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ウメコのテンプル 並行世界の風水導師  作者: うっさこ
災難からの逃避 B
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後発参入他社に対する牽制

『秋定。まだ終わらんのか?』

『細かいゴミが漏れる。このままでは定期的な保守の必要と偶発的なトラブルが起こる。』

『全容が固まっていれば問題はないだろう。いつまで使うか分からぬものの細部を詰める必要はない。』

『誰のおかげで、苦労していると思っているんだ?』

『そこは手間をかける場所ではないと言っている、秋定。』


『帰ったよ!新しい仕事をとってきてやったよ、喜びな!』


『まだ今の仕事が終わる見込みが立っていない。』

『春太、冬巳を止められなかったのか?チームの状態をよく見ろ。』

『仕事がないよりは、あった方がいいじゃないか、夏樹。』



「ナッキー様、こちらの網にかかりました。ヤツです。」

 声に意識が揺れ動く。白昼夢を見ていた気がする。まあ、いい。


「社長を狙うと思っていたが、宛てが外れたか。どこだ。」

 巨躯を手繰る。人の虚を突くとは思っていたが、実際に目の辺りにするとなると、少なからず驚きを感じるものだ。

 自らよりも大きな存在に牙をむく時、それには相応の覚悟がいるはずだ。


「闇に乗じて行動を起こすのは、あの大きさでも変わらんか。」

 人の住処を駆け抜ける。少し前では考えられなかった事だ。

 フユミの真似事とはいえ、この利便は捨てがたい。

 幸いにも、この巨躯をすんなりと扱えるようになったのは運が良かったと言える。


「とは言え、ハルタとフユミは社長側だ。どの程度やって見せられるか。」


「アキサダ様は、まだなのでしょうか?」

「ヤツの仕事が遅いのはいつもの事だ。今は当てにできん。」

 夜の人の住処は、昼と大きく姿を変える。

 外敵から身を隠す石と土の山を絶対的に信頼しているからだ。その住処、巨大な巣の堅牢さに安心し、寝静まる。

 外敵が巣に入り込んでいて、それに気づかないのでは無防備そのものだ。


「アレか。まるで冗談のような大きさの巣だな。」

 今まさに、巨大な糸を張り、その中央に巨躯を得た蜘蛛が這っている。


『ナンダ、コノ、カメ、ワ』

 不快な音が響く。言葉としての意味をかろうじて持っているかのようなそれは、蜘蛛から発せられたものだろう。


「下がれ、仕掛ける。」

 蜘蛛にめがけて水を放つ。この亀と同じ程の大きさ。分の悪い戦いではないと思いたい。


 水は巣の糸を砕き、肝心の蜘蛛は糸を這って逃げおおせる。

 巨躯を得たとはいえ、機敏さは損なわれていないようだ。


『ナニヲ シタ カメ!』

 その複眼は一つは破られた巣、一つはこちらを見据えている。

 その複数の足は巣を掴み、幾本かはこちらを向けて体制を整えている。


「見え透いた動きだ。巨躯とはいえ!」

 その体制から一瞬の空きもなく蜘蛛が飛びかかってくるのを、横滑りを手繰り回避する。


「あの目か足の幾本かを落とさねば厄介だな。」

 そのまま体制を立て直す前の蜘蛛に水を浴びせてやる。


 この力のおかげで、何とかやりあえているのは間違いない。

 フユミやハルタの着想を踏襲したものというのが気に食わないが、使えるものは使わねばなるまい。


『カメ!』

 水に乗って滑る動きに奴はまだ順応していない。今のうちに、優位に立ち回れる状況を作ってしまうしかないだろう。慣れられては困る。


 水に滑ったまま、蜘蛛と距離を取る。

 ここまでの威嚇に、アレはこちらに気を取られている。先手を取れたのは大きい。


 滑るまま、人の石の住処の陰に身を隠す。追ってくるはずだ。


『カメ!カメ!』

「やれ。」

 読み通りだ。巨躯を駆る。カメの牙が蜘蛛の目に突き刺さり噛み削る。飛沫。


『ギャァアア!』

 悲鳴をあげる程度には致傷させたのは間違いないようだ。

 これで優位を取れる。すかさず強い水流を生み出して打ち付ける。


 蜘蛛に水流を当てながら、亀の足に水をまとわせ滑りつつ、蜘蛛と距離を取る。


 これで目を一つ。もう一つ目を潰すなり、足の数本を奪ってやれば、仕留められるかもしれん。


 蜘蛛は目を奪われた事と浴びた水で、こちらをより警戒し、動き出すだろう。

 完全な優位を取れたとはまだ言えない。こちらもあの蜘蛛とやり合うのは初めてなのだ。


 巨躯の感覚を通して、しびれるような感覚が体を襲う。

 腹を満たすにも、毒を持つ種だということか。

 既に飲み込んでしまったものは仕方ないが、次からは吐き出させなければ、亀の腹に毒だろう。


『カメェェェ!』

 こちらに向かって糸を吹き付けてくる。水をぶつけてやる。

 その糸を牽制に、石の山を伝って蜘蛛が飛び込んでくる。


「随分と逆上しているな。無理もないか。」

 二歩。水を撒いておく。


『ヌァァア!』

 飛びかかったその場に空を掻き、鋭い爪をもった足は、地面を掴めずそのまま体制を崩す。


「それ。」

 亀の足で、足を二本踏み潰してやる。もぎ取れこそはしなかったが確かな感触を得た。


「その糸も、もぎ取らせてもらう。」

 勢いをそのままに蜘蛛の下腹に向けて爪を立て亀の足を踏み降ろす。


『ギャアアアアアアアア!』

 けたたましい声を叫び散らす。


「ナッキー様!人です!人が来ます!」

 仲間の声が飛び込んでくる。


『カメェエエエエエエエエエエエエエ!』

 その一瞬を蜘蛛は這いずって、逃げおおせる。今更、何処へ逃げるというのだ。

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アマテラス干渉システム Chimena
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