PSI
チリチチチチリチリチチチチリチリチチチチリチリチチチチリ
チリチチチチリチリチチチチリチリチチチチリチリチチチチリ
チリチチチチリチリチチチチリチリチチチチリチリチチチチリ
あ、ダメ。
待って。
待って待って。
ダメだから。
待って!待って!
気づいた時には溢れ出していた、鼻の奥に喉の奥に耳の奥に目の奥に。
焼け焦がす、強い臭い。慌てる。焦る。感情を押しやって。
「ぬぅっっ!」
真後ろで声。
振り返る。
影。
それと火。
私に、触れようとしてた?
真っ黒なフード、ケープを羽織った人影。私の後ろに。何時から?
一瞬の気の緩み。油断。
その間隙を縫って、不快な嘔吐感。
頭痛。
たまらずしゃがみ込む。
しゃがみ込んではダメなのに。道の真ん中で。
頭では理解できていても、止まらない。
止められない。頰を汗か涙かが止めどなく伝う。
吐き気が止まらない。
収まらない嘔吐感。
臭い。
臭い臭い。
ものが。
肉が焦げる臭い。
「貴様の様な不確定要素がこの街に混じっていたとは、厄介だ。ぐぅ!」
先程も聴いたような言葉。意味。
流れ込んでくる音。
ハッキリとした「見知った言葉」。
たまらず口元を抑える。
喉の奥、胃の奥からこみ上げる、こみ上げてくる何か。
臭いが、感情が、抑えられない全てがそれを押し上げる、背中を押す。
ギッ、ギッ、キィィィィィ。
コウモリの断末魔のような弱々しい声が聞こえる。
「フシャァァァァ!」
うずくまった脇で、猫が何かに威嚇の鳴き声を上げている。
虫たちの音も聞こえない。
ただ焼ける臭いが、何日もこびりついて消えない臭いが漂っている。
「時期尚早だったというわけか。ここまで計画を進めて。」
「良い。此度は良い教訓になった。異界の事、侮るわけに行かぬは既に知れたこと。」
「だが、せめてコヤツは始末をしなくては。」
「止せ。不確定要素であることを忘れたか。この異能、何を仕組んでいるか解らぬ。」
言葉。いくつかの声。
文字の羅列。不快な雑音。雨音のような聞き取りづらい。
「我々の言葉が解るのならば、覚えておけ。」
「ビエスタという名を。解るまいがな。」
「いずれまた会うこともあるだろう。」
雑音が遠のいていく。それを見計らってか、嘔吐が堰を切る。
吐いても吐いても、焦げた臭いが消えない。
胃の奥のそのまた奥も、ずっとずっと、染み込んでしまったその臭いが消えない。
吐いても、吐いても、吐いても吐いても吐いても、吐いても吐いても吐いても吐いても吐いても。
「フシャァァァァ!フミャアアアアアアアアアアア!」
猫が何処かへ向かって鳴き声を上げ威嚇を続けている。
それに釣られてか他の猫も鳴き声を上げている。
吐き尽くした口を抑え、鼻を押さえ、目元ににじむ汗を拭いながら辺りを見回す。
片手を支えに身を起こし、何とか立ち上がる。
手の隙間から焼け焦げた臭いがにじむ。
煙。
赤い光。火。
燃えている。
ゾンビ。近寄ってきて、転がっていたゾンビが燃えている。
目から、口から、赤い光が覗いている。
呼吸をするように身体の隙間から赤い光がチラチラと覗いている。
倒れたまま、そのまま動かない。
動けない。もう動き出さない。
周囲でゾンビたちが燃えている。
内側から燃えている。
水浸しの地面で。水たまりの上で。
その熱で水蒸気を巻き上げながら。
焼けた臭いを撒き散らしながら。
その中につい先程まで、生きて動いていたコウモリの化け物が、腹を食い破ら、骨を覗かせながら、その上で赤い光をチラつかせながら燃えていた。
もうきっと動くことも声を発することもない。
炭が燃えるように。
内側から燃えている。
辺りで生きていたものも、死んでいたものも。
皆、燃えている。
赤い光を発しながら、皆、燃えている。
みゃぁ。
猫が足元にやって来る。猫は生きてる。燃えてない。
ジジジジジジジジジジジ
バタバタバタバタバタバタバタバタバタ
音が流れ込んでくる。
鳥の飛び立つ音。
ムクドリたちの音もまた流れ込んでくる。
ザッ、ザッ。
伸ばした腕を片腕だけ途中から折れ曲げながら、キョンシーが立っている。
額を光らせ、無表情に、静かに。
その青白い顔をコチラに向け、距離をおいて立っているだけ。
燃えているのは敵だったもの。私を襲おうとしていたもの。
私がやったの、だろう。
何処かで見た光景。知っている光景。だから解る。
記憶の片隅に隠しておきたかった光景。
その再現ともいえる、今の現状。
我慢ができなかった。
音は聞こえていたはずなのに。
耳元で鳴り響いていたはずなのに。
感情が高ぶって、不快感と怒りに心が染められて。
自分が認識する、「嫌なもの」の姿かたちをしたものが、燃えている。焦げていく。
不快な感情と、この焦げた臭いは合わさって私の身体に染み付いていく。
何日も、何日も、何日も。
味覚も弱くなるほどに鼻の奥に残り続ける。
その臭いが、何日も何日も、過去の後悔たちで私を苦しめる。
嘔吐に濡れた手で顔を覆い、手首で溢れる涙を覆う。
今の涙も知っている。暫く止まらないのだ。
焼けた煙が目にしみる。
腫れた顔など知ったことかと、痛みごと洗がなすように。
兄さん。助けて。お願いだから。
誰か、私を助けて。この悪夢から。
この臭いから。
Attention:コンソールコマンドが開いています
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