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青砂調査8(マヌーの川)

 


 広大な白の世界

 世界に蓋をするような白い空

 白い空から淑やかに落ちる細やかな雫

 雫は大地の鏡面を波立たせ、合わせ鏡をぼやかす



 ■コークリットの視点



 シトシト、シトシト

 小気味のいい音が俺の周囲を包む。

 ピチョンッ、ピチョンッ

 屋根の葉から落ちる雫が一定のリズムを刻む。良い音だ。


「ふぅ……目が疲れた」

 巻貝の解剖の手を止め、俺は目頭を押さえた。

 いやはや、来る日も来る日も解剖、解剖。さすがに手際よくなって無茶苦茶慣れたけど、疲れる疲れる。

 俺は気晴らしに、湖沼の彼方を眺めた。


「ほー……」

 湖沼地帯は白く煙り、独特の雰囲気を見せる。ああ、遠く白いモヤの中に、何かが鎌首をもたげるシルエットが……

 いいな。絵画のようだ。

 今日は雨。俺が湖沼地帯に戻ってからすでに二週間が経っていて、思い返すと意外に雨の日が多かったかな。移動距離もかなりのもんだ。二週間の調査で毎日拠点を移動しているから、岸辺に沿って進んで、百キロ以上は移動してきているだろう。湖沼地帯の岸辺は大きく楕円を描いているようなので、朝夕の日の出入りの方向が、初日とだいぶ違うので方向感覚がおかしくなってきたなあ。


 と、雨に煙る湖沼を眺めているといい香りが……


「うふふ、休憩にしましょう。はいどうぞ」

 そう言ってシスさんが俺の前に木のカップを置く。中にはいい香りのお茶が湯気を立てている。おお、俺が休憩に入るタイミングで温めて持ってきてくれたんだろうけど、凄いな。よく俺の休憩タイミングが分かったな。

 このお茶はエルフに伝わるハーブティーだそうで、いくつかをブレンドして複数の効用を発揮させることができるとか。さすがだ。


「ありがとう」

「うふふ、目の疲れが取れると思いますよ。集中力も回復すると思います」

 俺のそばに立ってニッコリと笑う彼女。さっそく飲もうとすると、彼女はお盆を胸に抱えたまま、そこから離れようとしない。あれ、飲み終わるまで待ってるとか? 急いで飲まないとダメか?

 目が合うとなぜかとても嬉しそうに微笑んで、キメ細かい頬が朱色に染まる。はあ、とても可愛いものだから、胸がキュッとする。俺はごまかすようにコップのお茶に口をつける。あ、旨い!


「はぁ~、旨~い。生き返る~」

「うふふ、うふふふ」

 屈託なく笑うシスさん。緩んだ表情が堪らなく可愛い。あ、あれ? 俺の様子を見守るように、目を離さない。翡翠色の美しい瞳に俺が映っているのが分かる。全然傍から立ち去ろうとしないということは、片付け待ちなのかな? やっぱりすぐ飲み干さないとマズイのかな?

 そんなシスさんにお茶を渡しに来た美しいアルさん。


「もう、シスは。コークリットさん困ってるわよ?」

「え!?」 彼女はビックリして「こ、困ってますか!?」

「ん、い、いや?」 俺は何と言っていいか分からず困った。

「ほら! ほ~ら、大丈夫だもん!」

 安堵の表情で嬉しそうな彼女はもう可愛すぎる。


「はあ、シスはもう」 呆れ顔のアルさん。

「うう~ん、その……皆さんが雨の中、貝類採取しているのに悪い気がしますね」

「うふふ、大丈夫ですよ。風精霊の魔法でこのくらいの雨なら濡れないようにできるので」

「そうなんですか、さすがです」

「さあさあ、向こうで飲みましょう」 とアルさん。

 シトシトと優しい雨音の中、解剖居室に蔓草で椅子を作る二人。

 精霊魔法は便利だなあ。戦闘用の魔法というものじゃなく、主に生活面で使うようなものが多いのかな。この木でできたカップも、薪木を削りだして作っていた。


「今日の夕飯は何にしようかな~、うふふ」 とシスさん。

「シチューとか良くない?」

「それ、スランが好きだからでしょ~?」

「な、何よ。いいじゃない!」

「かっわいぃ~、アル。かっわいぃ~」

「はぁ……そっくり返すわよ」

「え?」

「え? あれ……え、自覚……ないの?」

「え?」

 くく、女性陣はそのまま他愛ない話をしている。エルフはこうやって数百年、変わらずに生きているんだろうなあ。

 と、遠くから馬の足音が聞こえてくる。雨のヴェールの中から現れたのは、ハルさんとテルメルクだ。


「ブッハッハッ、到着~!」

「いや~、雨の中でも濡れずに走れるっていいね!」

「「お疲れ様でした」」

 三人の声がハモる。


「おお、いい香りだ」

「うふふ、ハルさんとテル君のお茶もありますよ」

「ありがたい!」

「やった!」

「おっとそうそう神殿騎士殿、追加で持ってきましたぞ!」

「ありがとうございます」

 ハルさんは十袋分を持ってきてニカッと笑った。

 いい笑顔だなあ。あんな感じでいつか笑いたいなあ。実はハルさんとは結構親しくなって。朝、剣舞をしていたらいつしかハルさんもやってきて、戦闘訓練を開始したんだ。ハルさんは槍替わりに棍を使い、俺は木剣を使って実践訓練を。

 いやあ、ハルさんの強いのなんの。凄い槍捌きなので十戦して七敗くらいする。聖剣技と聖魔法を使うなら勝てる回数は増えるだろうけれど、やはり世界は広いわ。


「シス姉ちゃん、おなかすいた!」

「ええ~、早いわねえ。うふふ、やっぱり育ちざかりってやつか」

「姉ちゃんも三百年前はそうだったの!?」

「し、失礼ね! そんなに生きてないわよ!」

「二百も三百も変わんないよ」

「か、変わるもん!」

 とシスさんは俺を見て、ハッとした。途端に赤くなる。あれ? なんだ?

 テルメルクと向こうに行くと、何やら話している。思わず霊力で耳を強化すると「ひ、人前で女性に年齢のことを言っちゃだめ!」「でししっ、人前って! 『人』の前ね~~、人! でししっ」「~~~~っっ!!」と何やらやり取りを……

 くく、エルフが年齢を気にするなんて。やはり女性なんだなあ。

 俺は受け取った貝類を早速霊従者と一緒に解剖し始めた。さあ、もうひと踏ん張り頑張るぞ、っと思っていたらハルさんがやってきた。


「いやはや神殿騎士殿、川の調査も半分まで来ましたな」

「はい、ついにですね」

 そう、川だ。川の調査だ。

 青砂が湖から来るのか、川から来るのか、水鳥を使った実験の結果、川だったんだ。湖ではなく、川のどこか上流から流れてやってくるんだ。ちょっと残念な気持ちにはなる。湖のどこかなら、危険な奥地へと行かずに済んだから。

 今から十日ほど前、水鳥が完全に寝たので一旦湖から離れ、ファラレルの森のケンタウロス集落に行った。その集落で水鳥を放置してしばらく様子を見ていると、水鳥はゾンビのようにユラユラと起き上がり、バタバタ羽ばたくと走り出して……

 南に飛べば湖で、北に飛べばリートの大断崖のある川の上流だが、水鳥はあっという間に、北方向に飛んで行った。

 途中までは千里眼で追えたが、水鳥は飛ぶ速度が早くて見失ってしまって。でも川か湖かを結論付けられて本当に良かった。

 と話していたら、テルメルクが走ってきた。


「ハルさん! 神殿騎士様! 空が凄い綺麗だよ!」

「空が?」

「ほほう?」

 いつの間にか雨がやんでいる。俺たちはテルメルクに促されるままに湖沼の岸辺へとやってきた。

 岸辺にはシスさんとアルさんがいて、二人で佇んでいる。


「おお~、これは凄い」

「ブッハッハッ、雄大雄大!」

 湖沼地帯は変わらず白い雲が彼方まで広がっているんだが……おお~。

 所々雲が晴れて、そこから光の筋が斜めに落ちているんだ。

 白雲の天井から無数に射す光の柱……

 おお……

 何という美しさだ……


「神殿騎士様! あそこに竜が!」

「ああ、絵になるな」

 そう、遠くの湖から首長竜が長い首を持ち上げた。竜も優しい日の光に焦がれているのかな?

 クオオォーーーーーン

 竜が鳴く。夜鳴くのはあの竜なのかな? 物悲しい、低く澄んだ声。

 湿り気を帯びた心地よい風が音を運んでくる。はあ、適度な湿り気に心も体も癒される。


「はぁ……綺麗……はぁ」

「本当……」

 女性陣二人がため息をつく。

 時が止まったかのような美しい光景がどこまでも広がっているんだ。でも時間は刻一刻と流れていて、胸を打つこの美しい光景も、やがては失われてしまうんだな……はあ、勿体ないような、悲しいような……


 こんな感動と静寂に包まれた世界を破るのは、心ない魔獣類だ。

 感動に動きを止める者を襲う、不届き者だ。

 だが、今静寂を破ったのは他でもない俺だった。


「ああっっ!?」

 俺は叫んだ! かなりデカかった!


「「ひゃあっ!?」」

「「うわあっ!? びっくりした!」」

「ど、どうしたんですかコークリットさん」

「あ、すいません!」

 俺は振り返ると、ダッシュで解剖拠点へと走る! 皆がなんだなんだと戸惑いながら俺の後についてくる。俺は解剖拠点につくと、霊従者が開いた貝の内臓を広げて待っていた。

 そこにはキラキラと煌めく青い砂が幾つか見える。

 俺の鼓動は忙しくなり、呼吸も乱れる!


「はっ、はっ。あ、青い砂粒が……」

 霊従者が、ある川の貝類を解剖していたところ、二個目の貝で青砂が出てきた。


「よ、よし、この貝がいた川の貝類を全部開こう」

「「はっ」」

 俺と二体の霊従者は、急いで残りの貝類の解剖を始めた。

 するとどうだろう、なんてこった……

 青砂が出るわ出るわ……!

 二十個中、十二個から青い砂粒が出てきた。シスさんがそれを見て驚いている。


「は、はわわ! コ、コークリットさん! もしかして!?」

「ええ、そのもしかしてです。これから魔法で調べてみます!」

 俺はドキドキしながら「『 探索圏 』最大感度」と魔法を唱える。

 すると……!


「反応ありっ!! これだっ! 間違いないっ! 間違いないっ!!」

 うおおっ! 炎属性の霊砂反応が! この反応は、子豚や魚から採取した青砂と同じ反応だ!

 ついに来た! ついに来たぞっ! 調査すること四百八十本目にして! ついに!


「「おおおおっ!!」」

「「ついにっ!?」」

 集まった五人で歓声を上げる! そして皆で拍手したりハイタッチしたり!

 うわあああっ! ありがとう! 我が事のように皆が喜んでくれている!

 嬉しい! 嬉しいぞ!


「あっ! システィーナさん! 今、凄く喜びが駆け巡ってます!」

「あっ! わかりました!」

 そういうと、彼女は俺の両頬に手を当てた。ひんやりとした気持ちいい手だ。


「『喜びの精霊、出てきていいの。もう彼は我慢しなくてよくなったから』」

 次の瞬間、俺の顔が一瞬熱くなる。おおっ!?

 何だか顔がムズムズする! 彼女はすぐに手を放して俺の様子を見る。


「どうですか? コークリットさん」

「何だか顔がむず痒いです」

 俺はほほを擦る。何だか前より顔の筋肉が柔らかくなったような?


「嬉しい・喜ばしいという感情は説得できたと思います。あと怒り、哀しい、楽しいの精霊を説得して全部解き放てれば、表情をすべて取り戻せるでしょう!」

「よっし!」

 俺はガッツポーズをとった。うおお、二つも嬉しいことが!


「え? シス、どうしたの?」 とアルさん。

「う、うん。ちょっと事情が」 と俺を見るシスさん。

「神殿騎士様? どうしたの?」

「うん? ちょっと昔、つらい体験をして表情が出なくなってしまって、シスさんに相談したんだ」

「「え? そんなことが」」

「シスさんが気づいてくれて。相談したら精霊魔法で何とかなるかもって」

「「なるほど」」

「そうだったの……クールな人なんだと思ってたんだけれど」 とアルさん。「よく気づいたわねシス」

「えへへ」

「でししししっ! しょっちゅう見てるもんね!」

「◯x☆~~~~~っっ!?」

 ああ、テルメルクも気づいてたか。

 俺もちょっとテレる。ごまかすように、俺はハルさんに話しかけた。


「ハルさん、この貝類があった川へ案内してください」

「よし、任せとけ!」

「「あっ、私たちも!」」

 皆で取るものもとりあえず、一角馬とエルクにまたがり移動する。

 途中でスランさんとローレンさん、エルさん、エムさんと合流し、皆で該当の川へと走る。


「ええ! 見つかったんですか!?」

「フッ、私の手柄だな!」

 とシスさんが「皆の手柄だい」とブツブツ。くくく。岸辺を皆で隊列を組むように走ること数十分。


「ここだ! この川だ!」

 ハルさんは一つの川の前で立ち止まる。

 その川は幅が二十メートルはある広めの川で、水深は一メートルくらいだ。川の色が美しい緑色に見える。おそらく両の川岸に生い茂る大樹が、トンネル状になって奥へと続いているからだろう。

 深い緑色の光が落ちる川の先は蛇行していて見えないが、この水量と広さはかなり樹海の奥まで続いているだろう。もしかしたら樹海を超えた先、リートシュタイン山系のあるダロス大陸中央部の山海地帯まで続いているのでは……

 俺は念のため探索圏の魔法を直接川に使うと、川底が夜空の星のように反応している! これは凄い!


「凄い青砂の量だ」

「むう、この川が……」

「この先に原因が」

「どこまで続いているの?」

 シスさんの不安そうな声に俺は気がついてしまった。


 ここから先は俺一人で行った方がいい。


 何が待ち受けているのかわからないんだから。危険に巻き込むわけには……そうだよ、ハルさんは集落の戦士長だし、スランさんは次期族長候補だというし。取り返しのつかないことになったら……

 彼らはもう十分に協力してくれた。俺一人だったら、三ヶ月以上かかったハズの調査が、たった二週間で終わったんだ。

 十分に協力の関係を果たしてくれた。ここからは自力で乗り越えるべきじゃないか? 俺のかかえる問題なんだから……

 自立。

 そう、自立しなくてはいけない。自力で立ち向かうんだ。

 とすると、一人で向かう算段をどうつけるか……

 食料、水、寝袋。ウォーエルクを借りて行きたいが……

 と俯き加減で考えていたら、下から覗き込むようにして物凄い不信感を露にした怖い形相のシスさんが!


「っ!?」

「コークリットさん! 今、一人で行く方法を考えてませんか!?」

 不信感を越えて怒りの表情! あまりの剣幕に俺は怯えて「は、はいっ」と答えてしまった! こ、怖い! 普段ニコニコゆるふわな可愛い人が怒るのは、凄く怖い!


「やっぱりっ! もうっ! 何考えてるんですか! 私行きますからっ!」

「僕も行く!」

「私もだ。まだ仲間の恩を返せていない!」 ハルさん。

「「我々も!」」 とエルさんエムさん。

「シスが行くならスランも行くしローレンも行く。もちろん私も行くわ」 アルさん。

「うん、そうだね」

「フン、無鉄砲なエルフが神殿騎士殿の足枷になるのはマズイ。誰かが諌めないとな」

「だ、誰よ無鉄砲ってっ!!」

 皆が視線をはぐらかす。くくくっ! いや笑い事じゃないか。


「ここから先は何が起こるか分かりません。皆さんを巻き込むわけには……」

「巻き込む!? 巻き込むって何!?」 怒るシスさん、怖っ。切れ長の目がつり上がって!

「う、あのっいや! め、迷惑を……かけたら」

「迷惑!? なら私も貴方を巻き込んだし! 貴方に多大な迷惑をかけたわ! 謝った方がいいですね!?」

「い、いやっ!? いやっ!?」

 ええ!? 何でそうなるの!?


「ブッハッハッ。本当だな、我々も謝らないとな!」

「い、いりません!」

「フッ、つまりお互い様。遠慮は無用だ!」

「しかし……」

「コークリットさん」 スランさんが呆れた感じで「我々は迷惑に思ってないですし、あなたが自分の目的を達するためにも、もう少し他者を頼った方がいいと思いますよ」

「!!」

 頼る! 俺の目的を達成するために頼る! 俺はその言葉に胸が締めつけられた。うわ、何だかもの凄く胸が痛い!


「頼る! ああ! それだ! それだよスラン!」 シスさんが嬉々として「私が以前『何か違う!』って言ったときのアレ!」

「「え? ああ」」

 ああ、協力関係構築に二の足を踏んだときのか。


「コークリットさん。『 協力関係を結びたいけれど、迷惑をかけるわけには 』って言ってましたけれど!」

「う、はい……」

「私たちを気遣って出た遠慮の言葉ですけれど、貴方は貴方が救うべき人々のために『 何がなんでも助けが欲しい 』と言うべきだったんです!」

「!!」

 俺が救うべき人々のために助けが欲しい! そ、そうか! 確かに! 確かにそうかもしれない!

 俺が救うべき人々のために助けが欲しい!


「一人では限界があって助けて欲しいと思っているのに! 私たちへの間違った気遣いで、貴方だけじゃなく貴方が救うべき人々まで助けられないことに、あの時気づいてなかった!」

「!!」

 そうか! 本当にその通りだ!

 俺は「俺のための助け」じゃなく「ラーディン領やファーヴルの人々のために助けが欲しい」と考えるべきだったんだ。それで『 何か違う 』って言ってたのか!

 俺が間違いに悩んでいると、休ませないように、畳み掛けるようにシスさんが続ける。


「もしかして私たちが頼りないから、助けにならないって思ったんですか?」

「ま、まさか!! まさか! こ、ここまで来られたのは皆さんのお陰です! 一人では絶対に無理です! 頼りたいです!」

「じゃあ、いいじゃないですか!」

「そ、うなんですが」 俺は声が小さくなる。「も、申し訳……なくて」

「は!? 申し訳ない!?」 切れ長の目が吊り上がる!

 うう、そんなに怒んなくても……うう。


「ね、姉さん。そんなに怒んなくても……」

「怒ってないっ! 叱ってるのっ!」

 そ、そうか!? 皆、静かになった。とシスさんは腕を組んで頬を膨らませる。アルさんも、今回ばかりはからかわない。シスさんは大きく息を吐いた。


「はぁ~~。貴方は『 自分はいつも助けられていた 』と私に言いましたけれど。もしかして皆さん『 困っているのに助けを求めない貴方を心配して、助けてくれていた 』んじゃないですか?」

「~~っっ!!」

 ズバズバ凄い叱る! 怖い!

 でもそう、そうかもしれない! ああ、そうかもしれない! 胸が痛い! 俺はふと過去を思いだして呟いた。


「……そ、そうかも。俺には頼れる人が少なかったから……一人で何とかするしかなかったから……」

「そうなのか」「なるほど」

「俺は、自分の力で立たないと……じ、自立しないとって……」

「自立?」 シスさんは怪訝な顔に「頼れる人がいないから自立って、それは自立とは言わないんじゃないですか?」

 自立とは言わない? じゃあ何て言うんだ?

 皆も何と言うのか言葉を待つと、彼女は完璧で正確な答えを言った。


「『 孤立 』って言うんです!」

「~~~っ!!」

「「ああ~~」」

 こ、孤立! 孤立!

 その言葉に俺はもう打ちのめされた。法王庁での孤立の日々を思い出して。


「助けが不要な状況なら、自立するのは当然です。でも今は! 明らかに今は違う! 頼っていい時なんです! 頼れる人たちがいるんです!」

「「そうだそうだ!」」

 と苦笑するスランさんが助け船を。


「まあまあ。いずれにせよ、樹海か山海に問題があるならば、そこに住む我ら妖精や獣人にも影響が出てくる可能性があります。いや、これが原因で数々の異変が起きている可能性すらあります。我々ももう、無関係ではないんです。コークリットさん、共に行きましょう!」

「「そうだそうだ!」」

「「皆で行こうぜ!」」

 皆口々に賛同する。ああ、こんなに言ってくれるなら……!


「分かりました、お願いします! 一緒にお願いします! 自分も、頑張りますから!」

「「よし! 任せろ!」」

 皆でグータッチしたり、肘と肘をぶつけたりして気持ちを高めている。ああ、ありがたい! 本当は一人で行く算段がつかなくて困っていたんだ! うおお、ありがたくって、どうしようもない!

 とシスさんだ。

 誤った俺を正すために叱ってくれて……こんなに強く叱られたのって、いつ以来だろう?

 シスさんに感謝の意を表そうとしたら……


「はぁ~~」

 彼女は心底疲れた表情だった。アルさんに寄りかかると、アルさんは苦笑しながら頭を撫でている。

 ああ、彼女は必死だったんだ。

 本当に俺を心配してくれて、必死に止めてくれてたんだ……


「──」

 そういえば、こんな風に叱られたのは、少なくとも法王庁ではなかった気がする。悪意や敵意という怒りの感情は向けられたが、俺を正しい方向へ導くための、優しさから来る叱責は久しぶりかもしれない。

 彼女は愛情深いから、必死になって心配してくれたんだ。

 何て優しい女性なんだろうか……

 俺は彼女に近づくと彼女の小さな手を取った。


「っ!? っ!?」

「ありがとう。貴女はやはり愛情深い女性ですね」

 彼女はその瞬間、耳の先まで紅く染まった。



川が見つかるところまで一区切りでした。

ということで、また次の一区切りまで

書き貯めたら連投します

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