社員たちの粗相
「菌床という確証は、どこから?」
ポンコツの言葉に返すように、私の疑問を解決するように、そう問いかける。
「導師様が昨日、御教授なさってくださった手法通り、『燃焼』の魔法を用いました。」
なるほど。確かに、それであれば「あのキノコ」の苗床、菌床であるのかもしれない。
「教会の墓地から掘り返された跡と、空の棺がむき出しになっているのを確認しています。中身は今回の襲撃のゾンビであったこと、それと、この一件のキノコの出処だと見て間違いないでしょう。」
「司祭は、墓地の死体を使って菌床を作り、軟膏や毒入りの酒を作ったということ、ですか。」
「抗議の内容は、そうなりますね。その調査結果もあって、先程の話に戻ります。」
ポンコツはそうして、再びコップの中身を口に含む。
「噛まれた、引っ掻かれたといった住民、職員が数名います。治療が必要だと思うのですよ。」
確かに、症状としては軟膏の塗布に似ている。裂傷に菌が着床し、菌床になれば、身体を侵食していくだろう。
「まだ、治療の方向性が見えたわけではないですよ。」
そう、あれを治験というのもおこがましいが、結果が見えてきていない。緩和なのか、完治につながるのか、それとも無効なのか。最悪のケースならば悪化もあり得る。
「勿論です。ただ所見はお伺いしたいのが、私個人の願いです。」
「今の患者の結果が見えてからで、あれば。悪化という懸念も起こりえますから。」
そう答えを送ると、ポンコツは嫌な笑顔を浮かべる。
「次の御報告です。昨日夜、検分を控え別室に安置されていた、件の毒入りの酒事件の死者が、突然、庁舎内でゾンビ化し、庁舎から街へと飛び出していきました。」
ポンコツが言葉を紡いでいる最中に、頭を鈍痛が駆け巡る。
聞きたくなかった話かもしれない。
「それはもう、庁舎側に向かってくるゾンビに対応をしている中、背後からですからね。驚きました。幸いそれ一体のみだった様ですが、安置所には今も見張りをつけています。この後すぐにでも導師様に処置していただかなければなりません。」
額の汗を拭う。弊社職員にも困ったものだ。
あのキョンシーの調達元が寄りにも寄って庁舎の安置所だったなんて。少しでも感謝したのは間違いだったかも知れない。
「そのゾンビはまだ捜索でも発見されていません。もしやご存知では?」
「こちらで、対処し遺体を処理しました。」
社長の責任と言われても仕方がない。
実際、そのおかげで今回、命が助かっても居る。だけど何処かで納得できない。
「詳しく調査する必要は、ないという事でいいのですね?」
ポンコツ相手にこの貸しは大きいのではないだろうか。今から頭が痛い。
少なくともポンコツは、私が関与したものだと勘付いているのだろう。
そしてそれは事実であるから。
「中央の方で、大規模なアンデッド襲撃事件が起こったのが昨年の事です。首謀者は『ネクロマンサー』と呼ばれる特殊な魔法を扱う導師だったと聴いております。」
「その話なら、私も存じていますよ。実際に事件のあった都市に滞在していました。その話がなにか?」
「いえ、導師様が関連性を感じておられるか、聴いてみたまでです。」
「無関係ですよ。多分。」
何か嫌な予感がする。どちらに転んでも、勘違いが深刻化する。
実際、似たような事をしてしまっているのだから。
ほぼ同じことができると言っても過言ではないのかも知れない。
「その論拠を、御聞かせ願えれば。」
動揺がふつふつと湧き上がる。どう答えればいいのだろう。
困ったことだ。あの虫たちはあれで、なんととんでもない事をしでかしてくれていたのだ。
「あれは、あのゾンビは、キョンシーという、ちょっと特殊なものなのです。」
「キョンシー。」
「魔法で生まれるものではなく、その、特殊な環境下で、晒されて、条件が重なると生まれる、自然発生の特別な、個体です。」
「あのキノコとの因果関係は?この地域で再発生の懸念は?」
「ありません。」
「導師様はその条件をご存知で?御教授願えませんか?」
「できません。」
「ではどう対処したのでしょう。一般的なゾンビではありえない挙動を行っていました。幸い職員や住民に被害は見受けられませんでしたが、遭遇した際の対処法は?」
「わかりません。勝手に暴れて、腕が折れて、勝手に動かなくなりましたから。」
矢継ぎ早に、応対が進む。
考えをする暇もない。
このままではボロが出るのも時間の問題かも知れない。
「そういうことにしておきましょう。」
ポンコツはまた、嫌な笑みを浮かべている。
応酬劇が止まるのなら、それでいいのだけれど、あの顔はどんな無理を吹っかけるか解ったものではない。
「と、いった所でしょうか、今この段階での情報共有は。」
そうして、ポンコツはコチラを真っ直ぐに見る。
「導師様に、私の飼っているノネズミとリス、鳥の話をしたことは覚えておいででしょうか?」
一体何の話、だろうか。記憶の糸を手繰る。
トントン。
手繰り切る前に、部屋の扉を打つ音が響く。
「きっと、良い知らせ、でしょうね。」
そうして、ポンコツは私の顔を見て笑った。
Attention:コンソールコマンドが開いています
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