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ウメコのテンプル 並行世界の風水導師  作者: うっさこ
災難からの逃避 B
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商圏争いの爪痕

『こう暑くては、敵わんな。』

 暑い。確かにそうかもしれん。大人しく寝ておれん。


『春汰、まだ****は直らんのか。代わるか?』

 そうだな。ハルタは、ハルタがやらなければならないことが山のようにある。

 それにあいつは器用じゃない。


『あんたが直せるって任せたら、煙吹いちまったんだろ!』

『冬巳、お前がいきなり温度を下げるからだ。物事には加減というものが必要だ。』

 暑がりな癖に落ち着かないフユミが悪い。


『ハン!こっちはこの暑い中、外を回って仕事を掴んでるんだ!』


『そう騒ぐと、直るものも直らない。』

『秋定!あんたはとっとと仕事をあげな!終わったら皆で呑みに行くよ!』

 アキサダの仕事を待っていては日が昇るだろうさ。


『夏樹!』

 何だ急に、アキサダ。また仕様の手直しか?そんな細かい所をいつまでも。



「ナッキー!」

 少し疲れていたようだ。声に意識が揺れ動く。辺りは暗い。身を起こす。


「騒がしいぞ、アキサダ。仕事は、済んだのか?今度は、なんだ。」

 大方、また小言のようなことを言うのだろう。いつもの事だ。


「ナッキー!」

 頭に痛みが走る。アキサダのやつ、噛み付いてきた。冗談でもやっていい事と悪い事がある。


「心配させるな。何があったんだ、一体。」

 記憶が混濁している。というより、途切れていると言ったほうが正しいか。一体何処から。


「蜘蛛を、潰してきたのだ。お前の仕事が遅いから、待ち兼ねてな。」

「無茶を、するな。」

 それなら早く仕事を上げることだ。アキサダ、お前は昔から、仕事が遅い。


「ハルタや、フユミはどうした。連絡は、つかんか?」

 見た所、そう時間は経過していない。ハルタやフユミが、問題に遭遇しているはずだ。


「フユミの同族が空を飛んで、お前がここにいる事を知らせてきた。」

「なら大丈夫か。社長は?」

 アキサダが頭を齧るのを止め、コチラを見る。いつも通りのアキサダか。


「聞くまでもないか。ハルタがいれば問題はないだろう。」

 アキサダは一つだけ頷くと、亀の頭から降りていく。

 亀は、静かに寝息を立てている。悪いものを食べた、程度で済んでいるようだ。


 そこは亀が住処にしている草と葉で作った巣だった。

 正直、ここに来る辺りまでの記憶は続いていない。


 同調を切り、亀の頭を降りる。身体に何処か違和感を感じるが、それもすぐ落ち着きを取り戻す。

 草葉をかき分け、広い場所に出る。


「アレは蜘蛛か。」

 下腹から今も弱々しく糸を撒き散らしながら、蜘蛛が串刺しになっていた。

 私が腹を潰した個体とは別のようだ。足、かじって潰したはずの目なども満足なようだ。


 とは言え、もう長くないだろう。


 人の住処の鋭い針に、腹から深く突き刺さり、身動きが取れなくなっている。

 もう随分と体液を流したであろう痕跡も残っているようだ。相当な抵抗をした気配もある。


 辺りは一面、蜘蛛が撒き散らした白い糸だらけだ。

 主があの有様とは言え、絡まると厄介なことこの上ない。


 そうこうとしている内に、人が火をもってやってくる。


「ハルタとフユミは、何処へいったのだ。」

 人の気配を注意深く観察しながら、人の住処を駆けていく。


 人の様子から、慌ただしさのようなものは感じない。

 となると、この蜘蛛が起こした騒動はひとまずの終りを迎えているのだろう。


「ナッキー様!ご無事で!」

 走り回っていただろう同族が寄ってくる。


「ハルタとフユミは?」

「社長の所です。」


 先んじて、前を走る同胞を追う。暫く走っていると、ハルタの猫が目に入る。

 社長の様子が少しおかしい。付き従うハルタの猫が、社長の動きに合わせて時折立ち止まる。


「社長は何処か悪くされたのか?足の様子が少しおかしいが。」

 ハルタの猫に追いつき、その体に飛び移る。


「どうなっているハルタ。」

 猫を手繰っているハルタがそこで社長を心配そうに見ていた。


「社長は、身体を傷められている様子だが。」

 ハルタは声を掛けども反応がない。ただ猫を手繰りつつ、社長を見つめている。


「しっかりしろハルタ。何があった?」


「社長が、泣いている。」

「泣いている?」

 よく見れば、フユミの同族の羽虫もいくらか、社長に寄り添うように付き従って飛んでいる。


「誰も、人は誰も、社長を助けないのか?」

 私達はこうして、種を超えて助け合って社長のために居る。

 だが、肝心の人が、社長の側に誰も居ない。誰も傷ついている社長を守らないのか?


「フユミは?アイツはどうした?」

「飛んでいったよ。多分、蜘蛛を追って。」

 社長から目を離して、飛んでいったというのか。物事の重要さも取り違える程の事があったというのか。


「すまなかった。こちらも蜘蛛と対峙していたのだ。手助けに来れる状態ではなかった。」

 ハルタは、物静かに社長を追っている。気持ちが抜けて、ただ身体を痛めた社長を見守っている。


 静かに、暗い人の住処を、社長と私達が歩いていく。

 確かに、蜘蛛一匹を払い、社長を守ることはできたかもしれんが、これでは負けたも同然である。


蜘蛛が、キノコが、そして「あの耳障りな不快感」が、今もまだ、社長を狙っているのだから。

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アマテラス干渉システム Chimena
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