまったら、彼は「具合が悪い」と勘違いして背中を擦り始めてっ!!
ヒドラをものの数分で倒す人型ドラゴンのような彼がっ! 私を壊れ物のように優しく優しく包み込んでくれてっ! 私の背中を優しく、優しく撫でてくれて!! 私が壊れないよう優しく優しく……
「(恥ずかしい~)~~~~~~っっ!!」
もう嬉しくて嬉しくて! 頭も心も爆発しそうでっ!
必死に声を圧し殺していたら!!
今度は髪を!
今度は髪を! 私の髪を!! 女性の髪をっ!!
女性の私の髪を~~~っ!!
「(バカバカバカ~~)~~~~~~~っ!!」
思い出したら頭が!!
心がっ、爆発する!! もうっ反則だよ、髪を撫でるなんて!! アグが苦笑する。
「まあ、女の髪を触って撫でるなど、常識ではしないですね」
「で、でしょ!? 髪だよ!? 髪なんだよ!?」
女性の髪を何だと思ってるんだ!
霊力の宿る女性の髪を!
心を撫でられていると知ったその時、私は!!
もう、もうそこから意識がなくなって……うう、ずっと彼は私を介抱してくれていたんだそう。うう~~! 寝顔を見られた~~!! 恥ずかしい~~!!
「コックリのせいで気絶したのに! コックリが悪いんじゃないか!」
あと数十メートル登れば頂上というところで私は立ち止まり地団駄を踏む。恥ずかしさを消すように大きな声で怒ったので皆が「何だ何だ」とこっちを見る。あわわ、ごめんなさい!
「まあ、本人には言えないというのは分かりますが『 体調万全 』だけでは説得力が弱かったですね!」
「もう、おかげで十日間も出遅れたし! 私を置いて行くなんて!」
そうなの、コックリは私を置いて! ハルさんや嫌味男、ディアオロス数人を連れて大断崖の上に偵察に行ったの!
もう! もうっ!
一緒に行きたかったのに!
「はっ、そうだ。聞き忘れていたことがあったのです!」
アグがなだらかな岩場で立ち止まった。何かしら?
「うん? 何を?」
「まったく私は、すぐに他のことに気を取られ──」
「いいからいいから。で何?」
「シスは、あの男に惚れてるんですよね?」
「ぶはっ!」
私の口や鼻から汁が!
「うわっ、汚い。汚いですね!」
「はっ、はあっ!?」
はああっ!? 何を言ってるのこの娘!?
「好きなんでしょう?」
「すっっ!?」
「告白してないのですか? 伝わってないですよ」
「~~~~~~~っっ!!」
な、何言ってるの!?
私がコックリを!? コックリをっっ!?
「~~~~~~~~っっ!?」
ほ、本当だわ! 言われて気づいたの!
す、好きっ! 好きっ! これは、好きっ! 好きだわっ! とにかく好きっ!
何でこんなに好きなの!?
はあっ!? 何で!?
「は、はわわわわ……っっ!」
す、好き、好きすぎて胸が……!
胸が……!
「伝わってなくてショックでしたか」
凛々しい彼女が同情的な表情に。違うよ! 私は自分の心に驚いているんだよ!
そうだよ、私はコックリのことが好き! だ、大好きだよ! 好きすぎて胸がおかしい! はわあ~~、頭の中もぐるぐるだよ~~っ!?
「(はわあぁ~~)~~~~~っ!?」
ああっ! 彼を支えたいって思う気持ちは……
彼の喜ぶ顔がみたいって思う気持ちは……
そこから……!
そ、そうか、そうだよ!
好きだから! 彼のことが、好きだからだよ!
はわあ~~、す、好きすぎて目が回る~~!! ぐるぐるする~~っ!?
でも、今しなくちゃ行けないことは! アグへの誤解を解くこと!
「ア、アグ! 私、コックリが、好き! 大好き!」
「うんうん、そうでしょう」
「でも私! 今までひとを、好きに、なったこと、なくて!」
「そうなのですか?」
「だから彼には、私から、伝えたい! だから、彼には、黙っていて?」
「ああそうですね、分かりましたよ!」
優しくて爽やかなカッコいい笑顔のアグ!
一緒に深呼吸をしてくれて、ぐるぐるが治まる私。すると途端に怒りが!
「もう、もう~~! コックリのバカ! バカバカ! 好きなのに! こんなに好きなのに! 私を置いて行くなんて!」
「いや? 『 好かれているから連れていく 』ってことはないでしょう?」
「じゃあメロメロにしてやる! 私にメロメロにして、離れたくないって思わせてやるもん!」
「どちらかというと逆ですけど、ははは!」
「もうっ! もうっ! 絶対見返してやる!」
「ははは! その意気です!」
アグの笑い声を背に、私は岩場を登り始めた。
こんなに好きなのに! 私を置いて行って!
私は腹が立った!
怒りをエネルギーにして、なだらかな岩場をガンガン登る。手を使いながら登る。コックリのバカ! バカバカ! でも好き!
彼に会いたい! 役に立ちたい!
なのにバカバカ! でも好き!
と、心がグチャグチャな時だった!
目の前がいきなり開けたの!
「っっ!! ~~~~~っっ!!」
突然の眺望に、心が!
コックリへの想いとか、置いていかれた悔しさとか、彼に会いたい切なさとか、心の中がグチャグチャになっていたはずなのに……!
目の前に広がる大自然の大眺望に、グチャグチャが一気に吹き飛ばされる! 心が晴れ渡り、胸が透明になっていく!
「おめでとう! ここがリートの天空大地です!」
「て、天空大地!」
そう、天空大地。ついに到達した天空に広がる大地。
広大な、ただただ広大な大地。広大さに小さな胸の中のグチャグチャぐるぐるが吹き飛ばされる!
「よ、予想していたのと全然違う!」
そうなの。
てっきり断崖上には、下よりも鬱蒼と繁るジャングルがあると想像していたら……真逆。森なんてない。
緑の原野が広がる遠大な大地が! そう、大地も大地! というか原野。森は所々にあるくらいで、起伏の大きい緑の絨毯という表現がしっくりくる「広大な野」が見渡す限りに広がっているの。広い! 広すぎる!
「す、凄い! 緑の絨毯。これは高山植物?」
「はい、その通りです」
天空の大地は海抜で言えば千五百~二千メートルはあるようなので、森林が生える限界なのかも。だからのどかな緑の絨毯が、波をうつように延々と広がっているの。そして森の代わりに不思議な存在が……
「森の代わりに、岩の塔が……」
まるで鍾乳石を大地から生やしたような、見事な岩の塔が大地のそこかしこから生えているの。たぶん、直径は二十メートルくらいで、高さは百メートルくらいかしら? 数百メートル置きに聳えている。
何て不思議で幻妙な風景なの? 起伏のある緑の大地から生える石柱の大地。何なの、この景色。殺風景なような、でもわびさびを感じる芸術性もあるような不思議な景色。それに一役買っているのが、雲かも。
「はああ。雲が……羊雲が……」
そう、丸々と太った毛並みのいい羊のような雲が、緑の絨毯の大地スレスレを流れていく。岩の塔や起伏のあるところでぶつかって壊れ、あるいは他の羊とくっついてを繰り返しながら、緩やかに、のどかに、ゆったりとした時間をかけながら流れていく……
センチピードヒドラの被害は何だったのかってくらい、のどか……
「そしてあれが、リートシュタイン山系……な、何て美しくて大きいの?」
「ええ。実に美しくて、雄大ですね!」
霞み行く岩の塔の彼方には、圧倒的な純白さを持つ美しい山々が……
はあぁ、大きい。いつもは遠くから眺めるだけの山脈があんなに近く大きい。白い山の峰や渓の形がハッキリと分かる!
あれが世界の屋根、リートシュタイン山系なのね。何て美しいの? あんなに白い芸術的な存在がこの世にあるなんて……
「はあぁ~~、凄い~~」
「まったくです!」
もう、感動で頭も心もクラクラする。
何て大地なの? 天空の大地。
アグ共々しばらく立ち止まって声もなく見つめてしまったので、他のディアオロスたちに迷惑をかけてしまった。でも皆、休憩が取れたからOKって言ってたけれど。
はあぁ~~感動だ。はあぁ~~感動しかない。
私はあのリートの大断崖の上に着いたのね。
「でも天空大地は美しいだけじゃありません。ほら、西の方向に」
「え?」
彼女の指し示す方を見れば、彼方先の空に灰色雲が! ええ、何あれ? いつの間にか灰色雲が渦を巻いて、急速に大きくなる! あわわ、精霊を視る私の目には、集まった雲が「牛の上半身」に! あれは風の中位精霊、「風の暴牛!」
暴牛は雄叫びを上げながら、怒り狂ったようにその場で暴れだす!
するとその一帯は局地豪雨に! はわわ!
他は晴れてさえいるもに、そこだけ乱れて!
「はわわ、コックリたちはあそこにいないよね!? どこへ向かったの?」
「この湖の東側に大河があって、その流れに沿って上流へ向かっています」
広大な絶景に見惚れて目の前にある湖を失念していた。この湖が大瀑布の起点となって流れ落ちて行くのね。ああ、湖の水面のそこかしこに、巨大生物の影絵が動いて行く。怖いわ、何て大きさなの?
「大河は北東へ向かっているらしいです」
「北東!」
そういえば、ケンタウロスの集落を襲っていたオークたちが、捕らえた獣人を連れて行く先が北東方向だった。ここで北東方向が出てきたのか!
「神殿騎士殿はここに登ってから数日間、湖と河の調査をしていて、その大河を見つけたようなのです。といっても、青砂の流れる河は複数あるようで、そのうちの最も流入量が多い河を遡るらしいですね!」
「そうなんだ、複数か。じゃあこの湖が『 青砂 』の発生場所ではなかったのね」
「そうなりますね!」
「それで今は?」
「天空の大地で夜営できるか、確認しているようです!」
「魔獣が多いって言ってたけれど、大丈夫かしら?」
「ここに登った経験の多いエカチェリーナ曰く、いつもより魔獣が多いらしいですね!」
「そ、そうなの?」
のどかな風景に目を凝らせば、遠くの方で草花を撒き散らしながら四本足の何かが複数走っている。大きい。十メートルはあるかも? 狩りをしてるんだわ。ああ、向こうの空には翼を持つ何かの群れが! 怖い、不吉な動きで!
身を隠す術がないから、かなり危険!
「恐らく、もっと奥に棲息している魔獣が、何らかの理由で端の方に追いやられて来たのではないかと神殿騎士殿が」
「端の方に追いやられて」
あり得るわ。
奥地で何かがあって、端の断崖の方まで追いやられた、と。その奥地の何かとは、青砂に関わる何かだと……
「神殿騎士殿が『 センチピードヒドラが鹿獣人を襲い始めたのは、端の方に追いやられ餌が少なくなったか、餌はあるもののこの近辺の餌はすばしっこいため捕らえられなかったのではないか 』って」
「すばしっこい?」
「ほら」
アグが指差すと、緑の大地で花が動いている。
え? 花? 動く花? と思ったら、ネズミ! 大きなネズミだ!
カピバラみたいな感じじゃなくて、もうネズミそのものを巨大化した感じ。五~六十センチはあるかしら? 身体中に花が咲いている。凄い擬態!
大きいけれどもすばしっこそうで、足が遅いセンチピードは狩りが難しかったのかも。だから崖下に来たんだわ。
「天候が急変する上に、魔獣がゴロゴロいるけれど、試しに夜営したのよね。大丈夫だったかしら?」
「まあ、神殿騎士殿がいれば大丈夫でしょう。しかしローレン様が心配です!」
「ロ、ローレン様って……」
私は呆れた。
どうもディアオロスの女性は嫌味男のファンが多いみたいで……まあ戦乙女の槍で戦っていたのはまあまあ見直したけれども?
うふふ。ディアオロスはがっちり、どっしりした男の人はタイプじゃないみたい。ふふ、コックリがどんなにやらしい目で彼女たちを見ても、相手にされないってことよね。うふふ、うふふ。
きっと私くらいだよ~~。あんなガッシリ好きなの~~、うふふ。うふふふふ。
「どうしましたシス? だるんだるんにたるんだ笑みで」
「だっ!?」 私は絶句したけれど「もうっ! だるんだるんで悪かったわね!」
「あ! ローレン様!」
「「え!?」」
ディアオロスの女性陣が見る彼方、湖の東。
東に林立して広がる岩の塔の合間! 流れる雲の中から、ボフボフッと騎馬に跨がった数騎の戦士たちが出てきた! その後ろにはディアオロスの戦士たちも走って付いてくる!
遠くて分かりづらいけれど、コックリとハルさんと嫌味男だ! 無事だった! 全員無事!
とその時、岩の塔の上に!
巨大な影が!
「はわっ! 何あれ!?」
「「ああっ!!」」
大きい! 人型! 腕が長い! 足は短い! 岩のようなボディー!?
「「ゴ、ゴリ! 岩ゴリラ!?」」
ウォーエルクに跨がるコックリたちより、二倍は大きいゴリラが!
彼らの真上から、突然現れ!
飛び降りながらコックリたちに襲いかかる!
「「危っ──」」
背筋が凍る! もう回避は無理! やられる!
心臓が縮み上がった瞬間!
岩ゴリラが!
宙に押し戻され! ドフッと周囲の雲が二重三重の波紋状態に!
コックリの波動掌だ! 波動がゴリラを撃ち抜いた!
「「おっ」」
皆同時に息を飲む! 次の瞬間!
嫌味男の上に人が出現! 戦乙女!
戦乙女は宙に静止した岩ゴリラに光槍を投げつけ!
顔面と胸に直撃!
岩ゴリラが後ろの雲の中に吹き飛ぶ!
「「おおおおお~~っ!!」」
「「さすがローレン様!!」」
「「素敵、ローレン様!」」
拍手喝采! ええ!? コックリは!?
いや、コックリがモテないのは良いこと!? でもコックリも誉められないと何だか可哀想だから複雑! ど、どうしよう?
悩みながら待っていると、コックリたちがどんどん近づいてきているので、皆で出迎えに行く。
ああ久しぶりに会うコックリ! ちょっとドキドキしていると、ちょうど彼らが到着したの。
「どうどう!」
「おお~~、お嬢ちゃんたち出迎えありがとさん」
「「お疲れ様でした皆さん、ローレン様」」
「ぶははっ、モテモテだなローレンは」
「……」
嫌味男はそっぽを向く。
私は数日ぶりに会うコックリの元に駆け寄った。うう~~大きい~~! 好き~~! でも平常心! 落ち着いて!
あわわ、よく見たらもう顔も衣服も汚れまくってるよ。それだけで旅路の大変さが伝わってくる。
「お帰りなさい、コックリ! ケガは? ない? 凄いボロボロじゃない!?」
「ああシス、ただいま。ケガはないよ」 コックリはエルクから降りた「ついにやって来たんだね、ふふ」
と汚れた顔から覗く優しい微笑のコックリにドキドキする。好き!
ああ、だいぶ表情が出てきたの。喜怒哀楽の三つ、喜・怒・哀まで解放できたから。もう、柔らかくて子供っぽい笑顔にキュンキュン来る。
可愛い! 大きな体の大きな子供みたい。好き! ああ、何だか汗臭いけど、彼の臭いは嫌じゃない。うう~~、これが男の人の臭いかなあ、好き。
「どうしたの? もしかして具合が?」
「全然大丈夫!」 私は苦笑した「もう~~、ホント心配性なんだから」
「ふふシスだってそうじゃないか。今さっきケガを心配して」
「そうだけれども!」
「まあお互い様だね、ふふ。で、折角登って来てくれたけれど、戻って食事にしたいな。無性にシスの料理が食べたくて」
えっ!? 私は心の中でガッツポーズをした。
うわあ~~、コックリの味覚をがっちりキャッチしたかも~~? メロメロ作戦の一つになるよね! とたんに頬が熱くなる。
「もうっ、私を置いてけぼりにしたのに、都合いい!」
「いや、置いてけぼりのつもりはないんだけど」
「ぶははっ、いやーお嬢ちゃんの料理の腕が必要だわ。ここの魔獣は硬いし臭いし、ちょっとキツイわ。デカいネズミやウサギがいるが、早すぎて捕まえられん。追いかけ続ければいつかは捕まえられそうだが、魔獣がいるから危険だし」
「そうなんだ。ううーん、じゃあ今後の旅の食事は大変かしら?」
「フッ、ゆえに持っていくものが重要になってくるな」
なるほど。兵站のね。臭みを取り除く食材や香辛料が重要そうね。
「天候急変の対応もあるし、アタック前にまだ色々な準備が必要だな。凄いわ、ここの気象は」
「そうみたいね」
皆を見れば分かる。全員泥まみれだけれど、よく見たら返り血の跡だったり、焦げたりもしてるし、気象以外もありそうだわ。
「疾病対策も必要そうだよ。よく分からない病気が発生する」
「そ、そうなの?」
「多分ダニやノミのせいかな。体調不良者に共通するのは、もの凄くダニに食われてて。聖魔法の使い手がいない後続部隊用に、薬とこの一週間のことをまとめて何が必要かレポートを書いておかなくちゃな」
「薬の準備ね。じゃあ肉の臭みを取る香草と一緒に、薬草も準備しておくね!」
「助かる! 食事と薬草はもう完全にお任せしていいかな?」
「もちろん!」
うふふ、やった! 彼の負担を二つ背負って上げられたわ! それ以上に、彼に頼りにされているのが嬉しい!
「では戻りましょう!」
コックリの声に皆が「おうっ!」と応える。
さあ一旦戻ってから、ついに断崖上の大地に挑戦だ!




