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青砂調査4(マヌーの川)

 

 遮蔽物のない広々とした世界

 青い空に流れる白い雲

 それらを映す美しい湖面

 澄み渡る美しい湖沼の世界



 ■コークリットの視点



 おおー広いなあ。

 マヌー湖沼地帯。心に響く絶景が広がっている。

 見渡す限りに大小様々な湖や沼が広がって、彼方まで続いている。水面は鏡面。一つひとつに青空と白雲が映し出されて、それぞれが別世界に繋がっているように見えるんだ。

 おおー、雲が天地逆さまで流れていく。絶景だなあ。胸が締め付けられる大自然の美しさだ。

 やっと戻ってきたぜ。三日ぶりのマヌー湖沼地帯だ。大湖沼地帯の独特の湿気が肌に心地よく、荒れた肌に潤いを与えてくれる。そして鼻腔には独特な水の香りが広がって、汗臭い体臭を洗い流してくれる。


「ありがとうな」

 俺を乗せ行ったり来たりをしてくれたウォーエルクの首を撫でると、大きな目をこちらに向けてフッフッと鼻息を吹く。ふふ、どういたしましてってか。また沢山ブラシをかけるからな。エルクも馬も、ブラシが大好きなんだ。


 俺はゴキゴキッと首を鳴らす。

 はあ、慌ただしい三日間だった。

 ラーディン領で実験結果を確認したあと、すぐさま各村々へと回り、眠気を訴えている人々に魔法をかけて異物を消滅させて。さらに遺体となって発見された子供の亡骸に会わせてもらい、検視し、霊視して、親元に連れて行くことができた。

 そして大河を遡りながらファーヴルの集落を回って来たから随分遅くなってしまった。エルフやケンタウロスの皆さんに申し訳ないことをしたが、助けられたファーヴルもいたので本当に良かった。


「皆さんはどこかな? 『 千里眼 』」

 俺は千里眼を二つ出現させると、上空と岸辺に分けて皆を探す。そんなに遠くにはいないはずだ。

 すると湖に流れ込む川を十ほど超えた先に見つけた。

 いたいた。湖岸の樹木の下にいるな。というか、何だあれ? ものすごい数の土のテーブルが大地から生えていて、霊従者たちが黙々と作業をしている。

 と俺はその土のテーブルよりも、樹木の根にいる二人の美女の方に意識を奪われていた。


「何て……美しいんだ」

 そう、シスさんとアルさんが樹木の根元にいるんだが……

 アルさんがシスさんの髪の毛を梳いている。シスさんは短いけれど艶やかで深みのある金髪が本当に綺麗で。はあ、緩く波打つ金髪は、卵型の可愛らしい顔によく似合っている。やや幼く見えるのは短い髪のせいか、卵型の輪郭のせいかな? ツルッとした額がまたあどけなくて……たまらなく可愛い。

 一方髪を梳くアルさんは一転して優しい銀色の髪だ。やはりその髪も艶やかに光っていて、それが何と淑やかなんだろう。緩く編み込んでいるその髪型が淑やかなアルさんをより際立たせている。シスさんと異なり、アルさんは細面の瓜実顔で大人の女性の美しさがある。

 ううーむ、タイプの異なる美女たちが、優しい緑色の光の元で髪を梳いている姿は、心を惑わされてかき乱されてしまう。俺は千里眼が見つからないように枝葉の裏に隠して、美しい妖精たちを眺める。


「ふぅ。覗き見だなこりゃ。変質者か俺は」

 自嘲しながらも、どうしても目が離せない。

 とシスさんはため息をつくと膝を抱え込んで、立てた膝の上に顔を乗せた。くく、凄いブニーっとしたほっぺになった。なんて柔らかそうなんだろう。その様子に美しいアルさんが苦笑している。苦笑さえも綺麗だなあ。

 しかしどうしたんだろうシスさんは。彼女のボヤキを口元から読むと。


『遅いなあ、コークリットさん……はぁ』

『ぷっ、何度目よ』

 ああ! マズイな!

 もしや、俺の調査なのに俺がいないことを不満に!? 代わりに調査させられている的な? 何度もため息をつくくらい、不満に!?

 そうだよな、今更だが急ぐぞ。俺はエルクを走らせた。

 と、俺が近づいて行くことに気づいた霊従者が、二人にそれを告げる。とシスさんが突然バッと立ち上がった。


『ほ、本当?』

『嘘はつかないでしょ』

『この場所気づくかな?』

『気づくでしょ』

『ここ目立たないもん!』

『気づくってば』

『湖の方見てるかも!』

『声かけましょうよ』

『聞こえないかも!』

『心配性か!』

 アルさんが呆れ顔で『もう、行って来なさいよ』と言うとシスさんは走り出した。

 あれ? 彼女は凄く嬉しそうな顔をしている。喜んでる? さっきのため息は俺の代わりに調査をさせられていた不満じゃない?


「ほっ、どうどう」

 俺はすぐにエルクを歩かせた。

 良かった、怒ってないということだ。

 ふふ、俺は嬉しくて気が緩んだ。そう嬉しい。彼女は俺を迎えるために走って来ているんだ。もう、俺は嬉しくて。なぜだろう、心がソワソワするんだ。

 シスさんに汗を拭いてもらってからというもの、心が騒がしい。変だな、全く。

 と彼女は岸辺の樹の幹まで来て、隠れた。あれ? 俺の姿を見止めて、隠れた。

 ああ、イタズラっぽい顔で笑っている。くく、俺を驚かそうとしてるんだ。


「くく」

 俺がエルフに持っていたイメージは、アルさんのような物静かで神秘的な美しさだったが、彼女は違うな。真逆というか。でも幻滅したりということはなく、逆に嬉しい気持ちになる。


 俺は彼女に気づかないふりをしてそのまま進む。わざわざ湖の方を見る。彼女は樹木の陰で「にししっ」と笑いをかみ殺している。くく、さあどんな驚かせ方をしてくれるのかな? ううむ、何だか俺もイジワルしたくなってきた。うん俺もイジワルしよう。

 俺がシスさんの隠れる木陰を通るその瞬間。俺を驚かせる気満々のシスさんが元気よく飛び出してきた!


「お帰りなさいっ! コークリットさん!」

「うわあっ! オ、オーガーではありません!」


 無っっ茶苦茶、怒られた。



 ◇◇◇◇◇



「凄いな! もう四十五もの川から貝類を採って来たんですか!」

 俺は千里眼で見た光景を直に見て驚いた。目の前には大地から突き出た土の台が無数にあって、そこに貝類と選り分けられた砂が乗っているからだ。しかも三日目の午前中にしてもう四十五も! 初日は昼過ぎに湖沼地帯に到着してからの貝類採取だから実質二日じゃないか? 凄い進み具合だ。


「うふふ」

 機嫌を直したシスさんはとても嬉しそうで、顔をほころばせる。そんな嬉しそうなシスさんを、アルさんは意外そうな目で見ている。あれ? どうかしたのかな?

 ここには美女二人だけで他のメンバーはさらに他の川に向かっているようだ。


「では私も、この中に該当の青砂があるか調べてみましょう」

「「はい」」

 霊従者が青い砂粒があるかどうか、目視で調べているけれど、あくまでも目視なので最終確認は俺がやる。俺は「『 探索圏 』」と唱えると、この狭い範囲で、最大感度で選り分けられた砂粒を一気に調べる。


「ふうっ! よし、この中にはなさそうです」

「ええ~、そうなんですか~」「はあ、残念ですね」

 残念そうな美女二人。いや確かに残念だけれどね?


「いや! いやいや、一気に四十以上の川を調べ、対象外にできたので、凄いんですよ!?」

「「ええ~? でも」」

「いや! しかも、最大感度の探索圏でも、この狭い範囲だから! 全然疲れてないし!」

「「でも~~」」

 いや、本当に凄いことなんだよ!

 四十以上もの川を調査するのは十日以上かかると予測していたのに、三日間留守にして、たった今きて数秒で終わったんだから。初日のあの苦労は何だったんだ!? 今後のことを思い、打ちのめされ軽い絶望感を味わったアレは、何だった!?

 凄い! これは地味だけど凄いことなんだよ! 俺は興奮していた。顔には出ないけれど! 凄いんだ!


「凄い! 凄いぞ!」

「ぷ。ふふ、うふふ」

 シスさんが俺を見て、笑いをこらえる。俺の興奮が分かったみたいだ。そして次の時には我慢できずお腹を抱えて笑いだす。


「やだもうっ! コークリットさん、面白い~っ!」

 きゃっきゃ、きゃっきゃ笑いだす。ええ~、笑い出すほどおかしいかな?

 アルさんもまた、そんなシスさんを見て相好を崩す。ああ、やはりシスさんといると心が温かくなる。

 と、岸辺の向こうから親子のような人影が。ああ、ハルさんとテルメルクだ。


「あっ! 神殿騎士様!」

「おお、戻られたか!」

 テルメルクがダカカカッと駆け寄ってくる。ふふ、何だか嬉しいな。故郷に残してきた弟妹きょうだいたちを思い出す。


「やったあああっ! お帰りなさい!」

「ああ、ただいま」

「ホラッ、貝類を採って来たよ!」

「ありがとう!」

 おお、大漁だな。馬体の腰に十袋くらい持ってるじゃないか。なるほど、スランさんやローレンさんが川に行って水精霊を使い効率的に貝類を採取し、ケンタウロスがまとめて運び役をやっているんだな。凄い!


「しかしこの量! 今はどこまで先に行ってるんですか?」

「二十キロほど先まで行ったかな?」

「そんな先まで!?」

 凄いなそれは。

 もしこれで青砂の発生が湖からだったら顰蹙物だから、早めに水鳥の実験をしよう。ラーディン領の市場で水鳥を買って、ファーヴルの集落に寄りながら魚を与えて、だいぶ動きや反応が鈍くなってるんだ。もう少しで眠るかもしれない。

 それはそれで、今やることは一つ。


「解剖拠点を動かしましょう。川床捜索班がいちいち戻って来るには大変ですね」

「「はい!」」

 本当に嬉しい誤算だ。

 こんなに早く進むとは思っていなかった。男性陣は霊従者がいるこの拠点と、貝を集めに行く川との往復は大変だったんではないだろうか!? そう訊ねると。


「大丈夫だよ。エルフの二人もウォーエルクで移動してるし、元々ケンタウロスは毎日二十キロ以上走ってるしね」

「そうか、さすがだ」

 ならば良かった。

 早速拠点を動かすために舟を湖面に浮かべ、荷物を乗せる。おお女性陣は土精霊ノームを従者にして荷物を持たせている! 凄い!


「準備できました! 隊長!」

 シスさんが楽しそうに言う。くく、良かった。

 俺たちは暖かな陽気の湖岸を進む。

 湖岸には針葉樹と広葉樹が場所を奪い合うように生い茂って、小鳥のさえずりが心地よい。夜になると魔獣が出没するが、とてもそうには思えない気持ちよさだ。

 と川が行く手を遮っているが全ての川には橋がかかっていて簡単に渡れる! 俺一人のときは舟に乗って降りての繰り返しで、次の川への移動だけで三十分以上かけてたのに、今は数分で次の川へ行ける。

 凄いぞ本当に。


「うふふコークリットさん。次の拠点はどちらにしますか? ほら、食事とかの用意もしたくて」

「そ、そうですね」 とんとん拍子で浮足立つ俺は冷静に考えた「スランさんやローレンさんがいる川の少し先が良さそうですね」

「そうですね! スランたちの今日のゴール地点が拠点という感じで。宿泊用の家屋も建てますね」

「ええ! お願いします!」

 宿泊用の家屋はエルフの里でも見た土と地下茎の家だ。ベッドもあってゆっくり眠れるだろう。昆虫忌避の植物で虫除けも出来るって!

 霊力の消耗を心配せず、逆に回復さえできる! 俺一人の時は、枝のわずかなスペースだったのに!


「凄い! 凄いぞ!」

 飲食物の心配もなく、仮住居の心配もない! 解剖サンプルもすぐ集めてくれる!

 いいのか、こんなに! いいのか!?

 俺は申し訳なくなってきて、話してみたら……


「ブッハッハッハッハ! 何を言ってんだ!」

「でしししし! 本当だよ!」

「うふふ、変なコークリットさん」

「ふふ、本当ですね」

「いやでも」

「もうっ、先に助けてくれたのはコークリットさんなんだから」

「ブッハッハ、仲間を救ってもらったお礼がこんな軽いお返しじゃ、足りないと思ってるくらいだ」

 うおおおお!

 嬉しい! 嬉しいぞ! 顔に出ないけど!


 その後、他のケンタウロス二名とエルフ二名に合流。

 その先で拠点づくりをすることになった。岸辺から離れた森の一角に広い空間があったから、そこに男性陣の宿舎兼解剖室を作ってもらって。早速、貝類を解剖して、探索圏で確認して……

 テルメルクが持ってきた袋も含めて、今日は日が沈む前に二十の河川を調査できた! 三日間で六十五。単純計算で、五十日間で終わる! 凄い!

 解剖室で俺がひそかに喜んでいると、楽しそうなシスさんが扉からひょこっと顔を出した。


「うふふ。コークリットさん、夕飯ができましたよ~」

 おお、夕飯か。良い匂いがしてたんだよ。解剖室から出ると広場的なところに釜戸が。

 おお!? 釜戸!? 釜戸があるよ!? いや、何か用意していたなとは思ったけれど。凄いよな、妖精は本当。精霊魔法で簡単に作れてしまうんだから。

 釜戸の横には円卓がある。おお、蔓草を渦状に巻いて天板にした大きなテーブルだ。テーブル中央の宙には光の精霊が柔らかな光を発している。その光の下には、湯気を立てる木の食器が置いてある!

 うわああ~、パンとスープとサラダに、葉っぱにくるまれた蒸し焼き料理が!


「わあ~、美味しそう!」 テルメルクが喜ぶ。

「フッ、アルが作っていれば味は保証できる」

「もうっ、作ったのは私だもんっ!」

 くくく、仲がいいなあ。ああ、何だか羨ましい自分がいる。


「神殿騎士様! こっちに座ってください!」

 テルメルクが横を勧める。おお、ケンタウロスはそのまま地べたに座るんだな。当然か。俺とエルフには蔓草の椅子がある。


「さあさあコークリットさん、座ってください」 と優しい美青年のスランさん。

「はい、ありがとうございます」

 ああ、皆さんそれぞれ席に着いた。うわあ、円卓に皆が揃うと壮観だなあ。と、皆が俺を見ている。


「な、何でしょうか?」

「フッ、この探索メンバーの隊長から、食事開始の挨拶を待っている」

「うふふ。お願いします、コークリットさん」

「な、なるほど」

 うおお、そんなこと初めてなので俺は狼狽した。相変わらず顔には出ないから分からないだろうけれど、シスさんだけは「うふふ」とほほ笑んでいる。うおお、見透かされてる? 俺は手を合わせた。


「では、いただきましょう!」

「「いただきま~す」」

 嬉しいなあ、さあ何からいただこう! まずはスープからだな! 香草のいい香りがするんだ。木のスプーンですくうと、豆類と何かの細切れが。ああ、これか。


「これが解剖した貝類ですね?」

「はい」

 解剖して砂粒がないから捨てる……というのは、命に対して失礼だと思ってお願いしていた。毒なり寄生虫なりないことは分かっていたので、シスさんとアルさんに何とかできないか聞いてみたんだ。なるほど、こうなりましたか。


「では早速」

 頂こうとするとシスさんの視線を感じる。くく、凝視されてる。緊張するなあ。

 俺は一口含むと、香草のいい香りが鼻を通って……


「美味い!」

「ほ、本当ですか? はわぁ~~、良かった~~」 シスさんが凄く安堵している。「うふふ、臭みを抜くのにあの手この手で」

「うん。里のキッチンだったらもうちょっとできるけどね」 とアルさんは皆を見て「皆さんいかがですか?」

「「美味しい!」」

「フッ、アルが手を加えれば間違いあるまい」

「くわあああっ!」

「シスが作ったのよ? ふふふ、自分がコークリットさんに頼モガッ!」

「よ、余計なことは言っちゃダメ!」

 ああ、一人で作ったのか。確かにシスさんに頼んだけれど一人で作るとは。伝え方が悪かったかな、苦労したんじゃ?


「おかわり!」 とハルさん。早っ!

 おお、ハルさんはじめ、ケンタウロスたちは食べるのが早いな!

 俺は蒸し焼きにした葉の包みを開けていく。すると、葉の香りを含んだ湯気とともに魚の切り身と貝類、キノコやニンジンなどが蒸し焼きになっていて。おお! 食べると……


「美味い!」

「はわあぁ~、良かったぁ~。うふふ、骨はないと思いますけれど気を付けてくださいね」

「はい!」

 うわああ~~、美味い! 蒸し焼きにした葉の香りなのか、香ばしくて、凄く美味しい!


「凄いなあ」 俺はただただ感心した「料理がお上手なんですね」

「うふふ」 シスさんは両手でにやける口元を隠した「お料理は好──」

「フッ、二百年も生きていて下手だったら救いようがないな」

「くわあああっ!」

 くく、本当に仲がいいな。

 その後パンやサラダを食べて。

 食べ終わると夜が更けていく。生活の質の向上についてはまだまだ驚くべきことはあったんだけれど、それはまた追々。


 凄いな! 協力関係を結べて良かった!



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